時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ   作:たったかたん

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記憶の断片 (肆)

 

 

(…これは少し予想外だな)

 

 

上弦の弐、童磨は口から垂れた血を舐めながらそう心で呟く。

 

柱級五人の相手をする事になったとはいえ最初から手加減を加えず本気を出していればある程度は拮抗を保って足止めができると思っていた。

無惨様でさえもそう判断して自分にこの役目をやらせているはずだろう。

 

しかし現状、童磨は押された。

 

最初こそは吸っても触れても死に値する血鬼術に苦戦しているそぶりを見せていたが、ある一瞬に五人の動きが変わったのだ。

 

頬に傷のある男と花模様の着物をつけた女はほぼ同時に結晶ノ御子を斬り捨て、赤い羽織りをつけた男は迫っていた血鬼術の一部を斬り、そこから風の呼吸を使う男が空気をねじ切り、血鬼術のない空間を作りだすとその後ろから蝶羽織の女が目に追えない速さで突き技を放ち、その一撃を胸に喰らってしまっていた。

 

咄嗟に『結晶の巫女』、『霧氷・睡蓮菩薩』を放ち柱達を牽制させ、攻撃させながらの睡蓮菩薩の肩の上で片膝をつきなが毒を解毒していく。

毒が廻り、身体の中を強烈な痛みが駆け巡り、口から大量の血が溢れ出てくる。

 

「ゴホッ、ゴホッ!!この、気配、大竹雫という娘かい?ゴホッ、こんなところまで感じさせるなんて、まるでっ、鬼じゃないか?」

 

そう、山頂近くでした爆音が轟いた瞬間、半天狗を倒した娘、大竹雫の放っていた殺気が山の空気を変えたのだ。無惨様から貰っていた半天狗の記憶からも、鬼の様に禍々しいあの殺気は人が出していいモノではない。

 

体を蝕む毒の初めての感覚は柱五人相手にしていなければ楽しんでいたかもしれないと心の中で呟くが、血鬼術を惜しげなく使ってもこれ程押されるとは予想外だった。

 

「やはり上弦には毒は決定打にならない様ですね」

 

「ちっ、まだこんな血鬼術残してやがったか」

 

傷だらけの男と毒を喰らわせてきた娘がそう呟くと、頬に大きな傷のある男が結晶の巫女の攻撃を躱しながら指示を出していた。

 

「ここは俺と真菰、実誠が受け持つ!義勇としのぶは雫様の所へ急げ!」

 

「言われなくともこいつはオレの獲物だァ!」

 

「了解!」

 

「……わかった」

 

「…毒が決定打にならない私はこの場には不要ですね……後は任せます」

 

 

その会話を終えた瞬間、赤い羽織りの男と毒の娘が一気に森の奥へと駆けていく。

 

「そう簡単に行かせるわけないでしょ」

 

睡蓮菩薩からの吐息は全てを凍らせる風となって広範囲の森を凍らしていく。

それと同時に結晶の巫女を二体追わせるが…。

 

(…行かせたか)

 

しばらくして結晶の巫女が消滅したのを感じ取る。行かせてしまったものは仕方ないと残った三人に向き合う。今の状況は結晶の巫女が五体と睡蓮菩薩、過去の柱達であれば十分すぎる戦力であったが、今のこの三人にはまだ決定打には届かないだろうし、結晶の巫女も既に攻略済みの様だ。

 

「まったく、あの方に怒られるのは困るんだよ。せめて君達には死んでもらわないと割りに合わないかも」

 

これからの戦闘に役立たせる為にもこの三人には技を出し尽くしてもらわなければ。

 

 

周辺は既に木々が砕かれ、氷雪の風景と化す中、冷え切った空気をさらに凍てつかせながら戦闘は過激さを増していく。

 

 

 

_____

 

 

 

「どうだ鳴女、奈落の様子は」

 

 

「…はい、大竹雫という鬼狩りと接触、想定通り数で押すようです」

 

 

上下左右に襖がある大きな部屋の中で、琵琶を持った女鬼、鳴女は髪を壁に根のように生やしながらこちらへ淡々と報告してくる。

 

 

「鳴女、お前は私が思っていた以上に成長している、素晴らしい」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

今回の襲撃は仕留める相手があの大竹雫、その戦闘状況を詳細に報告、共有できる鳴女のような能力は非常に使い勝手が良いものだと感心する。

だが特殊な血鬼術を使うと言うのならば奈落の能力は鬼の中でも稀有すぎるモノだ。

奴の血鬼術は実際目の当たりにした時、頸を斬られても死なない真の不死身に近い状態にする事がまず目に止まり、次に圧倒的な数の鬼に目を奪われる。

 

だが奴の能力の真の恐ろしさはそこではない。

非常に私の能力に似ているし、人間に使用すれば血鬼術が使えない代わりに頸が弱点でなくなる鬼が作り出せるのは非常に大きい。しかも私の鬼に血を与えれば血鬼術を持たせたまま不死身の肉体へと進化させる事ができる。だが奈落自身は頸が弱点のままな所は大きな弱点だろう。

