ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「はぁっ……まさかあそこでラウルさんに遭遇するなんてなぁ……」
夕日が落ちようとする時間帯。ダンジョン探索を終えた僕はトボトボと歩きながら
ダンジョン5階層でレ・ザンディアを試し撃ちした後、仰天しながら詰問してきたラウルさんと遭遇したのは全くの予想外だった。
でも、相手がラウルさんだったのは却って良かったかもしれない。もしあそこでリヴェリアさん、もしくはレフィーヤさんだった時の事を考えたらあの程度では決して済まないだろう。特にリヴェリアさんの場合、何が何でも知ろうと詳細を訊きだしていたかもしれないので。
あの後の事を簡潔にすると――
『ラウルさん、お願いです。さっき見た魔法はどうか内密に……!』
『いや、それは流石にちょっと……』
『ならせめて、報告するんでしたら先ずはフィンさんだけにして下さい。リヴェリアさんに知られたら、お互い面倒になると思いますから……!』
『……ひ、否定できないっすね』
『その代わりと言ってはなんですが、僕が持ってる武器をお貸しします。これでどうでしょうか?』
『え? 中層の時に使った武器っすか!? そ、それならお安い御用っす!』
リヴェリアさん達への口止め料として、以前ラウルさんに使わせた
以前メレンで端末機の事を内緒にするよう頼んだが、あの時はラウルさんが僕にコッソリとランクアップ可能と教えてくれた事で何とかなった。けど、今回はそれに見合う条件が無いから、僕の武器を貸すという妥協案を吞んでくれて取引成立となった。
これが僕の武器目当ての人だったら、条件を呑む振りをして騙そうとしてるだろう。しかし、ラウルさんは誠実で義理を果たしてくれる人だと知ってる。あの人だからこそ出せた条件だ。と言っても、フィンさんが団長命令で強制的に吐かせようとしたら話は別だ。もしそんな展開になれば、【ロキ・ファミリア】との今後のお付き合いを考えさせてもらうが。
そのフィンさんだけど、恐らく報告を聞いた後に緘口令を敷くかもしれない。リヴェリアさんが暴走するかもしれないと思いながら。
レ・ザンディアを見たラウルさんの反応は尋常じゃなかったので、僕がさり気なく『そんなに凄いんですか?』と訊いてみたところ――
『あんな短文詠唱であれ程の威力のある合体魔法は見た事ないっすよ! リヴェリアさんやレフィーヤも見たら同じ反応するっす!』
――と言っていた。
もしもあそこで、他にも5つの合体魔法があると知ったら更に仰天してるだろう。
たった一つだけでも魔導士でないラウルさんがあんな反応をしてたから、リヴェリアさんなら仰天を通り越して発狂するかもしれない。ただでさえ僕のテクニックに異常なほど興味を抱いているから。ついでに僕の武器である
………あ、武器で思い出した。この前買った防具――『
具体的な日数は言われなかったけど、折角だから明日行ってみよう。リリは明日も家主さんの看病してる為、僕の野暮用を済ませるのには丁度いい。
☆
「えっと、あの角を曲がって……」
翌日の午前。朝食を済ませ、
北東のメインストリートを歩み、大通りの両端に軒を連ねる大小の商店の他、奥には箱形の工場がいくつかあった。この辺りは工業区だから、工具などを取り扱う専門店や、魔石製品を扱う工場があるのは当然だ。
「ここかな……」
少々迷いながらも目的地と思われる、小ぢんまりとした平屋造りの建物を見つけた。
見るからに鍛冶屋と言う雰囲気を醸し出している。屋根の上には煙突が一本伸びていて、思わず愛嬌みたいなものを感じてしまった。
確かヴェルフさんから聞いた話だと、この一帯は職人たちの縄張りで、更には【ヘファイストス・ファミリア】の
だからこの近くには当然あの人――椿さんがいてもおかしくない。言うまでもないが、遭遇したらファントムスキルを使って即行退散しようと思ってる。端末機に接近してきたら(僕だけにしか聞こえない)アラームが設定してある。椿さんは【ロキ・ファミリア】とは別に要注意人物で情報登録済みだ。
前回行ったバベルの塔と違って、ここは本格的な【ヘファイストス・ファミリア】の
「すいませ~ん、ヴェルフさんいますか~? ベル・クラネルですけど~」
