時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ   作:たったかたん

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炎柱 煉獄槇寿郎

 

 

(一体、どういう仕組みなんだ。あれは)

 

目の前で稽古している大竹雫と水柱の手合わせを見て、炎柱 煉獄槇寿郎は疑問に思う。

 

水の呼吸と使う剣技は現水柱と見比べるとまだかすかに粗が見えるが、既に柱になるには充分な物を持っている。

 

そこは別にどうだっていい。あのお館様がなぜここまで大竹雫に期待しているのか、新たな階級を授けようとしているのか、その理由がその速さや技だけでは無いはずだと考察する。

 

たしかに瞬きも許さずに首に木刀をつけられた時、全身に鳥肌がたった。

柱になるまでに血反吐を吐くような鍛錬をし、それは今でも継続している。我が子と同じ歳頃の子であるはずだが、全く反応することすらできなかった。

周りで見ていた誠以外の柱達もその瞬間には驚愕していた。そしてこの技とやらはまだ未完成なのだと、大竹雫は言った。

 

「あれで未完成?なら、完成したらどんな技になるというのだ…」

 

誰にも聞かれない程に小さく呟く。あの技は恐ろしい。だが、どう考えても大竹雫が柱を超えるほどの存在なのかは疑問が残る。

 

 

(お館様、貴方は大竹雫の何を見て、何を感じて、そう思うのだ)

 

 

 

その疑問を解く欠片が分かった時は、雫が瞬柱になってから一年後のことだった。

 

 

 

ー----

 

 

冬。

 

少し風が吹けばそれに触れる肌は感覚が麻痺していくほどに冷え切った空気の中、煉獄槇寿郎は山中を走っていた。

自分の所から走って二刻もかからない所に上弦の鬼が出たと報告が入り、それに対処していたのは会議で決めた磯島と大竹雫だった。

約百年、一体も欠けずにいる上弦。その強さは合間見えた柱は全員死んでいるため計り知れない。現柱でもすでに二人やられた。

 

(あの二人なら大丈夫だ。もしかしたら到着する頃には片付いてるかもしれない)

 

そう考えつつ抑えきれない不安が槇寿郎の足を加速させた。

 

 

二つほど山を越えた所で森の一部が消し飛び、火の手が上がっているのを高台から確認してそちらへ急行する。

 

森を駆け抜けると、一気に視野が広くなる。そこには木々が生い茂っていたとは思えないほど、地面は抉れ、あまりに広い焼け野原になっている風景を見て一気に警戒心を強くする。

 

(二人はどこだ。まだ鬼の気配は残っているということは戦闘中のはずだ)

 

その時、右側の森から大きな龍のようなものが森を突き破って地形をかえながら出てきた。

 

「血鬼術!?」

 

すぐに抜刀し、そちらへと駆けようとした瞬間、体が急に重くなった。

あまりにも強力なその重圧は上弦の血鬼術かと思えるほど冷や汗が出るものだったが、視線の先を見て謎が解ける。

 

「…大竹?」

 

そこには頬に小さなかすり傷を負っているものの、ほぼ無傷な雫が立っていた。そして、この重圧の正体もなんなのかそこではっきりする。

 

(大竹…これはお前の殺気か?)

 

あまりにも濃く、重い。その殺気を放っている雫はまるで、人の形をした別のモノのように見えた。

 

雫を見て固まってるとまるで雷神のような姿をした鬼が生きてるように動く大木を操りながら森を破壊し出て来ていた。

 

「よもやよもやだ、狐の小娘。なぜ儂の血鬼術を躱しながら頸を斬れるのだ。聞きたいことは山ほどあるが、それよりもその殺気、本当に人の子か?」

 

「うるさいですよ。それよりあなたの弱点なんなんですか、十回以上も頭から足先まで斬り刻んだのになんで死なないんですかね?」

 

「ここまで斬られたのは初めてだ。そんな殺気を放っていながら貴様は儂を殺すにはまだ足りんようだのう。狐の小娘」

 

更に雫の殺気が濃くなるのを感じた瞬間、姿が見えなくなると同時に鬼の頸が飛ぶのが見えた。

 

「人を、食べて長々と生きている鬼が、早く塵になって消えろ」

 

鬼の後ろ側に立つのが見えた瞬間、また姿が消え、鬼の体が細切れになる。

 

十二鬼月といえど頸を斬られた挙句、あそこまで体を刻まれれば死ぬはずなのに、ボコボコと音を出しながら体を再構築していく。

 

