ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回は連続投稿です。


予想外の出会い⑧

「へぇ、他所の【ファミリア】のサポーターを雇ったんだ。うーん……」

 

「と言っても上層限定ですけどね。やっぱり不味いですか?」

 

 ダンジョン探索を終え、ギルド本部の面談用ボックスで、僕はエイナさんにリリの事を相談していた。彼女と別れ、アンティで消臭して換金所へ寄り、真っ直ぐここへ足を運んだ。

 

 因みに今回リリに報酬は無しとなっている。僕としては普通に山分けするつもりだったけど、向こうから回収した魔石とドロップアイテムを渡された。今回は報酬よりも信用を得られたので問題無いって。

 

 どうやら僕が信頼に足る相手なのか見極めている事に気付いていたようだ。けれどそれは僕に限った話でなく、他の冒険者達にも言える話らしい。

 

 そう言う訳もあって、報酬は全て僕の懐に収まり、信用出来るリリを今後も雇う事となった。いつもバベルにいるから、いつでも会えますと言っていたので。

 

「アドバイザーの私があれこれと口出し出来る立場じゃないんだけど……ベル君から見てどうなの、そのリリルカさんっていう子は?」

 

「いい子でしたよ。サポーターならではの支援も出来てて凄く助かりましたし」

 

 仕事ぶりも含めて、僕のリリへの心証はそんなに悪くない。

 

 それに……何かあの子はどこかで見覚えがある。と言っても彼女本人は全く知らないけど、あの洗練された動作が今でも引っ掛かっていた。思い出せそうで中々思い出せない状態に陥っている。

 

 何とか解消するには、暫くリリと同行すれば思い出すかもしれないと様子を見る事にしている。でも、これは本当に一体何だろうか。

 

 一応探索中にさり気なく訊いてみたが、あの子は【ファミリア】から仲間外れ、孤立していると語っていた。僕は神様じゃないけど、嘘を言ってる感じはしなかったと思う。本当にありのままの事をいっただけ、そんな感じがしたので。

 

「その子の所属している【ファミリア】とか分かる?」

 

「確か、【ソーマ・ファミリア】だと言ってました」

 

「【ソーマ・ファミリア】か……んー、正直言って余りベル君にお勧めできないところが出て来たなぁ」

 

「え? 【ソーマ・ファミリア】って、何か問題がある【ファミリア】なんですか?」

 

 尋ねる僕にエイナさんが「ちょっと待って」と口にして、既に用意していた大型のファイルをパラパラとめくり出した。直後にポケットから取り出した眼鏡をかける。

 

 正確な公式情報を詳しく教えてくれようとしているみたいだ。僕としても非常に助かる。

 

「【ソーマ・ファミリア】は【ロキ・ファミリア】と同様に典型的な探索系【ファミリア】。他の【ファミリア】と少し違うのは、ちょっとだけで、商業系にも片足を突っ込んでいることかな」

 

「商業系? ということは、何か商品を出しているんですか?」

 

「うん、お酒を販売しているの」

 

「お酒って……宴会とかで飲むお酒ですか?」

 

「そう、それ。品種や市場に回す量自体は少ないんだけど、味は絶品だっていう話だよ。しかもオラリオの中でも需要はかなり高いみたい」

 

 商業活動を本格的にやっても充分通用する、とエイナさんは付け足す。

 

 ダンジョン探索する冒険者は死と隣り合わせだから、それが嫌な場合は安全な商業を選ぶ人もいる。と言っても商業は成功するか失敗するか、ある意味ギャンブル的要素がある。その商品でお客の心を掴まなければ売れる物も売れない。

 

「【ファミリア】の中でも実力は中堅の中堅だね。前にベル君が戦争遊戯(ウォーゲーム)で戦った【アポロン・ファミリア】ほどじゃないけど、あそこの冒険者はみんな平均以上の力を持ってる。構成員の数が凄いけど……まぁ一人で何十人もバッタバッタと倒すベル君からすれば、大した事無いかな」

 

「エイナさん、何も僕を引き合いに出さなくても……」

 

