時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ 作:たったかたん
手鬼は焦っていた。
(なんだ!この餓鬼は!?)
今までの餓鬼たちと同じように挑発していると、雰囲気がガラリと変わった。
40人程食べた自分でも体が一瞬固まってしまった程の殺気を放っていたその少女は、体の隅から隅までの物がこの者はヤバイと警告していたからだ。
こちらへと刀を下手に構えながら走ってくる少女に数十の手で襲いかかる。
(くるなくるなくるな!)
鬼になってから鱗滝に捕まった時以来だと思われる冷や汗が全身に出て止まらない。それ程に目の前の少女に恐怖を感じている。
その少女は全ての手を一瞬で迎撃するとさらに速さを増して接近してくる。
(……!!ここだ!)
異形の鬼は地面に最終手段として奇襲用に隠していた手を出して襲わせる。少女には逃げ道がない程に囲まれているのをみて叩きつぶす光景が頭の中をよぎった。
(殺った!!)
少女がいた所を手で潰し、土煙で見えない中そう心で勝利を叫んだ瞬間、後ろから足音がした。
(…!?なんだと!?)
土煙が晴れるとそこにはおらず、後ろに急いで振り返ると刀を下げてこちらを振り返って見ている少女がそこにいた。
(どうやってかわした?!全く姿が見えなかった!)
そう焦りつつ手で攻撃しようとしたその時、餓鬼を見下ろしていた視線がズレたかと思うと低くなっていき、気がつけば見上げていた。
(……な、なにが…)
なにがどうなったのかもわからず、1つ理解できた事は自分の頸が地面を転がって塵となっている事実だけだった。
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とある少年
藤襲山に自分が入ってから最初に出くわしたのは飢餓状態の鬼だった。その鬼に少し体が怯んだが、問題なく頸を跳ねる事に成功し、自分の実力が通用すると安堵していた時、目の前に木々を狭そうにゆっくりと現れたのは、手だらけの異形の鬼だった。
「!?ここには鬼になったばかりのやつだけではないのか!?」
そう叫んでいると、反応できない速さで迫ってきていた手に右足を掴まれた。
「うわぁああ!!!!」
あまりに突然のことになにも抵抗できず、ゆっくりと鬼の頭上まで運ばれると、人間1人丸呑みできそうなほどに大きな口が開いた。
足は捉えられ、竦んだ体では逃げることすら叶わない。
《死》という言葉が心を埋め尽くしたその瞬間、体が浮いた。次に腹に強い衝撃が走る。あまりに突然なことに受け身をとる事もできず、そのまま地面に背中から落ちて肺から空気が全て吐き出され、そのまま地面を転がった。
(な、なにが起きた!?)
相当転がったであろう。3丈(9m)以上は離れた異形の鬼がいる所を見ると、狐の面を着けた少女が鬼と対面していた。
だめだ、逃げないと、この鬼は僕たちのような実戦も経験してない未熟者が相手するには荷が重すぎる。
そう叫びたいが、ヒューヒューと肺に空気を取り込むので精一杯で言葉が出ない。
(戦っては……だめだ……逃げないと……!)
必死に呼吸を整えていると戦闘が始まってしまった。
その少女は迫ってくる無数の手を一瞬で迎撃すると加速して鬼に近づいていた。
凄いと心の中で呟くと、地面から複数の手が少女を囲むように出てきた。
(だめだ!やられる!)
その瞬間その手は無慈悲に少女がいた場所を叩き潰し、土煙が舞っているのを見て呆然と眺めた。
(……次は僕だ!逃げないと!)
ふと我に帰り体を動かそうとした瞬間、鬼の後ろ側に
(……は?)
