ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回は所々区切って短い内容になっています。


予想外の出会い⑩.5

 翌日の朝。

 

 昨日は六つの複合テクニック習得で大騒ぎとなって疲れてしまい、取り敢えず続きは明日にして今日はもう寝ようと神様が言ったので、僕も何の異論もなく就寝した。

 

 そして朝食を済ませた後、検証を始めようとする。因みに神様は今日のアルバイトのシフトが午後からと言ってたので、それまでは暇だから検証をやろうとしているのだ。

 

 僕は神様に複合テクニックを覚えたかもしれない要因と思われる分厚い本を見せていた。

 

「……この本、よく見たら魔導書(グリモア)じゃないか」

 

「グリモア、ですか?」

 

 耳にした事の無い単語だが、神様の様子から察するに凄いモノだと言うのが何となく伝わった。

 

「簡単に言っちゃうと、魔法の強制発現書だよ……」

 

「じゃあ僕がその本を読んで複合テクニックが発動、したんですか?」

 

 確認するように問うと、神様はコクリと頷く。

 

「そう。魔導書(グリモア)は『発展アビリティ』の『魔道』と『神秘』っていう希少スキルを極めた者だけにしか作成できない、著述書なんだよ……」

 

 あ、それちょっと前にギルドの講習で軽く知りました。

 

 二種類の『発展アビリティ』習得者……最低でもLv.3以上の【ファミリア】構成員が、そこら辺の冒険者より遥かに強い人が執筆する魔導書があるって教わった。グリモアって言う単語までは知らなかったけど。

 

「ちなみにベル君、この魔導書(グリモア)は一体どう言う経緯で入手したんだい?」

 

「知り合いの人から勧められて、借りました……。聞いた話だと誰かの落とし物らしい、です……」

 

「………ごめん、ボクちょっとばかり頭痛がしてきた」

 

 ですよね~。落とし物だからって貴重な本を借りたなんて普通はありえない。そして知らなかったとは言え、それを勧めたシルさんの行動も含めて。

 

「一応確認したいんですが、お値段は?」

 

「【ヘファイストス・ファミリア】の一級品装備と同等、あるいはそれ以上だよ」

 

 高額な品だと分かってはいても、そこまでだとは流石に思わなかった。

 

「ちなみに、一回読んだら効能は消失する。使い終わった後はこの通りになって、ただ重いだけの奇天烈書(ガラクタ)さ」

 

 神様はそう言いながら本を開いて僕に見せるも、昨日に僕が読んでいた筈の内容が綺麗さっぱり消えて完全な白紙状態となっていた。

 

 ああ、ヤッテシマッタ……。

 

 えーと、現在【ヘスティア・ファミリア】の資産はそれなりの蓄えはあるけど、魔導書(グリモア)の弁償をしたら半分以上は確実に失ってしまう。

 

 折角貯めた資金が、まさかこんな形で失ってしまうなんて……ちょっとばかり鬱になっちゃいそうだ。借金よりは良いかもしれないと前向きに考えても、大打撃であることに変わりない。

 

 神様も僕と同じ事を考えてるのか、両手で頭を抱えながら「お金が~」と嘆くように呟いている。

 

 でもその前に……シルさんとちょ~っとばかりお話しないといけない。

 

 

 

 

 

 

「……それは、大変なことをしてしまいましたね、ベルさん」

 

「ちょっとシルさん、何でさも他人事みたいに言ってるんですか? 元はと言えば、この本を読むよう強く勧めたの貴女ですよね?」

 

 神様と一通り話をした後、僕は即座に酒場『豊饒の女主人』へと向かった。僕が来た事に店員の誰もが驚いていたが、それを気にせずシルさんを呼ぶよう頼んだ。

 

 シルさんが来たのを確認した僕はすぐに詰め寄って事のあらましを説明すると、話を聞いていく内に顔色を変えだして、最後にはそっと目を逸らされた。

 

 余りにも無責任過ぎる態度に、こればかりは僕もちょっとばかり怒りが込み上げてきた。

 

 もしキョクヤ義兄さんだったら、『貴様……覚悟は出来ているんだろうな?』と言いながら殺気を放っているだろう。流石に女の子相手には手を挙げる行為をしないけど。

 

「やっぱり、ダメですか?」

 

「……シルさん、僕もう今後は別の酒場の常連になろうと考えてるんですが」

 

「ごめんなさいっ!」

 

 あんまりやりたくなかったけど、暗にもう二度とこの店に来ないという脅しをすると、それを理解したシルさんは速攻で謝った。

 

