つまりタマをとった理由
僕が艦娘の適正があると言われたのは、12歳の時だった。
ある日孤児院に軍の人がやってきて、女子だけを集めて艦娘適性検査を行った。
思春期真っ盛りだった僕は友達と一緒にその様子を覗いてやろうとしたけど、悪ガキの行動はお見通しだったらしくすぐにつかまってしまった。さらに罰として――きっとあの女性軍人がふざけていたんだろうけど――僕たちは受かるはずもない艦娘検査を受けさせられる羽目になった。
その時にどんな検査をされたのかは思い出したくない。ただ、その後僕達は女子に対してとても優しくなったことは述べておく。
検査が終わり、放心した僕達に対して、女性軍人は笑いながら一人一人に「艦娘適正なし!」と告げていった。そしてついに僕の番になったとき、同じように「艦娘適正……」と言いかけて、悪い笑顔をしていた彼女の表情は一変した。真剣な顔で僕の検査結果と僕の顔を見比べ、極悪非道な検査をした白衣の人達と何かを話した後、何も言われずに僕達は解放された。
彼女の明らかな不審な行動は皆分かったらしく「お前艦娘適性あったんじゃね?」「元々顔が女っぽいしな」「時々可愛いとすら思うしな」等と口々に言われた。そのたびに「まさか」と答え、後者の内容を言った数名を殴り飛ばしながら過ごして、数日後に僕は再び呼び出された。
「単刀直入に言おう。君には艦娘適性がある」
応接室の椅子に僕が座ってすぐに、目の前に座っている女性軍人はそう言った。呆然としていると、彼女は話を続けた。
「初めて見たよ、適性がある少年は。女性ですら、適性があるのは10万人に1人。だが、男性に関しては1000万人に1人いるかどうかだ。そんな確率であるし、後で述べる問題もあるから、男性に対しての検査は行われてないんだがな」
どうやら僕は、そんな奇跡を見事に引き当てたらしい。しかし。
「……僕にどうしろっていうんですか?」
「軍としては艦娘になってほしい。艦娘になれる人材はただでさえ貴重だ。事実、この孤児院で艦娘適性があったのは君だけだ。だが、君の場合その、少々問題があって、その……」
何かを言いにくそうにしている彼女にイラつき、「はっきりいってください」と言うと、彼女は少し赤面しながら、諦めたようにこう言った。
「艦娘適性は男性にもでることはある。だが、艦娘……娘になれるのは女性だけだ。つまりその……もう、分かるだろ?」
――ああ、なるほど。
「つまりキンタマを取れってことですか?」
「とっ……!? 君は直球だな……そういうことだ。最も、玉をとるだけじゃない。君の体全体に外科的に、そして遺伝子レベルでも女性化の処置を施すから、完全に女性になる。勿論、任期が終われば男性の体に戻ることも可能だ。……多分」
「……戦争がおわったら、じゃないんですね」
「……言うな」
少しの間、僕達の間を気まずい沈黙が支配した。この空気の中、多分という言葉の意味を質問してもいいだろうか。
「……君は、艦娘になる気はあるか?」
先に沈黙を破ったのは彼女の方だった。その言葉に僕はしばしの間考える。
僕達が孤児になったのは深海棲艦のせいだ。だからその原因に復讐――とはいかないまでも、やり返してやりたいという気持ちはある。けれどその前に――。
「艦娘って給料とか出るんですか?」
この孤児院の経営は苦しい。僕たちの食事は何とか出せているけれど、本当はそれすら厳しいらしい。先日も怪しげな男たちが経営者と何か話していた。この孤児院潰れれば僕達に行き場所はない。最悪の場合、借金の片に使われるだろう。悲惨な結末は想像に難くない。
僕には、性別よりも、深海棲艦云々よりも、明日を生きられるかどうかのほうが重要だった。
「破格なほどに出るぞ。貴重な人材でありかつ、最前線で戦う者達だ。退役したあと働く必要がないくらいに出る。……だが、大事なのは給料じゃない。君に戦う意思と、命を捧げる確固たる理由があるかどうかだ」
「孤児院の皆のためにお金を稼ぐのは……戦う理由になりますか?」
「十分だとも」
女性軍人のその答えに対し、僕の返事は一つしかなかった。十二年間男として過ごしてきたことに未練がないわけじゃない。既に男としての性への欲求だって存在している。
だけど僕の、そして皆の場所を守れることに比べれば些細な事だった。
「なります」
そうして僕は艦娘「時雨」となった。