時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ 作:たったかたん
約一ヶ月前、奈落が死んだことをきっかけに集められた上弦の集いでは、ここ数年は不機嫌だった無惨様が嬉々として大竹雫の殺害ではなく、行動できない今を狙って鬼にすると言い出した時は、果たして本当にそれができるのかという恐怖と、疑問があった。あの大竹雫だ。もしかしたら寝たきりでも無理に動かせば十分上弦の頸を切れるのではないかという想像があった。しかし俺の心を読んだ無惨様は安心しろと言った。
『大竹雫は昏睡状態にある。もし動けたとしてもいつものような動きはできまい。前回の半天狗の時は四ヶ月鬼の前に姿を見せなかった。この一ヶ月で上弦を相手にするほどの回復は、まず無い』
だがもしものことがある、だから大竹雫を連れてくる役目は頸を切られても問題のないお前の仕事だと、そう言われた。実際目にした大竹雫はどう控えめに言っても動ける状態ではなく、唯一邪魔をしてきた鬼狩りの女も警戒するほどの強さでもなかった。
だらんと落ちていく腕を見て、終わったなと妓太郎は思った。最初こそこの役割は性に合わないと思っていたが、まさか引退した鬼狩りの人間と殺り合え、しかもなかなかに無様な死に方を見せてくれた。それだけで自分の欲は最低限満たされた。この女には感謝しなければ。
首を締め上げていた手に力を加えて行く。上弦の力ともなればこんなに細い首なら握り潰すことなど造作もない。数秒もしないうちにこの女は頭と体が別れ、首からは綺麗な血の噴水が見られるだろうと、そう思っていた。
「その手、離してもらっていいですか?」
「!?」
時が止まった感覚に襲われた。目線を下に向ければそこには自分を見上げる大竹雫の姿があった。
大竹雫の右頬には、寝ていた先ほどまで無かった痣が、西洋の懐中時計のようにはっきりと浮かび上がっていた。まるで鬼のような痣、それだけでも異質でありながら、気配が、殺気が全くと言ってよいほどに無かった。
本当に何も、感じなかった。いや、今目の前にいるのにそこに存在していないかのようにまだ何も感じれていない。ただ一つだけ感じることといえば、全身の細胞が、本能がこの人間を危険だと警鐘を鳴らしていることだけだった。
予想外の出来事に固まった体を動かそうとする。瞬きにも満たない一瞬だ。人間である以上一ヶ月も寝たきりであったならこちらの動きには対応ができる訳が無い。締め上げていた女は投げるわけでもなくそのまま空中に放り出し、左手に持っていた血鎌を大竹雫に振りかざした。
『もしも奴が目覚めたのなら、殺せ。頸が弱点でないお前なら、多少抵抗を受けたとしても毒を与えて逃げることは十分出来るはずだ』
無惨様は目覚めたのなら問答無用で殺せと言った。鬼から見ても化け物であるこの存在を仲間にできないのであれば殺した方がマシだからだ。
【血鬼術
自身の中で最速かつ迎撃に優れた技を繰り出した。勿論全力の一撃。上弦の集いで更に上弦の鬼達を強化しようと無惨様が血をくれたのだ。少なくとも無傷でいられるはずが無い。
唯一残っていた壁もまとめて吹き飛ばした瞬間、次に動ける体勢に身構えようとした。
しかしそれはできなかった。身体中に焼けるような激痛が襲ったからだ。
「…がっ!?」
両腕、両膝、そして頸が切られたのだと理解したのは、赤い刀を下段に構えて無表情でこちらを見ている無傷の大竹雫の姿を見た時だった。
______
「……そう言うことだったんですね。なら私は戻らないと」
突然現れた大竹千鶴と誠の三人で話した時間は、とても長いようで、短くも感じる。きっと一刻も話していないだろうが、ここは死後の世界の一歩手前の所らしく、時間という概念があるかどうか疑問である。
とりあえず、今の自分に必要なことを教えてくれたこの二人には感謝してもしきれない。
「ええ、自分の使命を果たして来てください。その時は、他の皆と一緒に歓迎しましょう」
優しく微笑む誠がそう告げる。今度来たときはきっと私と深く関わってきた人たちがいるところまで行くことができると言う事だろう。
「……本当に、いいの?」
ふと小さな可愛い声で千鶴が無表情で、しかし心配そうにこちらを見上げていた。
一番近くにいたのに会うことができなかった存在。彼女は自身の記憶を継いで復讐をさせたことを一番に後悔しているようで、何度も謝れたが全く持って的外れだと思った。だってあれは私の復讐でもあったんだから。
そして今問いかけているのは、私のこれからを心配してくれているからだ。
「はい、教えてもらえて助かりました。なら私は私らしく、やり遂げるだけです」
そう返事した瞬間、強い浮遊感に襲われ景色が霞み、遠のいて行く。その場には、微笑む二人がこちらを見上げていた。どんどんと濃ゆい霧に霞んでいくその光景を見ながら雫は彼女が悲しそうな顔で自分に言った言葉が脳裏を過ぎる。
