ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
数日前までは8~9階層までだったが、今日は久しぶりの10階層へ訪れた。
今までいた上層と違い、ルームの数が多くて広い。それの間を繋ぐ通路は短いものばかりで、伴って三
地面には短い草が無数に生えて草原となっていて、葉と枝を失っている枯木が辺りに点々と立っている。並びに視界を妨げるには十分な白い霧が、まるで朝霧を連想させるようダンジョン中に立ち込めていた。
初めて訪れる新人冒険者が見れば、未知の光景だと驚いているだろう。けれど僕は既に訪れており、もうとっくにこの階層を理解している。
冒険者になって半年も経っていない僕が、
とは言え、それはアークス製の武器を持っている場合の話。今回の僕はオラリオ製の武器――『ミノタウロスの大剣』と防具――『
もし余りにも不利な状況になったり、リリの身が危ないと判断すれば、即時アークス製武器に切り替えさせてもらう。『確実に敵を倒せる手段がありながら、下らん意地を張って命の危険を無暗に晒すのは三下の莫迦がやる事だ』とキョクヤ義兄さんに教わったから。
こんな広い場所で仲間を意識しながら戦うのは【ロキ・ファミリア】の遠征以来だ。正直言って少しばかり緊張している。
今後はパーティを組んでダンジョン探索する事も考慮した方が良いかもしれない。
僕と縁のある【ロキ・ファミリア】であれば、アイズさんやティオナさん、そしてラウルさんなら喜んで僕とパーティを組んでくれるだろう。だけど、それはそれで色々面倒な事になってしまう。
既に知っての通り、あそこは他の【ファミリア】とは比べ物にならない都市最大派閥。傘下でもなければ、同盟を結んでいない【ヘスティア・ファミリア】が親しげに接するような事をすれば、周囲から色々なやっかみを受ける事になるだろう。
加えて、フィンさん達は僕の事を探ろうとしてる節が見受けられる。特にリヴェリアさんが僕のテクニックについて今も知りたがっているから、余り下手に頼り過ぎてしまうと、僕の真実を明かされてしまいかねない。僕が異世界でアークスになった経緯とかを。
武器やテクニック、そしてアイテムを見せておいて今更かと思うかもしれないが、異世界でアークスになった情報に関しては絶対秘匿しなければならない。唯一僕の正体を知っている
おっと、考え事はここまでにしておこう。今いるのは地上じゃなくダンジョンなので、下手をすればモンスターの奇襲を受けてしまう。僕一人だけ狙われるならまだしも、傍に居るリリの事を考えなければならない。
そのリリだけど、10階層に来るのは久しぶりのようだ。今まで同行した殆どの冒険者達は9階層までが限界だったとか。
だとすれば、今回は前回以上に意識を向けておかなければならない。上層と言えど、此処は広いルームな上に霧が立ち込めているから、下手に意識を逸らすと見失ってしまう可能性だって充分にあり得る。仮にそうなったら端末機を使ってリリを捜すつもりだ。
「リリ、離れないでね」
「了解です」
僕が用心するように言うと、隣に歩いてるリリはすぐに頷いた。
その直後、まるで此方の声に反応したかの如く、耳を打つ大きな足音と、絶え間なく続く地面の振動が靴を通って全身に伝わって来た。
早速来たかと思いながら、僕は片手で背中に携えている大剣の柄を掴む。
『ブグッゥゥゥゥ……』
低い呻き声とともに大型級のモンスター『オーク』が姿を現した。
茶色い肌に豚頭。ずるずる剥けた古い体皮が腰の周りを覆っていて、まるでボロ衣のスカートを履いているようだ。
中層で何度も見たミノタウロスの引き締まった筋肉質の体に対し、オークは丸く太っているずんぐりとした体型。
俊敏性が無いとは言っても、筋力はそれなりにある。僕達が視界に入った途端、オークの巨腕は一本の枯木を引き抜いて、ブンブンと力強く振り回して無骨な棍棒へと成り代わっている。もし『LV.1』の冒険者が直撃したらタダでは済まないだろう。
この10階層は『
いつも素手や生身で挑んでくるモンスターが、このダンジョンからの支援を受け取る事によって厄介な敵へと変貌してしまう。
完全武装したオークと、大剣を手にしてる僕はもう僅かの距離を残して対峙する。
「………」
本気でやると言う目になると、先程まで飛び掛からんと醜悪な瞳がギラギラと輝いていたオークが途端に怯えた。
気迫に負けた一瞬の隙が命取りである事を教えるよう、僕はすぐに駆け抜けた。
『ブゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
オークが雄叫びを上げた事で戦闘開始の合図となる。
けど、もう遅かった。
棍棒を持ってるオークの懐に入っている僕は――
(遅い!)
