駆逐艦娘、時雨の朝は早い。
「いっちばんに早起きするのは三文の徳だよ!」と主張する少女に叩き起こされるからだ。
「おっきろー時雨!」
朗らかな声とともに、くるまっていた夏布団をはぎ取られる。
「今日の任務は午後からなんだから、もうちょっと寝かせてくれてもいいじゃないか……」
叩き起こされた僕は、犯人――白露を恨めし気に見て文句を言う。
枕元の時計を見ると、時刻は午前6時。起きるのに健康的な時間とはいえ、夜型の生活をしている僕には早すぎる時間だ。
「時雨も早く寝ればいいじゃん。そしたら、白露の次に起きても眠くないよ」
「白露は寝るのが早すぎるんだよ」
白露は大体10時前に――早い時は9時には寝ている。時には机で寝落ちているところを僕がベッドに運ぶこともある。彼女は活発な子だから、夜になるとエネルギー切れになるのだろう。
それに、僕が遅く寝ているのは、やむを得ない個人的な事情がある。
「時雨、起きてよー」
「起きてるけど」
「体を起こさない限りは、起きてるって言えないよ!」
白露の言う通り、僕はまだ布団に横たわったままだ。なぜなら眠いから。できれば二度寝したいから。最も、白露がそれを許してくれたことは1度もない。これは彼女へのささやかな抵抗だ。
僕を不満げにのぞき込む白露は、まだ寝巻のままだ。せめて洗顔して、髪を整えてから起こしてくれればいいのに。そうすれば僕の睡眠時間が多少伸びる。
というか、僕を起こす必要性はあるのだろうか。甚だ疑問だ。
毎朝女子に起こされる生活というと、きっと同年代の男子は羨ましがるだろう。しかも白露は美少女だ。孤児院の友人に言ったら、間違いなく代わってくれと言われるだろう。ぜひとも変わってほしい。そして幻滅してほしい。
「いい加減、起きろー!」
「うわ。揺さぶらないでよ」
ついに白露が実力行使に出た。僕の脇腹に両手を置いて、体全体を使ってぐわんぐわんと揺らしてくる。ここまでの流れは、多少差はあるけれど毎朝恒例だ。
何が何でも僕を起こそうとしてくる白露も、それに対抗する僕も、そして白露の寝間着の、胸のあたりがダイナミックに揺れることも。
……あれ?
白露の寝間着——ちなみに僕とおそろいの水色だ――その胸のあたりが、服の上からでもわかるほどに揺れている。
そしてよくみると、白露の胸部――その膨らみの先っぽに、もう一段、指先程のふくらみがあることに気づく。気づいてしまう。
「……白露。もしかして、またブラつけずに寝たの?」
唐突な質問に、白露は思わず揺らすのを止める。そして目をぱちくりさせながら答えた。
「だって蒸れるんだもん。それに最近、締め付けられて苦しいし」
「それでもつけなよ……将来垂れるよ?」
それに締め付けられてって……もしかしてまた大きくなったんじゃないだろうな。村雨に相談しないと。
いや、そんなことは問題じゃない。
問題なのは、元男の僕の、すぐ目の前にノーブラの少女がいることだ。
そしてそんな彼女の、たわわな胸が、薄い布を隔てて、すぐ目の前にあることだ。
「村雨みたいなこと言って……話そらさずに、起きろー!」
白露の揺さぶりが再開。視界が揺れる。そして白露の胸もたゆんたゆんと揺れる。揺れる。揺れ……。
「わかった! 起きるから!」
理性が飛ぶ前に、がばりと身を起こす。
こんな絡め手を使ってくるなんて、全く白露は油断ならない。あまりに無防備すぎる。
「さ、早く着替えて、散歩でもしよ」
人の気もしらないで、起こすことに成功した白露は嬉しそうだ。
……なんだか日ごろから我慢していることが馬鹿らしくなってきた。
「……時雨?」
うん、たまにはいいだろう。僕は十分我慢してきた。これは白露が悪いんだから。
「急に黙ってどうしたの? え、ちょ」
思い知れ、日ごろの恨み。
村雨にならって、アイアンクローをかました。