ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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久しぶりの本編です。

短いですがどうぞ!


予想外の出会い②

 フィンさんと飲み会をした翌日以降。僕は久々に単身でダンジョン探索をしていた。

 

 単身なのは知っての通り、【ヘスティア・ファミリア】の団員が未だに僕一人だ。立派な本拠地(ホーム)もあるから募集すれば良いだろうと思われるけど、生憎もう暫くはしないつもりだ。

 

 色々な意味で注目されている事もあって、未だに僕の能力や武器目当てで入団してくるかもしれないからとフィンさんからアドバイスをもらった。それを聞いた僕は勿論、後から相談した神様も了承済みである。

 

 この数日の間、未だにしつこく勧誘してくる神々だけでなく、僕が使っている武器の入手先を知ろうと他所の冒険者や武器商人達が声を掛けてくる事が多数あった。街を散策してる僕だけでなく、バイト中の神様も同じ目に遭ってるそうだ。だからこの状況で団員募集しても、下心丸見えな人達しか来ないと容易に想像出来た。

 

 なので今のところは、僕が『この人なら大丈夫だ』と見付けたら神様に相談するスタンスになっている。悠長かもしれないが、一人目だけは信用出来る人を迎え入れたいので。

 

 さて、それはもう良いとして。

 

 ダンジョン探索をしている僕は現在7階層にいる。そして目の前にいるのは――

 

『ギギッ』

 

 キチキチキチッ、と口をもごもごと動かし歯を鳴らしているキラーアントだ。

 

 冒険者になって間もない頃に遭遇したが、あの時は色々と警戒してた事もあって全力に近い状態で瞬殺した。それによってこのモンスターの行動を目にする事なく素通りしてしまったが。

 

 因みにキラーアントは下級冒険者からすると非常に厄介なモンスターだ。6階層にいる『ウォーシャドウ』と並んで『新米殺し』と呼ばれているようだ。

 

 身に纏った頑丈な甲殻と、コボルドやゴブリンなどの低級モンスターとは比べ物にならない攻撃力。身体の表面を覆っている外皮は鎧みたいに硬く、半端な攻撃を簡単に弾かれる防御力がある故に大変手こずる相手だ。

 

 極めつけは腕先にある発達した四本の鉤爪だ。湾曲した歪な突起は不気味な光沢をちらつかせていて、かなりの斬れ味があるように思えてしまう。

 

 硬い外皮によって防御を攻め崩せない間に鉤爪で致命傷をもらうと言う、キラーアントにやられるパターンと化されている。低級モンスターに慣れ切った上級冒険者が油断して餌食となるが故に、『新米殺し』と呼ばれる謂れとなっていた。

 

 けど、そんな恐ろしいモンスターも――

 

「――ふっ!」

 

『――ギッ?』

 

 僕が一瞬で動いて、両手で持っている大剣(・・)で真横に振るうとキラーアントの首は宙を飛ぶ。

 

 何が起きたのか分からないような目をしながらも、モンスターの頭部はそのまま地面に墜落。そして首を失った体は漸く理解したように脱力し、地面に崩れ落ちた。

 

「流石はゴブニュ様だ。前と違って凄く使い易い」

 

 片手に持ち直しながら刀身を振るって付着した体液を飛ばしながら、僕は『ミノタウロスの大剣』を見た。

 

 以前と違って刀身が若干短くなったが、その代わり軽くて振りやすくなっている。加えて刃も鋭くなりかなりの斬れ味だ。硬い筈のキラーアントの外皮をあっさり斬れたのが何よりの証拠。

 

 今まで鍛錬用の練習武器として使ってなかったものだけど、こうして立派な武器と変わった。非常に嬉しい気分だ。

 

 僕が上層(ここ)に留まっているのは、この大剣を使う為の練習として来た為である。もしもアークス用武器なら中層でやるが、今回はフォトンが一切使えない武器なので、どこまで通用するかの基準を確認しようと上層からスタートしている。今のところは何の問題もなく簡単に倒せているから、恐らくもっと下へ進んでも大丈夫だろう。

 

 それに加えて、僕自身も調整の必要があった。『Lv.3』になって強化された能力(ステイタス)を慣らす為に。

 

 この前メレンであった【カーリー・ファミリア】との戦闘で、違和感があった事に気付いた。襲い掛かってくるアマゾネス達を迎撃する為にフェルカーモルトを発動させた時だ。

 

 確かに威力は上がっていたけど、それでも不安定だった。いつもの僕だったら威力を調整して放つが、あの時は全く出来なかった。まぁ襲い掛かって来たアマゾネス達を全員一撃で倒せたから結果としては良かったが。

 

 神様に相談したところ、どうやら僕はランクアップの急激な強化によって感覚のズレが起きていたらしい。それが原因で思った威力が思うように出せなかったと。

 

 冒険者は本来ランクアップするのには相当な時間を要する。地道にアビリティを上昇させ、偉業を達成するには数年もしくはそれ以上掛かってしまう。場合によっては一生そのままと言う冒険者もいて途中で引退、もしくはサポーターになる人もいるとか。

 