いくつかの工房から金属の打撃音が響いてる中、ヴェルフさんの工房と思われる建物の扉にノックしながら声を掛けた。
しかし、何の反応はなかった。もう一回呼び掛けてみるも、結果は変わらず。
周囲に誰もいないのを確認して、端末機で確認してみると……工房の中に生命反応がある。ヴェルフさんとは契約を結んだから情報登録をしてあるから、特定の色で示すように設定済みだ。と言っても、これは僕が勝手にやった事だけど。
生命反応があっても静かって事は……ひょっとして寝てるのかな? もしかして防具の補強が思った以上に梃子摺る余りに徹夜が続いて、今はぐっすり寝込んでいるとか……。
そう考えると、却ってお邪魔だったかも。今は椿さんがいないから絶好の
『え? ベル……!?』
また明日に出直すかと思って退散しようとする直前、途端に工房の中からドタバタと慌ただしい音が聞こえた。それを耳にした僕は足を止めて振り向く。
その数秒後に工房の扉がバタンと開いて、今起きたばかりと思われるヴェルフさんが出てきた。
「悪かったなぁ、ベル。お前がそろそろ来てもおかしくないのに寝ちまってて……」
「いえいえ、お気になさらず」
謝りながら工房へ招かれた僕は思わず周囲を見渡した。
入った瞬間に強い鉄の匂いがする。
それとは別に、沢山の鉄器が壁に吊るされていた。槌や鋏など、今まで目にすることのない道具ばかり揃っている。
オラクル船団にいた頃、刀匠ジグさんの工房を見た事はある。あそこも専門的な道具はあったけど、此処は全く別と言っていい。
思い出しながら見回してると、ヴェルフさんはある物を持って僕に見せようとする。
「見てくれ。これが新しく生まれ変わった『
「おおっ……」
僕は受け取りながらも防具――『
マークツーと言っても、そこまでの変更点はない。あるとすれば小さな紅玉が埋め込まれた手甲が手首から肘関節の直前まで及んでいて、ちょっとお洒落になったと言ったところだ。
鎧自体の軽さは大して変わってないが、前と違って装甲が厚めになっている。念の為に硬さを確認しようとノックするように指でコンコンッと軽く打つと、硬い音が返って来た。
今もステルス化した防具を装備してるけど、大して邪魔にならず重ね着出来そうだ。と言っても、流石に『シャルフヴィント・スタイル』を着た状態では流石に無理で、今僕が来ている普段着なら問題無い。
「どうだ? 俺の出来る限りの補強と改良を重ねてみたが、お前さんのお眼鏡に叶いそうか?」
「問題ありません。寧ろこんないい防具を僕が使っても良いのかと思うほどに素晴らしいです……!」
前に見た時に安心出来そうだと買ったが、こうして新たに生まれ変わった防具を見て、改めて買って良かったと思う。前以上の出来栄えになって感動するほどだ。
「ありがとよ。『Lv.3』のベルにそこまで言われると、
「これ、今此処で着てもいいですか?」
「勿論だ」
ヴェルフさんから了承を貰った僕は、少し離れたところで普段着の一部である上着を脱ぎ、『
採寸は既にバベルでしたけど、違和感があればすぐに言ってほしいと聞きながら装備するも、サイズに問題無くピッタリと収まった。
「ど、どうでしょうか?」
「おう、良いねぇ。作った自分が言うのもなんだが、まるでお前の為にある防具のようで凄く似合ってるぜ」
「あはは……」
その言葉を聞いた僕は思わず照れてしまい、片手で後頭部を掻いた。
防具について一通り話した後、突然ヴェルフさんはまるで意を決したかのように聞いて来ようとする。
「……なぁベル。椿から聞いたんだが、何でもお前さんは壊れない魔剣を持ってるらしいが」
「っ……」
「ああ、安心してくれ。俺は
咄嗟に警戒した僕を見たヴェルフさんは、片手を前に出して首を横に振りながらそう言った。
見た感じ、本当に椿さんみたいな事をする気がないと分かった僕は内心安堵しながらも警戒を解く。
「まぁ、一切興味が無いと言ったら噓になるがな。俺の作る魔剣に比べれば――」
「え? ヴェルフさんって魔剣を作れるんですか?」
遠征中に椿さんから、魔剣を作る際は『鍛冶』の発展アビリティが必須と聞いた事がある。失礼ながらもヴェルフは『Lv.1』だから、そのアビリティは習得してない筈だ。
僕の台詞を聞いたヴェルフさんは凄く意外そうな表情になっている。