『もしあの力を使えば、あなたは___』
白く染まった世界の中で、小さく呟いた。
「ええ、分かっています。でも、決めたんです」
__もう、大事な人たちを死なせないって。
徐々に世界が開けて行き、気がつけば、夜空を見つめていた。知らない天井ではなく星空とは、もしかして自分は鷹帯山で寝転がっているのだろうかと思ったが、背中に感じる柔らかな物と肌触りで敷物の上で寝ていることに気づいた。
本来なら寝床に締め付けられるような感覚に襲われるはずだったが、前回とは違い、熱く、軽く感じる体をゆっくりと上半身を起き上がらせる。
そこに見えた光景は、首を掴まれ持ち上げられたカナエと、カナエの首を片手で締め上げている痩せ細った鬼の姿。
鬼は苦しむカナエの表情を楽しんでいるようで、カナエは苦しみながら両手で鬼の手を引き剥がそうと抵抗をしている。持ち上げられたカナエの足元には、桃色に染まった日輪刀が突き刺さっていた。
(なるほど、これが透き通る世界、ですか)
目の前の二人の姿が筋肉から内臓というところまで繊細にみえる。千鶴さんが幼くありながら大人や野獣を相手に一方的に立ち回れたのは、呼吸、関節、血液の流れ、心臓の鼓動というものまでを視覚として得られることによって、相手の数手先の動きが手に取るようにわかるからだと理解した。
それに首を折るのではなく苦しめる為に手加減をしてるようで、カナエの首の中は気道を閉めてるだけで他は大きな損傷が見られない。十分助けられる。
その状況を見ながら、雫はゆっくりと寝床に立ち上がった。
あの二人に追い返されたことを感謝しなければと、静かに、だが怒りも含めた微笑みを浮かべた。敷物の上からとんっと軽く蹴り動いた瞬間、世界が”瞬き”を使っているように鈍間に感じていることに少し驚きながらも鬼とカナエの間へと体を入り込ませ、こちらに気づいていない鬼を見上げた。
「その手、離してもらっていいですか?」
まるで御近所さんに挨拶をしているかのような、道を尋ねたような、あまりにも場違いな声色。こちらを見る鬼の目が驚愕、恐怖を写している。ここまで近づいて声をかけてから気づくなんて、もしかして隠密に優れているだけで特段強い鬼じゃ無いのかもしれない。別に驚かそうとしていたわけでも無いし、殺気を向けているわけでも無いんだからむしろ感謝して欲しい。
そんな呑気なことを考えているとカナエから手を離し、空中へと放ったのが気配で感じ取れた。意外と話を聞いてくれる鬼なのかと、そう思った時、筋肉や関節が反応し左手に持っていた鎌を動かそうとしているのが見えた。全身の血管が縮小しているのも見える。相当驚いて焦って反撃をしようとしているのが手にとるように分かる。でも残念かな、今の私にはその動きは蚊が止まっているように見えるし、その蚊がどのタイミングでどの方向へ羽ばたくのかさえも見えてしまっている。
【血鬼術
あくびが出てしまいそうな速さで繰り出されたその血鬼術は私やカナエを切り刻むだけではなく、ここら周辺の障害物が全て吹き飛ばせてしまえるであろう一撃だった。自分一人であれば回避するだけで済んだが、後ろにいるカナエを守るためにもここは横に刺さっていたカナエの物であろう桃色の日輪刀を握りしめた。
【水の呼吸 拾壱ノ型 凪】
ゆっくりと迫りくる黒い斬撃を全て切り裂いていく。全くもって義勇は才能がある。義勇は一つ一つの型を極める事は錆兎に一歩及ばないが、数百年の歴史の中で数多くいた水の剣士達が誰一人思いつかなかった型を見つけ、極めることができる才能は、唯一無二の才能だと思う。自分が時の呼吸でしかやろうと思わなかった動きを水の呼吸で、”流の雫”の下位互換とは言え完成して見せたのだから、本当にすごい。ただ一つ、私なりに手を加えるとすれば、完全防御の凪の中に一瞬だけ暴風を加えて大きな水飛沫をあげるかな。
こちらに向かう幾多の斬撃を全て切り刻んだついでにと刃先を四肢と頸へと滑り込ませた。
「…がっ!?」
…おや、また頸を斬っても死なない鬼だったようです。でもなぜか再生はせず苦しそうに喚いているので、持って次へと行きましょうか。
前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。
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統一した方が良い
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別に気にしない
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前半のようなほのぼの要素も欲しい