ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回は寄り道みたいな話となっています。


予想外の出会い③

「7階層? この前『Lv.3』にランクアップしたベル君にしては珍しいわね」

 

「まぁ、ちょっと基本に戻ろうと思いまして」

 

 意外そうに言ってくるエイナさんに僕は苦笑していた。

 

 本日7階層の探索を終えた僕は、大剣の使い心地に満足しながらギルド本部へ訪れた。魔石やドロップアイテムを換金し終えた後、僕のアドバイザーであるエイナさんのもとへ顔を出したついで、控えめな近況報告をしようと足を運んだ。ランクアップによる感覚のズレを修正する為と説明し、エイナさんは納得の表情をする。

 

「そう言うことだったの。確かに基本は大事ね。ベル君はちゃんと自分の事を理解しているようで、逆に安心したわ」

 

「何かその言い方だと、他の人はあまりそうでない感じがしますね」

 

 少しばかり引っ掛かったので、僕が思わずそう言ってみると、エイナさんは眉を顰めながらも頷いた。

 

「ランクアップした冒険者の大半はどうしても気持ちが舞い上がってしまうの。そうなっちゃうのは分からなくもないんだけど、その所為で基本を疎かにしてしまう人がいるのよ」

 

「なるほど……」

 

 その後にエイナさんは他の冒険者に対する苦言と言うか、不満や愚痴を述べるように説明し始める。

 

 少しばかり聞き流しながらも、僕も身に覚えがあった。

 

 アークスに正式採用されて更に強くなったと認識した際、これで多くのダーカーを倒せると自信過剰になっていた。その後にキョクヤ義兄さんから『そんな脆弱な闇で己惚れるな!』と、慢心気味だった僕に喝を入れられて認識を改めたが。

 

 どうやら僕の推測通り、この世界の冒険者はランクアップするほど慢心気味になるようだ。と言っても、【ロキ・ファミリア】の人達は自分の力量をちゃんと把握している。あそこは団長のフィンさんや、幹部のアイズさん達と言う第一級冒険者の存在があって戒められているんだろう。

 

 エイナさんの話を聞いて僕は改めて決心した。再びランクアップした際は必ず基本に戻ろうと。もしくは己の慢心を打ち消す為に、強い誰かと手合わせするのも良い。と言っても、僕と相手してくれるとなると……ティオナさんかアイズさんぐらいだな。だけどあのお二方は有名な【ロキ・ファミリア】の幹部だから、そう簡単に手合わせしてくれないだろう。加えて世間体の目もあるし。

 

 あ、そういえば【ロキ・ファミリア】で思い出した。

 

「ベル君はこれからも基本を大事にするように、良いわね」

 

「勿論です。ところで、この前あった遠征でリヴェリアさんのランクむごっ!?」

 

 言ってる最中にエイナさんが片手で僕の口を塞いできた。余りの不意打ちだったので僕は避ける事も出来ずにされるがままだ。

 

 当然これは周囲の人達も凝視している。絶対にやらないであろうエイナさんの奇行に冒険者だけでなく、職員の人達も驚くように見ていた。

 

「あっ……ベ、ベル君、ちょっと向こうへ……!」

 

 自分の行動を理解したのか、エイナさんは手を放した後、顔を赤らめながらも場所を変えようと僕を連れて行った。

 

 お互いに気まずそうに席を立ち、空間のゆとりがある部屋の隅に向かう。付いて早々、途端にエイナさんが謝ろうとする。

 

「ごめんっ! いきなりあんなことしちゃって!」

 

「いや、何もそこまで謝らなくても」

 

 両手を合わせて頭を下げてくるエイナさんに僕は少し戸惑い気味だった。

 

 けど、この人がそうしてきたって事は今も尾を引いているんだろうか?

 

「リヴェリア様のランクアップについての詳細を知ろうと、情報開示を求めようとするエルフ達がいるのよ。『Lv.7』って言う世界最高峰に至ったから猶更に」

 

「詳細って……フィンさんが提出した報告書で公開されたんじゃないんですか?」

 

 この前の報告で遠征の詳細が書かれた報告書をエイナさんは受け取って確認している筈だ。その内容には当然、リヴェリアさんのランクアップも含まれている。

 

 因みに59階層で戦った『精霊の分身(デミ・スピリット)』は極秘扱いされている為、強大な未確認モンスターとして処理されている。同行した僕もフィンさんから『決して他派閥に口外しないように』と厳命されていた。僕としても、あんな恐ろしく悍ましい存在を不用意に言い触らしたりしないつもりだ。

 

「そうなんだけど、リヴェリア様だけはそこまで具体的に書かれてなかったの。『深層にいたモンスターを倒した事でランクアップした』ぐらいとしか。『Lv.6』にランクアップした三人はまだしも、『Lv.6』のディムナ氏やランドロック氏を差し置いて、リヴェリア様だけが『Lv.7』に至ったのがどうにも腑に落ちなくて」

 

 ……成程。どうやら僕がリヴェリアさんに長杖(ロッド)――ゼイネシスクラッチを貸した事は伏せているようだ。それを使った事でランクアップしたなんて知られたら最後、神々や冒険者達に狙われ続ける日々を送る事になるのは確定となる。フィンさんはそれを考慮して、敢えて報告書に記さなかったんだろう。

 

 あの人の気遣いに内心感謝してると――

 

「ねぇベル君、確か君は治療師(ヒーラー)としてディムナ氏達に同行したよね? 答えられる範囲内で構わないから、どうか教えてくれないかな? 誰にも話さないって約束するから」

 

「え゛?」

 

