ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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オリオンの矢⑪

 ファルガーさんが指揮する陽動部隊にモンスターを任せた僕達は、アスフィさんを先導に遺跡へ向かっていた。

 

 彼等が引きつけているお陰もあって、これまで一匹も敵と遭遇しないまま難なく進んでいる。

 

 そして一本道となっている遺跡の入り口まで到達し、その中に入ると僕は思わず周囲を見回してしまう。風化されても荘厳に作られた建造物で見入ってしまいそうだ。

 

「こんな遺跡があったなんて……」

 

「でっかいね~……」

 

 アイズさんとティオナさんはそれぞれ思った事を口にしていた。

 

「歴史に忘れられた、古代の神殿……」

 

 遺跡内の出入り口前に辿り着き、そう呟いたリューさん。

 

 けれど僕は周囲を見回している最中、ある事に気付く。

 

「……静かですね。モンスターの気配が全く感じない」

 

 てっきり入って早々に蠍型モンスターが出てくると思って武器を構えていたが、一匹も出て来ない事に却って疑問を抱く。

 

 アンタレスの考えがいまいち理解出来ない。野営地に奇襲を仕掛けたと言うのに、自身の本拠地している遺跡に兵を置くつもりはないのかな?

 

「先程の奇襲のこともあります。油断しないで下さい」

 

 僕の呟きを聞いたアスフィさんは警告してきた。

 

 出てこないと思わせて再び奇襲を仕掛ける、等のそんな可能性は充分にある。

 

「行きましょう」

 

 そう言いながらリューさんは先頭に立って遺跡に足を踏み入れた。

 

 僕達も続いて内部に入って進むと、多少薄暗くてもハッキリと見えた。周囲にある壁や、進む道も全て。

 

 松明(たいまつ)などの明かりが一切無くても、内部の構造がよく分かる。周囲の壁にある隙間から青く淡い光が漏れているように照らしている為、今もぶつかる事無く進んでいる。

 

「あの、この光は?」

 

「封印の光だ」

 

 僕の問いにアルテミス様が答える。

 

「これを施したのは私に類する精霊達。いわば私の最も古い眷族だ」

 

「そんな昔から……」

 

 光の正体が分かった僕は驚くように呟いた。すると、女神が巨大な蠍に矢を射ろうとする壁画を見付ける。

 

 この壁画のモデルとなってる女神と蠍って……もしやアルテミス様とアンタレス、なのかな?

 

 足を止めてしまいそうになるも、アスフィさんが進むよう促してきたので一先ず気にするのを止めた。

 

「着きました。ここが、お話しした封印の門です」

 

 周囲を警戒しながらも奥へ奥へと進んでいくと、先頭のリューさんが立ち止まった。

 

 そして目の前には大きな石の扉がある。リューさんやアスフィさんが言っていたこの門によって、今まで進攻(アタック)出来なかった。それが出来なかったのは神の力によって封じられていたから。

 

「いよいよってわけだねー……」

 

「この奥にアンタレスが……」

 

 先程まで興味深そうに周囲を見渡していたティオナさんとアイズさんだったけど、途端に雰囲気が打って変わった。

 

 特に凄い反応を示しているのがアイズさんだ。無表情でありながらも殺気立っていて眼光も鋭い。

 

「すいません、ちょっと待って下さい」

 

「【亡霊兎(ファントム・ラビット)】、一体どう言うつもりですか?」

 

 この先から本格的な戦闘になりそうだと思った僕は、前に進み出ようとするアルテミス様を止めた。それを見たアスフィさんがまるで咎めるように問う。

 

「えっと、門を開けてもらう前に、補助魔法をかけておこうかと思いまして」

 

「補助魔法?」

 

「あ! アレをやるんだね、アルゴノゥト君」

 

 鸚鵡返しをするアスフィさんとは別に、気付いたティオナさんは速攻で僕の隣に立った。アイズさんも同様に。

 

 神様達は一体何をするのかが分からないみたいだけど、説明している暇はないから、一先ず僕の周囲に集まるよう促した。

 

 取り敢えずと言った感じで皆が集まったのを確認した僕は、すぐにテクニックを発動させようとする。

 

(あか)き炎よ! 我が内に眠りし力を熱く滾らせ! シフタ!」

 

『!?』

 

「おお~!」

 

「力が沸き上がってくる……!」

 

 攻撃力活性の炎属性補助テクニック――シフタを使った後、遠征で体験したティオナさんとアイズさんは力が沸き上がる事に高揚していた。

 

 周囲にいる全員の攻撃力を上昇させ――

 

(あお)き氷よ! 我が身を守る不可視の鎧となれ! デバンド!」

 

 次に防御力上昇の氷属性補助テクニック――デバンドで全員の防御力を上昇させた。

 

