時を操る狐面の少女が鬼殺隊で柱を超えたそうですよ   作:たったかたん

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瞬柱

 

 

誠は木刀を渡してもなお心が揺らいでいる様子の雫を見て少し申し訳なく思う。

 

急に仲良くなったばかりの先輩が柱ってだけでも驚くのに、更に手合わせとまで来た。それは誰でも驚くだろう。

 

 

(だけど、君には実力を証明してもらわなければならない。柱を越える可能性を)

 

 

そう心で呟くと同時に息を吸って地面を蹴る。

 

 

《風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ》

 

 

周りの物を削ぎながら加速する。

頭の中で何度やっても負けてしまう雫に様子見も兼ねてほんの少し余力を残した状態の得意技で挑んだ。

 

しかし

 

「…!!」

 

雫は目の前から消えずに水の呼吸を放ってきた。そのことに少しだけ驚く。

 

《全集中水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き》

 

以前水柱との手合わせで受けたことのある技を放ってくることに驚きつつも水の呼吸の最速の突きをそのまま木刀の刃で受ける。

 

すると目に見える様子で驚きを見せる雫に思わず檄を飛ばした。

 

「なにを驚いているのですか!僕は柱ですよ!」

 

その檄で怯んだのか一瞬固まって生まれた横腹の隙に木刀を横に一閃する。

 

ミシッと言う手応えと共に苦しそうな声を上げて吹き飛んだ雫は受け身を取りこちらを見る。

 

(遅い!)

 

すぐに接近し、構うことなく技を繰り出した。

 

《風の呼吸 陸ノ型 黒風烟嵐》

 

下から切り上るこの技は顎にかすりでもすれば意識を飛ばすのに十分すぎる威力を持っている。

その攻撃を雫は間一髪首を避けて躱すが、またも隙だらけになっていた腹へ蹴りを入れた。

 

腹を痛そうにしつつも構えを保つ雫にさらに詰め寄り、連撃を食らわす

 

《水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫》

 

また水の呼吸、水の様に流れるこの歩法は当てづらいのはたしかだ。だが水柱との一度手合わせをした自分にはまだ刀を当てれる速さだった。

 

《風の呼吸 弐ノ型 爪々・科戸風》

 

更に細かく鋭い剣撃を数回身に受けた雫は距離をとって片膝をつき、肩で息をしていた。

 

 

(……この子は何故、あの技を使わない?あの技があれば瞬きもせずに勝てるだろうに。それとも出す事すらもったいない相手だとでも思われてるのだろうか?)

 

そう考えれば考えるほどはらわたが煮えくり返り、気がつけば叫んでいた。

 

なにを叫んだのか、正直言ってあまり覚えていない。

微かに記憶にあるのは落ち着き始めた最後、このままでは君を軽蔑してしまうと雫に伝えたことだけだった。

 

 

雫を見ると何かを考えている。

 

(これでも実力を見せなかったら、僕は本当に君を軽蔑してしまう)

 

そう思っていると雫と目があった気がした。

 

すると先ほどの驚いて悩んだような雰囲気が消えているのがわかった。

 

 

「…………大谷さんの言う通りです。私は今の今まで実力をどう隠そうか考えていた腰抜けです。それはその技に無駄な自尊心を持っていたから、まだまだ未完成のこの技を他人に見せたくないと勝手に考え、その我儘を大谷さんに押し付けてしまっていた。ご迷惑をかけてしまって申し訳ありませんでした。

 

……もう、大丈夫です」

 

あれで未完成とは、どこまで自分に厳しくいたのかと思う

 

(……また悪いことをしてしまったようですね…)

 

でも、今は話し合いじゃない、刀で語る場だ。

 

 

「……やっと、手合わせができそうですね、雫さん」

 

 

「はい」

 

スゥと息を吸い、先ほどの仕切り直しとしても同じ技で斬りかかることにした。下半身にありったけの力を込め、周りの空間ごと削るかのように技を繰り出す。

 

 

《風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ》

 

 

本気の壱ノ型だ。

最初の壱ノ型よりも威力も速さも上がった技を少しも動かない雫にためらいなく振り下ろし、木刀が体に触れる瞬間、雫の姿が消えた。

 

「!!?」

 

木刀が空を切り裂き地面を砕いた。それと同時に、首に何かを押し当てられることに気づく。

 

(……これで未完成とは、本当に凄い)

 

顔を横に向けると、木刀を逆手に持ちかえて首へ押し付けてる雫の姿があった。

 

「………僕の、負けですね」

 

ここまでとは、と驚きつつ態勢を元に戻す。

 

雫は少し申し訳なさそうにありながらも、どこか吹っ切れた様子でありがとうございましたと頭を下げてきたのだった。

 

