ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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予想外の出会い⑩

 リリをサポーターとして雇い何日か経っても、僕は相変わらず思い出せない状態だった。

 

 そんなモヤモヤのまま、いつもの如くダンジョン探索しようとした矢先、今日は急遽お休みとなってしまった。リリが突然そう言ってきたので。

 

 理由を尋ねると、どうやらリリが現在下宿でお世話になってる家主さんが、転んだ際に腰をぶつけてしまって寝たきり状態になったそうだ。誰かがいないとまともに動けないほど酷いとも言っていた。薬などを使ってどうにか容体は回復したけど、二~三日は付きっきりで看ないといけないらしい。

 

 そう言う事情の為、今日のダンジョン探索は無しになってる。僕だけでいくのは別に問題無いけど、リリを除け者にするような気分になったからダンジョンに足を運ばなかった。未だに感覚のズレは解消されてないけど、焦らずにゆっくりやろうと自分に言い聞かせて。

 

 今日は家事に専念しようと、新本拠地(ホーム)の掃除でもしようかと思った際、ある事を思い出した。この前受け取ったシルさんお弁当入りのバスケットを返してない事に。

 

 それを思い出した僕は昼頃に返しに行こうと思い、午前中は掃除の時間に費やす事にした。と言っても今の本拠地(ホーム)は広い屋敷だから、一人でやるのは一日以上掛かってしまう。なので自室とリビングとキッチン、後は普段使う廊下のみと言う必要最低限の簡易的な掃除で済ませる。流石に神様の部屋は無理だから、そこは神様自身でバイトが休日の時にやってもらう事にしよう。

 

 

 

 

 

 

「う~ん、思わず借りちゃったけど……」

 

 本拠地(ホーム)に戻った僕はリビングにあるソファーに座りながら両腕を組み、テーブルの上に置いてある物体と睨めっこしていた。

 

 午前中に掃除を終えた後、バスケットを返すついでに昼食を済ませようと『豊饒の女主人』へ向かった。訪れた僕にシルさんは吃驚しながらもバスケットを受け取り、彼女と談笑しながら昼食を取っていた。仕事中である筈のシルさんが僕と談笑してはいけない筈だけど、丁度休憩を言い渡されていたみたいだ。なんか意図的な休憩だなぁと思いながらも、敢えて口にしなかった。そこで突っ込めば最後、色々と不味いかもしれないと思ったので。

 

 それはさておき、昼食を終えて本拠地(ホーム)に戻ろうとした際、シルさんから――

 

『ベルさん、今日お休みでしたら読書なんていかがですか?』

 

 と言われて、分厚い本を渡された。

 

 談笑してる時に僕がダンジョン探索はお休みにしてると聞いたシルさんは、折角の機会だからと言って本を用意したのだ。

 

 お店にある本かと思って確認するも、お客さんの誰かがお店に置き忘れていた本だと聞いた僕は断ろうとした。いくらなんでも、人様の本を無断で借りる訳にはいかないと。

 

 しかし、結局借りる事となってしまった。理由は勿論ある。言うまでもなくシルさんだ。

 

『本は読んだからと言って減るものではないし、ちゃんと返して頂ければ問題ありません。これは恐らく冒険者様のものですから、同じ冒険者のベルさんのお役に立つ事が載っているかもしれません』

 

 聞いていた僕は、矢鱈と熱意がこもった説得だと思いながらも、結局は押しに負けて今に至る。

 

 それにもし無理にでも断ろうとしたら、後々に面倒な事になる予感がした。涙目になったシルさんを見たリューさんが烈火の如く怒りそうな気がしたので。

 

 とまあ、そう言う訳で僕はこうして本と睨めっこしている。読むべきか止めておくべきかと。

 

 あの時は状況が状況だったから受け取ってしまったけど、やはり勝手に読むのは些か抵抗がある。こうしてる間にも、もしかしたらこの本の持ち主が店に置き忘れたと気付いて回収しに来てるんじゃないかと考えてしまう。

 

 帰る前に僕はそう懸念した際、『大丈夫です。その時は私が責任持って対応しますから』とシルさんが答えた。何故あそこまで自信をもって言い切ったのかは不明だけど。

 

「………まぁ読むだけ読んでみよう」

 

 シルさんから感想を聞かれるかもしれないと思った僕は、この本の持ち主に申し訳ないと思いながらも読む事にした。

 

 少し緊張しながらも片手で本を持ち、もう片方の手で題名の記されていない表紙をパラりと捲る。

 

『ゴブリンにも分かる現代魔法!』

 

 いやいや、ゴブリンに魔法教えちゃ駄目でしょ……。もしかしてこれって『バカでも分かる』的な意味合いのタイトルかな?

