時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ   作:たったかたん

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最強と最強

 

__世界が暗くなった。

 

 

 

 

未練はなかった…とは言えない。もっとみんなと笑って暮らしたかったし、可愛い柄の着物を着たいし、最近街にできた喫茶店には見たこともないケーキという西洋菓子を頬張っていたかったし、鱗滝さんにもっと甘えたかったし……雫様のそばにもっといたかった。

 

あの人はとても不思議な人だ。鱗滝さんのように心を許した人以外の前では必ずお面を外さないし、何者も寄せつけない強さがあるのに強い人特有の威圧感もなければいい意味で威厳も感じさせない。自分に関わりのある誰かが大怪我をして運ばれれば、遅くても翌日には見舞いに来てくれるし、自分の方が忙しくて悩みもいっぱいあるはずなのに分け隔てなく相談に乗る。

 

お館様が鬼殺隊のみんなにとって父と言うのならば、雫様は母のような存在だった。

 

もっとも私の場合は、母と言うより姉のように感じていたし、もし姉がいたらこんな感じなのかなと何度考えただろうか。

 

 

いろんな場面の記憶が駆け巡る。きっとこれを走馬灯と言うのだろう。

 

 

 

「……真菰」

 

 

 

…雫様の声?__聞こえたような。いや、それは無いだろう。正之助の言う通りなら雫様は殺されていないはずだし。

 

……そういえば何か暖かいものに包まれているような。

 

 

「もしもし、真菰さん。そろそろ目蓋を開けてくださいな?」

 

 

今度ははっきりと声が聞こえた。

 

 

「___!!」

 

 

 

目蓋を勢いよく開け、視覚情報を取り入れる。真っ暗なのは自分の目蓋の裏を見つめていたせいらしい。

 

ぼんやりとした視界が徐々に鮮明になってくるとそこには初めて見た時と同じようにお人形さんのように整ってて、最近毎日のように見ていた寝顔が、今はその目を開いて微笑みながら吐息が聞こえてしまうような近さでこちらを見つめていた。

唯一目につくものとすれば、右頬にある西洋の懐中時計のような痣だろうか。

 

 

「……しずく………様?」

 

 

「はい、雫ですよ」

 

 

「え、どうして…?やっぱり私は死んだんですか?」

 

 

「いいえ、死んでいませんよ。傷だらけですけど、無事です」

 

 

頭が、うまく回らない。

 

 

なぜ四肢も切断されていない?なぜ死んでいない?なぜ___起きるはずの無い雫様が目の前にいる?

 

 

「え?え?なんで………?」

 

 

色々と頭が追いつかなず混乱しそうになるが、一つ気付いたことがあった。

 

 

 

 

 

 

__お姫様抱っこされている。

 

 

 

 

 

 

暖かいものに包まれていると思っていたものは密着した雫様の体温であることを完全に理解した。

いろんなことで混乱していなかったら顔から火が出てしまうほど恥ずかしくて、ニヤニヤが抑えられないような状況である。

姉のようで人としても憧れのような人に抱えられて、しかも息を飲むほど整った綺麗な顔が吐息を感じるほどに近いのだ。たとえ同性でも何も反応しない方がおかしい。

 

しかし心がかき乱されるほど心配していた人がこうしている事に安心から涙が流れそうになる。今の自分にはありとあらゆる感情が同時に襲ってきており、どれを優先すればいいのかてんやわんやしている。

 

 

 

現に顔が熱くなってきて___いやそれどころじゃない。

 

 

「し、雫様!動いて大丈夫なのですか!?」

 

 

約一ヶ月、一切の身動きもせず寝たきりの状態であれば、どんなに回復に優れた人間でも歩くことどころか起き上がる事でさえ難しいはずだ。だから雫様が上弦の壱の攻撃から自分を抱えて救い出し、軽いとはいっても自分を持ち上げてなお苦しそうな素振りさえ見せないのはまさしく異常事態だったが、雫様は少し考える素振りを見せたあと口を開いた。

 

 

「………まぁ、()()()()()()大丈夫です。少し無理をしていますが、回復の呼吸の応用ですよ」

 

 

回復の呼吸は血の巡りを操って傷口の止血を行うもののはずで、固まって動かせない体を動かせるようにするなど、何をすればそうなるのか全く見当がつかない。それに健康そうな今の雫様を見てると、もしかしたらそのような方法があるのか?とどうしても思わざる終えなかった。

雫様に対しての心配が薄れた瞬間、あの三人のことを唐突に思い出した。

 

 

 

(み、みんなは!?)