しかし奴と私では大きく違う点がもう一つある、それは個体一体一体を自分の意思で動かす事ができるという事だ。

 

この私でさえ血の呪いで縛っていると言っても本能的に自分勝手な行動をする鬼は数多くいる。

しかし奈落の能力であれば自分で将棋の駒を動かすように手下を移動させる事が可能、何千という手駒を思いのまま自由に動かせるというのがどれほど厄介なことか、大竹雫は嫌というほど身に染みて感じている頃だろうが…。

 

「……化け物が」

 

「…?」

 

「構わん、気にするな」

 

今までの柱どころか鬼殺隊をまとめて潰すことのできる戦力を一人で押し切っているこの人間を化け物と言わず何というのかと。

 

しかし私は知っている、奈落にも教えていない奴唯一の弱点を。

 

 

「鳴女、__________。」

 

 

「…かしこまりました」

 

 

大竹雫、お前には退いてもらわなければならない。

 

 

私の邪魔をすることは決して、あってはならないことなのだから。

 

 

 

__________

 

 

 

「父…上?」

 

表情は驚愕に歪んでいるであろう狐面の中を想像しながら、そう言葉を発した大竹雫をみて私は勝利を確信する。

人間は親愛な者が予想外な所で現れた時、またはするはずのない行動をとった時、人は受け入れきれず混乱し、どのような強者であっても必ず一呼吸の隙を作る。昔の子供達を救いに来た親共もそうだったように。

 

そして今目の前では隙を作った大竹雫と、その周りには私の血鬼術を用いた元下弦の鬼共が四方からそれぞれの血鬼術を放っている、これをどう避けられようか。

 

たしかに大竹雫の理解の出来ない瞬発的な速さは異常を通り越して理不尽な物だ。まるで神の力のような、そんな気がしてならないほどに。

 

だがそれももう気にすることはない。

 

奴のその技は無惨様からの情報を分析した結果致命傷になる攻撃を避けきれない時に使用することが多いと推測できた。なんなら全く気づかれない初見殺しの攻撃でさえもそれで躱す。

 

ならば、致命傷の攻撃に必ず発動する技であると考えることができ、ゆっくりとした出血で後々死ぬような傷を負わせればいい、単純な話だ。

そして先程の文子との戦闘で受けたそのお面の傷がその実証そのものだろう。

 

そう思考している一瞬で大竹雫にさまざまな血鬼術が降り注ぎ、爆音が鳴り響き、地面は抉れ、土煙が充満する光景を目の当たりにし、頬が思わず歪んでしまう。

この人間の身体はきっと今までの中で最高なものに違いないと。

大竹雫の身体で鬼殺隊の本拠地に潜り込み、産屋敷を暗殺すれば無惨様もお喜びになるだろうと。

 

ああ、ああ、早く私の血で千切れた手足を再生させて私の身体にしなくては、この身体はもう限界なのだから。

 

そう騒ぐ歓喜に染まった内心とは裏腹に全く波立つことのない地面へと足を前へと進め、砂利が擦れる音が響く。

 

その音が耳に届いた瞬間、目の前の土煙が風で運ばれ視界が広がり、その光景を見て私はふうとため息を溢した。

 

ゆっくりと背後を振り返れば、そこにはこちらを黙って見ている大竹雫が立っていた。砂利の擦れる音は私のものではなく、靴が地面に触れる前に背後から聞こえたのだ。

雫羽織りの所々が焼き切れ、切れているのを見るとどうやら先の攻撃はやはり避け切れるものではなかったらしい。

 

しかしもう打つ手が無いわけではない、なんせこの山には私が三十年かけて鬼とした人間と、童磨殿の協力で提供された人間と鬼が合計で四千体はいるのだから。

 

「…まったく、これで終わっていれば良かったものを」

 

そう言い終えた瞬間、恐ろしい重圧が襲いかかり、それと同時に軽い音が耳に届いた。

 

音がなくなったような感覚に襲われ、背中には冷たい筋が一つできるのを感じているとピシッと軽い音が鳴り響く。

 

狐面にヒビが入っていた。文子のつけた頬の傷以外に先の攻撃で所々に切り傷が入ったせいか、ヒビが徐々にお面全体に広がっていく。

 

パキッと重くも軽いような音が鳴ると同時に狐面に大きなヒビが縦に伸び、そのまま二つに割れながら地面にカランと音を響かせる。

 

ふわりと風が吹き、月を隠していた雲の隙間から月光が私達を照らし出す。

 

大竹雫の素顔は子供の時に一度接触した際見ているし、この男に体を移し替えた時に記憶の中で飽きるほどに見ている。

どんな時でも表情は変わらず、そしてここまでかと思わせるほどに幼児ながら整った顔と、気味の悪いほどに何も映さない黒く透き通った目。

 

現に月光に照らされたその顔は恐ろしく整っており、この世の男に限らず、同性までもが思わず息を呑むほどであろうその美しさは驚かされるもの、だがそれ以上にも私の目を奪うものがそこにはあった。

