時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ   作:たったかたん

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遺書

 

 

 

 

 

 

体に衝撃が伝わる度に、内臓が痛み、骨が軋んだ。

 

常人ならば、動くことすらできないその痛みでさえも、今はどうでもよかった。

 

 

鎹烏に伝えられた情報は『蝶屋敷並びに付近の森で十二鬼月二体の襲撃、激しい戦闘の末上弦二体を撃破した』と。

 

そして先ほど追加された情報には、蝶屋敷へ応援に向かった柱組には上弦の弐、頸を斬っても死なない陸の女鬼の襲撃があり、そちらでも激しい戦闘。柱組の応援部隊には死者は出なかったものの、重傷者が数名いる模様。

 

自分が上弦の参の相手をしていた間に、残り全ての上弦が鬼殺隊の目の前に出現したという事実は、大竹雫をどれほど脅威と判断しているのかを表している物だった。

 

 

左腕から燃えるような熱さと、まるで心臓がそこにあるかのような鼓動が伝わる度に激痛が走る。隠による応急処置と呼吸で止血はされているものの、本来動いてはいけない体ということは重々承知していたし、炭次郎達には止められたが、この状況でじっとしているのは無理だった。

 

 

「はぁっ、はぁっ…」

 

 

そんな重い体を引きずって三刻あまり、目的の屋敷を目視した。

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

いつもなら屋敷の土壁と瓦が見えるその光景は、大きな刀で斬られたかと思えるような土壁と、削られて木造部分が剥き出しとなった瓦屋根。隠が今もなお忙しそうに門を行き来していた。嫌な感情が押し寄せてくる。もしかしたらと思う頭を必死に振り払って、足を一歩、また一歩と進めていく。

 

門まで後数歩のところで隠の者が驚き、焦った声で何か言っていたが、もはや自分の耳には入ってこなかった。

 

壁に手をつきながらも門を潜ると、屋敷という原型を残しているのはほんの一部のみとなった蝶屋敷の姿が目に入った。

 

 

「…皆は、どこにいる?」

 

先ほどから何か話しかけてきる隠の者にそう問いかけると、焦った様子を落ち着かせて、しかし涙を溜めた目で言った。

 

 

 

「……俺が連れて行きますので、背中に乗ってください。煉獄様も重傷なんですから、無理なさらずに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_______

 

 

 

 

 

そう言われて連れて行かれたところは、魁屋敷だった。道順でそう察し、屋敷が見えてきたときに門の前にある人物が立っているのが見えた。

 

 

 

 

「……無事でなりよりだ、胡蝶」

 

 

「……煉獄さん、生きて帰ってきて何よりですが、そんな傷で歩いて帰ってくるのは辞めてください。死ぬつもりですか?」

 

 

包帯だらけの体に、傷だらけの隊服と蝶羽織を羽織ったその人物は、胡蝶しのぶだった。いつものように笑みを浮かべ、いつものような声でそう言ってきた彼女をみて、それが空元気であることは鈍い自分でもすぐに、分かった。

 

 

 

「…雫様のところに、連れて行ってくれ」

 

 

「……こちらへ」

 

 

過去魁稽古で何度も通った門をくぐり、住人が二人にしては大きすぎる屋敷の玄関をあがった。胡蝶は何も話さず、いつも通り狭い歩幅でゆっくりと奥へと進んでいくと、ふと足を止めた。

 

 

「この部屋です」

 

その一言が不思議と大きく脳に響いた。隠に礼を言いながら降ろしてもらい、襖へと手をかける。

 

 

今のところ死亡した者の報告はない。無事なはずだと思っていても、胡蝶を見れば何かがあったことはすぐに分かる。なぜ何も言わない?そんな疑問が浮かべば、押し殺していた嫌な考えが吹き出してくる。

 

しかしそれも、この襖の向こう側を見れば終わる。それが望み通りと行かなくても。

 

 

