時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ 作:たったかたん
- 記憶の断片 伍 -
傷を負ったのは何年振りだろうかと、激情に染まる心中にそう思った。
一瞬の隙に下弦の鬼達が放ってきた血鬼術はその全てが手足を再起不能にさせる為のものであったため、時止めは発動しなかった。
それに上弦の肆の時のように、血鬼術そのものを消し飛ばす事も視野に入れたが、血鬼術が近すぎてそれ全てを消す事は不可能だった。
瞬きの間の硬直、ほぼ逃げ道などない状態で囲んだ血鬼術を前に、頭よりも体が勝手に動いていた。
《時の呼吸 三ノ段 水鞠・
全方向へ放つ突き技を攻撃の僅かな隙間へと集中させて放ち血鬼術を一部消し飛ばすと所々近づきすぎた攻撃に羽織や身を傷つけながらもその隙間から抜け出した。
飛び出た空中で態勢を整えながら着地すると、そこは奈落の後ろだった。
砂埃が晴れた場所を見た後、私の着地音に気づいたのかゆっくりと振り返ってきたその時、お面に僅かな衝撃が伝わる。
それは面に入ったひびであり、それは徐々に広がっていき、最後には縦に大きなひびを走らせて面を真っ二つにして落ちていく。
戦闘中に素顔を晒すのは初めてだと内心で呟きながら刀を構える。
目の前にいる奈落は自分の顔を見て固まっている、絶好の機会だと思った瞬間、周りから圧倒的な数の鬼達が視界を白で覆い尽くした。
すぅ、と息を吸って止める。
《時の呼吸 ニノ段 流の雫》
視界を覆っていた白装束の鬼達を消し飛ばすと、その後ろにはまだ白い鬼達の壁があった。
しかもその鬼達に紛れて先の下弦の鬼達が強力な血鬼術を放ってきていた。
それをも消しとばすとその先にいる奈落が信じられないという顔でこちらを見ていた。
「…この数の肉片を残さず消すの、今の私ならできるんですよ」
聞こえてるかもわからない声でそう呟きながら更に消しとばす。
《時の呼吸 ニノ段 流の雫》
普段であれば流の雫を連続で放つことは無かった。慣れてきたとはいえ体力の消耗が激しすぎる技なのは変わらない。
しかし今はその心配はしていない。半天狗の時と同様、それは視界が赤みを帯びており、以前よりも身体を軽く感じるからだ。
子鬼達と下弦の鬼達を吹き飛ばす音もなく消すと更なる鬼の壁が現れる。
すぐそこに奈落の頸があると言うのに、なんともどかしいことかと思ってしまう。
自分の推測ではこの鬼、はっきり言って本体はほぼ間違いなく弱い部類だろう。奈落自身は鬼であってもこれまでに遭遇してきた鬼達と比較してもまだまだ人を喰べてない鬼の様な気配であるし、何よりも接近させまいという姿勢が見て取れる。
まあそれは私の実力を知っているということも含めているのだろうが、奈落をここまで攻めきれない厄介な鬼へとさせているのは圧倒的な数の鬼を不死身にし、操るこの血鬼術だ。
この山に入ってから何百に及ぶ遭遇戦に関しては細かく数えてはいないがそれでもニ千は下らない程の鬼を斬っているし、消しとばした個体が何百といようが、それ以外の鬼は体を再構築して追いかけてきている、厄介な事この上ない。
(元凶の頸がすぐ目の前というのに…)
斬っても斬っても更に層のようになって現れる理不尽な程の膨大な数を相手に、それでもゆっくりと歩をすすめ、そして足を止めた。
(父親の体を被った鬼を斬るなんて、なんという神の悪戯でしょうかね)
少し見上げた形で目を合わせる。
奈落は動けずにいる様だったが、今の状態になった時の上弦の肆のことを思い出す。
ああ、また私は化け物に化け物の様に見られているのだなと納得しながら話しかける。
「貴方は非常に厄介でした。私でなければここに辿りつくことすらできず死んでいたでしょう」
事実私以外で奈落に対応できる人間などこの世を探しても見つからない。条件さえ揃えば単独で鬼殺隊を全滅させることだって可能だろう。