 

 

見つめ合っていた顔を横に動かして周囲を見てみると、先程の記憶にもある荒れた中庭の真ん中でこちらを睨む上弦の壱の姿があった。

 

 

 

 

 

「なぜ…なぜ貴様が動けているのだ、大竹雫!」

 

 

 

 

______

 

 

 

 

 

本当にギリギリだった。自分の腕の中でなぜか小さくなっている真菰を見つめながらそう心の中で呟いた。

 

 

透き通る世界が見えるようになってからと言うものの、周りの景色の動きが鈍く感じてしまうのは自分が速く動けているのが原因であって、”瞬き”のように時間自体を遅くしているわけではないと言うことに気づくのがあと少しでも遅かったら間に合わなかっただろう。きっと”瞬き”の世界を知っている自分だからこそ起きた感覚のズレなのだろうが、本当に危なかった。

ちなみに真菰が庇っていた錆兎義勇無一郎は悪いけど蹴ってその場から離脱させた。多分今壊れた屋敷の塀の向こう側で転がっていると思う。

 

 

 

「なぜ…なぜ貴様が動けているのだ大竹雫!!」

 

 

 

そんなことを考えていると低く荒々しい声が耳に届いた。そちらにふと顔を向けると鷹帯山で最後に見た上弦の壱が上半身からも刃を生やした状態で山で自分に振り下ろした刀よりも三倍は長そうな長刀を片手で持っていた。赤黒く、目玉が刀身に並んで見える刀はやはり何度見ても趣味が悪い。

 

 

 

「……まあ、追い返されたと言いますか…引き返してきたと言いますか…」

 

 

 

「ふざけるな!貴様は、人は()()()()で動けるはずがない!」

 

 

あら、思いの外すぐにバレてしまいました。鬼の言葉を聞いて真菰がハッとした様子でこちらに再び顔を向けているのが視界の隅で見える。目線を鬼から周囲へと向けると傷だらけのしのぶと正之助が目を見開いているのが見えた。

 

 

 

__さすがにしのぶのは気付かれたかもしれない。

 

 

 

「…あなたにも視えているんですね、この世界が」

 

 

 

「………貴様も視えて…いや、見えていなければおかしいか。…問うぞ大竹雫、なぜ()()()で動けている?」

 

 

 

ゆっくりとこちらを見ている真菰を地面へ立たせ離れるように伝える。名残惜しそうな、悔しいような、そんな顔をしながらしのぶたちの方へと行くのを見た後、手のひらを自分に向けて腕を見つめた。この鬼にも自分と同じようなものが見えているのであれば、誤魔化しはできない。しかしこの子達がいる今、まだ知られたく無い。

 

 

 

「……」

 

 

さて、どう答えようか。と考えていると、答えるつもりが無いと思われたのか鬼が両手で持った長刀を構えた。

 

 

「答えぬのなら、よい。貴様はここで、殺す!」

 

 

その瞬間、刀を大振りしたかと思うと世界が斬撃によって埋め尽くされた。その斬撃一つ一つが人体を余裕持って切断することが可能だろう。

 

 

(なるほど、上弦の壱の数字は伊達ではないようですね。真菰達が苦戦した理由もよくわかります)

 

 

自分が”流の雫”で消し飛ばしたのは、上弦の肆の血鬼術と、奈落が操っていた大量の鬼達のみ。いずれも頸が弱点でなかったり、広範囲で避けきれないと判断したからこそ使っていた技だが、上弦の壱の血鬼術はまだ隙間がある分、ギリギリ”瞬き”で対応可能の範囲だった。

 

 

(だけど…)

 

 

『もしあの力を使えば、あなたは___』

 

 

しかし、今の私は()()()()()使()()()()()()()()。だから水の呼吸のみで戦わねばならない。

 

最強の鬼を前にして時の呼吸と言うチートを使えない縛りプレイだ。まあその代わり”透き通る世界”を手に入れたわけで、やられるつもりは毛頭無い。私の『最強』は”瞬き”を常時発動できるからであって、水の呼吸のみであれば上弦の壱の相手はほんの僅か私が上といったところだろう。

 

時の呼吸を使わずとも柱達四人を同時に相手できるほどには水の呼吸を極めたのだ。”瞬き”があったからこそ今まで使う機会は全くといっていいほどになかったが、義勇ほど全く新しいとはいえないが新たな可能性を模索し、作り上げた私だけの、私らしい技。

 

 

 

【水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫_

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___改・夕波の舞】

 

 

 

 

