時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ 作:たったかたん
風呂に入り、服を着替えてから最終選別で会った異形の鬼について鱗滝さんに話すと少しだけ間をおいて聞こえたのは泣きそうで、でも安堵したような声で、そうかと一言だけ言った。
それから2週間ほど日が経った頃、ひょっとこお面をつけた人が訪ねて来た。
「初めまして、鉄穴森と申します。大竹雫さんの日輪刀を担当した刀鍛冶です」
「これはどうも、私が大竹雫です。どうぞ中へ」
中に入り鱗滝さんとも挨拶を交わした後、日輪刀の説明を受ける。
どうやら日輪刀は別名色変わりの刀と言われるらしく、その持ち主の特性に合った色になるんだそうだ。
「なら、水の呼吸を使っている私は鱗滝さんのような青になるんですか?」
「いえ、必ずその呼吸に合った色になるわけではなく、その人によって変わって来ます。とまぁ説明はさておき、これが私が打った日輪刀です」
そう言って箱から出した刀を受け取り、鞘から抜き、刀身を眺める。
「………!」
数秒置いてからゆっくりと柄の方から色が変わっていく。
「青…いや、紫か?」
「青紫…ですね」
「この色はどういう特性なのでしょう?」
「いや、詳しいことはわかりません。聞いたことすらありませんのでおそらく、雫さんが初めての例かと」
それじゃあ特性がわからないのか、そう思ったが紫に近い青色の刀身をみて深い綺麗な色と気に入った。
(青は水の性質だとしたら、紫は時止めの力の一部を?)
詳しいことは分からずじまいだったが、色変わりの刀の儀式は無事終わった。
その次の日、自分の鎹鴉が初任務を告げたのだった。
----------
初任務となったのは南西の町。
この1週間程に7人、鬼殺隊士も1人行方不明になっているというものだった。普通初めてなったばかりの人をすでに1人隊士がやられてるところに送るか?と疑問を抱きつつ出発した。
2日かけてに到着すると、町はすでに人の気配が少なく、どうやら外に極力出ないようにしているようだった。
町の真ん中はまだ賑わいが残っていたので近くの甘味処で情報収集することにした。
「すみません、羊羮とお茶をお願いします」
そう声をかけて席に座り、店内を見渡すと自分以外に1人しか客がいなかった。
混んでないのは助かるが、少なすぎるのもなと思いながら頼んだ物を持って来た店員さんに尋ねた。
「お尋ねしたいんですが、1週間ほど前にこの町で行方不明の方が出たと聞いたのですが、今はどのようになっておりますか?」
そう聞くとこの店の看板娘なのであろう綺麗に程よく整った顔立ちの店員さんは、小さな声で話し始めた。
「お客さん、この話はあまり大きな声で話さない方がいいよ」
「なぜです?」
周りを少し見渡したあと、深刻な顔で答えてくれた。
「行方知れずの人が昨日で10人になったからさ、結局家に隠れても出ても変わらないから、みんな恐ろしくなって町から出ようとしてる人が多いのさ」
なるほど、1日に1人の間隔で食べているのか。だとしたら今日の夜も出てくるはずだと情報の整理して、食べ物も食べる為にお面を外してありがとうございますと礼を言うと、少し呆けた顔になって「ど、どういたしまして」と顔を赤くして離れていった。
お面をつけた変人がお面を外すのは面白かったのだろうかと思いながら視線を感じつつ羊羮と茶を頂いた。
-----
どのような鬼なのか、どのように人を襲うのか。
なんの情報もないので、とりあえず夜になるまで待つことにした。