 シフタとデバンドを使った事により、二人を除いたリューさん達は信じられないように驚いた表情をしている。

 

「ク、クラネルさん、今の魔法は……?」

 

 リューさんが驚愕しながらも僕に質問してきた。

 

 遠征でダンジョン深層に潜ろうとしたフィンさん達と似た説明をすると、周囲から仰天した声が出たのは言うまでもない。

 

「こ、攻撃魔法や回復魔法だけでなく、まさか【ステイタス】を上昇(ブースト)させる魔法まで使えるって……」

 

 信じられないように呟くアスフィさん。尤も、これはあくまで保険程度の補助魔法だから、そこまで驚く必要はないんだけど。

 

「いや~凄いねぇベル君。戦争遊戯(ウォーゲーム)の時からずっと気になってたんだけど、君は一体いくつ魔法が使えるんだい?」

 

「ざっと四十以上です」

 

 ヘルメス様からの質問に答えた瞬間、アイズさんとティオナさんを除く皆が突然石みたいに固まった。

 

 あれ、何でリューさんも一緒に固まってるんだ? 僕が複数の魔法(テクニック)を使える事は戦争遊戯(ウォーゲーム)の時に……あっ、そう言えばまだ教えてなかったか。

 

「こらこらベル君、そう言う事は答えちゃダメだって前に言ったじゃないか」

 

「あ、そ、そうでしたね……すいません」

 

 神様は皆と違って固まらなかったけど指摘をしてきたので、思い出した僕はハッとして思わず口を手で覆った。

 

「あはは、ヘルメス様達がリヴェリアみたいな反応してるね」

 

「誰でもそうなると思う」

 

 ティオナさんとアイズさんは、まるで経験者が語るような感じで固まるヘルメス様達を見ているのであった。

 

 

 

 

 

「ご、ごほん。では気を取り直して……」

 

 皆が正気に戻った数秒後、アルテミス様が前に進み出る。

 

 扉に描かれている紋章に手を振れた途端、アルテミス様の全身が淡い光に包まれた。恐らく神威に反応しているんだろう。

 

 アルテミス様の神威によって、大きな石の扉がゆっくりと開かれる。

 

 封印された扉の先を見た直後……僕達は目を見開く事となった。さっきまでの石造りの神殿から一変して、肉の網が張り巡らされた悍ましくも醜悪なモノと化していたから。加えて、その壁の周辺には木の実と思わせるような楕円形の物体がある。

 

「なに、これ……?」

 

「神殿に寄生している……」

 

 余りの光景にティオナさんとリューさんが唖然としていた。

 

 これを見ていると嫌な思い出が蘇ってくる。僕がアークスとして活動していた際、地獄と呼べる『ダーカーの巣窟』へ強制転送された時の事を。

 

「……これ、あの時の食糧庫(パントリー)と少し似ている」

 

 アイズさんは何か心当たりでもあるのか、肉の網を見ながらそう言った。

 

 食糧庫(パントリー)は確か、オラリオのダンジョンでモンスターの食糧がある場所だ。この光景と似たような食糧庫(パントリー)でもあったんだろうか。

 

「そんな……」

 

「まさか、ここまでとは……」

 

 アルテミス様とヘルメス様は予想外と言うような反応を示していた。

 

 未だに何か隠しているお二方も、こんな状況になるとは思っていなかったんだろう。

 

「ッ! 出口が!」

 

 アスフィさんの叫びに僕達が振り向くと、さっき通った石の扉が突然肉の壁によって覆われていた。まるで僕達が侵入してきたのを見計らって閉じ込めたように。

 

 だけど、それだけでは終わらなかった。壁に張り付いている楕円形の物体が嫌な音をしながら割れると、その中から何かが出てきた。僕達の目の前に落ちたのは、あの蠍型モンスターだ。

 

「まさか……」

 

「あれが全部、卵!?」

 

 リューさんと僕の台詞が皮切りとなったように、他の卵も次々と孵化して産み落とされていく。

 

 この光景に、蟻型ダーカーの上位種『エル・ダガン』を思い出す。ダニ型ダーカーの『ブリアーダ』が『ダガン・エッグ』を放出させた後、それから多くのエル・ダガンが産み出されて襲われた経験がある。

 

「突破します!」

 

 内心またしても嫌な事を思い出したと眉を顰めながらも、リューさんの掛け声に全員が戦闘態勢に移った。それを見た蠍型モンスターの群れも動き出して、僕達に襲い掛かろうとする。

 

 

 

 

 

「おりゃぁ~!」

 

「ふっ!」

 

 一度に複数の蠍型モンスターを斬り裂くティオナさんに、確実に一匹ずつ仕留めていくアイズさん。

 

