ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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原作とは違う流れになってます。


予想外の出会い⑤

「って、お前よく見たら【亡霊兎(ファントム・ラビット)】じゃねぇか!? 冒険者の常識では測れない非常識兎(クラッシャー)で、記録を塗り替えた世界最速兎(レコードホルダー)!」

 

「こ、声大きいですっ……って、非常識兎(クラッシャー)世界最速兎(レコードホルダー)って何ですか?」

 

 慌てながら、対面してるクロッゾさんに声を抑えるよう言う。

 

 場所は変わって、八階に設けられた小さな休息所。エレベーターの近くにある空間で、僕とクロッゾさんは話を交わしている。

 

 防具を購入した後、僕と話をしたいと誘われた。

 

 この人が()()()なので、恐らく何らかの交渉をする為だと僕は気付いたので断ろうと思った。けど、相手は自分が気に入った防具の製作者だから、それだと礼儀に反してしまう。

 

 そして僕が二つ名と同時に自己紹介をした瞬間、クロッゾさんは仰天しながら意味不明な単語を叫んで今に至る。

 

 どうやらクロッゾさんは戦争遊戯(ウォーゲーム)で見たコスチューム――『シャルフヴィント・スタイル』が相当印象強くて、普段着姿の僕を見て最初は気付いていなかったみたいだ。結構目立つ衣装なので、オラリオで買った普段着はある意味変装として今も活躍している。

 

「まさか今オラリオ中が注目してる噂の【亡霊兎(ファントム・ラビット)】が、俺の防具を買いに来るとはな」

 

「僕もまさか製作者のクロッゾさんにお会い出来るとは思いませんでした」

 

 一通りの世間話を済ませ、お互いに会うとは思っていなかったと苦笑するクロッゾさんと僕。

 

 すると、彼の表情から少しばかり陰りがさす。

 

「なぁ、その『クロッゾさん』っていうのは止めてくれないか? そう呼ばれるのは嫌いなんだ」

 

「え……んじゃぁ、ヴェルフさん?」

 

「さん付けか。まぁ、今はいいか」

 

 一先ずと言った感じで妥協しているクロッゾさん、じゃなくてヴェルフさん。その途端に右足を急に曲げて左膝の上に乗せ、そのまま隣に置かれているボックスに寄りかかった。

 

「なぁ、【亡霊兎(ファントム・ラビット)】! お前はついさっきまで多くの()()()達から勧められても断っていたのに、端っこに置かれてた俺の作品を買ってくれた!」

 

 ? 何でさっきまで話してた事を声を大きくして言っているんだろう?

 

 何だかまるで周囲の人達に態と聞かせるように………ああ、成程。そう言う事か。

 

 ヴェルフさんの意図がやっと分かった。この人は周囲にいる人達に宣伝し、僕と契約するところを目撃させようとしている事を。

 

 今になって気付いたけど、僕が彼と話している間、多くの人達が立ち止まってチラチラと此方を伺っていた。その中には僕に武器や防具を勧めた()()()達もいる。

 

 視線を向けた瞬間、向こうは何でもないように振舞いながら去って行くけど、結局は戻って再び様子を見ている。

 

「そしてお前は俺にこう言った。『ヴェルフ・クロッゾが作った防具を気に入ったから、最後まで使う』とな! これは即ち、もうお前は俺の顧客だ! 違うか!?」

 

「え、えっと……」

 

 どうしよう。このまま合わせて答えた瞬間、僕はもうこの人の顧客になっちゃうんですけど。

 

 でも、言ってる事は強ち間違っていないから否定できない。

 

 僕が初めて此処に来て、多くの()()()達から勧められても、自分に見合う物じゃなかったから全部断っていた。そんな中、ヴェルフさんの作品を一目で気に入って使おうとする。

 

 そして今後もヴェルフさんが作った防具を買おうとするだろう。他の()()()達が作った物よりも良いからと言う理由で。

 

 ………まぁ、椿さんに会う度強請られるのを考えたら案外悪くないかもしれない。まだ会って間もないけど、ヴェルフさんは椿さんと違い、今も僕の武器について問い質す事はしていない。

 

 恐らく自分の防具を買ってくれて嬉しさの余り一時的に忘れ、後になってから思い出すかもしれない。でも、最初にそれをやらなかった事を考慮すれば、偉そうに思われるけど充分に評価出来る。

 

 だからいっその事、ヴェルフさんと契約しても良い。尤も、防具に関してだけど。

 

「そ、そうですね。今後も良ければ、貴方の作品を買おうと思ってますから」

 

「おお、そうかそうか! って事は契約成立だな! 今後も! よろしくな!」

 

 直後、周囲にいる()()()達が舌打ちをし、中にはヴェルフさんを思いっきり睨んでいる人もチラホラいた。

 

 当の本人はそれに全く意に返さないどころか気を良くして、僕の手を取り力強く握手をしてブンブン振っていた。

 

 もう完全に諦めたのか、僕達を見ていた人達は段々いなくなっていく。

 

