時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ   作:たったかたん

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明日からまた仕事忙しくなるので朝に投稿予約しました。








願うのであれば

 

 

 

 

 

 

 

何かがおかしい。

半刻ほど前から心のどこかで何かが引っかかる。錆兎が一時斬撃に押され戦線を離脱させられた時、皆明らかに動揺した。一瞬と言ってもそれを上弦の壱が見逃すだろうか?それにこの中で最も経験豊富で警戒されていた錆兎が一瞬いなくなって四人になった時、なぜ上弦の壱は攻めに転じなかった?

 

 

 

でもそれは分からず、ただ生きるため、倒すため、守るためにその考えを心の奥底に押し込んだ。

 

 

 

今は目の前に集中しなければと目の前に迫る斬撃を紙一重の動きで躱していく。

 

 

(なに?何を見逃している?)

 

 

なんとなく。ただそれだけの違和感だがそれが致命的なものに感じる。しかし目の前では上弦の壱に皆が迫り、しのぶに関しては胴体に毒を打ち込むというこの状況を一気に攻めに転じるきっかけとなる一撃を生み出していた。

 

毒で胸の色が大きく変色し壊死してく。その状態で次の型を放とうとしていることが目に見て分かったが、上弦の壱の目の前からは錆兎が、左後ろから無一郎が頸を狙っている。しのぶが自分を追い越す瞬間、首辺りに蝶のような痣が見えたし、無一郎には顔に雲のような痣が、錆兎には古傷の部分に水飛沫のような痣ができていて、そのことも気になったが今の違和感は少なくともそれでは無いだろう。

 

 

鬼からの反撃を浴びる前に、瞬き半分の時もなく二人の刀が頸に届く。上弦の壱の討伐を成せるだろうと確信できた。

 

 

 

 

真後ろからの爆発音さえなければ、瞬きの間の隙が生まれることはなく、成せたはずだった。

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

命運を分ける大事な場面というのに、体が反射的に蝶屋敷に振り向いた。

屋敷の奥、中庭とは反対側の空に黒い斬撃のようなものが屋根を破壊し瓦を粉々にしているのが見えた。

 

 

 

そこは奇しくも、いや、この状況で奇しくもなんてあり得ない。全て必然だ。

 

 

 

「カナエさん!雫様!!」

 

 

 

背筋に冷や汗が溢れる。”もしかしたら”という考えが脳裏をよぎるのを無視しろと自分に言い聞かせて、一瞬固まった体に指示を出した。

体を屋敷に向け、跳躍しようと身構えた時、後ろからの溢れんばかりの殺気が体を鋭く貫いた。

 

再び上弦の壱の所に振り向けば、屋敷の爆発に一瞬、ぴくりと反応しただけの一瞬が致命的となる場面で三人とも意識が屋敷を向いてしまっていた。無一郎と錆兎は目を見開いており、しのぶに関しては鬼の背中に付いている事も忘れ驚愕に染まった顔になっていた。誰が見てもわかるほどに隙だらけだ。

 

 

 

「だめ!!」

 

 

 

瞬時に鬼に向かって足を踏み込み、強く蹴った。せめて誰か一人でもその場から救いたいその一心で。

 

 

 

 

「最後の一手でよそ見とは、愚かな」

 

 

 

その瞬間、真菰が見る世界は白く染まった。

 

 

 

【月の呼吸 拾肆ノ型 兇変・天満繊月(きょうへん・てんまんせんげつ)

 

 

 

鬼の体から刃を生やしたその斬撃の数は先ほどと比べものにならず、隙間のない切り裂く破壊が、撒き散らされた。

 

 

 

 

  

 

飛んできた斬撃を躱し、躱しきれないものは刀で受け流す。しかしその攻撃は密度も範囲も異常で一つ受け流した瞬間に二つ、三つと躱しきれない斬撃が増えていく。

 

 

 

(みんなっ!!)

 

 

 

もはや斬撃は対応できる量を超え、とうとう一つの斬撃を正面から受け切ってしまい後ろへ吹き飛ばされた。

 

縁側に接していた部屋の襖を突き破り更に奥の廊下まで吹き飛ばされ、一つの柱へと激突する事で遠ざかる世界がやっと止まる。

 

 

「…がはっ!!」

 

 

背中からの強い衝撃で肺の空気が全て強制的吐き出される。全集中の呼吸で大量の空気を取り込んでいるのもあって肺に伝わる衝撃は一瞬意識をさらって行くほどだった。

 

 

(い、息が…っ!みんな!!)