 

 やっぱり読むんじゃなかったと後悔するも、取り敢えず耐えることにした。

 

 最初はアレな題名だったが、中身は割と健全だったのでそのまま読み始める。

 

 内容については、この世界で使う魔法についてだった。先天系と後天系に大別する事について細かく書かれている。

 

 魔法の単語を見た瞬間、リヴェリアさんの魔法を思い浮かべてしまう。【ロキ・ファミリア】の遠征時、深層で見せたあの人の魔法は途轍もない威力だった。大量の新種モンスターや、非常に厄介な『精霊の分身(デミ・スピリット)』に深手を負わせた。後者は僕が長杖(ロッド)を貸したが、それでも充分過ぎるほどに凄かった。

 

 発動する際に超長文詠唱が必要で無防備になると言う欠点はあるが、あの凄まじい威力を見て納得せざるを得なかった。『精霊の分身(デミ・スピリット)』戦の時に使ってなければ、あそこまでの大逆転は出来なかったと今でも断言出来る。

 

 対して僕が扱うテクニックは、(本来詠唱は必要無いけど)僅かな時間さえ発動出来る。上級テクニックは一番威力があると言っても、リヴェリアさんの魔法に比べれば児戯に等しいだろう。

 

 比較をするならリヴェリアさんの魔法が戦略兵器に対し、僕のテクニックは戦術兵器。どちらもメリットやデメリットはある。フォース至上主義のマールーさんが知れば、テクニックの方が魔法より一番優れていると長々と説明するかもしれない。

 

 僕があの人の魔法に対抗出来るとしたら……複合テクニックだろう。その名の通り、複数の属性を組み合わせたテクニックであり、僕が使えるテクニックとは比べ物にならない威力を持っている。

 

 嘗てフォースクラスで修行してた際に使用した事があった。風と雷の複合属性テクニック――ザンディオン、炎と闇の複合属性テクニック――フォメルギオン、氷と光の複合属性テクニック――バーランツィオン。他にも略式複合テクニックもあるが割愛する。

 

 その中で特に使っていたのがフォメルギオンだ。合わせた両手から炎と闇の力を放ち、捕らえた目標を獄炎に包みながら全てを焼き尽くすテクニックに、キョクヤ義兄さんが一番に勧めていた。アレこそが僕の闇を一番に照らす力であると豪語する程に。尤も、ザンディオンやバーランツィオンも状況に応じて何度か使った事もある。それを知ったキョクヤ義兄さんは苦々しい顔をしていた。特にバーランツィオンを使った事に対して。

 

 ファントムクラスでも使えれば非常に心強いけど、複合属性テクニックはフォース、もしくはテクターのクラスにならなければ発動しない条件がある。故に使うことが出来ない。

 

 本を読みながら、複合属性テクニックについて思い浮かべながら頁を捲る。

 

『貴方は魔法よりも、こちらを望むか』

 

 ……………え?

 

 突然、知らない女性の声が聞こえた。

 

 しかし、僕はその声に対する警戒感が全くない。知らない筈なのに、何故か酷く懐かしく感じる。

 

 一体誰なんだろうと思いながらも、更に頁を捲る。

 

『私が貴方の人生を引き裂いた元凶であるにも係わらず、それでも私を恨まず求める事に謝罪と感謝を』

 

 僕の人生を、貴女が? 

 

 何でそう言ってくるのか分からないけど、僕は恨んでなんかいません。

 

 お爺ちゃんと別れても、あそこにはキョクヤ義兄さん達がいてくれたから今の僕がいる。不謹慎だけど、逆に感謝しています。

 

 頁を捲る。

 

『それでもありがとう。私の気紛れで無理矢理付き合わせてしまったことに変わりないのだから。償いとして、何か私に出来る事があれば言ってほしい』

 

 何か凄い義理堅い人だなぁ。

 

 と言うか僕、今話してる女性の声が誰なのか全く分からないんだけど。そんな人から償いと言われても、逆に此方が申し訳ない気持ちになる。

 

 まぁ無理だとしても、言うだけタダなので言ってみるとしよう。

 

 じゃあ……フォースやテクターでしか使えない複合属性テクニックを、ファントムクラスでも使えるようになりたいです。

 

『受諾した。本来今の貴方では許されざる力であるが、償いとして、その(ことわり)を一部書き換えよう』

 

 え? それってつまり、今の僕でも複合属性テクニックを使えるようにするって事ですか?