月明かりが雲に隠れて真っ暗な夜道、人が寝静まってる丑三つ時を回った頃、鬼の気配が強くなるのを感じ、そちらへ急ぐと道の先に四足歩行の状態でこちらをみている鬼を見つけ立ち止まる。
「あなたが、この町の人を食ってる鬼でしょうか?」
「ああ?なんだ、鬼殺隊か。また性懲りもなくきたのか」
自分の問いに答える事はなく、独り言のように話し始めた鬼を様子見もかねて話しかける。
「どうやら、その話を聞く限り前に来た隊士を返り討ちにしたのも、あなたで間違いなさそうですね」
「ん?あぁ、この前きた餓鬼は弱かったなぁ、本当に鬼殺隊か疑問になったほどだぁ。…お前はどうだ?狐の餓鬼ぃ」
そう言った瞬間鬼の姿が消える。目で追うのもギリギリなその速さはこちらに冷や汗かかせるほどだったが、十分ついていける速さでもあった。
「そう簡単にはやられません!」
横から突っ込んで来た攻撃を最小限の身のひねりで躱し、鬼の体に刀を振り下ろす。
《全集中水の呼吸 捌ノ型 滝壺》
水の呼吸の中でも威力のある型が決まった。
(よし、手足の二本は斬れた)
そのまま頸を狙いに刀を横に滑らすとチッ!っと舌打ちをした鬼が先程いた所まで飛んで後退した。
(鬼の能力がはっきりしてない今、突っ込むのは得策じゃない。異能を持ってる可能性だってある)
情報を集めつつ慎重に攻めようと刀を下手に構えると、鬼の手足が再生していた
「ゆるさん、ゆるさんゆるさんゆるさん!!!狐の餓鬼ィ!!!お前は今斬った右腕と左足を同じように千切ってからゆっくり食べて殺してやる!!!」
その瞬間、月明かりが雲の隙間から溢れて鬼を照らす
月光で見えた鬼の片目には【下陸】の文字が見えていた
「!!」
目に文字がある鬼は十二鬼月と呼ばれる上位の鬼である証だと、いつかの鱗滝さんから聞いていた。
『雫、もし目に文字のある十二鬼月に出くわしたら気をつけろ。文字が片目だけならまだお前の力で戦う事はできるかも知れん。
だが両目に文字のある鬼は上弦の鬼、100年ほど一体も欠けずにいる異次元の鬼どもだ。もし出くわしたら逃げることだけを考えろ』
(片目ということは下弦、末席の陸か)
初任務で十二鬼月とあうって、それってマジ?と思う心を隅へ追いやって、片目の下弦なら戦いになるはずだと、心を落ち着かせて刀を構える。
「殺してやる!!《血鬼術 血雲海》」
その鬼を中心に黒い煙のようなものが広がり、視界を覆い尽くした。
(やはり異能持ち!能力がわからない今この中で呼吸するのは自殺行為、なんとか抜けないと)
すぐに牽制の型を繰り出した。
《全集中水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦》
水でこそ威力が出る技だが、鬼の頸を狙う攻撃ではなく、牽制用として放つなら十分な威力がある。
狙い通りに煙が上へと上がり薄くなると先程いたところにいないことに気づく。
(!!、どこに!?)
そう視線を巡らせるとある疑問が出てくる。
さっきの血鬼術、ただの目くらましなのか?
そう、十二鬼月という上位の鬼の能力が目くらましだけの煙だけとは思えない、だからわざわざ上へと巻き上げたのだ。
その疑問と同時に巻き上げた方を見上げると煙から鬼が右手を尖らせながら迫ってきた瞬間だった。
(!!?)
咄嗟に首をひねって躱すが横髪が数本宙を舞う。
距離をとらなければ、煙に囲まれた今の状態だとまずいと判断し、後ろへ飛んだ。
すると逃すまいと鬼の体からさらに煙が溢れてくる。
(まずい、たとえ時止めの力が発動して避けれたとしても煙に鬼が完全に飲まれたままであれば、どこからの攻撃なのかも分からないかもしれないし、頸を狙えない!)