(こちらこそ、君という存在に会えたことに感謝します…)

 

そう心で呟きながら手合わせは終わりを告げた。

 

 

--------

 

 

 

雫との初対面をした時、産屋敷はなにか不思議な感覚を覚えていた。

 

 

(この子の目を、私はどこかで…)

 

 

面の目の穴から微かに見えた雫の瞳と目があった瞬間、水面に映る自分自身の顔を見た時の記憶がふと過る。

 

見慣れた顔、しかしその目の奥には隠しても隠しきれない黒いモノが渦巻いている事を、そのモノが何なのかを、幼いころから産屋敷輝哉は知っている。

 

そして大竹雫という彼女の目にも、似たモノがあるという事をその瞬間に理解した。

 

だが、産屋敷家には千年に及ぶ呪いと言うものから蓄積されてきたモノであるが、雫のソレはまた別のナニカであるはず。

 

(…君は一体どんな過去を持っているのかな?)

 

そう心で呟きながら雫の強さに興味が湧くのを感じつつ、元から準備させていた誠との手合わせをさせた。

 

最初こそ風柱が圧倒してるかのように見えたその光景を産屋敷輝哉は驚きつつも、嬉しそうに笑みが浮かんでいた。

 

(これほどとは)

 

これほど、彼女はまだ未完成とまで言っていたこの技は、瞬きすら許さない一瞬で誠の首に木刀を押し付けた姿は、恐ろしくも美しいと感じた。

 

 

鬼殺隊に入って一月でこれほどの実力者、勿論逃すわけにもいかない。

 

それに面の中から見えた目の奥に見えた存在の事も。

 

「雫、君は鬼殺隊の上に立つべき存在だ」

 

そう小さく呟きながら、傷だらけの勝者と無傷の敗者として目の前に揃う2人を見て微笑んだ。

 

 

 

----

 

 

 

 

手合わせで勝利した自分と大谷さんは産屋敷の前へ移動し、大谷さんが報告した。

 

「見ての通り、雫の速さは僕を遥かに凌駕しております」

 

なにか含みを持ったような微笑みをする産屋敷を面の中から見つめる。

 

「とても素晴らしい手合わせだったよ、2人とも」

 

「ありがたきお言葉」

 

「ありがとうございます」

 

すると産屋敷は微笑みながらこちらを見て、優しい声で話す。

 

「雫、やはり君は柱になるべきだと、私は思う」

 

その言葉を聞いて、自分は手合わせの中、高みへと向かう決心をした事を思い返す。

 

もちろんこの機会は逃すつもりは自分の中にはなかった。

 

「その申し出、ありがたく受けたいと思います」

 

そう言うと産屋敷は嬉しそうに微笑んだ所に、ですがと言葉を挟む。

 

「私は高みへ向かう決心をしました。階級が柱であれど、さらなる高みへ向かうつもりでございます」

 

その言葉に大谷さんが答える

 

「君はいずれ柱を超えた存在になる可能性があると、僕は思っている。その時に立場がどうなるかは分からないけど、僕は君を手助けできると思います」

 

その言葉に嬉しくありつつも驚きながらありがとうございますというと、産屋敷が私の名を呼ぶ。

 

「初任務で十二鬼月を倒し、その一月後には柱との手合わせで勝ってみせた。その実力と伸び代はまさに計り知れない。

確かに将来柱を超えた存在になった時のことも考えておかないといけないね」

 

 

大谷さんも嬉しそうに微笑んだ空気が変に感じていると産屋敷がそういえばと話を進める。

 

 

「雫は柱になるわけだけど、水柱はいるから別の柱名にしないとね」

 

 

水柱が2人は確かにおかしいなと思いながら何があるのかと考えていると、大谷さんが静かに手をあげてから、提案をした。

 

「……瞬きも許さない間に頸を斬る柱……瞬柱、と言うのはどうでしょう」

 

瞬柱という名を聞いてすぐに時の呼吸の瞬きを思いだした。

まさに自分を表す名と言っていいだろう。

 

 

「それでいいかな?雫」

 

 

「そうですね……瞬柱、自分を表す名だと思います」

 

 

「では、今日から瞬柱として宜しくね、雫」

 

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 

 

柱になったその年、上弦の鬼との激闘を果たすことになるとは、まだ誰にも想像できない事だった。

 




ここまで読んでくれてありがとうございます。更新、次は………多分4日後のいつもの時間

おやすみなさい

前半と後半で作風を変えたりしています。原作合流編あたりからの作風に統一しようかと思います。

  • 統一した方が良い
  • 別に気にしない
  • 前半のようなほのぼの要素も欲しい

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