時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ   作:たったかたん

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少し長めです


時の呼吸

 

 

下弦の陸との戦闘をした後処理を隠と言われる方々に任せて月明かりで照らされた山道を歩いていた。

 

(最初の任務で十二鬼月とか不幸にもほどがあるでしょ…)

 

なんとかなったはいいものの、数名の犠牲者と怪我人は出るし、まだまだ体が追いついていない時の呼吸で体はだるく感じるし、十二鬼月を討ち取ったとしても全くもって歓喜とは程遠かった。

 

《時の呼吸》

 

自らに致命傷となる場合にしか発動しない時止めの力を一部使えるように編み出した呼吸。

 

 

私は最初の試練の時『罠を何故か避けることができていた』

 

 

最初こそ不思議に思ったし疑問だったが、鍛錬を積み自力で罠を避けれるようになった頃に最初の方で罠を避けられた理由に欠片であるが気づいたことがあった。

 

それは攻撃に対して極限まで集中した瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

それこそ集中してそう見えるだけだと自分も思っていた。鍛錬を積めば積むほど自分の速さが上がったのもある。動体視力が上がったのもそうだろう、原因なんていくつもある。

 

だから成長したと思うだけだった。

 

しかし、その現象が鱗滝さんが特別にしてくれた模擬戦で起こった場合は?圧倒的格上であるはずの鱗滝さんの水の呼吸が歩いて躱せてしまえるほど世界が遅くになっていたら?鱗滝さんが私自身を見失って唖然としていたら?それがただの成長だけの物でないと嫌でも気づいてしまう。

 

そのことがあってから鱗滝さんはそこに目をつけ、模擬戦は一段二段と激しくなり、嫌でも『ゆっくりになる現象』を引き出される訓練が続いた結果、《時の呼吸 壱ノ段 瞬き》が誕生したのであった。

 

(もっと鍛錬を積んで時の呼吸を完璧にすることが最優先だなぁ)

 

そう思いながらだるい体でのんびりと次の町へ向かうのだった。

 

 

 

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広い日本庭園が日に照らされ、心地いい鳥のさえずりが聞こえる屋敷の縁側では、整っている顔立ちをした少年が鎹鴉の報告を受けていた。

 

「カゲンノロクゲキハ!カゲンノロクゲキハ!タイシ、カイキュウミズノト!ナハオオタケシズク!オオタケシズク!ケガナシ!ムキズ!」

 

「…大竹雫?先日の最終選別で他の子たちを救いながら合格した子か。優秀だと思っていたけれど、まさか初任務で下弦の陸を討ち取るなんて、とても優秀で喜ばしいね」

 

ほんの少しだけ驚きの表情をする、しかも無傷という報告まである。

癸の隊士が強力な血鬼術をもつ下弦を相手に圧倒したという事は耳を疑いたくなる情報だが、鎹鴉が嘘の報告をする事は無い。

 

「……これは近いうちに会わないといけないね」

 

少年は青く澄み渡った空を眺めながら、そう呟いた。

 

 

 

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初任務を終えてからの任務は全て弱い鬼ばかりだった。中には血鬼術を使う鬼もいたけれど、最初の下弦と比べるとどうも劣ってしまうし、初任務以来、時止めの力を使わずに済んでいたほどだった。

 

(しかし、最近やたらと任務が怒涛な気が…)

 

下弦の陸を撃破してから1ヶ月、ほぼ毎日のように任務が舞い込んでくる。

その任務先では他の隊士に会うこともなく、一人で淡々と終わらせる毎日を送っていた。

 

(まぁ、人が守れるならそれで良いけど…こんな毎日のように任務が来るのは疲れる…)

 

少し休もうかと考えて任務先である町の甘味処に入り、羊羹とお茶を食べ終えて一休みをしていると声をかけられた。

 

「あの」

 

ん?とそちらに顔を向けると鬼殺隊の服を着た少し年上くらいの男の子が立っていた。

どちら様ですかと尋ねると、どうやら自分と同じ任務を請け負うことになった隊士だそうで、とりあえず名だけ自己紹介をした。

その少年は大谷誠と名乗り、隣に座らせると少し緊張した様子で話しかけてきた。

 

