ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回は幕間的な話です。


予想外の出会い⑨

「う~ん……」

 

 ギルド本部から出て僕は北西のメインストリートを歩きながら考えた。リリが所属している【ソーマ・ファミリア】について。

 

 エイナさんは問題の無い【ファミリア】と言っても、少々濁していた部分が見受けられた。多分他にも何かあるんじゃないかと僕は予想している。それが何なのかは今のところ分からないが。

 

 やっぱり少し調べた方が良いかもしれない。別にリリを疑っている訳じゃないんだけど、評判の良し悪しが全くない【ファミリア】と言うのは怪しい。表向きは良くても裏側で実は凄いあくどい事をしている……等と言うお決まりのパターンが存在する。嘗てのオラクル船団をルーサーが裏で支配していたように。

 

「お酒関連での情報だったら、やっぱり酒場かなぁ……」

 

「でしたら今夜はウチに来ませんか、ベルさん」

 

「いや、偶には違う酒場に行こうかと……え?」

 

 独り言の筈が会話となった事に気付いた僕が思わず振り向くと、『豊饒の女主人』のウェイトレス――シルさんがいた。

 

「シ、シルさん、どうして貴女が此処に?」

 

「今日はリューと一緒に食材の買出しです。ところで、ちょっとばかり聞き捨てならない台詞を――」

 

「シル、いきなりいなくならないで下さい! 貴女にもしもの事があったら――クラネルさん?」

 

「あ、リューさん」

 

 シルさんが言ってる最中、慌てるように路地から姿を現したリューさん。

 

 彼女は僕を見た途端、先程までの様子が打って変わるように少々驚き気味だ。

 

「ゴメンね。遠目でベルさんらしき人を見付けたから、つい」

 

「つい、ではありません。クラネルさんが本当にいたから良かったものの、もし人違いだったら……」

 

「もう! リューは心配性なんだから!」

 

 小言を言うリューさんに言い返すシルさん。

 

 よし、この隙に姿を消して――

 

「ベルさ~ん、どこへ行くんですかぁ~?」

 

 逃がさないと言わんばかりにシルさんが僕の左肩を掴んできた。

 

「あ、いや……! 食材の買出しと言ってましたから、お邪魔したら悪いと思いまして……」

 

「そんな事はありませんよ。これからお店に戻るところですから。それはそうと、先ほどミアお母さん以外の酒場へ行こうとしていたみたいですね」

 

「え゛?」

 

「ほう、それは私も聞き捨てなりませんね」

 

 シルさんが話を戻した所為により、今度はリューさんも加わって僕に詰め寄ろうとしてくる。

 

 何なんだろうか。この二人、別に怒ってはいないんだけど、途轍もない威圧感が……!

 

「貴方はもう既に『豊饒の女主人(うち)』の常連です。なのにシルを放っておいて、別の店で浮気とは私も到底見過ごせません」

 

「ちょ、浮気って……!?」

 

 リューさんの言ってる事がおかしい。確かに僕はあの店の料理が好きで行くけど、別の店に行くだけで浮気って極端過ぎませんか!?

 

 それと前々から思ってましたけど、僕っていつからシルさんの付き合ってる事になってるんですか!? そこを是非とも教えて欲しいです!

 

 取り敢えずどうにか誤解を解こうとするも、シルさんだけでなくリューさんも僕の右肩を掴んでくる。

 

「な、何でリューさんまで!?」

 

「折角ですので、このままお店に行きましょう。私達が戻ったら夜の営業時間開始ですので。じゃあ行きましょ、リュー」

 

「了解しました。では参りましょうか、クラネルさん」

 

「ですから……ってお二人とも、僕の意見は無視ですか!?」

 

 訳ありだと説明しても、シルさんとリューさんは全く聞いてないように僕の肩を掴んだまま『豊饒の女主人』へ連行される事となってしまった。

 

 はぁっ、何でこんな目に……。僕はただ、【ソーマ・ファミリア】のお酒を販売してると思われる酒場から情報を聞き出そうと思っただけなのに……。

 

 一応その気になればファントムスキルを使って逃げれるんだけど、そうしたところで後日、二人から色々と言われる破目になりそうなので諦めた。

 

 まぁ『豊饒の女主人』も酒場だから、もしかしたら何かしらの情報はあるかもしれない。この際、ウェイトレスのシルさん達や店主のミアさんに訊いてみるとしよう。

 

 

「【亡霊兎(ファントム・ラビット)】の野郎、見せ付けやがって……!」

 

「俺達に対する当てつけかよ……!」

 

「クソガキがっ! 有名になったからっていい気になってんじゃねぇ!」

 

 

 因みに僕が可愛いウェイトレス二人に挟まれて移動してる事に、道を歩いている男性陣からめちゃくちゃ睨まれる破目となっていた。

 

 多分だけど、強制連行されているんですと言ったところで絶対信じてくれないだろうなぁ。あんまり考えたくないけど、もし此処でティオナさんと遭遇したらとんでもない事になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

「【ソーマ・ファミリア】の酒? 生憎だけど、ウチにあんなクソ高い酒なんか仕入れちゃいないよ」

 

「そうですか」

 

 シルさんとリューさんに『豊饒の女主人』に連行された僕は、カウンターにいるミアさんから【ソーマ・ファミリア】の酒があるか訊いてみた。注文したジュースを飲みながら。

 