今なら分かる、私は目の前の鬼と無惨を殺す為に転生し、生き延びたのだと。
「小鬼を消した技は痛みも苦しみも感じることなく消えます。…だから貴方には、これで消えてもらいます」
これは復讐、憎悪だ。とても醜く、だけれども強力な力の源となる物。
今私は憎悪の感情をこの刀にこめようと決めた。
息を止める。時が鈍間になった世界ですれ違いながら高速の刀を振るう。欠片も残さないほどに細かく、しかし流の雫よりも何倍も繊細に刃を通して行く。
刀を鞘へと収める。
こちらを振り返る奈落の身体から血が徐々に血が溢れてくる。
こちらに伸ばした指先から崩れ、足が崩れ、地面へと倒れていく奈落は僅かに言葉を発した。
「大竹……、君は…」
その言葉を最後にぐちゃりと、ただの赤いどろっとしたモノに変わり、灰となって消えていく。。
「さようなら…父上」
《時の呼吸 死ノ段 時雨》
流の雫よりも優しく、繊細に斬ることで肉体を吹き飛ばすではなく肉体を溶けさせる、美しくも醜い、人に見せる事など出来ない型。
使うつもりはなかった、あまりにも酷く、ただ相手を苦しめて醜く殺す為だけの型。
そしてこの技は_
「……っ!」
この技は、反動が流の雫と比べ物にならない程に大きすぎる。
空気を取り込もうとするが吸い込む筋肉がいうことを聞いてくれない。
この技は流の雫よりも繊細、つまり刀で切る回数が桁違いであって、息を止めた状態でできる限界、それが時雨だ。
(流の雫の反動も…)
両膝が地面に触れその衝撃が伝わる、しかし痛みは感じない。
顔から地面へ倒れ込む瞬間刀を地面に突き刺しなんとか耐える。
体力の無駄遣いなのも理解していたがこうしなければ気が済まなかった。
(…本当にわたしは、あの頃から、狂ってしまった)
全身から汗が吹きでて、呼吸と言っていいのか分からない程に激しい息切れで意識が朦朧とする中、五年前の時雨を生み出したきっかけを思い出す。
(あの頃から、私は__)
「…貴様が大竹雫か」
低く、圧力のある声が耳鳴りのする耳に届いた。
飛びかけていた意識を唇を強く噛み無理やり引き留め、下を向いていた顔を前へ持ち上げる。
霞む視界の中そこに立っていたのは、無造作の腰まである長い髪を結び、ひと昔の武士の着物姿をした六つ目の鬼で、真ん中の目には_。
「…上弦の……壱」
「…最後の技で体力を使い切り、もう既に立つ力もないか…痣と赫刀を発現させるとは… 一度刀を交えてみたかったが先の戦闘を見る限り私でも相手にはならぬのだろうな……」
そう言った上弦の壱はゆっくりと刀を鞘から抜いていく。しかしそれを見ても、もはや身構える体力すら残っていない。
(…時雨を使うのは……失策だった)
このタイミングで上弦を出すとなれば、きっと先の上弦肆との戦闘で倒れる瞬間を何かで見られていたのだろう、でなければこんな瞬間に奥の手を出すはずがない。
(…私、死ぬんだ)
気味の悪い目玉が並んだ刀身が姿を現し、刀を上段に構えるのをみて心の中で呟いた。
「…あの方は貴様の死を望まれている…貴様の様に強き者、この世を去るのは何とも嘆かわしいことか……」
(…だめだ、なんて言ってるのか…分かんない)
耳も殆ど音を聞き分けれないほどに酷い耳鳴りが響き、視界も殆ど霞んでいた。
「さらばだ、……奴に匹敵する者よ…」
刀が振り下ろされた瞬間、雫の視界は赤に塗り潰された。
_____
激痛が身体中を駆け巡り崩れていく中で、さまざまな記憶が脳裏を過ぎっていた_。
僕は、病気をもって生まれた。
生まれてから18年、病院の敷地内から出たことは一度もなく、色んな管に繋がれベッドに横たわる日々が続いていた。
だから病気を完治させた後の僕の夢は、こんな苦しみを経験させない程に凄い医者になる事だった。その為に体の調子の良い時は医療本を山ほど読んだ。
でもある時、病気が悪化し息を引き取った。
