ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回はフライング投稿です。


予想外の出会い⑨.5

 ベルがサポーターのリリルカ・アーデを雇って数日経った。

 

 未だ思い出せない状態のままのベルに対し、リリルカはベルがアークスであるか確信を持てないままである。

 

 さり気なく情報を聞き出そうとするも、お互いが警戒してる事によって適当にはぐらかしたり誤魔化したりと、全く進める事が出来ないでいた。端から見れば、腹の探り合いをしてるように思われるだろう。

 

 二人が分かった事と言えば、お互いに所属してる【ファミリア】についてだった。主に表向きの情報についてだが。

 

 ここで話を変えさせてもらう。ベルは現在、オラリオでかなり注目されている有名冒険者だ。つい最近、ギルドから【ロキ・ファミリア】の遠征に参加したと情報公開されて更に注目の的となっている。多くの冒険者や商人、神々が様々な目的で接触しても拒否され逃げられる始末。

 

 そんな有名になったベルが、大して名も知らぬサポーターと契約したと言う情報を他の【ファミリア】が知ったらどうなるだろうか。ついでに某赤髪の()()()と契約した事も含めて。

 

 

 

 

「あの子にしては、らしくない寄り道をしているわね。どう言うつもりなのかしら?」

 

 そう呟く美の女神――フレイヤ。

 

 巨塔バベルの最上階でいつもの日課をしようと、遥か下方に見える白い影を見てる中、もう一つの影と一緒に歩いていた。

 

 彼女は白い影――ベルを愛しいものみたいに熱い視線を注いでいる。しかし、その日課の中で白い影は奇妙な動きをしている事が分かった。

 

 一番に驚いたのは、ベルがバベルに来た時の事だ。ダンジョンに行くのかと思えば、何と上へ向かっていたのだ。その時のフレイヤは、もしや自分の視線に気付いて会いに来たのではないのかと少々舞い上がっていた。が、結局は【ヘファイストス・ファミリア】の末端()()()と契約した事で一気に気落ちする破目となった。

 

 次はその翌日、名も知らぬ少女(サポーター)を雇ってダンジョン探索している。これを見ていたフレイヤは一瞬、ほんの一瞬だけ殺意を抱いた。何処の馬の骨とも知らない小娘風情が私のベルに近付くなんて、と言う殺意の嫉妬を。

 

 何とか抑えつつも、フレイヤはベルの行動を覗見(みまもり)続けるが、数日経っても未だに分からない。あの子は一体何をしたいのかと疑問が募るばかりだった。

 

「……まぁいいわ。あの子が無駄な事をしないのは確かだから、もう少し様子を見てみましょう。でも……」

 

 絶対無いとは言い切れないが、万が一にあの少女(サポーター)がベルを我が物にしようと分かった瞬間、裁きの鉄槌を下すと決めている。

 

 思考を切り替えようと、フレイヤは一旦ベルから視線を逸らす。こうでもしないと、一日中見てしまう。入り口で佇んでいるオッタルが声を掛けない限り。

 

「オッタル」

 

「はっ」

 

 突如、彼女はオッタルを近くへ呼び寄せる。

 

「聞いた話だと、あの子はここ最近上層に留まっているみたいね。実力を考えれば、あんな所で満足出来る相手がいるとは思えないのだけど」

 

「恐らく、ランクアップによる感覚のズレを修正する為ではないかと」

 

「修正? ああ、そういうこと」

 

 オッタルの推測を聞いたフレイヤは理解したと言うより思い出した。冒険者がランクアップすると、身体と感覚が合わなくて一時的にズレが生じる事を。

 

 ベルが『Lv.2』になった際、そう言ったズレは全く見受けられなかったから問題無さそうだと思っていた。けれど『Lv.3』で漸くソレが現れたんだろう。

 

 考えてみれば前代未聞の異例だ。彼は冒険者になって一年どころか半年も経っていないのに、たった数ヶ月で『Lv.3』にランクアップするのは普通にあり得ない。【ロキ・ファミリア】の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインでさえ、『Lv.2』にランクアップするのに一年掛かった。それでも異例な最短記録なのだが、ベルはそれを更に超えて異常だ。もはや非常識でもある。それ故にベルは非常識兎(クラッシャー)と呼ばれている。

 

 今まではどこまで自分を楽しませてくれるのかと見ていたフレイヤだが、オッタルに言われるまですっかり忘れていた。それだけ自分はベルに夢中になっていたと改めて認識する。

 

 しかし、それとは別に面白くない事があった。今回ベルが『Lv.3』にランクアップしたのは【ロキ・ファミリア】の遠征によるものだった。本当だったら自分が与えた試練で強くさせるつもりだったが、オッタルが強くさせたミノタウロスがあっさり敗れてしまった為、大した成果もなく無駄骨となってしまった。そこを【ロキ・ファミリア】が横取りするように彼を深層まで連れて行き、そして強くさせた。フレイヤからすれば非常に腹立たしい結果となっている。

 

 フレイヤは既にベルは自分のものだと認識してる。そこを【ロキ・ファミリア】が接触してる事に、最初は勝手にベルを遠征に許可無く連れて行くなとロキに直接警告したかった。尤も、それはあくまでフレイヤが勝手に決めてるだけで、ロキからすればそんなの知った事ではない。「うち等は別に強制なんてしとらんわ。あくまでベルに参加の有無を提示しただけや」と反論するだろう。

 

 事実であっても、彼が【ロキ・ファミリア】との繋がりが一段と強くなったのは頂けない。出来れば自分も何かしらの繋がりを持ちたいと考えていた。とは言え、今のフレイヤは影ながら見守ると言うスタイルを取っている為、直接会う訳にもいかないと少し自省する。

 

 ではどうしようかと思考を巡らしている最中、ふと部屋の隅に鎮座している本棚が視界に入った。彼女の体を容易に覆いつくす程、幅が広くて高い本棚が。

 

「これがいいわね」

 

 本棚に近付いた彼女は細い指を中段に伸ばし、ある分厚い本の背表紙に引っ掛ける。コトンと音を鳴らして倒れ込み、そのまま彼女の手の中に収まった。

 

 念の為に中身を確認するも、フレイヤは問題無さそうに頷いた。

 

「オッタル、この本を……」

 

「?」

 

 あの子に渡してきてと言い出すフレイヤだったが、途中で言葉を切った。

 

 呼ばれたオッタルは言葉を待つも、彼女は考える。オッタルが目の前に現れて無言で本を差し出し、ベルが簡単に受け取ってくれるだろうか?

 

 否。断じて受け取らないだろう。それどころかオッタルだけでなく自身(フレイヤ)も警戒されてしまう恐れがある。いずれ自分のものにするからと言って、悪印象を抱かれる訳にはいかない。

 

 万が一、それが【ロキ・ファミリア】の耳に入りでもしたら面倒な事になってしまう。彼の為に全面戦争をするのは吝かではないが、今はまだその時期じゃないから面倒事は避けたかった。

 

 再度考えを改めた。直接手渡さなくても、向こうが手にするだけでいいと。

 

 そして、あそこへ置いてこよう。あの娘がいるあの店へ。そうしておけば、後はどうにでも愛するベルのもとへ渡るだろう。

 

「フレイヤ様?」

 

「いえ、何でもないわ。今のは忘れてちょうだい」

 

「は」

 

 若干放置気味だったオッタルに謝るフレイヤは、クスクスと笑みを漏らしながらも動き始めた。




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