 

私の口は、いいや、体は指一本も動かない。まるで無惨様と対峙した時のような、何もかもが圧倒的な生命体との遭遇のように、蛇に睨まれた蛙のように、私は動けずにいた。

その中でも私の目を奪う物に対して思考は働いていた。

 

なぜ、何にも興味を持たない目をしていた子供が、人形の様な目を持っていたお前が、感情を、意思を持った目をしているのかと。

 

その、鬼が持つ痣に似た物は一体、何なのだと。

 

なぜ、お前の日輪刀は赤くなっているのかと。

 

 

ふと記憶が蘇る、赤い刀身の刀を持った顔に痣がある男の姿。

 

(…これは、私のものでは…無惨様のものか?)

 

全身の細胞が大竹雫を殺せと言ってくる。それにはきっと無惨様の意思もあるのだろうが、殆どは自分自身の生存本能だろう。

 

だが、これほどの強者であろうとも、私の血鬼術には呑まれるはずだ。私に敵対すれば無限に蘇り永遠と攻撃と壁役を担う小鬼達が襲いかかるのだから。

 

瞬く間に大竹雫の周りには壁のよう、いや大波のように隙間なく四方八方から小鬼達が襲いかかる光景を見て、私は今度こそと勝利の確信をした。

 

私の血鬼術、《葬鬼血》は私の血を体内に投与することによって人外な運動能力と頸を斬っても死なない不死身の肉体を作り出し、一体一体を自由に操る事ができる。それが四千体、しかも約二百体は鬼を血鬼術の影響下にしたものだから血鬼術も使ってくる。どんな柱であっても囲まれれば一瞬の命だ。

 

例えあの大竹雫だとしても_。

 

(!?)

 

その瞬間、最初に襲いかかっていた目の前にいた小鬼達が視界から肉片も残さず消えて無くなっていた。

 

(…なにが…起きた?肉片を残さずに斬ったのか?四百はいたはずだぞ?大竹雫と言えどただ刀を振ってどうとなる数は超えてるはずだ)

 

そんな考えが間違っていると分かっていても否定したくなる、しかし現実から目を背けても、目に映るのはその中心で刀を下手に構える先程の姿となにも変わらない大竹雫であった。

 

「…この数の肉片を残さず消すの、今の私ならできるんですよ」

 

ゆっくりと歩をこちらへ進める。

 

その一歩、一歩が発する砂利の音がまるで己が死ぬまでの秒針の音のように、ゆっくりと近づいてくる。

もちろんその間にも何百という小鬼達が飛びかかり、鬼達は血鬼術を致命傷にならぬ角度で放っている。それでも届く前に血鬼術諸共消えて無くなる。 

 

「あ、ありえん、その技は連発できるものではないはずだ」

 

送り込んだ鬼達に最後の一度だけ使用した技だという事は知っている。その技の後軽くだが咳き込んでいたことも鳴女殿の協力でおそらく反動がある技なのだと知っている。

人間が、いや上弦の鬼ですら出来ない次元にあると見ていいはず、なのに、なぜそう連続に使えるのだ。

現実から逃げたくなるが体は言うことに聞かず、動く気配がない。その間にも瞬きする間に何百という手駒達が再生する肉片も残さず消えていく。

 

ザリッと音が止まる。

私の目の前に辿り着いたからだ。

 

「貴方は非常に厄介でした。私でなければここに辿りつくことすらできず死んでいたでしょう」

 

私はただ、無表情で話しかけてくる大竹雫を見つめることしかできない。

 

「小鬼を消した技は痛みも苦しみも感じることなく消えます。…だから貴方には、これで消えてもらいます」

 

そう言った大竹雫が目の前から消える。

なんとか頸だけを動かし後ろを振り返ると日輪刀を鞘に収める姿が見えた。

その瞬間、身体の所々から赤い筋が浮かび上がる。目にも血が流れ込み視界が赤く染まる。

回復する気配もなく、全く血も止まる気配もなく全身から血が皮膚から溢れ出る。

 

その刹那、人間だった時の記憶が頭を一瞬過ぎる。その記憶の中には忘れてはいけないはずだった記憶も鮮明になって蘇ってくる。

 

 

(……そう…か、お前も…そうだったのか)

 

 

血だらけになった手を震えながら大竹雫に伸ばした瞬間、どろりと溶けて崩れていく。

 

 

「大竹……、君は…」

 

 

見続けていた視界もぐにゃりと歪み、口自体もどろりと溶け、声を発することも出来なくなり、そのまま迫ってくる地面へと吸い込まれ、ぐちゃりと音が鳴り響いた。

 

 

「さようなら…父上」

 

 

 

雨雲に囲まれた東の空の向こう側の雲が徐々に明るくなってきているのが雫の目に映るのと同時に、雨の匂いを乗せた風が吹いていた。

 

 

 

 

前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。

  • 統一した方が良い
  • 別に気にしない
  • 前半のようなほのぼの要素も欲しい
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