ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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連日更新です。


予想外の出会い⑬

「どこもかしこも売り切れだなぁ……」

 

 エイナさんが視察に行っている為、相談する予定が潰れてしまった僕は【ソーマ・ファミリア】の酒が売っている店を訪れていた。けれど、人気がある為か売り切れ状態になっていて、今のところお目に掛かれてない状態だ。

 

 以前に『豊穣の女主人』の店主ミアさんが情報を教えてくれたのを思い出して、散策も兼ねて調べてみようと足を運んでいるのだが、さっきも言ったように今のところ全て空振りに終わっている。

 

 あちこち歩き回っていた為、いつの間にか夕日が照らしていた。調べる店はあと一つとなっているから、これでまた売り切れだったら諦めて本拠地(ホーム)へ帰ろうと、一縷の望みをかけながら向かう。

 

「此処か……」

 

 辿り着いたの先には、ごつごつとした加工石で構築された二階建ての道具屋(アイテムショップ)。掲げられている店名の看板は『リーテイル』。

 

 ミアさんが教えてくれた最後の店で、此処は【ソーマ・ファミリア】の酒以外のも数多くあると言っていた。初めからこの店に行けば良いんじゃないかと思うけど、他の店が近かった為に最後となってしまったのだ。

 

 道具屋(アイテムショップ)へ入ると、他と違ってかなり品揃えしていた。

 

 防犯ガラス並みの強度と思われる透明のクリスタルケースが、店内の中央を陣取るように縦横に並んでいる。

 

 丸底フラスコに溜まるポーション、細い試験管の解毒薬、洒落たデザインのボトルに入っているエリクサーなど、全て商業系【ファミリア】が製造した商品を仕入れたものだ。因みにあの中に、【ディアンケヒト・ファミリア】製と思われる回復アイテムもあった。

 

 って、僕が見たいのは冒険者用の道具(アイテム)じゃなくて酒だ。此処には無いから、食料雑貨(グロサリー)と矢印で表示される店の隅へ向かう事にした。

 

(ん? あ、コレだ!)

 

 ボトルが並ぶ酒棚の中で、【ソーマ・ファミリア】のラベルを見付けた僕は思わず喜びそうになる。今まで全部空振りと終わっていた為に。

 

 酒棚に入っているのは大して飾り気のない硝子瓶であり、中身も透明だった。この世界でも無色の酒があったとは少々驚きだ。オラクル船団にいた頃は酒を飲んだ事なんてないけど、成人してるアークスが美味しそうに飲んでいたのを見た事がある。

 

 他の酒が数多く置かれている中、【ソーマ・ファミリア】のものは残り一つしかなかった。他の店と同様、それだけ需要が高いのだろう。

 

(え? 『ソーマ』って……)

 

 主神と同じ酒の銘柄である事に、まったくやる気の感じられない白紙のラベルを見た事に瞬きしてしまう。

 

 少々脱力しながらも値札を目にすると……六万ヴァリス。ミアさんの情報通り、かなり高額な酒だった。

 

 嗜好品である筈の酒が、相場の高い冒険者専用の道具(アイテム)や装備品に匹敵、もしくはそれ以上の価格だなんて、どう見ても一般人がおいそれと手を出せる代物じゃない。余りにもレベルが違い過ぎて、相当なお金持ちの人じゃなければ買えない。

 

 一応僕の所持金はそれなりにある。ダンジョン探索の他、この前あった【ロキ・ファミリア】の遠征、更にメレンでの冒険者依頼(クエスト)を受けた事でかなり貯まっていた。かと言って無駄遣いする気は無い。

 

 とは言え、こんな高いお酒を買うのには少しばかり勇気がいる。一本の酒で六万ヴァリスだなんて、『豊穣の女主人』で何日分も食事する以上に高い。

 

 神様にプレゼントする為に買ったと言っても、最初は嬉しがったところで後から疑問を抱かれる事になってしまう。加えて僕は未成年だから飲む気にはなれない。

 

 向こうでキョクヤ義兄さんから、『お前が闇の儀式を迎えるまで、酒に溺れるなど以ての外だ』と言われていた。『僕が成人(はたち)になるまで飲むな』と言う意味だと補足しておく。

 

 ……って冷静に考えれば、これを買っても何の意味も無い事に気付いた。いくら調べる為だと言っても、飲もうとしない酒を購入したところで無駄遣いも同然だ。

 

 なので今回は情報通り高額な酒であったと分かっただけで良しとしよう。他に調べれるとしたら、【ソーマ・ファミリア】に詳しい人に聞くしか――

 

「お? やっぱりベルやった」

 

 すると、聞き覚えのある声が僕の名前を呼んだ。

 

 反応して振り向くと、【ロキ・ファミリア】の主神ロキ様がいる。

 

「あ、どうも。お久しぶりです、ロキ様。港街(メレン)以来ですね」

 

