時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ   作:たったかたん

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原作開始前
2つの人生の分岐点


 

転生したと自覚したのは5歳の頃、崖から落ちてしまった時に体を強く打ち、死線をさまよったことがきっかけだった。

 

「僕のことは気まぐれの神とでも呼んでくれるといいよ!うん、そうだなぁ!ほんの少しだけ時間が操れる力をあげよう!」

 

神というよくわからない存在(姿だけぼんやり思い出せない)にそう言われ、何か話そうと自分はしていたようだけど声も出ず、白い光に包まれたと思ったら知らない天井の下で目を覚ましていた。

 

「私、時止められる?」

 

第一発声はそれだった(多分ずれてる)

 

医者が言うには私は1週間もの間熱と痛みにうなされ意識不明の状態だったらしく、目が覚めた時には定番の知らない天井で包帯巻きにされてた。

 

どうやら崖から落ちてしまった際、両親も一緒に巻き込まれていたらしい。

後に聞いた話で大きな山道で起こった土砂崩れだったそうだ。

 

生まれてから今までの記憶が名前以外思い出せないが当時目撃した人曰く、お父さんが巻き込まれる前に投げてくれて私だけ土砂に埋もれる事無く助かったらしい。

 

治療は無償という事で体はすっかりと癒すことができたが、周りの人達には「両親を亡くして記憶もなくしてしまった子」として可哀想な目で見られることが多かった。

 

それでも自分が転生する前は25歳だったこともあり、精神状態は思いのほか安定していた。

 

(とりあえず、生きていかなければいけない。けどその前に、恩を返さないと…)

 

そう思ってまずしたのは病院での手伝いを助けてくれた医者にお願いした。

今回の治療の分は働いて返しますと言うと、患者さんの洗濯物と皿洗いを請け負う事になった。

 

もちろん時を止める能力があるらしいことも分かったのでその特訓もしたが、何をどうすれば時を操れるのか分からないまま、ただ力むことしか出来ず5年が経って10歳となった私に人生の分岐点が訪れた。

 

 

 

 

 

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(買い物が長引いてしまったな、すっかり陽も落ちてしまって…先生に小言言われるなぁ)

 

病院で使う服や包帯などの仕入れなどを街の取引先と確認してきた帰りだったが、思いの外西洋のものが入ってきてるせいで色々勧められて話が長引いてしまったのだ。

まあ引き止められてそれ以外の話もしてしまっていたが、それはお得意様にしてもらっているしよしとしよう。

 

そうこうしているうちに正門を閉めている病院に裏口から入っていくと違和感に気づいた。

 

 

(……なにか、鉄?錆?臭いな…)

 

すこし広めの廊下を歩くとそんな重いような歪むような臭いが充満している気がしつつ、先生がまだ資料整理しているであろう医務室前にたどり着く。

 

 

「ただ今戻りました、先生」

 

そう扉前で声かけしてから戸を引くと視界が赤という赤に塗りつぶされた。

 

え?と声が出ると同時に部屋の真ん中で人と思われる物が臓物と思われるものをバラバラに撒き散らしながら死んでいるのを視認してしまう。

 

腰が抜けるというものをその時に初めて経験し、動けなくなった。

すると肩に手が置かれて振り返ると、顔中に血管が浮き出た人間とは思えない化け物が餌を見つけたとばかりに血だらけの口からよだれを垂らしながら屈んでいた。

 

「なんだ、こんなところに一番美味しそうなガキがいるじゃねぇか…ひひっ」

 

その化け物は血だらけの口を曲げながらそう言った。

その瞬間自分の身体の隅から隅まで熱くなるのを感じ、視界は薄く赤みがかかり、息がケモノのようになったのを感じて、そこから記憶が途切れてしまった。

 

目の前が認識できるようになった頃には、血だまりの中庭で身体中をメスや包丁、胸に短刀で地面に突き刺さる化け物を見ていた。

 

「て、てめぇ鬼殺隊かなにかか?!おれが目に追えない速さでウゴクなんて、アリェねえ!」

 

そう言われて自分は冷静に、心臓刺しても死なないんだと思った。

 

そして中庭の池に飾り物として置いてあった角の尖った一尺ほどの大きさの岩を踏ん張りながら化け物の顔のところまで持っていく。

化け物は何か叫んでるが、うるさいなと思いながらその岩を顔に落とした。

 

何度も、何度も何度も何度も何度も何度も落とした。

 

岩の角で手のひらがボロボロになった頃、ふと朝日が目に入って意識を戻される。

そこには頭が潰されててもなお血だまりの中少し動いてる化け物の姿があった。

 

(ああ、まだこれで死なないのか…)

 

どうしようか。

そう考えた時、朝日が化け物に当たった瞬間に火が化け物を燃やし尽くしてしまった。

 

