時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ 作:たったかたん
最近少し落ち着きすぎかなと思ったので、構成を少しだけ変えました。
序幕ですので少し短めです。
起承転結
↑start
月が雲に隠れ、闇が一層深くなる山の中、一人の隊士は必死に足を前へと進ませる。
目には涙を浮かべ、顔は恐怖に染まっており、隊服は血まみれになりながら走り続ける。
「はぁ…はぁ…柱、柱を!」
この山を登った時、自分含めて十人体制で入っていた。
『あの山に入った者は戻ってこない』
その噂が複数の街や村一帯に広がるほどの行方不明者の被害が二桁に達した頃に二度隊士を派遣するもいずれも行方がわからなくなった。
十二鬼月、もしくはそれに近い可能性を考慮し付近の街に滞在していた階級甲を二名、その他庚以上の隊士での合同任務となった。
山へと入って半刻過ぎた頃、山の雰囲気がガラリと変わった。
それはまるで水中にいる様に重たく、そこまで標高のない山のはずなのに相当な高山にいる時の様に呼吸が荒くなった。
それの原因はすぐに判明する。
「なんだ、この数は…」
誰かが呟いたその目の前には、それは山の斜面を覆い尽くすほどの
冷や汗が全身から吹き出すのを感じ、皆すぐ様抜刀したが、頸を斬っても死なず、圧倒的な数の前には手も足も出なかった。
辛うじて生き残った隊士は山の麓へと逃げ延びていた。
(那田蜘蛛山とは比べ物にならない被害が出るぞ!はやく!早く知らせなければ…!?)
その瞬間、目の前に一人の女の子が降り立った。
「タすケテヨ、オニィサん」
振り返ったその少女は感情のない顔で、目の全てが黒く、目を通して向こう側の闇が見えているような目と目が合った瞬間ふわりと右へ体が流れていく。
「…え?」
地面へとそのまま倒れる。何が起こったのか理解ができずにいたがその少女の横に新たに現れた子供が何かを手に持っているのが見えた。
「…あ、あぁ…」
それが自分の右足だと理解したのは、ぐちゃりと音を立てながら食べられた時だった。
その瞬間、夜の暗闇の中で影が自身を囲い込む。
もはや焦点を合わない目線だけで見上げると、先ほどの少女と同じく、闇に溶け込んだ目をむけながら純粋な笑顔で笑う子供達だった。
「う、うあああぁぁぁあ!!」
隊士がいたところを月明かりが雲の隙間から照らし出す。
そこには引き裂かれた隊服と血溜まりしか残されていなかった。
ーーーー
体が地面に立っているはずなのに浮遊感に襲われる。
(また夢ですか)
手を引っ張る両親と思われる男女を見上げる。
この夢は初めて見た時以降、数ヶ月に一度の頻度で見るものになっており、もはや何本の木とすれ違ったのかすら数える余裕ができてしまうほど繰り返し、今ではすぐに夢だと自覚できるほどになった。
夢の中にいる自分は首や目を自由に動かせず、依然として山崩れの時に聞こえた声の方向を見れていないし、男女の2人が土砂に飲み込まれるところを何十回と見ているが、なにも手掛かりになるものは見つけることができずにいた。
しかし、この日は少しだけ変わっていた。
(……ここは?)
どうやら何かの建物の中にいるらしい。
大きな部屋の中で視線の低い自分はただ動かずに座っている様だ。
(…何の夢でしょう)
そう思った時、部屋の引戸が力強く開けられ、入ってきた眩い光に目を細める。
外の太陽の光を背に中へ歩いてくる人物は、自分の夢に出てくる手を引っ張る男性だった。
(これは、あの夢の前の記憶?)