「そういう堅っ苦しい挨拶は無しでええから」

 

 頭を下げながら挨拶をする僕に、ロキ様は面倒臭そうに手を振っていた。

 

「にしても珍しいもん見たなぁ。ベルは酒を飲まんってフィンから聞いとったが……」

 

「まぁ、ちょっと気になる事がありまして」

 

 神相手に嘘は吐けない為、敢えて濁すような返答をした。本当のことを言わず、嘘も言わない言い回しをすれば誤魔化す事が出来ると理解したから。

 

「何や、随分と遠回しな言い方やな。ベルも随分賢くなったやないか」

 

「他の神様達から色々と学ばせて頂きましたので」

 

 僕を勧誘してくる神様達は今も多数いて、しつこく絡まれている事もある。今日も何度か遭遇したが、そこはファントムスキルで退避させてもらった。

 

 だけど、ロキ様は別だった。この方は他と違ってかなり頭が切れるから、下手な事を言ってしまえば言葉巧みに誘導されてしまう。

 

「ほーん。んで、自分がさっきまで見とったのは……って神酒(ソーマ)やんか!」

 

 右の糸目を開きながら、僕がさっきまで見ていた酒を目にした瞬間に叫んだ。

 

 え? もしかしてロキ様、【ソーマ・ファミリア】の酒について知っているのかな?

 

「ま、まさかベル、この酒を買うつもりやったんか?」

 

「最初はそのつもりだったんですが……」

 

 ついさっき買う必要が無かったと分かったから、このまま帰ろうとしていた。

 

 すると、ロキ様が表情を変えたかと思いきや、突然僕にすり寄ろうとしてくる。

 

「なぁなぁベル~、神酒(ソーマ)買ってぇなぁ~。これ、うちの好物(オキニ)なんや」

 

「何故僕が買わないといけないんですか? そう言う事はフィンさんかリヴェリアさんに頼んで下さい」

 

「勿論言ったで。でもなぁ、うちのママ(リヴェリア)が『こんな物で無駄遣いしたくない』って言われてなぁ。うち主神なのに、酷いと思わん?」

 

「いや、それはご尤もかと」

 

 リヴェリアさんの言い分は正しいから、ロキ様に対する同情は微塵も無かった。

 

「頼むわぁベル~、この通りや~。タダでとは言わんからぁ~」

 

「ですから僕は買うつもりは……」

 

 ……あ、そうだ。

 

「ロキ様、突然ですが【ソーマ・ファミリア】についてご存知ですか?」

 

「んあ? ソーマんとこ? あのアホとは別に仲いいわけでもないが、多少の内情ぐらいなら知っとるで」

 

 内情か。それは僕が今一番知りたい情報だ。

 

 仕方ない。凄く高い情報料になってしまうけど、此処はロキ様に頼るとしよう。

 

「では内情も含めた情報を僕に全て教えて下さるのでしたら、このお酒を買います。それで手を打ちませんか?」

 

「マジか!?」

 

 僕が買うと言った瞬間、ロキ様の目が途端に変わった。

 

「ええでええで! それで神酒(ソーマ)を飲ませてくれんならお安い御用や! もう言質は取ったから、撤回はさせんで!」

 

「分かってますって」

 

 頷きながらも店員を呼んで【ソーマ・ファミリア】の酒の購入手続きをする。

 

 そして購入した酒を手にしながら店を出て行く。当然、ロキ様も一緒に。

 

 ついでにこれは非常に如何でも良い事なんだけど、遥か上空から感じる視線がいつもと違って妙に殺気立っていたような気がした。僕の傍に居るロキ様は全く気付いておらず、手にしてる酒の方へと視線を向ける一方だった。

 

 

 

 

 

 

「…………今から全面戦争しに行くわよ」

 

「どうか心をお鎮め下さい。そんな事をしてしまえば迷宮都市(オラリオ)が大混乱に陥ります」

 

「そう言うけどね。ロキがあの子を、まるで自分の眷族(こども)みたいに寄り添ってるのよ。あんな非常識な光景を見せられて、黙っていられないわ」

 

「…………貴女様がそれを言いますか」

 

 

 

 

 

 

 ベルがロキから【ソーマ・ファミリア】について情報を得ている頃。

 

「あの馬鹿共め……! 此方にとんだとばっちりを受けさせやがって……!」

 

 場所は【ソーマ・ファミリア】の本拠地(ホーム)にある私室。そこには一人の男が苛立ちを隠せないまま毒を吐いていた。

 

 名はザニス・ルストラ。『Lv.2』の上級冒険者で、二つ名は【酒守(ガンダルヴァ)】。この者が団長を務めており、並びに【ソーマ・ファミリア】を主神ソーマの代わりに運営している。

 

 こうまで苛立っているのは、本日ギルドから突然の視察に対応していたからであった。

 