「すみません、大竹さんって、()()()()()さんで合ってますか?」

 

あの大竹雫ってなんだろうと思いながらそうですがと答えるとすごく嬉しそうな表情になった。

 

「会えて光栄です!あの大竹さんと同じ任務を受けることができるなんて!」

 

「……すみません、(あの大竹雫)ってどういう意味です?」

 

あのという言葉が連呼されると流石に無視ができないので聞くとキョトンとした顔でご存知ないので?と言われたのではいと答えると「大竹さん、今ちょっとした有名人なんですよ?」と言われた

 

「有名人、ですか?」

 

「はい、鬼殺隊の最終選別では他の隊士たちを助けつつ無傷で合格。さらに初任務では十二鬼月を激闘の末、無傷で討ち取った。そんな狐面の少女がいると噂になってるんですよ」

 

まさかそんな事で有名人になっているとは思ってもおらず、少し驚く。

 

「なんで私ということが広まったのですか?任務先では全然鬼殺隊の方とも会いませんし…」

 

「最終選別の話は毎年皆に噂になります、やはり誰もが通る道ですから。それに十二鬼月の戦闘は家が複数吹き飛んだと聞きました。そのあと処理を担当した隠の方が僕の先輩の知り合いで、狐面の少女がその時に現場にいたと言い回ってて、それで」

 

……なるほど、たしかに十二鬼月を倒した後どうしようか悩んでいたら鎹鴉が後処理部隊を呼ぶとかなんとか叫び出して、そんなのがあるのかと思いながら隠という人達に怪我人の応急処置や片付けを任せつつ帰ったのを思い出す。

 

「とりあえず、私はまだ11歳で、癸です。そちらの方が先輩なので敬語は使わない方がよろしいかと思います」

 

「……?もしかして階級確かめてないのですか?」

 

「え?自分で階級を確かめる方法があるのですか?通達されるのではなくて?」

 

「はい、選別が終わった後に筆でなぞられた手の甲に力をいれて、階級を示せといえばでてきますよ」

 

そ、そんな便利なものがあったのかと驚愕しつつ言われた通りにやってみると、手の甲には戊の文字が浮かび上がる。

 

「…戊は、下から6番目、でしたっけ」

 

「はい、やはり十二鬼月を単独で倒したことで大幅に階級が上がってるみたいですね。あ、ちなみに僕は階級は庚、年は15ですが、大竹さんの方が鬼殺隊内で上となります」

 

「なるほど、教えてくださりありがとうございます」

 

「いえいえ、これから合同任務ですし、これくらいの事は先に入隊した先輩として当然ですよ」

 

なんていい先輩なのだろうと思いながら今回の鬼に話題を移すと、行方不明事件がどうやら町の南側の山と町中でも同時に起きているという事だった。

 

「つまり、最低でも2体の鬼がこの付近を縄張りにしてるという事ですね」

 

「はい、なので2人での合同任務に変更してると思います」

 

それに、と間を置きこう続けた

 

「階級が壬の隊士が先に任務に当たっていたのですが、町中の方で殺されたそうです」

 

「私が2日前に聞いた情報はそれですね。少なくとも町中の鬼は異能の鬼かもしれません」

 

「道が広い町中である程度の実戦をくぐり抜けた隊士がやられるということは、その可能性もありますね。南山の方は3人ほど旅のものがやられたようですが、こちらはまだ鬼になったばかりのようです」

 

「この場合はどう動きます?二手に分かれて同時に撃破なのか、2人で連携して一体ずつ撃破ですか?」

 

「…大竹さんはまだ合同任務未経験とのこと…ですので、自分が考えさせていただくと、町中に大竹さん、南山に僕が行き、一夜で一気に終わらした方が賢明かもしれません」

 

「2人行動はしない方が良いのですか?」

 

「ええ、鬼は何気に自分の近くにいる鬼を感じ取る事ができているようで、どちらかを先にやると、勘づいた後の鬼が逃げてしまう可能性があります」

 