 エイナさんが物凄い真剣な顔で、僕に当時の遠征内容について訊きだそうとしてきた。こればっかりはフィンさんとの約束もあるので誤魔化さざるを得ない。

 

 さり気にリヴェリアさんの事を何故そこまで知りたがるのか話題を逸らしてみると、思いも寄らない情報が入った。

 

 どうやらエイナさんのお母さんとリヴェリアさんは親交があり、エイナさん自身も色々とお世話になっていたようだ。家族ぐるみの付き合いがあるなら、知りたいのは当然か。

 

 けれど、だからって教える訳にはいかない。悪いけど今後の生活に影響してしまうから、申し訳ないと思いつつも誤魔化す事に専念させてもらった。

 

 

 

 

 

 

 あれから一日経った。

 

 エイナさんからの追究を何とか逃れ、今日も再びダンジョン探索……はしなかった。

 

 向かっている方向はダンジョンだけど、今回僕が行くのはダンジョンの上にある『摩天楼(バベル)』だ。

 

 バベルはダンジョンの蓋をするように築かれた超高層の塔であり、摩天楼施設となっている。ダンジョンの蓋と述べたように、バベルはダンジョンの監視と管理の役割がある。加えてギルドが保有しており、冒険者にとって最も馴染みの深い建物だ。

 

 僕がそこへ行くのには理由がある。バベルに武具系統のお店があるからだ。今回はそこで防具を見ようと思っている。

 

 今は基本に戻る為にこの世界の大剣を使っているので、いっそ防具も揃えてみようと考えた。勿論アークス用の防具は今もステルス化して装備している状態になってる。

 

 とは言え、流石に重苦しそうなものを使う気は無い。あくまで自分が纏ってる防具と重なっても問題無い物を身に付けるつもりだ。

 

 今回は【ヘファイストス・ファミリア】が経営してるお店に行こうと思ってる。本当なら【ゴブニュ・ファミリア】へ行こうと思っていたけど、神様が『【ヘファイストス・ファミリア】は防具も凄いから』と豪語していたので、その勢いに負けた僕は変更する事にした。

 

 流石にいないとは思うけど、万が一に椿さんと遭遇したら即行退散するつもりだ。鉢合わせて捕まったら最後、遠征の時みたいに武器を貸してくれとしつこく強請って来るのが目に見えてる。

 

 どうか椿さんと会いませんようにと祈りながらバベルの門をくぐり、ダンジョンがある地下でなく上へと向かった。

 

(へぇ、この世界でもエレベーターがあるんだ。作りは全然違うけど)

 

 失礼な事を考えながら、魔石を利用した昇降設備(エレベーター)を使ってバベルの四階へと到着する。

 

 神様から聞いた話だと四階から八階のテナントは全て【ヘファイストス・ファミリア】のものらしい。それを聞いて【ロキ・ファミリア】とは違う意味での凄さが物語っている。

 

 ふと店先に陳列窓(ショーウィンドウ)があったので、思わずそこにあった銀の全身鎧(フルプレートメイル)の価格を見てみると……何と五千万ヴァリスだ。前の遠征で得た報酬でもギリギリ買えるが、生憎と僕には興味の無いものだった。アレはどう見ても僕が装備してる防具と重ね着が出来ないから。

 

 重ね着が出来る軽防具も当然あるが、余りにも高過ぎるので買う気にはならなかった。明らかにダンジョン上層で利用していいものじゃない為、僕は高額な防具を一通り見た後に、バベルの八階へと向かう。その途中、()()()と思われる人が僕を凝視していたが、敢えて気にしない事にしている。

 

 再びエレベーターを利用して、時間を掛けて八階へと昇っていく。

 

 到着早々、八階にある店へ入ると、先程の四階と同じような光景が映る。

 

 武器は勿論の事、その他防具も多々あるが違う点があった。それらの値段は四階と違って凄く安く売られていた。今見ている槍の値段は一万二千ヴァリスだ。

 

 安い理由は当然ある。この階にある武装は全て末端の職人が作ったものだ。故に値段が安価となっている。色々と経験を積ませ、有名になるであろう上級冒険者と繋がりを構築する場だと、これも神様から聞いた。

 

 ダンジョン上層で使うなら、ここにある防具で充分だと思った僕は値踏みするように見始める。

 

「っ! お、おい! あそこにいるのって、【亡霊兎(ファントム・ラビット)】じゃないか……!?」

 

「はぁ? 何言ってんだよ。この前『Lv.3』になった第二級冒険者がこんな所に来る訳が……ってマジでいた!」

 

「う、嘘だろ!? ってか、あんな熱心に見てるのって……もしかして此処で買う気なのか?」

 

「マジでか! だとしたら……!」

 

 ん? 何か大勢の()()()達が僕を見た途端、いきなり静かになったな。

 

 何か気に障る事でもしたのかと疑問に思ってると――

 

「い、いらっしゃいませ! 良かったらうちの武器を見に行きませんか!?」

 

「あ、コラ! ずりぃぞ! 【亡霊兎(ファントム・ラビット)】、私が作った武器はどうでしょうか!? 勿論お安くしますよ!」

 

「よかったら自分の武器も是非!」

 

「ちょ!? な、何で皆して僕に詰め寄って来るんですか!? それに僕は武器が欲しいんじゃなくて……!」

 

 多くの()()()達が押し寄せて来て、僕に武器を買って欲しいと熱烈なアピールをしてきた。

 

 この時は知らなかった。『Lv.3』にランクアップした僕は【ロキ・ファミリア】ほどじゃなくても、それなりに有名となって椿さん以外にも多くの()()()達が僕と専属契約を結びたがっている事を。




次回はアークスの彼女と会う前に、とある人物と出会う予定になります。

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