 最初は越権行為を理由に追い出そうとしたのだが、此方の団員達――カヌゥ・ベルウェイとその仲間二人が失態を犯した事によって本拠地(ホーム)に招くしかなかった。

 

 カヌゥ達が仲間達と金を取り合う為の大喧嘩をした挙句、街中で強臭袋(モルブル)を撒き散らしていたとの事だ。それを聞いたザニスは最初『何の冗談だ?』と疑ったが、連中が住民に被害を与えた確固たる証拠があった為、対応する選択しかなかったのである。

 

 けれど、これだけで済まなかった。ギルドは【ソーマ・ファミリア】が過去に仕出かした問題点も追及して(ペナルティ)を下した他、団員に関して無関心の主神ソーマにも酒造りの没収と言う警告を食らってしまった。因みに唯一の趣味を奪われてしまったソーマは、今も神室の隅から動かなくなっているままだ。

 

「クソがッ!」

 

 何から何まで最悪な結果となってしまったから、ザニスは近くに置かれてるテーブルに八つ当たりするように蹴り上げた。『Lv.2』だからか、高級そうなテーブルが無残な物になってしまった。

 

 八つ当たりしたところで、ドジを踏んだカヌゥ達に対する怒りは収まらなかった。何故ならオラリオの住民に被害を与えた罰金も下された他、現在幽閉されている彼等を解放させる為の保釈金も支払う破目になっている。本来は【ソーマ・ファミリア】の資産で賄うのだが、団長のザニスが殆ど私物化している為、実際は彼の所持金から支払ったと言う事になる。

 

(暫くは鳴りを潜めるしかなさそうだ……)

 

 あと少しで戻ってくるであろうカヌゥ達に相応の罰を下してやると決意しながらも、ザニスはこれからの事を考え始めようとソファに座る。

 

 非常に気に食わない最悪な結果とは言え、今の自分ではギルドや【ガネーシャ・ファミリア】に対抗する力はないと自覚していた。それ位の理解力を持っていなければ、今頃は団長をやっていない。

 

 酒造りしか能のない主神(ソーマ)が使い物にならなくなったとは言え、神酒(ソーマ)在庫(ストック)はそれなりにあるから、今のところ金儲けに支障は来たさない状況である。

 

 だが、団員達にはギルドで換金する際は大人しくさせる必要があった。奴等は神酒(ソーマ)を飲みたいから必死に金を搔き集めているから逆らうかもしれないが、神酒(ソーマ)を理由にすれば問題無いと踏んでいる。明らかに矛盾しているが、これが【ソーマ・ファミリア】なのだ。

 

(そう言えば、ギルド職員の一人が私に妙な事を訊いてきたな)

 

 段々と頭が冷静になり始めたからか、ザニスはふと急に思い出す。ハーフエルフであるギルド職員――エイナ・チュールからの質問を。

 

『突然ですがルストラ氏、現在も行方不明中のリリルカ・アーデ氏は、その後どうなったのですか?』

 

 あの質問にザニスは今も全く不可解だった。

 

 数年前の話である為にうろ覚えだが、アーデ(あのガキ)はダンジョン探索中に死んだと報告を受けていた。今回ドジを踏んだカヌゥ本人から。

 

 流石に『アレはもう用済みだったから、モンスターを誘き寄せる為の囮にさせた』と当然言えなかった為、全く知らないと誤魔化しておいた。それでも彼女は何故か執拗に訊いて辟易していたが。

 

 何故今になってあんな質問を自分にしてきたのかと、ザニスは疑問を抱き始める。

 

(ん? 待てよ。ここ最近カヌゥ達がダンジョンに行かず、街で何かを調べてると言う報告があったな)

 

 それは偶然神酒(ソーマ)を飲む為に必死に搔き集めている団員の一人から聞いた話だった。何でも小綺麗なメイド服を着た小人族(パルゥム)の女を捜しているとか。

 

 ザニスからすれば非常に如何でもいい内容であった為に軽く聞き流していたが、運良く記憶に残っていた。

 

小人族(パルゥム)と言えば、確か数年前に死んだリリルカ・アーデも……ッ!)

 

 リリの種族を思い出した途端、ザニスはすぐに顔をあげた。

 

 エイナ・チュールが質問してきたリリルカ・アーデの所在、そしてカヌゥ達が捜していると思われるメイド服を着た小人族(パルゥム)

 

 確証は未だに無いザニスであるが、それでも合点がいくと疑問が氷解していく。

 

(カヌゥ達が戻ってきたら問い質さねば! だが、その前に!)

 

 そして行動を開始しようと動き出そうとする。

 

 あと少しでカヌゥ達が戻ってくるのだが、ザニスはある確認をしようと、今も神室の隅で固まっている主神(ソーマ)の下へ向かった。

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