「……分かりました、私が町中を担当します。片付き次第そちらに向かいますね」

 

「先輩として情けないですが、町中の鬼は任せます。お互いに気をつけましょう」

 

話し合いが終わる頃には陽が斜めに傾き始めていた。

 

 

 

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陽は落ち、空には満月が浮んでいる。

雲ひとつない空からの月明かりに照らされた夜の町は、人の気配もなく、風が建物を擦れる音が響くほどに静まり返っていた。

 

雫は町の中心部の近くを警戒しながら大通りの抜けた場所を歩いていた

 

(以前の下弦と同じように怪我人を出すわけにはいかない、できればここにきてくれると助かるんだけど…)

 

鬼がなんの血鬼術を使うのか分からないが、前のような範囲攻撃があると非常に人を巻き込みやすい町中はやりづらい。

しかし西洋化がすすみ、車が通れるように道が広くなっていたこの場所は戦いの場に最適であった。

 

(以前の隊士は心臓を一突きで殺されていた。まだまだ新人だったとは言っても、警戒している隊士が簡単にやられるとは思えない。やはり、血鬼術…)

 

そう考えつつ町の中心部にある作られたばかりであろう噴水が目に入る。

 

町の中心という事でだろうか、そこの付近だけ電灯が付いていて十分に明るい広場だった。

 

(もし異能の鬼で急所を最短で狙ってくるような鬼ならば、時止めの力で反撃できるし、それで仕留め損ねてもこの広い場所なら戦闘しやすい)

 

そう考えていると噴水の動きと音がピタッと静止した。

え?と思っていると周りの全てが止まっていることに気づき、即座にその場から横へと回避する。

 

シャン!と音を立てながらそこに見えたのは一本の人程の大きな針が地面から斜めに生えてきている光景だった。

 

(血鬼術!?反応すらできなかった!)

 

すると針はゆっくりと溶けていき、地面に黒い丸を作ると、こちらへ急接近してくる。

 

(!?この黒い物が攻撃の正体!)

 

音も気配もなく、その黒い丸は接近して自分へと針を伸ばしてくるのを後退し回避する。

 

(…攻撃自体はどうという事はない、回避は出来る。だけど鬼本体をあまり感じ取れないし、音もなく後ろへ近づいて心臓を一突きにするこの攻撃…)

 

初見殺し、その名にふさわしいものだった

 

こんなもの相当手練れの隊士でも呆気なくやられてしまってもおかしくない。

しかし、躱せば後の攻撃は対処可能。そう考えつつ伸びてくる針を身を捻り躱すと、針本体に技を繰り出した。

 

《全集中水の呼吸 捌ノ型 滝壺》

 

バキッと根元から針が折れたのを確認した瞬間、黒い丸からぎゃあと悲鳴が聞こえた。

 

そこに追撃の一撃を入れようとした瞬間、今まで一本だった針の周りから数十の針が生えて迫ってきた。

 

「くっ!」

 

慌てて後退で躱して距離を取る。

数十あった針は溶けてまた一つになったと思うと、針から目が二つギョロッと現れると同時にその下に口が現れた。

 

(え?そ、そこ?黒い丸の中じゃなくて?)

 

そう思っていると口がよだれを撒き散らしながら叫び始める。

 

「お前!なぜ最初の攻撃が躱せたのだ!」

 

意外と饒舌に喋るな、どこが頸なんだろうこの場合と思いながら挑発する。

 

「あなたの攻撃、後手でも避けれるほど遅いんですよ。確かに奇襲で恐ろしいですけど、最初の攻撃以外はクソみたいな攻撃ですね??」

 

「んぐっ、おぉお前!もう少し、もう少しであのお方のお気に入りになれるこの私を侮辱するかぁ!《血鬼術 黒地散針》」

 

図星なのか言葉を詰まらせつつ、大きな黒丸から小さな黒丸が散らばりながら、先程のより数も速さも数段上げて襲いかかってきた。

しかしそれでも遅いことには変わりはなかった。

 

「あなたより速い攻撃をする鬼倒してますので、問題ないですね」

 