 クロエさんやアーニャさんが言ってたように、この人本当にいい魔女してるなぁ。

 

「うっとおしいよ、坊主。人様の店で、朝っぱらから」

 

 そんな中、騒ぎを聞きつけた女将のミアさんが姿を現した。

 

 魔導書(グリモア)について一通り話した後……何と不問になってしまった。ミアさんが『店へ置いていったヤツが悪く、どの道誰かが目を通す事になっていた。気にするだけムダだから、得したと思って忘れろ』と、僕に一切の非が無いように堂々と言い切ったので。

 

 後味の悪い言い分に僕が複雑な顔をしてると、そこをミアさんがジロリと大きな横目で睨んできたので何も言えなくなった。

 

 まぁ、取り敢えず弁償の心配はないだろう。例え持ち主が抗議しても、そこは女将が有無を言わせない迫力を見せて黙らせると思うので。

 

 結果として魔導書(グリモア)の所有権は僕の物となったので、その事を神様に報告すると、ミアさんの機転に感謝しながら安堵していた。

 

 ついでに僕が店を出る前、前回と同じくシルさんから弁当入りのバスケットを受け取る事となった。気のせいだろうか、僕が受け取る度にシルさんは本当に嬉しそうな顔をしてて、まるで普段とは違う素のままの喜びを滲ませてるような気がする。何でそう思ったのかは分からないが。

 

 

 

 

 

 

「此処でいいかな」

 

 場所は変わってダンジョン5階層にある西端『ルーム』。当然リリはおらず、僕一人だけの探索だ。

 

 此処へ来た目的は、魔導書(グリモア)を使って習得した複合テクニックを試すため。幸いと言うべきか、現在この『ルーム』に冒険者は僕一人だけしかいない。

 

 僕にとって非常に好都合な展開で、試すにはもってこいだ。まるで思い通りのように、単身で佇んでいる僕をモンスターの大群が此方へ向かってくる。

 

 モンスターは『フロッグ・シューター』。『Lv.1』相当のモンスターで、近接の体当たりの他、遠距離の舌撃をしてくる少々厄介な相手だ。と言っても、それはあくまで『Lv.1』の冒険者から見ればの話だが。

 

 余りにも数が多いので、ここはアレを使って片付けるとしよう。

 

 そう思った僕は長杖(ロッド)――カラミティソウルを展開したまま始めようとする。

 

「【風雷の天地鳴動、今ここに現れる。天災は此処に汝らを穿つ】! 」

 

 複合テクニックを発動させる為に詠唱を口にした途端、前方の地面から魔法陣が浮かび上がってきた。

 

 それを確認した僕は、こちらへ向かってくるフロッグ・シューターの群れが魔法陣の中心まで進んだ直後――

 

「【レ・ザンディア】!」

 

『!?』

 

 風と雷の略式複合テクニック――レ・ザンディアを発動させた瞬間、雷をまとった竜巻が発生した。

 

 そのテクニックを直撃したフロッグ・シューターの群れは一匹残らず吸い寄せられ、竜巻で斬り裂かれながら、落雷を受けると言う悲惨な目に遭っている。

 

 最後の仕上げの仕草をすると、竜巻の中心に大きな落雷が発生した。それによりモンスター達は全て黒焦げとなって絶命したのは言うまでもない。

 

「う~ん、威力に関しては問題無いか」

 

 相手が弱くても、レ・ザンディアの威力と性能を試すのには充分だった。フォースクラスで使っていた時と全く変わらなく、雑魚を纏めて片付けるには最適なモノだと改めて認識した。

 

 そう考えると、炎と闇の略式複合テクニック――レ・フォメルギアや、氷と光の略式複合テクニック――レ・バーランツィアも同様の結果を示す筈だ。

 

 とは言え、検証は必要だ。ちゃんと確認しないと、いざ戦う時に威力や性能が異なってたら目も当てられない事態に陥ってしまう。覚えた技やテクニックを確認するのはアークスとして当然の事なので。

 

 さて、じゃあ次はレ・フォメルギアを試してみるか。その後にはレ・バーランツィアで、更にはメインの複合属性テクニックも試す予定である。

 

 どうでも良いけど、此処に僕だけしかいないのは本当に良かった。もし【ロキ・ファミリア】の誰かが目撃されたら、間違いなく問い詰められて――

 

「ベ、ベル君! 今の魔法はなんすか!? 初めて見たっすよ!」

 

「ラウルさん!?」

 

 何という凄い偶然か、探索に来たであろうラウルさんに僕の略式複合テクニックを目撃されてしまった。




久々にラウルを登場させました。

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