(あの鬼、頸が弱点ではないのか?それに磯島はどこだ)

 

そう考えつつ雫の殺気に怯んでいた体を動かし、雫の近くまで走る。

 

「大竹!今の状況を教えてくれ!」

 

「…煉獄さん、南側に磯島さんが怪我をおって気を失ってます。もう少し遠くへ逃がしてあげてください」

 

「アイツがやられたのか?それにお前もその汗だ。捨て置けるわけが」

 

「あの鬼には別に本体がいるようです。ですが私では探せない。なのであの鬼の攻撃を私が抑え込みます。その間に磯島さんの治療と本体の鬼をお願いします」

 

「……そろそろ限界ではないのか?」

 

水の呼吸はともかく、雫の技は長期戦に向いていない。

手合わせ稽古で一日に柱全員を相手にした時、後半では皆が驚くほど動きが鈍くなり、最終的には全身から発汗しながら吐いていた。

しばらく動けなくなっていたが、それがその技の反動らしかった。あの恐ろしい一瞬の技の代償というものがあそこまでのものかと思い知らされた。

それに頸を確実に斬ることのできるから今までは問題はなかったが、今回は報告した時間から考えても二刻程戦闘が続いていると見ていい。

 

「伊達に皆さんと血反吐吐くような特訓してません。あと半刻ほどなら持たせてみせます。なので、お願いします」

 

 

「……分かった、すぐに本体の鬼を探し出す。それまで頼んだぞ」

 

「……はい」

 

会話をしている間に鬼が元の姿に戻りかけているのを横目で見た後、南の森へと急いだ。

 

 

 

 

少し離れた所で後ろから戦闘が再開された音が聞こえる。

 

(磯島、どこだ!)

 

南側の森に入って分かったことがあるが、南の森にはほとんど戦闘の余波が無かったのだ。雫が磯島を守るために引き離して戦っているのだろうと推測できる。

 

(急げ急げ急げ!どこだ!)

 

抑えきれない焦る気持ちをなんとか落ち着かせて視線を巡らすと、奥の方で木にもたれながら気を失ってる血だらけの磯島を発見した。

 

「磯島!大丈夫か!」

 

近くまで来て話しかけても反応がない。それに傷が一箇所内蔵に届いてもおかしくない深手のものがあるのを確認し、すぐさま応急処置を施す。

 

(この数ヶ月で岩柱と花柱は死んでしまった!お前まで死なしてなるものか!)

 

すると小さく瞼が開いてることに気づいた。

 

「!!磯島!聞こえるか!?呼吸で止血しろ!でなければお前を動かせない!はやっ」

 

言葉が止まる。磯島が止血している自分の手を握っていたからだ。もう力も入らないはずのその手は小さく震えていて、だけども力強く握っていた。

 

「…はやく、呼吸を…」

 

そう話しかけると、まるで独り言のように空を見ながら話し始めた。

 

「大竹…雫に、迷惑かけてしまった。僕が今まであの子に向けて来た感情は……嫉妬だ。

……お館様に、一番気に入られているという…ことに嫉妬してたんだ。

あの子には、申し訳ないことをした。

煉獄、大竹雫を…助けてあげてくれ。あの鬼は相性が悪すぎる。きっと本体を斬らない限り、倒せない。このままではあの子が死ぬ。僕のことはいいから…頼む」

 

ギリッと擦れる音がするほど、歯噛みする。

磯島と雫の間にこの戦闘で何があったかは分からない。だが、雫のことが嫌いであることを告白し、尚も雫を助けて欲しいという磯島の決意は自分の心を動かすには充分だった。

 

だが、死なせるつもりはない。

 

「ふざけるな!それでも柱か!何を勝手に死のうとしている!

大竹が死ぬ?あいつが私たち柱を全員相手にしても傷を負わずに勝てる剣士だということは知ってるだろう! 

そんな大竹がお前を助けて欲しいと言ったんだ!だから俺はここへ来た!まだお前が助かると信じて戦ってるあいつに加勢せず、ここに来たんだ!