そして俺は一度小さく深呼吸して、その襖を横へ滑らせる。

 

 

 

 

 

そこには、最後に見た時と同じ綺麗な寝顔で眠っている雫様の姿があった。

 

 

 

 

 

_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういい?」

 

 

「…え?」

 

 

その言葉を言ったのは、先程まで笑顔で迎えようとしていた誠さんだった。目の前に広がるその光景は、懐かしい病院に、今までお世話になった人達。いまだに笑顔を向けてくれている。しかしその光景がぐにゃりと歪んだ。

 

 

「こ、これは、誠…さん?」

 

 

世界の変わりように戸惑い何事かと誠を見ると、呆れたと言わんばかりにため息を吐いた。

 

 

「どうも何も、普通死人が夢の中で君に助言をした時点で怪しまない?それに君、____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____()()()なんだよ?」

 

 

 

 

「あ…」

 

 

その一言で何かが心の中で音を立てた。そういえば時を操る力を千鶴さんに聞いたと、あの時の誠さんは言っていた。確かに千鶴さんから話を聞けたのならば、そこは疑問にも思わなかったが、今目の前の誠さんが言った”転生者”という言葉でなぜ疑問に思わなかったのだろうと思えた。

 

 

 

__そもそも千鶴さんは死人ではないのだと言う事実を。

 

 

 

そもそもの事実を、自分が特別な状態で眠っているからこんな状態もあるのだろうと、勝手に思い込んでいて、私自身の中に存在する千鶴さんならまだしも死人であるはずの誠さんが私に干渉すること自体がおかしい話だったのだ。

 

 

 

 

 

つまりこの誠さんは___

 

 

 

 

 

 

「気まぐれの、神…」

 

 

 

そう言った瞬間、誠さんの姿がぐにゃりと歪んで、ぼやけて見えない白い存在へと変わった。

 

 

 

「セーかーーーい。怪しみ始めたらネタバラシしようかと思ってたけど、まさかその気配すらもないからどうしようか焦ったよ〜」

 

 

 

「あなたが、わざわざこんな真似をしたのは、なぜですか?」

 

 

「いやいや、まさか少し前に転生させてもそんな()()()()()()()()()()()が君をきっかけに一つの物語に大きな爪痕を残すことになるなんて思わなくて、面白くしてくれたお礼に少しだけアドバイスしてあげようと思ったらさ、なんか最初の頃より暗いことしか考えないし、頭の回転は早いのにこんなところで鈍いし、困ったよほんと」

 

 

そう言いながらやれやれとその存在は両の掌を見せながら首をふった。全くもって、最初のあの時と変わらない雰囲気を纏っていた。しかしこの状況にわざわざ現れる理由が分からない。いくら気まぐれと言えど、ここまでする意味がやはり分からない。

 

 

「……じゃあ、私はどうなったんですか?時を操る力は私の寿命を代償にしていると仮説を立てて、それには誠さんの姿をした貴方も肯定していたじゃないですか」

 

 

「一言で言うのなら、”君”は確かに死んだんだよ、君の”時”を短期間に過剰に消費した代償でね。でも”君”はまだかろうじて生きている。そのヒントは、いつも君と共に生きてきた千鶴が教えてくれている」

 

 

「どう…言うことですか」

 

 

さっきから何を言っているんだと、頭が変になりそうな言い回しをする神を睨みつけた。”私”は死んでいるのに、”私”はまだ生きていると言う。しかもそのヒントは千鶴さんが教えてくれていると。

 

 

 

「奈落と遭遇したあの時、千鶴の記憶で僕とのやりとりもみたんだろう?なら、君は答えはすでに得ている」

 

 

「……奈落?貴方は__」

 

 

「おっと、それと今は別問題だ。君は早くここから目覚めないといけない。これは謂わゆるゲームのend rollが流れる前のラストイベントだ。ここで選択肢を間違えればbat end。正解を引き出せたらhappy endだ。簡単だろう?」

 