それを見届けた瞬間、身体中に激痛が走った。

ふと目線を体に向けると服は所々切り裂かれ、その間から引っ掻き傷や打撲のようなものまで見えていた。

 

(ああ…私も傷だらけだなぁ)

 

そう思った瞬間体の力が抜けていくのを感じ、膝から崩れ落ちる。

近づいてくる地面に手を伸ばすこともできずに視界は黒に塗りつぶされた。

 

 

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目が覚めると知らない天井があった。

 

「……こ…こは?」

 

ふとイグサの香りが鼻腔をかすめた。

喉が思いの外枯れていたようで、声が出なかったがそれに応える声はあった。

 

「目が覚めたか」

 

掠れた、だいぶ年を重ねたとわかる声が聞こえた。

動かそうとした首に少し痛みを感じつつもそこに顔をむける。

 

そこには正座している男の人がいた。

髪は短髪の白髪で膝の上にあった手の甲には年のシワが沢山ある一般的なおじいちゃんの年頃に近いのだろうと思えたのだが、ぱっと見の印象は天狗の面。もうその印象が強すぎてこの時は他に何も入って来なかった。

 

「あな…たは?」

 

「私の名は鱗滝左近次という、あの病院で唯一生き残った君を治療したものだ。君の名を教えてくれるとありがたい」

 

「私は大竹雫…です」

 

「雫、あの病院で何があったのか、気になると思うが今はゆっくり休むといい」

 

 

そう言われても、頭の中はその事でいっぱいである。

 

 

「………化け物が…先生を食べて…、血だらけになりながら、そいつは…笑っていて、殺そうと思って、気がついたら私はそいつの頭を潰してて、朝日で燃えて消えて無くなって、……それから………」

 

それからは記憶がない、きっとそこで意識をなくしたんだろう。

 

ああ、先生、痛かったんだろうな、あんなに辛い顔をして、体の中空っぽにしてしまって…?唯一?

 

「あの…」

 

「……なんだ」

 

「唯一……とは、どういう事……ですか?」

 

鱗滝という人はすこしの間考えてる様子をして、続けた。

 

「あの小さな病院の中にいた患者は、全員首を噛みちぎられていた」

 

それを聞いた瞬間、指先から冷たくなっていく感じがした。

 

「…後でゆっくり食べるつもりだったんだろう……」

 

いつも食事を持っていくと笑いながら頭を撫でくれたおばさん。

折り紙の折り方をたくさん教えてくれたおじいちゃん。

風景画をいつも中庭で描いていたお兄さん。そんなみんなと仲良しで、飴玉をいつもくれたおじさん。

こんな私を治してくれて、養ってくれて、返しきれない恩をもらった優しい先生。

 

(……みんな…死んじゃったんだ…)

 

指先の冷たさは熱さにかわり身体が熱くなっていく。

しかし身体は激痛で動けず、頰の外側を冷たい筋が通ったのを感じた瞬間、息をするのが難しくなって嗚咽していることを自覚するのにはそう時間はかからなかった。

 

私にはこの世界での家族の繋がりは名前以外覚えていない。だから病院での働きながらの生活はみんな家族のようで、幸せだった。

 

 

(………強く、なりたい…)

 

「私は…」

 

嗚咽している私をただ黙って見ていた鱗滝さんをよそに知らない天井に向かって絞り出すように言った。

 

「私は…強くなりたい…手の届く物を全て守れるくらいに」

 

強く、そう決心した時、静観していた鱗滝さんが言った。

 

「……儂は、鬼を殺す人を育てる育手という者だ。

雫、お前のその願いを叶えられるかもしれんが、お前の覚悟、努力次第になるだろう」

 

ただし、と間をおいて鱗滝さんは言った。

 

「修行は一歩間違えれば死ぬ……傷、大怪我は当たり前な険しい物だ。 

それでも、お前は強くなりたいか?」

 

布団を強く握って大きなシワができる。

 

(そんなの、決まってる)

 

「私の、大切な繋がりは全て無くなってしまいました…後戻りなんてできない……あなたの下で人を守れる強い人になれるのなら、私はどんな険しい道でも構わない…」

 

すこし間をおいて鱗滝さんが決まりだと言う。

 

「雫、怪我と体力の回復次第、最初の試験を行う。それまでは体と心を癒しなさい」

 

「……はい…よろしくお願いします。鱗滝さん」

 

 

 

 

 

鬼滅の刃の時間が動き始めるまで、あと10年くらい




勢いで書いてしまったこの小説、だいぶストック溜まっております、
1週間間隔で投稿できたらなぁって思いつつほのぼのと投稿しますので、優しい目でお願いします

前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。

  • 統一した方が良い
  • 別に気にしない
  • 前半のようなほのぼの要素も欲しい

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