時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ 作:たったかたん
怪我が治り、まともに動けるようになるまでに3週間もかかり、やっと最初の試験とやらを受けることが出来た。
内容は夜に登った山から朝日が顔を出すまでに帰ってくること。
霧や険しい斜面で病み上がりな自分にはそれだけでも十分すぎる試練だったが、さらに罠がびっしりとあるというおまけ付きで恐ろしかった。
鼻の先っちょを大木が掠ったときは素で「え?マジ?」って言葉と冷や汗が全身に出たほどだった。
しかし罠にかかる瞬間、当たる瞬間に
朝日の面影が見え始めた時に体力の限界ながらも家にたどり着くと、驚いている様子の鱗滝さんから合格だと言われた。
次の日から早速修行が始まった。
内容は以前の試験のレベルが上がっていて、罠の中ひたすら走って躱すの繰り返し。
1ヶ月で怪我をせずに網羅できるようになった
罠にかかることがなくなった頃から刀の扱いから受け身の訓練が本格的になって罠にかかる心配は無くなっても打撲とかすり傷は日々増える毎日だった。
他にも呼吸法というのを教えてもらったが、これは腹を殴られながら注意されなくなるまでに2ヶ月もかかってしまった。
そして修行の難易度が上がり罠が殺しに来るようになった頃、1つのことに気づいたことがある。
どうしても避けられず、体の急所と言った所に小刀が刺さりそうな時、(あ、死んだわこれ)って思った瞬間、《時》が止まったのだ。
これこそはっきりと世界が止まり、脳の処理が狂ったのかなんなのか、気持ち悪くなって吐いた。
どうやら自分の転生特典の力とやらは自身の危機的状態になった時にだけ発動するというものらしい。
これは鱗滝さんから聞いた話では側で見ていると瞬きもせぬ間に姿が消え、移動していると言っていた。
ここでチート最強万々歳なんてできると思っていたら大間違いで、時を止めた世界になってまともに活動できる時間が決まっていたのだ。
しかも最高でたったの5秒。
始めの頃は5秒も経たずにその場で吐いて身体中から汗が止まらなくなったので、これのどこが時操れるんじゃボケがって大声で叫んだのを鱗滝さんに遠目で見られた時は、しばらく距離を置かれていたのはすこしだけ辛い思い出になった。
修行が進むにつれて身体が丈夫になり、気がつけば時間停止内を3秒までなら時間再開後、息も乱さずに動けるようになった。
そこで鍛錬が転生特典を有利に使えるようになることを分かった私はとことん呼吸法を追及するようにし、ある時少しだけ時間を故意に操作した瞬間があったので、そこを追求に追求をかさね、時の呼吸と名付けることにした。
そして修行が始まってから半年後、最後の試練として自身の身よりふた回りほど大きな大岩を斬れと言われた。
こんな時、自身の時の呼吸はほぼ未完成で役に立たないので最初は全く斬れなかった。
1つ間違えれば刀は折れる。だからといって力任せでは刀を傷めるだけ。最終的にたどり着いたのはやはり習った水の呼吸で切るしかないと判断した。
それから大岩が斬れたのは2週間後のことだった。
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最終選別の前日、出発の準備が終わった頃に鱗滝さんが棚から何かを持ってきた。
「これを」
「…これは?」
「厄除の面だ、お前を災いから守ってくれる」
「……ありがとう…ございます」
そのお面は狐面で、右目の下あたりに雫模様を彫ってあった。
「……なんか、泣いてるみたいですね、このお面」
そう鱗滝さんを見ながら言った。
「初対面は泣いていたからな」
「そんな理由?!」
「だが、それも今となっては昔の話…今のお前ならどんな壁でも乗り越えられると、信じている」
珍しく冗談を言った後にそんなことを言われてはすこし照れるよね……理由は本当に冗談だよね?