 

 

しかし今は自分よりも斬撃の源に接近していた三人とその近くにいた義勇のことで頭がいっぱいだった。

 

 

ヒュー、ヒューと萎んだ肺へ空気を入れ、酸欠でチカついていた視界を鮮明にさせて行く。

 

 

 

体に酸素を含んだ血液が行き渡り始めたのを手足が温まってきたことで知覚し、刀を支えにしながら軽いはずだった重い体を立ち上げ、突き破った襖から外を確認するために自分で破いた穴から中庭を覗いた。

 

 

 

 

中庭全体に土煙が充満し、鬼も他の四人も姿は確認できず絶望が心を支配して行く。

 

 

 

 

「……もう、だめ」

 

 

 

鬼と鬼殺隊の決定的な違いは鬼か人間かである。では鬼と人間で決定的に違う点をあげるのならば、それは再生能力だ。とても単純で馬鹿みたいに立ち塞がるその壁は、誰にも変えることはできない。

義勇は”凪”があるからまだ無事かもしれない。それに攻撃をほぼ零距離で受けた三人がとてもじゃないが無事とは思えない。生き残ったとしても四肢のいずれかを欠損している可能性が高い。もし生き残っていたとしても戦うことは不可能だ。

 

 

それに急いで向かわなければカナエと雫が危ない。

 

 

たとえ応援が駆けつけたとしてもその頃には全てが終わった後だ。

 

 

(……せめて、誰か無事でっ!!)

 

 

せめてもの、誰か一人でもいいから無事でいてくれという悲痛な願いは__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ギリギリって感じだな」

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

叶ったようだ。

 

 

土煙が晴れた光景は、地面は斬撃の形で土が深く抉られ、外塀もほとんど崩れてしまっていて中庭という原型をほとんど残していなかった。そして庭にあった木の根本で中央にいる鬼に向かって刀を構える男、一緒に常駐していた甲の正之助が中庭の端の方で二人を後ろに庇うで立っていた。

 

 

「正之助くん、…助かりました」

 

 

「ありがとう、知らない人」

 

 

「……この上弦達は陽動。本命は屋敷の中、こいつら、雫様を殺すんじゃなくて連れ去る気だ!」

 

 

「…っ!」

 

 

「……雫様を、鬼に?」

 

 

正之助の後ろでは二人が片膝をついた状態で感謝を口にする。三人とも身体中に傷を負っており、隊服に血が染み付いている。しかし正之助の話を聞いたしのぶと無一郎の表情は険しく、今にでもカナエと雫のところに向かいたい気持ちでいっぱいだろう。

 

 

正之助の話で違和感の正体がわかった。”なぜこれほど鬼が戦闘で広範囲の技を放っておきながら屋敷への損害が縁側に面している部屋に留まっているのか”。雫を殺すのであれば中庭に留まらず屋敷の方へと技を放って瓦礫ごと殺すことも出来たはずだ。

 

正之助の話に驚愕しながらも致命傷を負っていないその三人の姿に安堵した瞬間、近くで咳をする二人の声がした。

 

真菰がいた部屋から右側の方に顔を向ければ二つ隣の部屋から自分と同じように縁側に身を乗り出して刀を構える義勇の姿が見えた。義勇の後ろからは咳をしながら錆兎が部屋から出てくる。

四肢は欠損しているようには見えないが、こちらも身体中に深い切り傷を浴びて血だらけだった。

 

 

「良かった…無事だった」

 

 

よく見れば義勇の頬にも錆兎と同じような痣があった。確か雫にも薄く円盤のような痣が発現していた。やはりあの痣には何か身体能力向上のようなものがあるのだろうかと真菰は推測を立てた。

 

きっとあの瞬間、鬼の正面にいた錆兎を痣を発現させた義勇が”凪”でできる限りの斬撃を相殺したのだろう。発現前の義勇ならあの時に他人を守れるほどの余裕は無かったはずなのはよく一緒に鍛錬をしているから知っている。

 

 

 

「……玉壺、口を滑らせたな。……それに四人に痣が発現、厄介だが、もう以前のようには動けまい」

 

 

 

上弦の壱が再び技を放とうと馬鹿でかい刀を構えた。その姿に皆の表情が険しくなる。

さっきの技から五体満足で生き残ったとしてもこれ以上今までのように戦線を維持することは厳しいからだ。新たに駆けつけてくれた正之助でさえももうすでにボロボロだ。

 

 

持ち堪えなければ、早くこの鬼を倒して雫のところに行かなければと焦る気持ちが大きくなる。

 

 

 

【月の呼吸 漆ノ型 厄鏡・月映え(やっきょう・つきばえ)

 

 

 

再び絶望の刃が振り下ろされる。この技は地を這うように斬撃が複数放たれ、しかも斬撃と斬撃の間にも月の形をした斬撃が埋め尽くされている。他にもこんな馬鹿げた技を何度も受けてきた。距離がある今避けることはできるだろうが傷を数多く負ってしまった以上、動きは鈍り、近づくことは無理だろう。

 

 

 

それでもやらなければいけないと、そう覚悟を決め、身構えた。

 

 

 

 

 

 

そして再び、破壊(絶望)が振り撒かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

____

 

 

 

 

 