苦しかった。
息ができなくなるほど体の中に激痛が駆け巡って、薬もろくに効かない状態の中で死んだ。
でも目が開いたんだ、真っ暗な世界で、死んだはずなのに。
すると目の前に白い人間の様なものが現れてこう言ったんだ。
「人生を病気に支配されていた君は、他の人でもそうなって欲しくない様だね。なら何でも治してしまう、治癒の血と肉を与えよう」
そして僕、鈴木卓は、明治時代のある村に山中清として生まれ落ちていた。
僕は神様からもらった力を幼少期から存分に振る舞った。最初は気味悪がられていたけど、怪我した友達に一滴舐めさせた後、怪我があっという間に治ったのをきっかけに状況は一変した。
大怪我した人に、病気に侵されている人に、自分の血を少しだけ飲んでもらうだけで皆その日のうちに完治した。
7歳から始めた活動は10歳になる頃には、僕を神とした宗教が出来上がるほどになっていた。
宗教自体はあまり学んでこなかったこともあってそう言うのが当たり前だと思っていた。
毎日の様に来る患者を相手する日々を過ごしていたある15歳のある日、ある事実が発覚した。
それは僕の血を飲んだ患者の中に人を殺し食べたとして大罪で死刑を受けた者が首をはねられたはずが首が新しく生えてきて死なず、暴れ出し逃げようと屋敷の影から飛び出した瞬間、全身に大火傷を負って死んだというのだ。
後にその患者は瀕死の重体で、血を他の人よりも多く与えていた人だったことがわかった。
(もしかしたら僕の血が原因で?)
そう思ったが宗教自体秘密裏にしている物で僕の名前が出ることはなかったから騒ぎ立つ訳でもなく、5年が経過した時、僕にも結婚、愛する人ができた。
その人の名前は平瀬千鶴、真っ直ぐに癖のない黒髪が腰まで綺麗に伸びてて、キリッとした顔立ちの美人な女性だった。
とても幸せな毎日だった、でもある日急に倒れ意識不明となった。
都合悪く僕が患者を相手している時に、家で倒れたらしく、家政婦が気づいた時にはもう意識はなかったそうだ。
僕が駆けつけ、焦りながら手首を斬り血を口を開けさせ与えた。
この時焦っていたのが悪手だった。
正気を保っていられなかった僕は血が出続ける限り彼女の口に垂らし続けた。
しばらくして彼女は目を覚ました。
しかしその時には彼女はもう、人ではなくなっていた。
意思疎通は出来る、しかし陽の光を怖がり、腹を空かせる度に信者を食べる化け物になってしまっていた。
僕は悲しみに暮れた、もう彼女は彼女ではないと。僕自身の血でその様な結果にしてしまった事がショックで、彼女が十人目を食べた時、昼間の縁側に誘い出した。
彼女は僕の事を信頼してるから何の疑いもせずに昔のように一緒に来てくれた。
少し話をして、庭を眺めていた彼女を僕は、背中から庭へと突き飛ばした。
化け物の様な声でとても苦しんで、泣いていた。
「どうして…!?どう…じで!!?」
「ごめん…ごめん…千鶴…」
僕を見ながら灰となって消えていく彼女を謝りながら泣き続けることしかできなかった。
それから僕は宗教自体を解体させた。
信者たちは皆続ける事を望んでいたけれど、彼女の事を知っている人達は僕の話にうなづいてくれた。
なぜこんな能力を授けたのかと神を恨みながら5年が経ったある日、ある男が僕の前へと現れた。
「お前が人間ながら持っているその血、興味深い。貴様が鬼になったらどうなる?」
そうして私は奈落と言う名の鬼になった。
私が鬼になった時、人間だったころの記憶は殆どが消えていた。
唯一覚えているのは、血の能力と千鶴と言う名前がとても大切な人のものだと言うことだけだった。
それから私の血鬼術《葬鬼血》は人間に与えれば意思疎通が出来なくなる変わり人外の力や動きをする事ができるようになり、そして頸を斬られても死なず、そして私の意思で自由に行動させる事が可能な事がわかった。
無惨様の能力に似たり寄ったりだった。