「それだけあの時の戦争遊戯(ウォーゲーム)は凄く印象に残っているって証拠なの。あ、ごめん。話を戻すわね。主神である神ソーマは、信仰はされているみたいね。噂の良し悪しは、全くと言っていいほどないわ」

 

「良し悪しが無い? それはつまり、ソーマ様って他の神様達と全く関わり合いがないって事ですか?」

 

「むしろ神ソーマはそっちの話で有名みたいね。神達の開く催しには一度も出てないらしく、交友もさっぱり。浮世離れも同然で、逆に神ソーマと面識ある神がいるのか? って言われるぐらいね」

 

 随分と極端と言うか何と言うか。人付き合いの良い神様やタケミカヅチ様と全く正反対だ。加えてロキ様も。

 

 でも分からないな。そんな可もなく不可もない【ファミリア】相手にお勧め出来ないんだろうか。

 

「エイナさん、話を聞く限りですと【ソーマ・ファミリア】はそこまで評判の悪いところとは思えないんですが」

 

「確かに【ファミリア】自体に問題はないっていう感じかな。……ただ」

 

「ただ?」

 

 言い難そうに眉を曲げていたエイナさんだが、決断するように口を開いた。

 

「これはあくまで私の主観なんだけど、【ソーマ・ファミリア】の冒険者達は、普通の【ファミリア】の冒険者とは雰囲気が違うの。仲間内でも争っていると言うか、死に物狂いっていうか……」

 

「……生き急いでいる、とか?」

 

「そういうんじゃないんだけど、何て言えばいいのかなぁ。………とにかく必死なんだよね、あそこの【ファミリア】に所属する人、全員が」

 

 全員って……それは当然リリも入っているけど、僕が見た感じとてもそんな風に見えなかった。何だかまるで、【ファミリア】の事なんかどうでも良いように聞こえたけど。

 

 リリの言ってた事と、エイナさんからの情報が食い違っている所為で、【ソーマ・ファミリア】が一体どんな組織なのか全く分からなくなった。

 

 これは少しばかり調べてみた方がいいかもしれないな。

 

「あ、でもねベル君、私はその彼女をサポーターとして雇うのは反対してないわ。むしろ賛成するよ」

 

「え?」

 

「確かに【ソーマ。ファミリア】にはきな臭いところもあるけど、ベル君が心配してるような揉め事は起きないと思うから」

 

「そう、ですか」

 

「それに、ベル君に喧嘩を売る行為なんてしたら、【アポロン・ファミリア】と同じ目に遭うと思うし」

 

「仮にもし向こうが仕掛けてきたら、それなりのおもてなしはさせてもらいますが」

 

 キョクヤ義兄さんからも、『仕掛けてきた愚者には相応の闇を照らすがいい』とキツく言われている。

 

「それはそれで不安だけど……。まぁとにかく、ベル君なら心配はなさそうね。そうだ、良かったらサポーターの名前を教えてくれないかな? 今後も雇うなら、アドバイザーの私としても知っておきたいから」

 

「あ、はい。リリルカ・アーデって言います」

 

 そして一通りの話を終えた僕は、ギルド本部を出ようとエイナさんと別れた。

 

 

 

 

 

 

(う~ん……。ああは言ったけど、やっぱりちょっと不安かなぁ……)

 

 エイナは早まった返答をしたのではないかと少し後悔し始めていた。

 

 ベルに公開情報を確かに教えたが、先日に起きた事を敢えて話さなかった。少し前に【ソーマ・ファミリア】の冒険者が、換金所で揉めていた事を。

 

 リヴェリアが『Lv.7』にランクアップした事で、都市外も含めた多くのエルフ達が頻繁にギルド本部へ訪れて少しばかり鳴りを潜めていた。だが、それが漸く収まりつつあるところを、再び換金所で【ソーマ・ファミリア】との諍いが再開される事となった。

 

 また面倒事が起きている事にギルド職員達、と言うより換金所の鑑定員達は辟易している。もう相手にしたくないと思うほどに。

 

 簡単に説明すると、【ソーマ・ファミリア】の構成員達は「もっと金を寄こせ」と一点張りの要求をしてくる。向こうが用意した魔石やドロップアイテムに見合う額を出しても必ず難癖をつけるから、鑑定員達が揉めるのは当然であった。