 けど、やはりこのお店には扱っていないようだ。メニュー表でもそれらしきお酒は無いのが分かっていたので。

 

 もうついでに、僕を強制的に連れて来られたウェイトレス二人は今も接客中だった。僕がお店に入った直後、急にドッとたくさんのお客が入って忙しくなった為、二人は(特にシルさんが泣く泣く)諦める感じで仕事に専念している。

 

「そのお酒ってどれくらい高いんですか?」

 

「販売してる店によって値段はまちまちだが、少なくとも一本だけ5万ヴァリス以上は確実だよ」

 

「ご、五万ヴァリス以上!?」

 

 余りにも高額なお酒であった事に、僕は思わず吹き出しそうになった。

 

 五万ヴァリス以上って……僕が今飲んでるジュースの値段は五十ヴァリス未満だ。額が全然違い過ぎる。酒一本だけで宴会並みの料金に匹敵してるじゃないか。

 

 僕の質問に答えていたミアさんが怪訝そうな目で見ている。

 

「ってか、何で坊主がそんな事を知りたがるんだい? ここは情報屋じゃなくて、飯を食べて酒を飲む所なんだけどねぇ」

 

「あ、す、すいません。他の酒場で訊いてみようと思ってたんですが、シルさん達に無理矢理連れて来られて……」

 

「ほう? 常連になった坊主はアタシの店以外の所に行こうとしてたのかい? そいつは聞き捨てならないねぇ」

 

 あ、やばい。今この店にいるのに、店主の前で他の店の事を言うのはタブーだったのを忘れてた。

 

 けどもう時すでに遅しで、ミアさんは段々と不機嫌そうに目を細めていく。

 

「じゃあ今日は坊主が他の店に目移りしないよう、アタシ自慢の料理で腹いっぱい食って貰おうか」

 

「ええ~、そんなぁ~……。ではその代わり、ミアさんの知ってる範囲内で構いませんから、【ソーマ・ファミリア】のお酒について教えてもらえませんか?」

 

「………まぁそれくらいは良いだろう。言っとくが、残したら承知しないからね」

 

「分かりました。では本日のお勧め料理一品目からお願いします」

 

「あいよ、ちょいと待ってな」

 

 こうして僕はお勧め料理三品を頼む事となった。しかも全部大盛りで。おかげで合計金額は約二千ヴァリスと、少々高い情報料となってしまった。

 

 美味しい料理を食べながら、ミアさんから聞いた情報は結構興味深い内容ばかりだった。

 

 リリが所属してる【ソーマ・ファミリア】の酒は、大衆向けの酒場じゃなく、静かな雰囲気とした高級志向の酒場で売られているようだ。前にフィンさんの誘いで行った酒場みたいなところと思えば良い。

 

 しかし、残念だけど僕にはとても合わないどころか、とても一人で行く店じゃない。フィンさんに頼めば連れてってくれるかもしれないけど、あの人は【ロキ・ファミリア】の団長で色々と忙しいだろうから、簡単に承諾してくれるとは思えない。

 

 けど、更に興味深い情報も聞けた。酒場が仕入れているであろう【ソーマ・ファミリア】の酒を販売してる店をいくつか教えてもらった。機会があれば行ってみようと思う。

 

「ベルさん、ミアお母さんと何を話していたんですか?」

 

 すると、丁度話を終えたミアさんがいなくなった直後、いつの間にかシルさんが僕の隣の席へちゃっかりと座っていた。

 

「逆に問いますけど、シルさん。お仕事は良いんでしょうか? リューさん達がとても忙しそうですけど」

 

「大丈夫です。少しくらいは抜けても――うきゅぅ!?」

 

「人が目を離してる隙にサボってんじゃないよ、不良娘!」

 

 以前の再現と言うべきか、厨房から戻って来たミアさんがお盆でシルさんの頭を叩いた。

 

 結局注意された事で、またしても泣く泣くと席を立って再び仕事をするシルさんだった。

 

 

 

 

 

 

「お爺さん、用意したご飯はちゃんと食べましたか?」

 

「勿論じゃとも。リリちゃんの料理はとても美味しいから、(じじい)今日の夕食を楽しみに待っておったわい」

 

「そうですか。ではすぐに作りますので、もう少し待ってて下さい」

 

「……なぁリリちゃんや、何でまたサポーターなんぞ始めたんじゃ? リリちゃんが良かったら、(じじい)の店で働いても良いんじゃぞ?」

 

「………嬉しい申し出ですが、そうしたらお爺さんに多大なご迷惑をお掛けしてしまいます。こうしてリリを匿ってくれるだけで充分ですので」

 

「そうかい。先に言うておくと、(じじい)はリリちゃんがいないとダメかもしれん。掃除や料理や洗濯をしてくれるから、もう依存してしまいそうじゃわい」

 

「でしたらリリ以外のメイドを雇ってみてはどうでしょうか?」

 

「それは無理な相談じゃ。リリちゃんみたいに出来たメイドじゃなければ、(じじい)は満足出来んからの」

 

「そうですか……(まさかルコット様から教わったメイド作法が、これほど役に立つなんて思いもしませんでしたね)」

 

 この時のリリは再度誓っていた。もしも万が一に【ソーマ・ファミリア】の連中が嗅ぎつけて、大切な場所(ここ)を破壊する行為をした瞬間、絶対に【ファミリア】ごと壊滅(ぶっころ)してやると。




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