少し気になりつつも、大切にしますと返事をして頭に被る。
「では、行ってきます」
「必ず、生きて帰ってこい」
「もちろんですよ、鱗滝さん」
少し声が震えてるのバレてますよ鱗滝さん、言わないけど。
靴紐を硬く結び、山の麓へと下る道へ足を進めた。
向かうことにしよう、最終選別に。
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10人。それは鱗滝が最終選別に送って戻ってこなくなった弟子の数であった。
雫、この子は今まで見てきたどの子よりも、質の高い呼吸、咄嗟の判断力、洗練された剣技を持っていると考えて疑いようがなかった。
特に瞬間的に上がる速さは自分でも目に見えないほど。
それを全て鑑みての実力は現役隊士の中で中堅を優に越えるか低く見ても並ぶかだろう。
だが今まで大丈夫だと判断したからこそ送った子達は、ここ10年ほどは1人も帰ってきていなかった。
(雫…間違いなくお前は強い。
だが、どうしても、心のどこかでもしかしたらと、そう思っている自分がいる…)
手を振りながら最終選別に向かう雫をみて、どうしようもない不安がよぎりつつ手を小さく振り返した。
その手が微かに震えていることに気付かれないように。
(もし、お前が帰って来なかったら…私は…)
狭霧山に黒く濁った雨雲が覆ってくるのを匂いで感じながら、その視線は雫が歩いていった道を眺めたままだった。
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1日かけてついた最終選別が行われる藤襲山には入り口の階段から藤の花が満開で、思わず目を奪われつつ階段を登りきると選別を受けるであろう子供達が15人集まっていた。
「皆様、今宵の最終選別に集まっていただき誠にありがとうございます」
意外と受ける人は多いんだなと思っていたその時、奥から白樺の妖精のような、雪の妖精のような、そんな容姿と雰囲気を纏った綺麗な女性が最終選別の説明を始めた。
そこでの説明は要約すると「この山に鬼をたくさん閉じ込めてるのでこの中で7日間生き延びたら合格」である
7日間と聞いてご飯と水浴びをどう確保しようと考えていたら緊張感がないと思われたのか、説明をしていた女性がこちらをチラッと見た気がしたが気のせいだと思いながら藤の花の向こう側に歩を進めた。
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他の子が山の中を駆けていくのを眺めながら自分は歩いていた
(とりあえずどの程度の鬼がいるのか分からないし、走って余計な鬼と遭遇することは避けたい。一番の目的は…)
同じ受験者を守ること。そう心の中で呟く
なぜそう考えるのか。
それは自分が鬼殺隊に入りたいと思った理由が人を守りたいと心に誓ったからだ。それは同じ鬼殺隊の者でも変わらない。
(もし悲鳴が聞こえたらそちらを優先しよう…)
その時、東の方角から悲鳴が聞こえた。
(東…太陽が最初に昇る所に向かったのか…)
一気に加速する。
声の大きさと響具合からして1町(110m)程だろうか。
今の自分なら山の中でも10秒ほどで着けるはずだと判断して木々の中を走り抜けると、手だらけの異形の鬼が1人の子を口の上に持ち運ぶ瞬間だった。
かなり大きいその鬼に一瞬体が固まるが、すぐ呼吸を整え跳躍する。
《全集中水の呼吸 弐ノ型 水車》
大きな口に落とされる瞬間、太い腕を切断しつつ、子供を自分とは逆方向に向かって蹴りを入れた。
「くぶっっ!?」と突然のことで受け身を撮り損ねたのか、苦しそうに変な声を上げながら転がっていき、なんとか巻き込まれる心配のないほどの距離まで離すのに成功したことに安堵しつつすぐさま鬼と対面する。
「おやぁ?…これはこれは…また来たんだね、俺の可愛い狐が」
狐?狐とは、このお面のことを言っているのだろうか?そう思っていると鬼が明治何年だと聞いてきた。
「……今は明治35年だったと思うが…」
「そうか、前の狐小僧から2年経っていたのか、もう来ないかと思っていたよ」
「……?」
さっきから狐のお面に異様なこだわりを見せてることに疑問を感じていると、嬉しそうに指で何かを数え始める。
「…はち、きゅう、じゅう、……お前でじゅういちだ」
「…なにがだ」
「…鱗滝の弟子を食べた数だよ、俺をこんなところに閉じ込めた鱗滝の弟子は、みんな食べてやると決めてるのさ」
クスクスと嬉しそうに笑いながらそう答えた。
「弟子は狐のお面を被ってるからそれが目印なんだ。
厄除の面と言うんだろう?それをつけてるせいでみんな喰われた、鱗滝が殺したようなもん「なるほど」!?」
自分でも恐ろしく低い声が出た。
鱗滝さんが送り出してくれた時、変な様子だったのは、危険度の高い最終選別に送るからではなく、この鬼に殺されていたせいで、自分の弟子が帰って来なかったからだと理解した瞬間、体の中で何かが渦巻いていくのを感じた。
「そうか、お前が原因でそんな事になっていたんだな」
なら、そう言いながらゆっくりと刀を構える
「今私が殺してやるよ、お前を」
その言葉と同時に鬼へと駆けた。
この時は富岡や錆兎、真菰が弟子になる2年前くらいと思ってくれれば良いかと…とりあえず今日は2話までです
前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。
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統一した方が良い
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別に気にしない
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前半のようなほのぼの要素も欲しい