 だけど僕の場合は二ヵ月僅かで『Lv.3』へランクアップしたので、通常の冒険者と違って身体能力が激変したようだ。『Lv.2』の時は問題無かったけど、流石に『Lv.3』だと身体の処理が追い付かなくなってしまったようだ。

 

 神様から与えられた『神の恩恵(ファルナ)』が凄いモノだと改めて認識した。今思うと【アポロン・ファミリア】にいた『Lv.3』のヒュアキントスさんが、力任せな攻撃ばかりしていたのが分かる気がする。この世界にとって『神の恩恵(ファルナ)』が最大の武器だから、どうしても身体能力に頼った戦いになってしまうんだろう。

 

 そう考えると、『Lv.3』になった僕は一度基本に戻らなければならない。こんな不安定な状態のままで調子に乗って中層へ行ってしまえば、下手をするとモンスターに殺されてしまうかもしれない。キョクヤ義兄さんからも、慢心は命取りになると教わったので。その為に僕はこうして上層にいると言う訳だ。

 

「さて、今日はここの探索に専念するか。練習相手もたくさんいるし」

 

『『『『ギギギギッ!』』』』

 

 キラーアントはピンチに陥ると仲間を呼ぶ為にフェロモンを発散する。それを嗅いだ同族達が駆け付けて協力し、冒険者に襲い掛かると言う最悪な展開が待ち受ける。

 

 どうやら僕がさっき倒したモンスターは既にピンチだと察していたみたいで、いつの間にか仲間を呼んでいたようだ。その為に数匹のキラーアントが僕を取り囲んでいた。

 

 端から見れば絶体絶命の状況だろう。そう思った直後、背後にいる一匹が隙を突くように接近して鉤爪を振るうも――

 

『ギ?』

 

「遅いよ」

 

 僕がファントムスキルによって姿を消した事でキョロキョロしていたが、直後に頭部が宙を飛んだ。

 

 同族(なかま)の死に動揺するキラーアント達を余所に、僕は引き続き大剣で一匹残らず全て斬り伏せた。

 

 

 

 

 

 

「アークス反応なし、ですか。ああ~、あの時ちゃんと見ていれば……!」

 

 翌日以降、メイドの少女は携帯端末機を見ながら今も後悔していた。自身と同じくこの世界に来ている同業者(アークス)を見過ごしてしまった事に。

 

 それとは別だが、嘗て世話になった質屋の主人――ボム爺さんと久しぶりの再会を果たしていた。てっきりもう憶えていないと思っていたが、彼は戸惑いの表情を見せるも、今はこうして受け入れるどころか匿ってくれている。

 

 メイドの少女は異世界のオラクル船団にいた内容は伏せ、訳あって身を隠していたと誤魔化す事にした。向こうはそれに気付いてるのかどうかは分からないが、『生きていたなら良い』とだけ言って深く訊こうとはしなかった。

 

 ボム爺さんの気遣いに感謝しながらも、彼女は暫くの間、ここを拠点として活動しようとする。所属していた【ファミリア】の連中が嗅ぎつけたら、迷惑にならないようすぐに去るつもりだ。万が一ここを潰すような事をしたら、犯罪者になるのを覚悟で、アークスの力を最大限に使って壊滅(ぶっころ)してやると。

 

 再会話を終えて用意された部屋で寛いだ翌日、携帯端末機を見た際に履歴があった。アークスが近くにいたと言う反応履歴が。

 

 それを見たメイドの少女は慌てながらもすぐに確認したが、結局は発見出来なかった。向こうが所持してる端末が故障、もしくは電源を落としているのかは分からない。どちらにしても、ちゃんと携帯端末機を見ていれば、こんなドジを踏む事はなかったと非常に後悔する破目となったのだ。

 

「こうなったら、もう直接捜すしかないですね」

 

 携帯端末機に通信しても未だ反応も示さないので、このままでは埒が明かないと思った彼女は動く事にした。

 

 下手すると嘗ての【ファミリア】に見付かってしまい、ボム爺さんに迷惑を掛けてしまうかもしれない。しかし彼女としては、絶対にいないと思っていた同業者(アークス)を見過ごす訳にもいかなった。その人物が自分にとって味方ならば非常に頼もしいが、もし敵になってしまえば非常に厄介な存在となってしまうから。

 

 アークスはこの世界にいる冒険者と対抗出来る力があるどころか、簡単に蹂躙して他の【ファミリア】から危険な存在と危険視されてしまう恐れがある。現に自分も昨日、ダンジョンにいたキラーアントを簡単に倒した。嘗て一人では絶対に倒せなかったモンスターが、アークス用の武器を使って簡単に倒せている。この世界の事情を知らないアークスが力を振るってしまえば非常に面倒な事になるので、彼女は何としても見付けなければならなかった。

 

「でもその前に……ルコット様には申し訳ないですが、別の服を用意しないと」

 

 この世界にいない師に対して謝罪しながらも、彼女は変装する為に自身が身に纏っているメイド服を脱ぐことにした。

 

 そして翌日、彼女は動き出す。嘗てやっていた専業――サポーターとして扮する為に。




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