死なせない!お前は柱だろう!謝るなら自分で謝れ!」

 

その言葉を聞いた磯島は、驚く表情をした後、顔中に汗をかきながら呼吸して止血した。

 

「ぐっ!!…はぁ、はぁ、全く、君は本当に、いい漢だな、煉獄」

 

「俺は炎柱だからな。背負うぞ、もう少し離れたところに連れて行く。隠も呼ぶから手当を受けるまでそこで寝ていろ」

 

「……あの子に謝るの緊張しますね」

 

「もう喋らなくていい、止血したのが出血する」

 

その言葉を最後に静かになった磯島を背負いながら、さらに南の方へ駆けて行った。

 

 

 

----

 

 

 

小さな小屋を見つけ、そこに磯島を寝かせると、鴉に隠にこの場所と怪我の状況を教えるよう飛ばせると、来た道を引き返す。

 

まだ半刻の半分ほどしかたっていない。だが本体を斬らない限り死なない鬼ならば、あの雫が苦戦するのも納得できる。

 

「死なせん、お前は魁になれる剣士だ」

 

先程の殺気。雫から強い感情を感じた。あそこまで深く濃ゆい殺気を放つ人物は初めて見た。

それに戦闘の状況、鬼の分析、全てを冷静で短略に自分へと伝えた。

なおかつ磯島を庇いながら戦闘をしていた。

あの鬼の攻撃力と範囲から考えても気付かれずにそう対処するのは至難の業だ。

もしかしたら磯島を庇う必要がなければ既に自分で森にいる本体を斬っていたかもしれない。

 

(二人とも本体が別にいると言っていた!どこだ!)

 

雫が戦闘をしている近くまで来ると、辺りを見渡す。

 

焼け野原になった場所には雫の相手している鬼以外それらしきものは見えない。

 

(やはり森か!)

 

森の中で隠れながらこの鬼を操っている鬼を探すために、森の中を駆け回る。

 

(いない!どこだ!!)

 

全くと言っていいほどそれらしき影が見えないことに焦りを感じる。

 

(もうそろそろ半刻たってもおかしくない!日の出も近いが、その前に大竹に限界がくる!)

 

はやくと、それが心の焦りにつながるのを感じつつ、視線を巡らせると、小さな何かがうずくまっているのが見えた。

 

(あれは!?)

 

足を止め、よく見ると鬼の気配とおでこが出ている容姿をした小鬼だった。

 

(これが本体!?)

 

ヒィィィと怯えた声を発するその鬼の頸を斬りにかかる。

 

《炎の呼吸 壱ノ型 不知火》

 

その小さな頸を斬った瞬間、小さかった体が一気に大きくなり、頸なしの状態で走り出した。

 

(!!?こいつも頸が弱点ではないのか!?)

 

頸を斬った。

 

死なない。

 

本体ではないのか。

 

だが逃げているということは少なくとも何かしら弱点があるはずだ。どこだ。

 

一瞬のうちに頭の中が恐ろしい早さで考えているのが自分でもわかる。

 

本体を斬れば死ぬ鬼。

しかし本体らしき鬼は斬っても死なない。だけど他に本体らしき鬼は見えない。

このままでは雫が危ない。

 

目の前の鬼は弱くは有りつつも、状況はこちらが負けになっておかしくない。焦る気持ちが極度の緊張をもたらす。

 

これが本体で間違いはないはずだと言い聞かせ、体をまるごと吹き飛ばそうと技を繰り出した。

 

《炎の呼吸 伍ノ型 炎虎》

 

しかし鬼との間に木の龍らしきものが割って入り、攻撃を防がれる。

 

(!?これは大竹が相手していた鬼の血鬼術!)

 

もしやと頭の中を嫌な考えがよぎるがそれを無視する。

 

(大竹なら大丈夫だ!ここに攻撃が来たのも苦し紛れの物だ!斬れ!この血鬼術ごと本体を斬るんだ!!)

 

瞬時に足を止め、気を最大限に練り上げ、全身を捻る。

 

《炎の呼吸 奥義 玖ノ型 煉獄》

 

地面とその周囲をえぐるように突進、血鬼術の龍を粉砕しながら勢いを殺さずにさらに加速させる。

 

(見えた!)

 

頸なしで走っている鬼の背を捉えた。

 

(これで終わらせる!!)

 

その刹那、本体と思しき鬼の体は細切りのようになる。

 

即座に振り返り、鬼を確認する。すると最初に見つけた小鬼のようなものが心臓がある所から頸を斬られた状態で転がっていた。

 

(…やった、のか?)

 

その瞬間鬼の体が崩れていくのを見て、雫がいた所へと向かう。

 

森を抜けた大きな焼け野原に見えたのは地面にうつ伏せで倒れ込んでいた雫の姿だった。

 

 

 

 





色んな視点に変わって読みにくかったらすみません!

前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。

  • 統一した方が良い
  • 別に気にしない
  • 前半のようなほのぼの要素も欲しい

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