男は焦った様子で何かを話しかけながら、手を引っ張って外へと出た。
建物の正体はどうやら寺らしく、それらしき建物と庭が見え、そのまま門から出たその瞬間、「神童院」と書かれた看板が横目で見えた。
そのまま森の中へ入り、寺が見えなくなった頃、前方の木からいつも夢に出てくる女性が慌てた様子でこちらへ駆け寄ってくると少しだけ話をした後、山の奥の方へと走り出す。
その森の様子と手を繋ぐ男女を見上げるその風景は何度も見た夢のそのものだったが、そこで世界は明るくなっていく。
その瞬間体が引っ張られる感覚に襲われた。
目を覚ました部屋の中はまだ暗く、わずかに月明かりが部屋の中を照らしていた。
ふぅと吐いた息は月明かりに照らされ、白く色付くと空へと溶けていく。
深夜には屋敷の中でも白い息が出るほどに冷え込む、季節は秋だ。
(あの寺が、私の過去を知る手掛かり…)
布団から上半身だけ起き上がらせた雫はそう考えていると、頬の上が一筋冷たくなっていることに気づき、指で撫でると指先は濡れていた。
(……私、泣いて…)
何度も見た夢のその前の出来事を見れただけ、それでも雫にとっては大きな一歩だった。
「……あそこへ行くことが過去を知ることになる」
本当の自分がきっとそこに行けば分かる。
そう考えていると、ふと炭治郎が聞いてきた言葉を思い出す。
『……どうして雫様は、そこまで強くなれたのですか?』
自分と関わってきた人物はふと純粋に気になって聞いてくる。
そしていつも私は話す前に考える。
私がここまで強くなれた理由?そんなの言えるはずもない。なぜならそれは
(…神様の気まぐれがなければ私は当の昔に死んでましたよ、炭治郎)
日々誰よりも厳しく鍛錬してきた。時止めの力と言う力も鍛えた。
それでも鬼殺隊に入った頃、何度も死んでいるようなものだ。
運悪く初見殺しの相手に最初に遭遇したのもあって発動したのは片手で数えられるほどと言っても、結局生きていられるのは時止めのお陰なのだ。
(なにが強くなりなさいですか。なにが覚悟ですか。貰い物の力がなければ死んでたくせに…)
自分以外の人間は皆致命傷を回避するのは自分の実力のみが頼りで、必死で戦っている。
今でこそ時止めの力を使わず柱達を相手に立ち回れると言ってもだ。
魁になってから今まで上弦との遭遇の情報を聞いて駆けつければいつだって手遅れで、救えた命など片手で数えられる程度だ。
何年も見てきた夢に進歩があった事、ふと思い出した炭治郎の質問でお世話になった柱達を救えなかった過去を思い出し、感情が二転三転した雫は自己嫌悪に陥ってしまう。
(……今日はダメな日ですね)
雫は一旦深呼吸をして気持ちを切り替える。
すると縁側の廊下に鴉が月明かりに照らされて襖に影を映しながら降りてくる。
「……ご用件は?」
「雫様、至急産屋敷邸へとお急ぎください、緊急です」
「分かりました。すぐに向かいますと伝えてください」
雫はすぐに隊服へ着替え、刀を持ち狐面を被った。
ーーーー
日が沈み込んで夜が更けはじめた頃、産屋敷にはある一報が入っていた。
「階級甲二人が率いた十人小隊が全滅したそうだ」
産屋敷輝哉は蝋燭の明かりを付けた部屋で呟いた。
入った者は帰ってこないと噂になっていた山に鬼がいる可能性が極めて高いと判断し、魁稽古も受けた事のある上級隊士を含めた十名での任務であったが、山に入ってわずか半刻ほどで全滅との報告が鎹鴉によって伝えられる。
相手は数え切れないほどの鬼と頸を斬っても再生するという報告もある。
もしそれらが山から村や町へ降りてしまえば、以前の那田蜘蛛山と比べ物にならない、それどころか歴史上最悪な犠牲が出る可能性があった。
その情報を一通りまとめた産屋敷の前には雫が座っていた。
「以前の私を狙った血鬼術でしょう。他の皆では荷が重い可能性がある、私が行きます」
雫の報告にあった鬼達と酷似する点があることも考慮すればそう判断するのは当然のことだった。
「雫を誘き出す罠かもしれない。数も多い、雫が先行してすぐに柱数名と上級隊士を多数派遣しよう、構わないかい?」
「ええ」
それではと雫は言い残し、静かに部屋を出て行くとそこで気配が消える。
(あんな風に機嫌の悪い雫は、あの日以来かな)
ふと雫が上弦の肆を相手にして意識不明になった後、目が覚めた日のことを思い返す。
『私から見れば、あなたの方がよっぽど化け物だ。産屋敷輝哉』
面と向かって化け物と言った人は今もこれからも雫だけだろう。
まだ目が見えていたあの時、お面をとった雫の顔も鮮明に覚えている。
寝顔でも、ふとした表情でも、人形細工師が何年もかけて作り上げた一つの完成品の様に整った顔を。
(雫、私から見れば君は、化物を超えた何かだ)
その時襖の前に何者かの気配が現れ、名を名乗る。
「入っておいで、君達には任務前に一つお願いがあるんだ」
これから様々な出来事を予告しているかのように、夜空には分厚い雲が月明かりを隠そうとする。
雫の心の中で止まっていた刻がカチリと大きな音を立てて動きだす。
夜はまだ、始まったばかりである。
次回「記憶の断片(壱)」
鬼側の思惑と久々となる雫の戦闘。その中で思い出す五歳以前の過去。
1話ずつが良いのか数話ずつ揃えた方がいいのか、希望があればやり方合ってるか分かりませんがアンケートを用意しましたので教えてください。よろしくお願いします。
あと次からの投稿は一話五千文字以上の長文で書こうと考えてますのでいつ投稿になるかわかりませんが、休日の間に書き進めれるよう頑張ります。
記憶の欠片の投稿の仕方
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1話ずつ読みたい
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纏めて読みたい
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気にしない
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ご自由にどうぞ