「お前、ひょっとして知らないのか? 俺が魔剣鍛冶師の一族だって事を」
「あ、いや、その…………はい」
どう言い返そうかと悩んだが、結局浮かばなかったので素直に答える事にした。それを見たヴェルフさんは虚を突かれるも、すぐに苦笑する。
「すいません、何も知らない世間知らずで……」
「いやいや、別に謝る必要はねぇよ」
そう言いながらヴェルフさんは自身の一族――『クロッゾ』について語ってくれた。同時に彼が魔剣嫌いな理由も含めて。
☆
「さて、早く戻ってご飯を作らないと」
夕日が沈みかけるのを見たリリルカは、一刻も早くボム爺さんのいる質屋へ戻ろうと移動を速めた。
腰を打った彼を看病して二日経ち、無事に回復してるので、明日になれば問題無く動けて営業再開出来るだろうと確信した。その時にはボム爺さんが大好きな料理を出すと言った際、凄く喜んでいたのが今でも目に浮かんでいる。
今日も昨日と同じく病人食を作ろうと思いながら移動してると、途端に前方から誰かが現れる。
「っ! 貴方は……!」
「よう、久しぶりだなぁアーデ。元気そうじゃないか」
目の前に現れた獣人――カヌゥ・ベルウェイにリリルカは目を見開いた。
そして同時に思い出す。嘗てダンジョンでモンスターの群れに放り込まれた時の事を。
あの出来事で自分はオラクル船団に行く事になったが、それとは別にリリルカはカヌゥを殺したいほど憎んでいる。自分が本格的なサポーターをやっていた際、この男を含めた冒険者達から散々虐げられ搾取された忌々しい記憶が今でも残っているから。
相変わらず人を見下す笑みを浮かべていますねと思いながらリリルカは察した。この男は数年経っても全く変わっていない
「これはカヌゥ様、本当にお久しぶりですね。てっきり死んだリリの事をもうお忘れかと思っていたのですが」
あんなのでも一応自分が所属してる【ファミリア】の団員だから、リリルカは取り敢えずと言った感じで挨拶をした。
「おう、俺もアイツ等から報告されるまで死んだと思ってたぜ」
カヌゥがそう言いながら後ろを見るよう促したので、リリルカが振り向くとそこには見覚えのある二人の男がいた。当然彼女は知っている。あの二人もカヌゥと同じく自分を虐げていた連中だったから。
今はもう完全に挟まれていた。恐らく自分が逃げるまねをさせないよう、後ろにいる二人を見せたんだと推測する。
「まぁ今はそんな事どうでもいい。アーデ、今も忙しい冒険者の俺が、態々こうして時間を作ってお前に会った理由は分かってるよな? さっさと出しな」
「………言っておきますけど、今のリリは殆ど文無しです。貴方様が思ってるような物は何一つ持っていませんよ?」
「惚けんじゃねぇ。報告では小綺麗なメイド服を着ていたそうじゃねぇか。俺達に黙ってさぞかし裕福な暮らしをしてたんだろ?」
それを聞いたリリルカは内心嘲笑する。相変わらずお目出度い頭をしていると思いながら。
確かに以前と比べてそれなりに暮らしは良かったが、それとは別に厳しい訓練と地獄同然の戦いをしていた。ダンジョンで弱いモンスターと戦っている冒険者とは比べ物にならないほどの。
教えたところで、この男は絶対に信じないだろう。それどころか逆に笑い飛ばされるのがオチだ。後ろにいる二人の男も含めて。
「ですから、貴方様が思ってるような物は一切ありません」
「ほう? この状況でもまだしらばっくれる気か。どうやら数年会わない内に忘れちまってるようだ。ならこれは久しぶりに痛い目に遭わせないと無理そうだ」
そう言ってカヌゥはポキポキと指の骨を鳴らしながらリリルカに近寄ろうとする。同時に後ろの二人も一緒に。
(自分より弱い相手を甚振ろうとするのは相変わらずですね)
リリルカは思った。弱者から金を搾取する事しか考えていないクズ共に何を言っても無駄だと。
幸い、現在この裏路地に人は自分達以外を除いて誰もいない。仮にもし一般市民がいたとしても、冒険者に巻き込まれないよう見て見ぬふりをするか、もしくはそのまま何処かへ立ち去るだろう。
だから、此処で自分が
(ああ、
もう一つの武器である
「アーデェ! テメエにはもっかい教育しねぇとなぁ!」
リリルカがどうやって迎撃しようかと考えてる事を全く気付いていないカヌゥ達は襲い掛かろうとした。
感想お待ちしています。