_______

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

その瞬間、黒死牟は幻視した。水平線まで続き、どこまでも風に揺れる水面がある、一度見れば忘れることはないあの景色。海の向こう側に沈む太陽に照らされ、神秘的な輝きを見せながら揺れ動く海の姿を。

 

 

__己が鬼になる前に一度だけ見た沈みかけた陽に照らされた大海を。

 

 

 

【水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・改・夕波の舞】

 

 

 

それが幻視した物だと理解した瞬間、黒死牟の右腕は既に宙を舞っていた。

 

 

 

右腕が吹き飛ぶのを眺めながら、黒死牟は腹わたが煮え返る様な怒りに襲われていた。

 

 

 

ありえるのか、こんな事が。

 

 

 

ギリッと歯軋りする。鳩尾から旋毛まで突き抜ける様な焦燥。平静が足元から瓦解する感覚。四百年ぶりの__。

 

 

今の大竹雫の動きはまさしく、昔の、老衰で死ぬ寸前だった奴と最後に対峙したあの瞬間を彷彿とさせる動きだった。既にこの女の体は動けるものでは無いはずだがこの速さで動けているのは化け物に間違いはなかった。しかしそれは同時に自分にも大竹雫を殺せる可能性があると教えてくれた事に他ならなかった。

 

 

 

___()()

 

 

血を頂けていなかったら今ので終わっていたはずだ。

 

あの山でみた大竹雫の動きは、全く見えなかった。刀の一振りも、最後に奈落を溶かした剣技の大竹雫の姿も、全く見えていなかったのだ。しかし今の大竹雫の動きは、目で追えていた。躱し切ることはできなかったもののその姿は見えた。

 

 

大竹雫はやはり人間。本来の動きを取り戻すまでには至れていないことの証明であった。

 

 

(今の奴なら、殺せる!)

 

 

瞬きの時間もなく腕を再生し、再び刀を振った。

 

 

【月の呼吸 拾陸ノ型 月虹・片割れ月(げっこう・かたわれづき)

 

 

巨大な斬撃が空から振り下ろされ多数にわたって地面に大きく削られる。しかし大竹雫はやはり軽やかな動きで躱し切った。

 

今大竹雫が行使している技は【水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・改・夕波の舞】。数百年の中で出会った水の剣士も同じ型を持っていたが、今奴が行使している”夕波の舞”はその誰よりも動きの幅が広く、風に吹かれて大きくも小さくもなる波の様に時には大きく、時には小さく、最適かつ最小限の動きで攻撃を躱すことのみに特化させたものだとすぐに推測できた。

 

先の一撃も型ではなく一切速さを殺さずに躱し切った瞬間ただ刀を添えて俺の横を通り過ぎただけに過ぎない。攻撃の型でなかったからこそ体をわずかにずらすせる時間があり、右腕が吹き飛ばされるだけに済んだのだ。

 

 

(躱すだけに特化しているのなら、躱しきれない密度で攻撃すれば良い)

 

 

単純だが、最も効果的な考えだ。それにあの山の一件から血をさらに頂いて己も一段と強くなった。

 

 

一人で俺の全攻撃を躱し切ることなど、不可能。

 

 

【月の呼吸 玖ノ型 降り月・連面(くだりづき・れんめん)

 

 

複雑に降りかかる斬撃を僅かな動作で躱す。

 

 

【月の呼吸 拾壱ノ型__】

 

 

 

躱す。

 

 

 

【拾弐ノ型__】

 

 

 

またもや躱す。

 

 

 

 

 

 

 

【月の呼吸 拾ノ型 穿面斬・蘿月(せんめんざん・らげつ)

 

 

幾多に折り重なった巨大な斬撃の隙間に体を滑り込ませて躱した__瞬間。

 

 

大竹雫の足が地面から離れた。

 

 

全方向へ放つ最大の型を大竹雫に向けて一方向に向けて放つ。その斬撃密度には人が通り抜けられる隙間は全くなければ、一つの斬撃すら日輪刀を紙のように切り裂く。この攻撃を避けることは、降ってくる雨粒を避ける事と同義だろう。

 

 

【月の呼吸 拾肆ノ型 凶変・天満繊月(きょうへん・てんまんせんげつ)

 

 

 

 

地面も空気をも切り裂きながら迫るその攻撃は間違いなく今の大竹雫には躱しきれるものではなかった。

 

 

 

 

 

_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___私の前世は、よくあるような小説のお金持ちなのに不幸キャラの人生そのものだった。両親は音楽家として世界的に有名で私に幼い頃から熱心に音楽をやらせ、勉強も高い金を払って家庭教師をつけた。音楽以外にも習い事をと茶道や生花をさせた。

