時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ 作:たったかたん
今回は一話のみです…仕事が忙しくて全く手をつけられなかった
「半天狗が死んだ?」
人間に擬態して潜り込んでいる家の部屋の中で読みかけの本を持ったまま鬼舞辻無惨はそう呟いた。
半天狗が見たもの感じたものはある程度自分の中へと情報として入ってくる。だからこそ意味がわからない。理解に苦しむものだったのだ。
(この狐の小娘、半天狗の最終形態をもってしてもほとんど無傷で圧倒した)
その者から黒く漂うように見える程の殺気を放ち、攻撃をすれば気づくと頸を斬られ、再生しても細切れになり、挙げ句の果てには血鬼術が跡形もなく消しとばされている。その記憶の断片に残っている半天狗の感情はその者に恐怖と怒りが入り乱れていた。
半天狗の情報を受けとって過去の記憶が掘り起こされる。
自分が初めて鬼狩りの剣士に追い詰められた記憶。
圧倒的なその剣士と、半天狗が圧倒された狐の小娘が重なるように自分には見えてしまう。
気づけば怒りが殺気として漏れ出していた。
「……鬼殺隊……一体いつまで私の邪魔をする」
千年以上に及ぶ自身の生きてきた時の中で鬼殺隊は数度に及んで追い詰めてきた。
だが全滅の一歩手前で何度も産屋敷は姿をくらましてはその十数年後には実力をつけた剣士を引き連れて立ち塞がる。
そして今回、千年以上生きてきた中でも他の柱とも比べ物にならない実力者が現れたという事実が今突きつけられた事にはらわたが煮えくりかえっていた。
(上弦に苦戦する他の柱は問題ではない。だがこの小娘は別だ、危険すぎる)
上弦で苦戦している柱では自分を殺すどころか傷を付けることさえできないだろう。
だが、狐の小娘は別格すぎる。
まともにわかったのは水の呼吸を使うという事のみだ。それで何ができる?感じることさえ出来ないあの速さは何なのか、それが分からない限り相対すれば殺される可能性がある。
(何者なのだ、奴は)
持っていた本は原型を保てないほどに潰され、紙が強く摩擦する音が響く部屋に、鬼舞辻無惨の歯ぎしりする音が鳴り響いていた。
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大竹雫はある問題に直面していた。
未だに思ったように体は動かず、重りを付けられたように動かせない体は目が覚めてから1週間たった今でも継続していた。
しかしそれ自体は大して問題ない。
徐々にではあるが回復していることが全集中・常中をしていて分かるからだ。
ならば何か?それは目の前の葉柱を抜いた現柱達が姿勢を正してこちらを見上げているのがお面の中から見えるからだ。
「………あの、何をしているか聞いても?」
そう問うと誠が少しニヤケながら答えてくれた。
「何をと言われましても…貴方を柱より上の魁にすべきだと今決めたばかりではありませんか、
「いや、布団で座りながら聞いてましたけど…そのとってつけたような様付けやめてください気持ち悪いです」
「貴方以外の現柱の全員が賛同してます。こちらにはいませんが、葉柱からの賛同もすでに得ています」
「………」
(い、磯島はん、どうしたんですか…)
混乱する気持ちを抑えてギギギと音が出てるんじゃないかと思える首の動きで縁側に座っている産屋敷を見る
「産屋敷…様、今自分が魁になっても仕事もできませんし新たな柱の埋め合わせもしないといけない時期です。また後日ということはできませんか?」(う・ぶ・や・し・き・な・ん・と・か・し・て)
別に魁になること自体が嫌と言うわけではない。なんなら柱達に自分の実力や実績が認められたという事実は嬉しい。
だが自分の中では柱達の上に立つ心と体の準備が出来てないのだ。
体の方は見れば分かるだろとツッコミたくなる気持ちを抑えて丁寧な口調で話しつつお面の中から目で訴えた。
「それもそうなんだけどね…逆に聞くけれど雫、柱数人を相手にして無傷で対等に渡り合えて、百年余り倒せなかった上弦を圧倒した者が、同じ柱だと言っても他の隊士は困ると思うよ?」
(……ごもっともすぎて返事ができない)
いかに自分が無理だ何だと言っても真面目にやれば水の呼吸のみでも2人ほどなら対等に渡り合えるほどになっている。
そこに完成間近の《瞬き》を入れれば言わなくても分かるだろう。
産屋敷が言うことを要約すれば、他の隊士から見れば柱が最上位の強者であるのにその柱を複数相手にしてまだ余力のある者が同じ柱でいいんですかと言うことだ。
(客観的にみたら化け物なんだよなぁ…)
同じ柱として皆といたい気持ちもある。だが想像してほしい。
呼吸を極めた剣士達の目の前で姿が面白いように消えては柱を吹き飛ばすような人間が同じ位の剣士に見えるはずもない。