 

 

そしていつかのように道化のような雰囲気で最後のヒントだと言い、こう呟いた。

 

 

 

 

 

 

__なぜ死んだはずの君は今、一人なんだい?

 

 

 

 

 

 

何かが、喉の奥で痞えた気がする。それが言葉なのか、唾なのか、空気なのかは分からないがしかし、その最後のヒントとやらは頭の回らない今の私でも十分答えに辿り着くものだった。そうだ、”私”が死ぬと言うことは、”彼女”も死ぬと同義のはずなのだと、そう理解し始めた瞬間、手足の体温が冷えたような、そんな感覚に襲われた。そんな私をみて気まぐれの神は、あるのかすら分からない口を歪めたような気がした。

 

 

 

 

 

 

「僕が言うのもあれだけれど、千鶴が残した時間を無駄にしないことを勧めるよ」

 

 

 

 

その瞬間、世界が黒く染まった。

 

 

 

_________

 

 

 

 

 

蝶屋敷襲撃から1年四ヶ月と三日過ぎたある日の晴天の昼間。

 

私はいつものように病室へと入り、日課となったある人の健康を確認する。

 

注意深く聞かなければ分からない程小さな呼吸音を立てながら寝ているその人は、痩せこけた頬と、ほとんど骨だけとなった手足。その姿でもなおその寝顔は神秘的さを感じさせていた。

 

 

 

 

 

「……今日はとてもいい天気ですよ、雫様」

 

 

 

帰ってくることの無い会話をしながら、私はいつもあの日のことを思い出す。

 

 

 

あの日、雫様は死んだはずだった。迫っていた血鬼術を上弦の壱ごと消し飛ばした後、なんの抵抗もなく地面へと崩れ落ちたのだ。まるで糸人形の糸が全部一気に切られたかのように。

 

慌てて駆け寄れば、一つの涙痕を残しながら雫様は事切れていた。呼吸もなく、力が一切入らないその体は温かさは残っていたものの、早朝の冷たい風によってあって言う間に冷えていった。

 

 

私たちは、そこから動くことができなかった。隠の方々が到着し、涙を流した姉のカナエに体を揺すられるまで、私は雫様の顔から目が離せなかった。

 

 

眠ったように、死んでしまった雫様を囲んで私たちは声も出さず、静かに涙を流していたと、後に隠の人から聞いた。

 

 

守りたいと、そう強く願った。その後ろ姿に少しでも追いつきたくて死にかけるほど鍛錬した。それでも、守れなかった。私たちを守ってくれたその背中は、私と姉を救ったあの時みたいに急に現れて、そして人としてあり得ない強さを見せつけて、たった一人で上弦の壱を倒して見せて、そして死んでしまった。守る存在になっていたその人に、守られて逝かせてしまったのだ。

 

その事実を受け入れるのは、私たちにはあまりにも残酷な現実だった。真菰が嫌だと叫び、無一郎は嘘だ、信じないと叫んだ。その姿と声で冷静になれた私や錆兎たちは、雫様を魁屋敷に連れて行こうとした時、その体を義勇が持ち上げた瞬間、ほんの僅かな、小さな呼吸をし始めていたことに気づいた。

 

 

まだ生きている。その事実に私たちは喜んだが、動けないはずの体で、あのような人外の戦いを繰り広げた彼女の体が、寿命がもはや残り火のようなものだと言う事に気づくのはすぐだった。

 

 

前二回の昏睡では食事をさせることができなくても痩せることもなかったが、今回だけは違い、日に日に痩せ細り衰弱していくのだから、寝ることも考えず東洋医学はもちろん西洋医学の論文を片っ端から読みあさり、もはや跡がないと言った所で胃に直接栄養物を流し込む方法を思いついた。

 

