ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
サポーターのリリルカさん、もといリリ――向こうからリリと呼んで欲しいと言われたので――を雇う事になった僕は妙な違和感を抱えたままダンジョンへと向かう。
ダンジョンで誰かと一緒に行くのは【ロキ・ファミリア】の遠征以来だ。少しばかり緊張する。
けど、今回はサポーターだけ。あの時と違って多くの冒険者達と一緒ではない。だから僕一人だけで彼女を守りながらモンスターと戦う事になる。
ギルドの講習や【ロキ・ファミリア】の遠征で知っての通り、サポーターは後方支援が中心の役割となっている。戦闘には極力参加せず、倒したモンスターの後処理や、所持してるアイテムを使って冒険者のケアを重点的に行う。更には魔石や
と言っても、それは相手を信頼しての話だ。会ったばかりの人を全面的に信頼する事は出来ない。いくら僕がお人好しと言われても、それくらいの警戒感くらいは持ち合わせている。
必死に自分を売り込もうとしてるリリには申し訳ないけど、今回の探索は少し控えめにさせてもらう。彼女が信頼に足る相手を見極める為に必要な措置として。
それはそうと、僕とリリは現在ダンジョン7階層にいる。【Lv.3】にランクアップした感覚のズレを治す他、基本のおさらい中だ。
『ジギギギギギギギッ!』
「よっ、と!」
『ビュギ!?』
上空から降下してきた『パープル・モス』を往なし、片手で軽く振った大剣で叩き斬る。
羽ごと頭を失った巨大蛾は絶命しながら、そのまま地面に強く叩きつけられた。
「次ぃ!」
僕が向かう場所には二匹のキラーアントがいる。
大剣を構えながら突進していく僕に、モンスター達は反応に遅れた。
『『――ガッ!?』』
一気に距離を詰めて連続攻撃を加えるハンター用の
上半身だけジタバタと暴れる二匹のキラーアントだったが、徐々に弱まって動かなくなり絶命する。
「ベル様お強い~!」
モンスターを蹴散らした僕とは別に、リリは手慣れているように僕が倒した死骸を一か所に纏めていた。
サポーターならではの手慣れた動きだった。称賛しながらも周囲に注意を払い、モンスターとの鉢合わせは引き起こしてない。加えて僕の邪魔にならないよう、死んだモンスターの手足を遠慮なしに掴んで地面を引き摺っている。
正直ああ言う支援はありがたい。足場に不自由しなくて楽に戦える。そう考えると、やはりサポーターがいるのといないのでは全然違う。
『キュー!』
リリの行動に内心感謝していると、一匹の『ニードルラビット』が額に生えてる鋭い角を僕に向けながら突進してくる。
大剣を持ってる僕の間合いに入り込んでくるが――すぐに片手で掴んで阻止した。
「甘い!」
『ギュッ!?』
僕が即座に横の壁に強く叩きつけると、勢い余って掴んでいる鋭い角を折ってしまった。壁にめり込んだニードルラビットは自身の血で塗れながらピクピクとしていたが、すぐに動かなくなって絶命する。
ランクアップによるおかげか、素手だけでも上層のモンスターを簡単に倒せるようになっている。それだけ僕の身体能力が上がっている証拠だ。
『――グシュ……ッ! シャアアアアアアアアアア!』
「わああっ! ベ、ベル様ーっ、また生まれましたぁー!?」
キラーアントの禍々しい産声と、リリの叫びを聞いた僕はすぐに振り向いた。
残っていたモンスターをすぐに片付け、壁から這い出ようともがいているキラーアントを見て、僕は片手で持ってる大剣を急遽逆手に持ち直す。
「ふんっ!」
『グヴュ!?』
距離は約一〇
その直後にスドンッと壁に突き刺さる音が響き渡り、大剣で上半身を貫かれたモンスターはぐったりと力を失った。
「………あの、ベル様? このキラーアント、大剣ごと壁に埋まっちゃってますよ?」
「ゴメン。リリの近くで出現したから、投げた方が手っ取り早いと思って……」
壁から抜け出す前に仕留めたキラーアントに、僕は少しばかり汗を流した。己の身長より高い位置にあるモンスターに向かってピョンピョン飛び跳ねていたリリは、謝る僕を見て少しばかり苦笑していた。
