時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ   作:たったかたん

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やはり私の手は届かない

 

 

 

 

 

 

私はてっきり、”呼吸”なのだから心臓に負荷がかかっているとばかり思っていて、でも誠さんに「時の呼吸と名付けたのは、君だろう」と言われた時にハッとした。

 

そうだ、気まぐれの神という存在は、『ほんの少しだけ時間が操れる力をあげよう』と言っていたんだ。”呼吸”なんて、一言も言っていなかった。

 

勝手に私が極度に集中して息を止めて発動するから呼吸と関連づけて勘違いし続けていただけなのだ。

 

たしか千鶴さんを生き返る方法の話をしていた時も、わざわざ自分の力で全てを解決するのは好みではないという様なことも言っていた。

 

そこまで話して、もうあらかた予想はついた。

 

数秒ほどしか耐えられないこの時を操る力の正体は、誠さんと、千鶴さん曰く自分が生きるはずだった時間を代償にしているのだと。

 

そう考えると納得していくものがある。

 

自分の寿命を消費して時を鈍間にする。その力の中で一秒がどれほどの時間を代償にしているのかはわからないが、自分の”時”自体を代償にその力を発動させる時、その一秒間と代償にしている自分の寿命はイコールでは無いだろう。もしそれがイコールなら肺の息が続く限り問題はないはずだ。

 

そうなると、私が”流の雫”などの大技を使った時に倒れる理由はきっと、消しとんだ私の中の”時”が膨大で体が対応しきれないのだと思う。もしそうなのだとしたら、寝ていた二ヶ月は代償で消えた”時”、そして深く昏睡状態になるのは私自身の体の中で進み続ける時の流れを最大限に遅くしようとする生存本能の様なものなのだろう。

 

最初に倒れた時、瞬きを使うのにも体力を使っていた頃には、瞬きさでさえ使用限界があった中で”流の雫”を一度だけ使用した。その状態で二ヶ月も寝ることで体の時間を調整しているというのなら、私は寿命を二ヶ月代償にしたということになる。

 

そうなると、奈落の鬼達を相手にした今回は、目覚めるのはいつになるのだろうか。

 

”流の雫”を十五回、”時雨”を一回使用した今回は、一体どれほどの”時”を代償にしたのだろう。少なくとも数ヶ月の話ではなくなるだろう。

 

しかし、仮にそのまま数年も寝続けた場合、私は以前の様に動けるのだろうか。前回の二ヶ月でさえ私は本調子を取り戻すのに三ヶ月かかっているし、数年も寝た人間は筋肉だけでなく骨格まで影響が現れるだろう。そうなれば戦線に復帰などできないし、それはつまり魁でなくなるということだ。

 

でもやはりあっているか分からない仮説を追求していっても、そのどの様な結果になろうとも受け入れるしかないのだろうと、私は思っていたけれど、誠さんの一言でそれは変わった。

 

 

『雫のために、みんなが戦っているよ』

 

 

なぜ、そのことを知っているのかと気になったが、誠さんはタチの悪い嘘をつく人で無かった。どうすれば早く目覚める事ができるのかと考えていると、意外にもすぐに答えは見つかった。

 

『深く昏睡状態になるのは私自身の体の中で進み続ける時の流れを最小限に留めようという生存本能の様なもの』という仮説が正しいのなら、その状態を維持したまま起きれば良いではないか。

 

でもそれは、その状態にある”私”では無理な話だ。

 

 

『…私が、体の所有権を半分以上持つ様にすれば、そうすればきっと、私の、見ていた世界も視る事ができる…と思う』

 

千鶴が覚悟を決めた声色で言葉を発した。

 

そうだ。私と貴方で、『雫』という人間は生きているのだ。ひとりで持ち切れないのなら、分け合えば良い。

 

 

 

 

 

__その時間は、ほんの一呼吸の間。

 

 

それは屋敷の縁側からカサカサと音を立てながらそよ風に揺れる赤く染まった紅葉の枝に目が止まった時。

 

それは私を慕ってくれる子達の後ろ姿を見た時。

 

それは、私の周りで、鼻でクスクスと、腹でワハハと笑うその子達を眺めていた時。

 

 

 

 

ふとした時に思う。

 

 

もし転生していなくて、この世界の大竹雫の存在がなかったら、どんな物語があったんだろうって。

 

 

私は、いつも自分の力不足を感じる度に、心臓が鷲掴みされているような錯覚に襲われる。

 

 