少女は振り向くように鬼を見ていると、鬼も予想外だったのかすぐに向かいあう。
今少女がなにをして無事なのか分からないが生きていてよかったと心から思った。
それと同時に自分も加勢して一緒に逃げなければ。
そう決めて体を起こした瞬間、腕に囲まれた鬼の太い頸がゆっくりと地面に落ちていくのを見て、え?と何度発したのかも分からない、理解できない声が口から出ていた。
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(あ、あぶなかったぁぁ)
雫はそう心の中で安堵した。
怒りのまま鬼に接近したのはいいけど、地面から手が出て来たのは、怒りに囚われた自分には全くの予想外でこれ死んだと思った。
すると時止め発動。すぐさま閉じ切っていない手と手の隙間を走り抜けるのに1秒、鬼の頸に向かって跳躍し2秒。
《全集中水の呼吸壱ノ型 水面斬り》
手に守られてかなり太くなっている頸を水の呼吸で斬り3秒、鬼の背後に着地した瞬間で4秒、時を動かす。
ズン!!と自分がいた場所が潰されているのを感じた。上に3mはある手鬼の体をも超えて土煙が見えた。
(あ、…あんなん死ぬわ)
心でそう呟いていると同時に鬼がこちらを見た。
もう頸は切っているのでもう勝負はついている。そう思って2秒過ぎても頸が落ちなかった。
(あ、あれ?なんで落ちないの?)
焦ってきていると手が攻撃しようと動き始めているのを見て体が強張る。
(うそ、確かに頸は斬ったはず)
そう思った瞬間、頸がゆっくりと地面に落ちて消えていった。
それをみて心の中で冒頭の安堵の声を呟くと同時に、鱗滝さんの殺された兄弟子達が成仏できますようにと心から願うのだった。
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手の異形の鬼が初めて遭遇した鬼だったのでこんなに強い鬼を相手に7日間とか、死ぬ!と心の中で叫びながら今まで以上に本気で行くことにした。しかし最初の鬼以外は全部恐ろしく弱く、数体同時に襲いかかってきても問題なく頸を斬る事ができるほど余裕ができた。
それから7日間、叫び声が聞こえてはそこへ向かい出来るだけ助けることに専念し、開始場所へと帰りついた時、生き残ったのは自分を含めて11名だった。
「…5人も……死んでしまった…」
そう悔やんでいると、自分を見た子があっと声を発した瞬間、生き残った受験者達が一気にここへ集まってきた。
(え?な、なに?私何かまずいことした?)
そう心で焦っていると1人の子がゆっくりと話し始める。
「ありがとう。あの時、異形の鬼に喰われる瞬間、君が来てくれなかったら僕は死んでいた。本当に、心から感謝したい」
え?と思いその子を見ると、あの時喰われかけていた子だった。すると次から次へと周りの子達がありがとう、ありがとうと感謝の言葉を言ってきた。
(……ああ、私がやって来たことは、無駄ではなかったんだ……)
口では他愛もない事を言いつつも、一筋だけ涙が流れていたのは、お面のおかげで誰にも気付かれずに済んだのだった。
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雫を最終選別に送り出して8日が過ぎ、そろそろ帰って来て良い頃だった。
(…まだか……)
柄にもなく不安に焦っている自分を落ち着かせようと体を動かす。
なんなら送り出した次の日から薪を半年は困らないほど割り、畑の手入れをいつもの2割増しほど丁寧にし、片付いている物の少ない部屋を毎日隅々まで掃除し片付け、いつも以上に綺麗になった家の周りをそわそわと歩き回っていた。
ふとジャリッと足音のようなものが聞こえ、振り返る。
そこには少しだけ土に汚れた服以外、送り出したまんまの姿で立っている雫がいた。
「…ただいま、鱗滝さん」
お面を外し、恐ろしく整った顔で微笑みながら、いつも通りの口調で話す雫にゆっくりと近づく。
怪我もなく、確かな足取りで立っている雫を目の前に見て不安が一瞬で飛散し、気がつけばゆっくりと抱き締めていた。
「…よく、戻って来てくれた……!」
柄にもなく涙が溢れるのを感じながら、腕の中にいる子の温かさを感じながら、そう言葉を絞り出した。
「うん、ただいま。鱗滝さん」
それから気恥ずかしくなって動き出すまでには少しだけ時間がかかったそうだ。
前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。
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統一した方が良い
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別に気にしない
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前半のようなほのぼの要素も欲しい