管も思いつきで描いた設計図を片手に刀鍛冶の長に頼み込んだら、甘露寺さんの日輪刀が少し変わった程度だと言いながら僅か三日で完成させてくれた。その管も改良に改良が進み、今使っている物は4代目で最初の管よりも細く、柔らかくなっていて体への負担が軽減されている。お陰様でこんなにも長く命を繋ぎ止めることに成功している。

 

 

 

蝶屋敷襲撃から一ヶ月後、病気が悪化して動けなくなっていたお館様が息を引き取った。輝利哉様がお館様として初めての柱合会議で、雫様の今後についてが議題に上がった。再び意識が戻ることがほとんど可能性のないことから、魁の階級や、歴代の隊士とは一線を超えている魁稽古を受けた実力の持ち主達の今後の任務配分など、ほとんどが雫様が中心となっていた事を知っていたにもかかわらず、その範囲と量はあまりにも膨大で、雫様の存在がどれほど鬼殺隊を変えてしまっていたのかを改めて実感させられた。

 

 

 

そしてその日最後で一番時間が掛かった議題は、雫様の遺書を読むかどうかだった。

 

 

 

 

まだ死んでいないと、読むことに反対する者もいました。しかしいつ目が覚めるのか分からないし、いつ息を引き取ってもおかしくないその日を待つよりは、遺書を今読んで意志を継ごうと話はまとまって、輝利哉様の隣で茜様が読み上げたその内容は、あまりにも衝撃的なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何も、書かれておりません」

 

 

 

雫様の遺書は、白紙だった。他の人なら仲のいい者に少しでも言葉を残すのに、雫様は何も残さなかったのだ。

 

その白紙の意味が、何も心配していないと取るのか、自分はそんな言葉を残すまでもない人間だと言う意思表示なのか、私達には分からなかった。

 

無一郎君が、泣きながら起きたらその意味を問い詰めると躍起になっていたのがとても意外でよく覚えています。

 

 

 

それから、何度か新たな上弦が現れ、交戦しましたがやはり死者は少なく、鬼殺隊全体の練度は未だ高い位置を保ち続けています。しかしまたいつ鬼が攻勢に出るか警戒する日々は続いています。

 

 

 

 

「…あ、そう言えば、竈門君が煉獄さんが引退していた柱の席に日柱として任命されましたよ。雫様の影響を受けているのか、新人の育成に張り切っているみたいです」

 

 

 

 

返ってくることの無い会話。沸かしたお湯で体を拭いていきながら固まらないよう肘や膝の関節を柔軟させる。一年半前から毎日する日課になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつもの、日課のはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

___すぅ__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

音もないほど小さな呼吸が、僅かに大きくなったような気がして、眠っている彼女の姿を見た私は目を見開いた。

 

 

 

 

 

「…雫、様?」

 

 

 

 

 

 

閉じていた目蓋は、薄く開いていて、そこから一滴の涙が涙痕を作りながら枕を濡らした。動くことのなかった唇が、僅かに動いた。

 

 

 

 

 

掠れた声で、雫様はこう言った。

 

 

 

 

 

……私に、これ以上何をしろと言うんですか__

 

 

 

 

 

 

 

____千鶴さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

_________

 

 

 

 

 

_______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にいいのって言葉、僕から君にそっくりそのまま言わせていただこうかな、千鶴?」

 

 

「君の魂を代償にしても、雫には以前のような強さは残ってない。まぁ普通の人間の生活をする分には問題ないと思うけど、40歳以上は生きられないと思うよ?」

 

 

 

 

「……いい。あの人のおかげで私は、楽しい世界を知ることができたから。今度は、あの人の番」

 

 

 

「……君ってそんな、綺麗な笑顔するんだねぇ」

 

 

 

 

 

 






一応これで完結です。

駄文でしたがここまで読んでくれた方、ありがとうございました。

仕事が落ち着いたので他の小説も書こうと思います、興味がある方がいましたらまた読んでくれると嬉しいです。

前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。

  • 統一した方が良い
  • 別に気にしない
  • 前半のようなほのぼの要素も欲しい
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