「ま、まぁリリを守る為にやったのでしたら……」
取り敢えず助かったと言った感じで納得するリリだった。
その後は漸くルームに静寂が訪れて一段落を終えた僕達は、魔石の回収作業に取り掛かろうとする。
けど、リリがサポーターのやる事だからと言ったので、僕はモンスターの襲撃を警戒するだけとなった。
「上手いもんだねぇ。僕とは大違いだ」
「これくらいしか取り柄がありませんから。リリとしては、さっきまでのモンスター達を簡単に倒したベル様の方が凄いですよ。特に素手のみで一撃で倒したのもありますし」
そう言いながら、自前のナイフで綺麗に魔石のみを切り抜くリリ。洗練されていた技術に僕は見てて勉強になると思った。
僕の場合だと四苦八苦しながら魔石を取り出してるので、彼女みたいに上手く出来ない。こればかりは経験の差、と言うべきだろう。
「しかしベル様、今更ですけど【Lv.3】になった貴方様が、どうして上層に留まっていらっしゃるんですか? 中層へ行くと思っていたのですが……もしかしてリリがいたから――」
「いや、違うから。ランクアップを機に、ちょっと基本に戻ろうと上層にいるだけだからね」
アークス用の武器を使えば話は別だけど、と内心付け加えながら。
「そうでしたか。では例の魔剣や魔法を使わないのも、それに関係してですか?」
「まあ、ね。余程の事が起きない限り、この上層で使ったりはしないよ。そうじゃないと練習にならないからね」
この世界でアークス用の武器やテクニックを使って基本に戻ったところで大して意味も無い。何かしらのハンデを背負った事をしなければ、ランクアップによる感覚のズレを修正する事は出来ないので。
「成程。もしよろしければリリに見せてくれませんか? 【
作業をしながらも頼んでくるリリに、僕はどうしようかと悩んだ。
この前フィンさんやヘファイストス様から、他所の冒険者に見せないよう警告されている。だから見せる事はしない。
と思ってるんだけど、何故か分からないがリリに見せても問題無いような気がする。何と言うか、まるで僕の同僚みたいな感じが有るような無いような……。
まぁ取り敢えず、ここは断っておこう。まだ出会って間もない人に易々と見せる訳にいかない。
「ゴメンね、リリ。僕としてはあんまり人に見せびらかす事はしたくないんだ。出来ればまた今度で」
「……分かりました」
少々残念そうに言うリリだが簡単に引き下がった。向こうも『流石に他所の冒険者相手に手の内は見せられないか』と思って諦めたんだろう。
「ところで、あのキラーアントをそろそろ降ろしてくれませんか? ベル様が大剣で壁ごと突き刺した所為で魔石が採れませんから」
「え? あ、そ、そうだったね……!」
リリに言われるまで気付かなかった僕は、すぐに大剣を引き抜いた。直後に死骸となってるキラーアントもズルズルと落ちていく。
「因みに、その大剣はどこで手に入れた物なんですか? リリが見ただけでも、かなりの業物と見受けられますが」
「ああ、コレは――」
大剣なら問題無いと思った僕は、リリに入手経路を教えた。【ロキ・ファミリア】の遠征中に遭遇したミノタウロスを倒して手に入れた後、鍛冶系【ファミリア】に整備してもらったと。
「ベ、ベル様、あの有名な派閥の遠征に参加されたのですか!?」
聞いていたリリは物凄い顔をして驚いていた。確かに彼女が驚くのは無理もないかもしれない。何たって都市最大派閥の【ロキ・ファミリア】だし。
その後、一通りの回収作業を終えた後、僕達は地上へ帰還する事にした。
ついでに今回の探索で、リリは信頼に足る相手であると判定を下している。まだ油断出来ないけど、回収作業はとても勉強になるから、そのやり方は存分に学ばせてもらう。
「う~ん、ベル様は見た感じアークスっぽいですが……どうも断定出来ませんね。せめてテクニックだけでも披露してくれれば良かったんですが……はぁっ。暫く様子を見ますか。この前の
まだお互いに疑問を抱いているアークス二人でした。
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