そのことに無惨様はなにかガッカリした様子を見せて興味がなくなった様子で、いつかは殺されるのだろうと思った。
だがわたしは童磨殿と親密に話すようになり、研究に提供された鬼に血を与えたり、血の濃度を変えて人間に与えてみたりと研究を進ませ、鬼の体に私の血を全て送り込むことでその鬼の体と精神の主導権を奪う事ができる事がわかるようになった。
そして私は鷹帯山の山頂付近に「神童寺」を童磨殿の協力もあって建設し、怪しまれないよう全国の子供達を集めて血鬼術の勢力を増やす構図を作り上げることに成功した。
すぐにいなくなる子を不審に思っても、修行が厳しく辞めていったと言えばすぐに納得してくれ、不審に思った家族も殺し、食料にした。
子供の一部は元の家族へ返しその実績を広めさせ、そういった家庭から口伝えで広まったこの寺は世間に有名になる事はなく、自分の子を特別にしようという家庭を中心に隠れながら少しずつ広まっていった。
するとその寺を建てた15年後、大竹千鶴という少女がやってきた。
千鶴という名とあまりにも整った顔立ちに頭の中を掻き回らせる感覚を覚えた。
「すみません、私の大切だった人の名が千鶴でして、ここでは貴方のことを雫と呼んでもよろしいですか?」
大竹千鶴は、興味なさそうにうなづいた。
その少女は武、心、知の全てにおいて他を圧倒、人の数段上をいっていた。
「あの少女の肉体ならばさぞ童磨殿も喜ばれる」
そう思って血を飲まさせず大切に育てようと思った矢先、警察が来るという風の噂が入った。
すぐさま童磨殿から提供された指南役を担っていた人間達に子供も含め撤収させようとした矢先、大竹雫が待機させていた大部屋からいなくなっていた。
騙されたと激情に駆られ、その時土砂を操る血鬼術を持った鬼へ乗り移っていた私は追いかけ、そして大竹雫もろとも崖へと突き落とした。
死んでも童磨殿は喜ぶだろうと死体を探したが見つからず、代わりに見つけたのはボロボロになった父親と母親の死体だった。
そろそろ夜の人間社会へ溶け込むことも考えていた私は、気まぐれでその男に乗り移った。
しばらくして私の研究が進んでいる事を知った無惨様は今まで私に無関心だったが、よく話すようになりそれが嬉しくて研究に没頭し、再生速度や能力、意思の残し具合まで調整する事が可能となった。
鳴女殿の能力も使いながら鬼狩りを殺して回っていると、半天狗殿が死に、その翌年には魁と言う柱よりも上の鬼狩りが現れたと情報が入った。
特徴は狐面の娘と言うことだけだった。
最初は意識する程度だったが、無惨様にその鬼狩りの力を知りたいと直々にお呼びされ、どのような戦いをするのか奇襲させて調べた。
あまりにも人とは思えない動きをするこの狐面は数で押す私の方が上弦よりも役立てると確信し、無惨様にはそう報告した。
その狐面が大竹雫と知ったのは、殺した隊士の脳から記憶を抜き取った時だった。
実の父親の身体を操る私が目の前に現れれば必ず隙が現れるはず、そこを半殺し程度の攻撃で狙えば可能性は十二分にあると思えた。
鷹帯山で鬼殺隊を誘い出し全滅させ、魁を誘い出すことに成功した時はとてもとても嬉しかった。
奴の体に乗り移れば産屋敷の本拠地の記憶やらあの剣技の秘密が手に入る、そうすれば私は十分上弦の一角として気に入られるだろうと、そう思っていた。
斬られたのかすら分からず、激痛が身体中を襲い灰となっていく中、思い出してしまったのだ、人間だった時のことを。
(僕は、一体何の為にこの世界に来たの?)
暗闇に囲まれた瞬間、赤黒い炎に包まれながらしたその問いに答えてくれる存在は、もう既に居なかった。
遅すぎたお年玉
前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。
-
統一した方が良い
-
別に気にしない
-
前半のようなほのぼの要素も欲しい