 前衛を務めている第一級冒険者二人の猛攻に敵は為す術がなかった。僕が貸した武器に加え、シフタで攻撃力を上昇させたから、産まれたばかりのモンスターが紙屑みたいに斬り裂かれていく。

 

 因みに僕は二人の援護をする為の中衛を務めており、武器も長杖(ロッド)――カラベルフォイサラーにしている。長銃(アサルトライフル)でも良かったけど、周囲にある卵が一斉に孵化したら、攻撃テクニックで一掃しようと考えたので。

 

 アイズさん達が倒し続けてる際、一匹の大きな蠍型モンスターが僕達の前に立ちふさがろうとする。

 

「【剣姫】、【大切断(アマゾン)】、下がって下さい!」

 

「「!」」

 

 指示を聞いた二人は即座に後退した。それを確認したアスフィさんは前に出ながら、懐から何かを出して放り投げる。二つの容器が蠍型モンスターに直撃し、液体が外の空気に触れた瞬間に爆発して炎の柱が立った。

 

 敵が悲鳴を上げて悶える中、包み込んでいく炎によって絶命したと思っていたが――

 

「まさか……」

 

「耐えきった……」

 

 予想外の展開になってる事で僕とアイズさんは驚きの声を出した。何故なら蠍型モンスターは死んでいなかったから。

 

 けど、驚くのはそれだけじゃない。何とモンスターは見る見る内に巨大化する上に、甲殻も強靭になっている。

 

「そんな、爆炸薬(バースト・オイル)が効かない……!」

 

「自己増殖、自己進化……。この中では、それすら異常なスピードで進むというのか……」

 

 アスフィさんが唖然とする中、ヘルメス様から余り知りたくない言葉が聞こえた。あのモンスターは僕達と戦いながらも進化していくと。

 

 それは非常に厄介だ。今はアイズさん達が善戦していても、時間が経てば経つほど不利になってしまう。そう考えると、一刻も早くアンタレスの元へ辿り着いて倒さなければならない。

 

 炎の柱が消えると、進化した蠍型モンスターは今以上に大きくなり、更には周囲の卵も孵化し、新しい個体が次々と出現して僕達の前に立ち塞がる。

 

「このままでは、ダンジョンを超える存在になってしまう……」

 

 僕と同じ考えに至ったのか、リューさんが恐ろしい事を口にした。

 

 こんな所で躓いている訳にはいかないと思い、一先ずアレ等をさっさと倒そうと決意する。

 

目覚めるがいい(フォトンブラスト)!」

 

「ッ! この魔法は……! 皆さん、すぐに下がって下さい!」

 

 僕が前に出て早々に詠唱の序盤を口にした瞬間、自身の周囲から大きな魔法陣が出現した。戦争遊戯(ウォーゲーム)で使った時のアレだと思い出したリューさんは、皆を下がらせるよう叫んでいた。

 

「漆黒の闇よりも暗き獣 地獄の道へと(いざな)う守護者 汝が下す裁きの鉄槌にて 黄泉に彷徨う哀しきも愚かなるものに 我と汝が力もて 我が意のままに 我が為すままに突き進むがいい!」

 

 早口で詠唱を紡ぎ、魔法陣はどんどん巨大化していき、透明化しているマグも幻獣と姿を現わそうとする。

 

「出てこい、我が愛しき闇の幻獣――一角獣の幻獣(ヘリクス)!!」

 

 詠唱を終えた直後、僕の頭上から巨大な一角獣の幻獣――ヘリクスが姿を現した。僕が『Lv.3』にランクアップしたのか分からないけど、ヘリクスの身体が一回り大きくなった気がする。

 

 少々大きいヘリクスの出現に蠍型モンスターは怯んだように動きを止めるも、僕は気にせず指示を出そうとする。

 

「蹂躙せよ! ヘリクス・ブロイ!」

 

『オォォオオオオオオオオ!!』

 

 僕が技名を告げた途端にヘリクスは雄叫びをあげ、フォトンを纏った大きな角を蠍型モンスターの群れへと突進していく。

 

 産まれたばかりの個体は勿論の事、アスフィさんの攻撃で進化したモンスターも、ヘリクスの突進を止めれずに角に刺されながら凄い勢いで轢かれていく。更にはフォトンによる衝撃波で、周囲の壁にあった卵は孵化されずに吹っ飛ばされた。

 

 さっきまでいた筈の蠍型モンスターの群れや、周囲の卵は全て無くなった。

 

『……………………』

 

「……は、はははは……流石はベル君、もうあっと言う間に倒しちゃったね」

 

 誰もが口を開きながら呆然としている中、ヘルメス様は頬を引き攣らせながらも思っていた事を口にしていた。

 

 目の前の脅威がいなくなったので、僕達はこの隙に奥へと進もうとする。




久しぶりに中二病詠唱を出しました。

感想お待ちしています。

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