 

 その光景を目にしていたエイナや同僚のミィシャ、職員達は彼等の行いを見て寒気を感じていた。何故あそこまで金に執着し、あんな醜い行為を平然と行うのであろうかと。

 

 そう考えると、ベルが雇ったサポーターも過去に似たような事をしているのではないかとエイナは不安を抱く。もしも金欲しさに、ベルが持っている武器や魔剣を売り捌くんじゃないかと。

 

 エイナの視点から見ても、ベルの武器は他の冒険者からすれば喉から手が出るほど欲しい代物揃いだった。特に戦争遊戯(ウォーゲーム)で使っていた、不気味な形状をした魔剣――正しくは長銃(アサルトライフル)――を誰もが欲しがっている。魔導士の魔法よりも速く威力のある魔力弾を放ったから、冒険者だけでなく武器商人も狙うほどだ。

 

 一応ベルにも気を付けるよう言っているが、お人好しな面が結構あるから、もしかすれば……等と言う事態が起きてもおかしくない。

 

(確か名前は『リリルカ・アーデ』だったわね……)

 

 万が一の事を考えたエイナは、ベルに【ソーマ・ファミリア】の公開情報を教えた大型のファイルを再度開いた。見ているのは人数でなく、構成員の名前が載ったリストの方を。ダンジョン探索する際は登録が必要となので、冒険者だけでなくサポーターも当然含まれている。

 

(あ、あった。え~っと、『リリルカ・アーデ』。『Lv.1』のサポーターで、種族は小人族(パルゥム)。現在は……え!?)

 

 パラパラと(ページ)を捲ると、対象の名前を見付けた。が、それに書かれている単語を見たエイナは信じられないように驚き、思わずもう一度読み返す。

 

(『現在消息不明』って……これもう数年前の内容じゃない!)

 

 エイナは詳細内容をじっくりと読み込む。

 

 同じ【ソーマ・ファミリア】の冒険者とパーティを組んで探索中の際、突如発生した怪物の宴(モンスター・パーティ)で分散されて消息不明となる。地上へ帰還した冒険者の報告でそう書かれていた。

 

(どういうこと? ベル君の話と、このファイルに書かれている彼女は間違いなく同一人物のはず。でも、どうして……)

 

 ダンジョンで消息不明、それはもう『死亡』を意味する。18階層などの安全階層(セーフティポイント)でずっと隠れ潜んでいたなら辛うじて納得出来るが、生憎と彼女が消息不明となったのはダンジョン7階層。非力同然のサポーターが到底18階層まで行ける訳がない。

 

 それが何故今になって彼女が地上でベルと遭遇したのだろうか? 【ソーマ・ファミリア】は彼女が生きている事を知っているんだろうか? もしくは冒険者がギルドに虚言の報告をしたんだろうか?

 

 エイナはもう完全に混乱状態となっている。けど、これを機に彼女は決心した。一度【ソーマ・ファミリア】について密かに調べてみようと。中立を保つギルド職員がやってはいけない越権行為だが、数年前とは言え【ソーマ・ファミリア】がギルドに虚偽の報告をした事に変わりないので、何を言われてもそれなりの対抗が出来る。

 

 

 

 

 

 

「はぁ? リリルカ・アーデが生きているだと? 何寝ぼけたことを言ってやがる。あのガキは数年前、俺がモンスターの群れに放り込んだのをお前も見たじゃねぇか」

 

「そ、そうなんですが、でも俺見たんすよ。この目で死んだ筈のアーデを」

 

「………確かなんだろうな?」

 

「へ、へい。間違いありません。確かにアーデのガキでした。それに小綺麗なメイド服を着てたから、今はどっか裕福な家にいるんじゃないかと思いますが」

 

「ほう。暫く見ねぇ間にいい暮らしをしてるのか。同じ【ファミリア】の俺達にまで内緒とは、いけねぇなぁ」

 

「カヌゥさん、探すのかい?」

 

「ああ。これはちぃっとばかしアーデにお仕置きをしねぇとなぁ。裕福な暮らしをしてるってんなら、今まで散々世話になった俺達への礼をしてもらわねぇと割に合わねぇからな」




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