 

 

しかし私には才能はなかった。なんなら凡人以下だったのだ。

 

 

歳を取るにつれて『まだまだ幼いんだから』が、『いつまで同じことをやっているんだ』に変わり、中学生終わり頃には私に対しての愛情のような物は無くなっていた。両親は私を避けるように世界へと仕事を作っては飛び回った。

 

 

しかし私は、顔だけは良かった。日頃笑うことも怒ることも少なかった私の顔は無表情で、仏頂面だと、小学生の頃から思っていた。いつもジロジロ見られ、話しかけられることもなく、陰で何か話されているとしか認識していなかった毎日。それが変わったのは、大学生になった時にスカウトされた事がきっかけだった。

 

それからしばらくは充実した毎日だった。無表情でもそれが逆に神秘的さや透明感を際立たせていると評価を受けるようになって徐々に仕事は増え、有名になり、大学生ながら都内で広い土地を買えるほどには稼げていた。

 

 

だから私は淡い期待を持ってしまっていた。また私を見てくれるんじゃ無いかって、勝手に。

 

 

 

 

『顔だけはいいのね、貴方』

 

 

 

久しぶりに帰ってきた母親に言われた言葉は、思春期で愛に飢えていたままだった私の心を切り刻むのに、十分すぎる言葉だった。

 

 

 

 

ボロはすぐに出た。女優も、バラエティも。感情移入もできなければ人の心を理解することもできないし、面白いことも言えなければ、それ以前に人と話す事ができない私には芸能界は向いていなかった。

 

 

いろんな人に新しい服を着せられて、言われたままに動くだけの日々を過ごした。

 

 

__あぁ、この人達は私ではなくてこの”顔”さえあればいいのかと、その事に気づくのに、そう時間はかからなかった。

 

 

 

そして25歳の夏、撮影中に突っ込んできた車に跳ねられた。

 

 

 

何も無い。ただただ踠いて踠いて、行き着いた先にあったのは人に言われてしか動けない人の皮を被った人形のお話。

 

 

しかしこの子(千鶴)は違う。にている様で、違った。この子には才能があふれすぎていた。それが原因で両親から見放され、奈落に見つかり、そして気まぐれの神に目をつけられた。そして『私』という存在に体を乗っ取られて自分の人生を歩むことすら叶わない。

 

 

『私』が代わりに人生を歩むことになったところで、大切な人たちは殺され、強くなって守りたいと思った人達も守りきれずここまで生きてきた。ただただ不幸な人生だった。

 

 

「無惨を倒すまで何をしてでも生き残る?」

 

 

「鬼殺隊をやめて孤独になってこの人生から逃げる?」

 

 

「ここまで慕ってくれる子達を見捨てる?」

 

 

 

___断じて否だ。

 

 

 

マイナス(不幸)マイナス(不幸)を掛け合わせても掛け算みたいにプラス(幸福)になる事なんてあり得ない。人生という物語の中に公式なんて存在しない。あるのは絶望的に広がる答えのない世界。

 

 

でもやはり物語の主人公達は最後は必ずプラス(幸福)に変えてハッピーエンドを迎えるのだろう。

 

 

しかし『私』はそんな主人公にはなれない。『私』は大竹千鶴の物語に入り込んだ異物であって、主人公にはなれないのだ。

 

 

 

__それでもやはり、『私』は『私』らしくこの物語を締めて、逝こう。

 

 

 

 

 

目の前に迫りくるのは斬撃の壁、”夕波の舞”では避けきれない。倒れていなければ、本調子であれば十分躱せただろうが、今の私は動けない体を無理やり動かしているのだ。

 

 

 

 

ここまでが今の私の限界だ。

 

 

 

 

 

ならこの命に変えてでもこの状況を変えて、後はこの子達に託そう。

 

 

 

___時の呼吸

 

 

 

 

体が熱くなる。鈍間な世界に感覚が溶け込んでいく、もう感じる事ができないであろう感覚を噛みしめながら、刀を振るった。

 

 

 

 

 

【弐ノ段 流の雫】

 

 

 

 

 

 

 

世界から音が消えた。

 

 

 

 

 

 





次回『時の呼吸の代償』



もう一話あったんですが、保存ミスで半分以上消し飛びまして、一話だけ載せます。

正直いうとこの話も保存ミスで急いで書き直していますので文章がおかしくなってたら申し訳ありますん…。

前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。

  • 統一した方が良い
  • 別に気にしない
  • 前半のようなほのぼの要素も欲しい
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