中庭で戦闘が再び始まることになるほんの少し前、五人の集中力を奪ってしまった戦闘音を響かせた中庭とは反対側の部屋の中。屋根と壁は既に壊されており、屋敷の原型は既に保っていなかった。しかしその部屋で寝ている雫には瓦礫は落ちておらず、上弦の陸はやはり殺す気はないのだと言うことがわかる。

 

 

この激しい戦闘の中で雫は安らかに眠っており、やはり鬼舞辻無惨の思惑は当たっていたということに鬼はにやけが止まらなかった。

 

 

 

 

「最初の数回は良かったが、急に動きが悪くなったなぁお前。……んん?もしかしてあいつにやられていた女じゃねえか?だとしたらあの時やられた傷が癒えてないって所かぁ?」

 

 

 

「……が…うっ……」

 

 

上弦の陸にそう問いかけられたカナエは、その問いに答えることができなかった。最初こそ昔の感覚を思い出しながら攻防を繰り返し、均衡していたが突如右腕に走った激痛によって刀が持つだけで精一杯になり、それによる一瞬の隙を突かれ首を掴まれてしまっていたからだ。

 

 

 

「あの女を守るために自分の命も捨てるってかぁ?いいなぁ、いいなぁ、羨ましいなぁ。綺麗な顔で仲間にも思われるなんて、俺たちには無かったなぁ、妬ましいなぁ」

 

 

 

そう話す鬼の手に徐々に力が入り、首を圧迫して行く。酸素が行き届いていない脳は思考を巡らせる余裕はなく、僅かに感じるのは圧迫された気道の両側が触れ合っている感触と、意識が遠のいて行くという感覚のみ。

 

 

 

(……何も……まだ私は…あの子に、恩を、返せてい…ないのに……っ)

 

 

意識が遠のく中でカナエの脳裏に過ぎるのは、上弦の弐に深傷を負わされて、声も出せずわずかに意識が残った状態で自分を背負って藤屋敷へ向かう時に呟いていた雫の声。

 

 

『死なないで…お願い。もう、私の目の前で人が死ぬのは……嫌だよ

 

 

治療の後意識が戻ってからその時を思い返せば、雫は泣いていたのだろうと思う。あの小さな背中に一体どれだけの責任と重圧がのしかかっていたのだろうか。自分たち柱が亡くなる度どれほどあの子の心を追い詰めていったのだろうか。

 

柱として唯一救われて生き残った私にできることはなんだろうと考えて、苦手だった薬学をしのぶから学び蝶屋敷を鬼殺隊専用の診療所としてまだ生き残れる隊士達を救ってきた。しかし瞬柱だった時代の柱達が皆亡くなってしまった辺りから、心から笑う雫の声を聞いたことがなかった。

だから私が雫に恩を返すと言うのであれば、それはまたあの頃のように笑う日常を取り戻してあげることだと心に誓ってここまでやってきた。

 

 

でも結果はどうだ。上弦の鬼には攻撃を当てられず、二桁も行かない回数で型を放てなくなって首を絞められている。

 

 

 

 

不甲斐ない。

 

 

 

 

自分たち姉妹と同じ思いを他の人たちにさせない為にこの道を選んだのに、最後は守れずにその思いをさせて死んで行くなんて。

 

私が死ねば雫は悲しむだろう。でも一番悲しいのはしのぶだと思って、涙は見せずに、悲しまないふりをして、鬼舞辻無惨への殺意を募らせるのだろう。

 

私が死ねば、しのぶは鬼への憎しみに染まってしまう気がする。でもみんなを心配させないように、空元気で振る舞って、無理をして…。

 

 

 

__願うならば、しのぶも、雫も、鬼殺隊も、蝶屋敷で働いてくれた子達も、みんなが幸せに笑って泣いて寝れるような日々が訪れればいいのに。しのぶには若いうちに鬼殺隊を辞めて、どこかで良い家庭を持って欲しい。

 

 

 

 

 

 

本当は人間だった鬼達と、願うならば、仲良くなれたら一番なんだけれど、…しのぶには嫌な思いをさせてしまうなぁ

 

 

 

 

僅かに動かせる目を右下へと動かす。そこには寝ている雫がいるから、最後に少しだけその姿が見たかったから。

 

 

 

霞んだ視界の中で雫を見ればこちらを見て微笑む雫がそこにはいた。それが自分の願望によって生み出された幻覚ということは知っている。でもそれで十分だった。

 

 

 

 

あぁ、私は贅沢だ。死ぬ寸前になって、こうも欲張りなお願い事ばかり言って__最後に見たかった笑顔のあの子が見れた。

 

 

 

 

でも、もしあの子が私のいる所に来たら真っ先に会って言わないといけないなぁ__。

 

 

 

 

 

 

 

 

首を締める手を掴んでいた手に力が入らなくなって行き、力なくだらんと垂れ下がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__守れなくて、ごめんねって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前話の次回予告は最後に呟いたカナエさんの言葉でした。


次回予告「代償」







前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。

  • 統一した方が良い
  • 別に気にしない
  • 前半のようなほのぼの要素も欲しい
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