「悪かったな、ベル。縄張り争いついでに、いきなり猿芝居までさせちまって」

 

「ああでもしないと向こうは簡単に諦めないだろうなぁって、何となく分かりましたので」

 

 もし契約を断れば最後、一斉に他の()()()達から交渉される破目になっただろう。それも回避する為に契約をした理由でもある。

 

「でもヴェルフさん。折角のところ水を差すようで非常に申し訳無いんですが、僕が買うのは――」

 

「ああ、それ以上は言わなくていい」

 

 僕が言ってる途中、ヴェルフさんは遮るように片手を前に出した。

 

「あの強力な武器や魔剣があるからな。俺みたいな下っ端()()()が、アレに並ぶようなすげぇ武器を作れねぇって最初(はな)っから分かってる」

 

 けど、と言って話しを続ける。

 

「今後も俺の防具を使うなら、俺はお前専用の防具を作ろうと思ってる。【亡霊兎(ファントム・ラビット)】で【Lv.3】のベルが使ってくれるなら願ったり叶ったりだ。それだけで充分過ぎるほどのお釣りが出るからな」

 

 全く気にしてないと笑顔でキッパリ言うも、本当は武器も作りたいんじゃないかと一瞬思った。

 

 ()()()が契約を結ぶ以上、その冒険者に合わせる為の武器や防具を作る事になっている。謂わば中途半端な契約と言ってもいい。

 

 だけど武器に関しては全く困っていない。アークス用の武器防具がある他、訓練用としての大剣もある。唯一訓練用の防具がないから、そこを彼が作る防具で穴埋めとなった。

 

 ヴェルフさんには申し訳ないと思いつつも、武器はまたの機会にさせてもらう。万が一大剣が壊れて使い物にならなくなったら、もしかすれば頼むかもしれないが。

 

「分かりました。では防具が破損した場合、いつでも修理出来るようお願いします」

 

「おいおい、買って早々に壊す気か? 大切に使ってくれよ……と言いたいところだが」

 

 そう言いながらヴェルフさんはボックスに入ってる防具を取り出し、まるで調べるように見ていた。

 

「……ちっ、やっぱりか」

 

「何がですか?」

 

「この防具、全然売れなくて放置状態だったって話したろ? その所為で所々少しばかり劣化しちまってるんだよ」

 

「劣化?」

 

 僕では全然分からないけど、()()()が言うならそうなんだろう。

 

 でもずっと使わず放置されていたら、確かに劣化してもおかしくないか。

 

「ベル、折角買ってくれたところを悪いが、この防具を少しばかり俺に預からせてくれ。修理の他に補強もしたい」

 

「え? 補強もですか?」

 

「ああ。【Lv.1】が使うなら修理までで問題無いが、使い手が【Lv.3】のベルだと話が全く違う。防御力が足りなさすぎる」

 

 下っ端()()()なりの解釈だがな、とヴェルフさんは付け加える。

 

 修理と一緒に補強もやる事で、どうやら数日の時間が必要らしい。僕としても、本人が納得するまで是非やって欲しい。

 

 その間に感覚のズレは解消してるかもしれないが、僕の事を考えてやろうとしてるから、ちゃんと使う予定でいる。

 

 一先ず防具の購入後、ヴェルフさんとの防具のみの直接契約を結び、修理と補強が終わるのを気長に待つ事にした。

 

 

 

 

 

 

 ~ヴェルフがベルと別れた後~

 

 

「よし! 戻ってすぐに開始だ!」

 

「意気込んでるところ悪いが、ちょいと良いか?」

 

「ん? げっ、椿……!」

 

「何だ? 団長の手前がいて何か不味いのか、ヴェル吉?」

 

「べ、別に不味くねぇよ。で、俺に何か用なのか?」

 

「つい先程興味深い話が耳に入ってな。何でも【亡霊兎(ファントム・ラビット)】のベル・クラネルが手前達の店に来て、とある()()()と直接契約を結んだらしいぞ」

 

「………へ、へぇ~。それはまぁ、随分と運が良い()()()じゃねぇか……」

 

「そうだな。その()()()はさぞかしご機嫌であろう。契約をすれば、あわよくばベル・クラネルが持っておる武器について色々と聞けるかもしれないからなぁ」

 

「………………………」

 

「因みに契約をしたのは、黒い襤褸衣(ぼろそ)を身に纏い燃えるような赤髪の男らしい。手前の目の前におる奴とそっくりな男がな。しかも其奴は周囲におった()()()達の前で『ヴェルフ・クロッゾ』と高々に名乗っておったらしいぞ」

 

(やべぇ、もう完全にバレてる……!)

 

「全くしょうがない奴だ。手前を差し置いてベル・クラネルと契約を結ぶとはのぉ~。主神様から絶対行くなと厳命されて今も必死に我慢しておると言うのに」

 

「ま、待て椿、話せばわかる! それに契約つっても、アンタが思ってるようなものじゃ……!」

 

「それは手前の工房でジックリと聞かせてもらおうか」




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