時間制限のあるこの能力は一度なら5秒まで使うことができるが、何度も使えばその分時間も短くなり、体力の削られ具合も大きくなっていく為、出来るだけ一度で決めたいし、とっておきの技を当てるのにも確実性が欲しかった。
更に後退しようとした瞬間、鬼の血鬼術が赤みを帯びていることに気づいた。
「死ねぇ!!《血鬼術 爆雲》」
その爆発は近くにあった複数の建物を跡形もなく吹き飛ばした。
その時、能力が発動。
爆発源から十分な距離を取ると時間が動き出す。
ズンと地響きのような音を響かせる爆発は衝撃波を生み、近くにある建物の扉やガラスを吹き飛ばすのをみて冷や汗が頬を撫でる。
やばい、これで末席なの?と心の中で呟いた。
両腕で爆風から顔を守ってると爆発に巻き込まれたであろう人々の声が耳に届いた。
巻き込んでしまったと歯噛みしていると鬼が爆心地からゆっくりと姿を現した。
「いま、お前何をした?今の爆発から逃げられるわけがねぇはずだ、何をしタァ?」
渾身の大技だったのだろう。あれほど囲まれた状態で爆発すればどんな手練れでも深手は避けようがない。鬼は不機嫌な顔が更に不機嫌といういう風に歪んでいた。
「ああ、今の攻撃程度で仕留めたつもりだったんですか?あんな見え見えな攻撃、躱すことは容易いですよ?」
心の中で少しビビってる自分はいつのまにかどこかかへ消えていて、強気に挑発する。
「くそが、クソがクソクソクソォォ!!《血鬼術 血雲海》!!」
また体から煙が出てくる、先程のように体を隠して奇襲するのが有効だと判断したのだろうか、……だがそれは。
「その技は、もう見ましたよ?」
そう、今までは鬼の性格と能力の情報が不足しすぎている状態だったから最小限の攻撃で受けになっていただけなのだ。
しかしどの様な鬼でどのような能力なのかを一度見てしまえば……問題はない。
煙に囲まれ、視界が黒に染まる。
全方向から殺気が体を向かってくるのを感じつつ、刀を上手に構えた。時止めの能力を自在に操れるよう、日々鍛錬して身につけた技を繰り出す為に。
「しねぇぇ!!!」
背後の煙から鋭利な爪が自分に向かって伸びてくる。
その瞬間、息を止めた。
《時の呼吸 壱ノ段 瞬き》
刹那、鬼の体がゆっくりと、まるで止まっているようで、少しずつ動いている。時がゆっくりと流れてるかのような世界で、その鬼の頸に刀を一閃する。
時の流れが元に戻ったのは血を振り払い、ゆっくりと刀を鞘に収めた時だった。
----------
《血鬼術 血雲海》と《血鬼術 爆雲》の組み合わせは30年前に会った柱でさえも致命傷を与えることが出来た意識誘導と必殺必中の連携技であった。
しかしこの狐面少女はそれを無傷で回避した。自分の目の前からまだ離れていない状態で食らったはずなのにだ。
その事実をどうしても受け入れられない。受け入れられなくてはらわたが煮えくりかえる。
そして再度首に届くまで後少しというところでまた姿が搔き消える。
(くそ!またかァ!)
鬼はまた避けられたと苛立ち、地を滑りながら体勢を立て直そうした瞬間、視界が宙を回った。
「!?」
そのまま自分の頭は地面の上を転がり、止まると刀を鞘に収めている狐の餓鬼がこちらを見ているのが見えた。
「…なにを、した…餓鬼ィ…」
徐々に消え始めたのを感じながら自分の頸を斬った餓鬼に問いかけると、斬った本人はゆっくりとした口調で答えた。
「頸を斬った、ただそれだけですよ」
そんなわけあるはずがない、下弦であると認められた自分自身の目でも追えない速さ、感じることすらできなかった。
なんなら今まで柱以外の鬼殺隊なら血鬼術すら使わずに最初の一撃で仕留めることができていたのだ。
しかしこの餓鬼は躱し、反撃までしてみせた。
「餓鬼ィ、てめぇ、今までの鬼殺隊とは比べものにならねぇ。柱だなぁ?」
柱、下弦になると同時に鬼無辻無惨から話を聞いていた。
鬼殺隊の中で唯一十二鬼月と渡り合う能力がある人間達であると。30年前の柱も《爆雲》にやられるまでは自分を一方的に斬りまくっていたほどだった。
ならば目の前の餓鬼は柱であるはずだ。なんせ下弦の陸の頸を無傷で討ち取ったのだから。
しかしキョトンとした雰囲気になると違いますよと答えた。
「そんなはずあるわけがないです。私これが初任務ですごい緊張してたんですから」
柱はもっと凄い人達に決まってますよと言うと、巻き込まれた人を助けるためだろう、崩れた建物へと走っていった。
「なん…だよ…そ…れ…」
誰にも聞かれないその言葉を最後に、下弦の陸は塵となって消えていった。
読んでくれてありがとうございます…次回の投稿は……多分3日後、それで更新されてなければ1週間後
ストックはあるのですが勢いで書いたせいで誤字が多くて読み直しながら直していくという作業をしております、眠いです、朝5時起きです、投稿予約されてる時間には寝てます、皆さんも睡眠不足には気をつけてください
前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。
-
統一した方が良い
-
別に気にしない
-
前半のようなほのぼの要素も欲しい