 

 頁を捲る。

 

『然り。だが非常に申し訳ないが、これには代償を必要とする。本来無用だが、貴方の背中に刻まれし恩恵により阻まれており、私でも手の施しようがない』

 

 恩恵って、もしかして『神の恩恵(ファルナ)』の事かな? それによって何らかの代償を必要としているのかな?

 

 どんな代償かは分からないけど、それでも複合テクニックが使えるなら構わない。流石に寿命が縮むとかだったら勘弁して欲しいけど。

 

『安心するがいい。貴方が思っているような危険な代償ではない。私やアークスにとって非常に不要で理解しがたいものだ』

 

 それって一体何なんですか?

 

 気になりながら頁を捲る。

 

『それは―――』

 

 女性が言おうとしてるが、突如僕の意識は暗転してしまった為に聞けなくなった。

 

 

 

 

 

 

 見知らぬ女性の声の話を聞けないまま、僕は目を覚まして身体を起こした。

 

 その先にはバイト帰りの神様がいて、既に夜七時となっている。

 

 寝惚けた頭をどうにか覚醒させ、夕食の準備に取り掛かった。その際に神様も手伝おうとして、二人でキッチンに並ぶ事を頬を染めて嬉しがっていた事に、釣られて笑ってしまったのは内緒だ。

 

 食事を済ませてシルさんから借りた本の事を教えた後、久々の【ステイタス】更新をする事にした。『Lv.3』にランクアップし、感覚のズレを自覚してから控えていたが、神様がやっておいて損は無いと言われたので。

 

 現在、神様の部屋にあるベッドを拝借して更新してると――

 

「な、何だこの魔法はぁぁぁ!?」

 

「え?」

 

 突然頓狂な声を出す神様に僕は思わず振り向いた。

 

 

《略式複合テクニック》

 

 発動条件 

 

 ・長杖(ロッド)装備時

 

 【レ・フォメルギア】

 

 ・詠唱式【虚無の狭間を焦がす黒炎の槍よ、全てを闇に還して貫け】

 

 【レ・ザンディア】

 

 ・詠唱式【風雷の天地鳴動、今ここに現れる。天災は此処に汝らを穿つ】

 

 【レ・バーランツィア】

 

 ・詠唱式【沈黙の審判者よ。虚構なる光と氷の理にて翼となり、永久(とこしえ)の静寂を下せ】

 

 

《複合属性テクニック》

 

 発動条件 

 

 ・長杖(ロッド)装備時

 

 ・テクニックによる法撃のみで与えたダメージで蓄積

 

【フォメルギオン】

 

 ・詠唱式【深淵に燻りし黒炎は、二度(ふたび)の覚醒と闘争を呼び覚ます。闇の炎に抱かれて眠れ】

 

【ザンディオン】

 

 ・詠唱式【荒れ狂え、暴風と迅雷よ。不浄なる者を蹂躙せよ】

 

【バーランツィオン】

 

 ・詠唱式【無慈悲なる光と葬送の氷。織り成すは審判の剣。汝、罪あり】

 

 

 

 

「ちょっ! か、神様、これは一体……!?」

 

 神様に手渡された用紙を両手で持ちながら、目が点になってる僕は思わず質問をした。

 

「知らないよ! 寧ろボクが知りたいぐらいだ! 何で一気に魔法が六つも発動してるんだい!? もうこれおかしいよ異常だよ!」

 

 余りにもぶっ飛び過ぎた内容だったのか、神様はうが~っと叫んで発狂寸前に陥っている。

 

 恐らく魔法について博識なリヴェリアさんが見たら完全に発狂するかもしれない。神様ですら、既にこんな状態だから。

 

 そして僕と神様がどうにか落ち着くのに、かれこれ三十分掛かってしまう事になってしまった。




余りにもご都合主義だと思われますがご容赦下さい。

見知らぬ女性に関しては、PSO2に出てきたキャラクターです。

活動報告で詠唱内容を書いてくれた

ZXZIGAさん、

ニンニクソルジャーさん、

本当にありがとうございます。

感想お待ちしています。

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