例えば私の稽古に参加した隊士が死んだと聞かされた時。

 

例えば私にこれからの人生の悩みや恋の悩みを赤裸々に話してくれる子と話をした時。

 

例えば、護りたいと思った存在が、手の届かない場所で消えてしまった夢を見た時。

 

 

何度後悔しただろう。

 

何度心に穴を開けられたのだろう。

 

何度、この手が届いたらと、考えたのだろう。

 

 

 

__もし、私がいなければ、この子達の笑顔は、こうしてみんなで笑い合える時間は、もっと沢山あったんだろうか。

 

 

 

そんなことを思っているなんてこの子達の誰かに溢してしまえば、きっと否定してくれる。

そんなことは分かっていて、でも私は、前世からネガティヴのままで、やはり心の何処かでは”でも”なんて言葉を繰り返している。

 

 

すみません皆さん、誠さん。どれだけ強くなっても”私”はやはり”私”のままでした。

 

せっかく魁なんて前代未聞な階級にふさわしい様に強くしてくれたのに、心が弱いままではいけませんよね。

 

でも、これで私の物語は終わって、みんなの時代がやってくる。産屋敷も自分が死んでも何も問題はないという様に、私が死んでも鬼殺隊は終わらないし、必ず鬼舞辻無惨を討ち取ってくれる。

 

私がやって来たことといえば、上弦の肆と、太陽以外不死身の鬼を生み出し続ける奈落と、今回の上弦の壱と陸の討伐と言ったところだろうか。上弦の陸に関しては赤くなった日輪刀を突き刺すと動けなくなる様だったから、日の出と共に日が当たる所に突き刺して来たけれど、もし抜け出してこの子達と戦うことになっても、五人もいるなら問題なく倒せるでしょう。

 

___まあ、ここまで長ったらしく色々と語っていましたが、実はもう、体は動いている感覚もなくて、目も耳聴こえないんです。

 

ただ、誰かに抱えられていることだけしか分からなくて、最後に「私の為にありがとうね」ってお礼を言ってお別れしたいのに、声が発せられたいるのかさえ、分からないんです。言っているつもりだけれど、その言葉はしっかり声となっているのかすらわかりません。

 

本当に、いつも私は大切なものに、手が届かない。こんなに近くにいるのに、今度は私が手を伸ばすことができないなんて、可笑しな話。

 

 

 

 

その時、暗くなっていた世界が徐々に白く染まっていく。

 

 

ん?そこにいるのは、誰でしょう。千鶴さんか誠さんかと思ったけれど、真っ白い服装してる人なんて…。

 

 

 

「……先、生?」

 

 

この世界に来た私と初めて話して、何もかも手助けしてくれて、初めて父と思える様な、初めて、この世界で大切にしたいと思えた人。あの時、真っ赤に染まっていた白衣も、綺麗な白になっている。

 

 

「……お腹はもう、痛くありませんか?」

 

 

____ああ。

 

 

(あの時、私がいなかったこと、怒っていませんか?)

 

 

___雫がいなくて、良かったと思っていたよ。

 

 

(……あじいさんも、おばさんも、みんな私だけ生き残ったこと、恨んでいませんか?)

 

 

____みんな、雫が頑張っている姿を見て、とても誇らしく思っているよ。

 

 

その瞬間、白く染まっていた先生の後ろに、あの小さな病院が霧から現れる様に姿を現していく。

 

 

その病院の前には、患者だったお兄さんも、おばさん達もいて、その周りには、私がここまで強くなるきっかけになった柱の誠さん達が、みんな笑顔で立っていて、その中には千鶴さんもいた。

 

 

何度この人達が生きていたらと思っただろう。

 

何度、この人たちの最後を見送った夢を見ただろう。

 

何度この人達に、会いたいと思っただろう。

 

 

 

そう思っていると先生が、優しく囁いた。

 

 

 

 

____雫は、いい子達に巡り合えたんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

……はい。とてもいい子達で、誰よりも、優しい子達なんですよ」

 

 

 

 

 

その一言を最後に、私の体はとても暖かい空気に包まれて軽くなった様な、そんな感じがした。

 

 

 

 

 






次話『遺書』

色々と設定無理があるだろとか、思われるかもしれませんが次で最終話になります。これから仕事が忙しくなるので、その前には投稿するつもりです。いつも読んでくれている皆様、最後までよろしくお願いします…。

前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。

  • 統一した方が良い
  • 別に気にしない
  • 前半のようなほのぼの要素も欲しい
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