なに!?と頭に来たのか複数の針が集中して襲いかかってくるので、まとめて迎撃する。

 

《全集中水の呼吸 参ノ型 流流舞い》

 

無数に散らばった針を躱しながら全てを斬り、そのまま本体と思しき針へと接近する。

 

「な、なめるなぁ!!!」

 

自分の周りに黒丸が囲むように現れる。

 

(この過剰な焦り具合、演技に見えない。であればちゃんと頸があると見て間違い無いはず)

 

スゥと息を吸う

 

《全集中水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦》

 

囲んだ針が殺そうと伸びてくる瞬間、伸びきる前に粉々に粉砕する。

 

「な!?」

 

一気に加速、どこが頸なのかわからない本体の針が地面へと沈む瞬間、確実に入る最速の一撃を入れる。

 

《全集中水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き・撃》

 

その刹那、本体である針は何箇所も抉られたように体の一部が消し飛ぶ。

 

「ぐっ!!」

 

苦しそうな声を上げながら黒丸に身を隠す。

 

だがそれを_。

 

「待ってました」

 

《全集中水の呼吸 捌ノ型 滝壺》

 

先の攻撃は針を狙って放った。

 

その際声が聞こえたのは黒丸の中、目と口が現れたのは針ではあるけれど、一撃入れられやすい物に頸があるとも思えない。

つまり、黒丸の中に体か頸になるものがあるはずだ。

 

どうやらその考えは当たっていたらしい。苦しそうな悲鳴とともに黒丸が大きく広がると、片腕が切り落とされた人型の鬼が膝をつきながら出てきた。

 

「おまえぇえ!お前は一撃では殺さん!生きたまま内臓を引きずり出して殺す!」

 

鬼舞辻の血が濃ゆいのだろうか、腕が思いの外早く再生すると低い姿勢で突っ込んでくる。

 

怒りのまま考えなしかと思うと周りに先程の迎撃した黒丸が囲んでいるのを確認した瞬間、スゥと息を吸い、止めた。

 

 

 

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(逃げ道はない!殺す!)

 

四方を囲った数十の細い針で最高速度だ。逃げれるはずがない、そう確信した。

だが針が身体を突き刺す瞬間、目の前にいた狐面の少女が消える。

 

(なに…!?どこ行った!!)

 

素早く周囲を警戒していると、後ろで刀を鞘に収めた狐面少女の姿があった。

 

「なにをしたが分からないが、逃げることに精一杯だったようだな!」

 

追撃に大きめの針を伸ばした瞬間、針にビギっと大きなヒビが入る。

 

(!?な、なにが…!)

 

その針はそのまま崩れたかと思うと自分自身の頸から血が横線を作る感触が伝わり、視線が横にずれて地面が近づいてくる。

 

「…ありえ、ない…」

 

そう言い残しながら鬼の頸は地面へと落ち、塵となって消えていくのだった。

 

 

 

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まだ使いこなせていない《時の呼吸 壱ノ段 瞬き》は確実に殺せると確信した時にしか使わないし、使えない。

自由に使えるようにしたと言っても、まだやすやすと使える代物じゃないのだ。

 

もし先ほどの攻撃で黒丸から本体が出てこなかった場合、持久戦になっていたと思う。

 

そう考えつつ南山にいるであろう大谷さんに合流しようと思い町中を走っていると手前の十字路を右から小走りで出てきた大谷さんを見つける。

 

「大谷さん!そちらはもう終わったのですか?」

 

「はい、特に何の異能も持ってない雑魚鬼でしたので早めに終わってました。大竹さんも…終わったようですね」

 

「はい、血鬼術が少しやっかいでしたが、問題ありませんでした」

 

雑魚鬼といっても険しい山の中でこんなに早く見つけて討伐して来るとは、階級が下であっても経験があるとやはり違うのだろうなと心で思いながら任務は終了したのだった。

 

 

 




こそこそ内緒話

時の呼吸や時止めの力が発動してる時は、空気も全て止まってるので息を止めて動いておりますよ

前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。

  • 統一した方が良い
  • 別に気にしない
  • 前半のようなほのぼの要素も欲しい

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