それに水の呼吸もここ半年の怒涛の手合わせ稽古で極めたし、《瞬き》もほぼ完成した今の自分は他から見れば化け物以外何者でもない。
それに今回の上弦との戦闘で悪条件の中ほぼ無傷で帰ってきた事がとどめのように思える。
それがわかってしまうから強く反論ができずにいるのだ。
(瞬きが完成したらただの制限付きのチートだよなぁ……いや、元からか)
微笑みながらこちらを見る産屋敷を見返しながらお面の中で小さくため息をついた。
「……分かりました。瞬柱大竹雫、魁として鬼殺隊に立つことにいたします。
ですが今はまだ体が癒えておりませんので、正式に位を頂くのは後日という事でよろしいですか?」
「構わない。それに君が寝ている間に岩柱に入る者はほぼ決まっている。ただ、新たに抜ける事になった葉柱の埋め合わせには少し時間がかかる事になるね」
その会話を最後にして柱合会議は終わり、任務のない柱はわずかな時間を使って庭で手合わせしている。その光景を見ながら今の鬼殺隊を自分なりに考える。
柱になってから一年と少し、その間に柱が三つ空席になるのは鬼側から攻められていると言う事なんだろう。
「……早く体を治さないと」
その事実が気持ちを焦らせる。
今回の戦いで上弦の鬼は柱が複数人で当たらなければ勝利する確率が低い事が明らかになった。
もちろん柱にも強弱があるにはあるが、微々たるものだろう。
そして自分は厄介な血鬼術を相手に時の呼吸を使いながらの長期戦になれば傷を負うことはなくても今みたいな反動で数ヶ月はまともに動けなくなる。
(時の呼吸を極めなければ…)
時止めの力も瞬きも使える回数が1年前とは持久力が比べ物にならないほど伸びている。
それは自分が強くなれば強くなるほど時止めの力を極める事になるはずだ。
(…それに夢の事も気になりますし)
自分のことを千鶴と言った女の人と助けてくれた男の人の正体は何となく察しはつくが、なぜああなったのか、山の上から聞こえた声の正体も突き止めなければならない。
(休んでる暇は…ないですね)
木刀が弾けるような音を聞きながら雫は僅かに見える蒼い空を眺めていた。
鬼殺隊という歴史の中にとてつもなく大きく自分という存在を示した事を実感する事になるのは、あまり考えないようにして。
一一一一一一一
それから一ヶ月後、元通りとはいかないがほぼ倒れる以前と同じ水準の呼吸が繰り出せるようになり始めた頃、【魁】として位を正式に付くことになった。
仕事内容は瞬柱の頃と似たようなものだったが、仕事の全体の量が半端なかった。
警邏の担当地区は以前の2倍の広さになるし、個人の鬼討伐任務がなくなった代わりに部隊を率いて指示する権利が与えられるだけの柱と違って、柱以上の状況判断、その戦況の最適解を導き出す能力を持って鬼殺隊全体を指揮する人物こそ魁だと大谷誠が持ってくる様々な歴史書や戦術本を読む毎日。
昼過ぎには新たにもらった魁屋敷と名付けられた自分の屋敷に必ず柱が二人程訪ねてきて手合わせ稽古するのだが、変わったことはこちらが手合わせしてあげる側になるようになった。
そうこうしているうちに魁になって半月経つ頃、岩柱に悲鳴嶼行冥という盲目の筋肉隆々な男の人が入ってきた。
隊士になって2ヶ月程で柱まで登った凄い人みたいで産屋敷も嬉しそうにしているようだった。
新しく岩柱になった悲鳴嶼行冥は昼過ぎの手合わせ稽古に来た際、瞬きにとても驚く事があったが、今では柱になってからの通過儀礼みたいなものになりつつあった。
なんなら盲目であそこまで動けるこの人化け物かなと思ったが、それを大谷誠に伝えると「寝言は寝ていってくださいね雫様」と言われたのでその日の手合わせ稽古は一振りだけわざとぶつけた。
まあまあ順調に魁として安定し始めていた一年後、炎柱が急に脱退した。それにもひどく驚いたが、それから数週間後、大谷誠が上弦にやられたとの情報が入った。
次回 狐面の少女
読んでくださってありがとうございます。
あと二話か三話で原作に合流すると思いますが、次の更新は一話五千文字の二話連続更新を目指します。多分5日後です。
前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。
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統一した方が良い
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別に気にしない
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前半のようなほのぼの要素も欲しい