即座に横薙ぎの一撃を繰り出した。
分厚い胴体を食い破られ上半身と下半身が分かれてしまった事で、オークが数秒後に絶命したのは言うまでも無い。
「ふぅっ」
「流石です、ベル様!」
この大剣でも大型モンスター相手に充分やれると少しばかり安堵している際、一撃でオークを倒したのを見たリリが拍手をしながら称賛してくれた。
だけど、こんな程度で気を抜いてはいけない。まだ始まったばかりなのだ。
「もう来たか」
今度は僕達のやって来た通路の逆方向から現れた二体のオークを視認する。さっきの雄叫びを聞きつけたのか、既に興奮しながら霧の海をかき分けて来て、周囲の
大して知能が無さそうなモンスターだけど、冷静を失った相手ほど御しやすい。リリが狙われないよう誘き寄せるように動くと、向こうは僕だけしか視界に入っていないのか、真っ先に此方へ向かおうとしている。
走ってくるオークが突進しながら拳を振り下ろしてくるも、真横にステップしながら簡単に躱した直後、僕は反撃をしようと相手の横っ腹に大剣を突き刺す。
『ブゴッ!?』
「せいやぁ!」
『ブギャッ!』
横っ腹に刺された事でオークが襲われた激痛で悲鳴を上げるが、僕が力強く持ち上げて投げ飛ばすと、もう一体のオークが仲間の巨体を受けた。
今のはハンタークラスが使う『クルーエルスロー』を真似たもの。目標を刃で突き刺し、そのまま任意の方向へと投げつけるフォトンアーツだ。あくまで真似ただけに過ぎないから、まだ完全に倒しきれていない。
「はぁっ!」
オーク達が重なるように倒れている中、僕は空かさず走りながら跳躍し、その勢いを利用して大剣を真下へと振り下ろす。
大剣の刃が切り裂いた場所に魔石があったのか、二体のオークの身体が灰となって霧散していく。
「あっ、ちょっとやり過ぎちゃった」
リリを守る為とは言え、いつも以上に力み過ぎてしまった。
今は感覚のズレを修正中でも僕は『Lv.3』だから、上層にいるオークを倒すなんて造作も無い。武器を使わずとも、素手だけで簡単に倒せてしまう程だ。
もう少し加減しながら、効率良く相手を倒さなければならない。大型モンスター相手にあんな力任せな戦い方をしていれば、無駄に体力を消費してしまうから。
「ベル様! 今度はオークだけじゃなく、インプも来ました!」
リリの叫びに僕が振り向くと、
丁度良い。今度は無駄に力まず、効率良く倒してみよう。
僕が使ってる大剣は、ゴブニュ様が調整してくれた事で片手でも軽く振るえるようになっている。だから本来、無駄に両手で力強く振る必要なんて無いのだ。
もう暫くこの武器の世話になりそうだと思いながらも、僕は此方へ向かってくるモンスター達を迎撃しようとする。
(やはりベル様の戦い方は、どう見てもアークスっぽいですね。それもハンタークラスの戦い方……)
リリはモンスターの魔石を回収しながらも観察していた。
大剣を使ってるベルの戦い方は、自分がオラクルにいる頃に見たハンタークラスのアークスの動きに似ている。
自身はハンタークラスじゃないが、ハンターの戦い方やフォトンアーツは知っている。自分を鍛えてくれた
単なる偶然かと思い過ごすも、改めて見るとやっぱりアークスではないかと疑問を抱いてしまう。つい先ほど、
(もうここはいっそのこと、思い切って訊いてみた方が良いかもしれませんね)
今までは魔剣や魔法を見せるように催促していたが、ベルはまるで警戒するように一切見せなかった。更には遠回しに情報を引き出そうとするも、それもお見通しと言わんばかりに回避される始末。
このままだと埒が明かないから、今度はストレートに訊こうとリリは考え始める。
けれど、流石に今日は遠慮しておく事にした。ベルが教えたのかもしれないが、死んだ筈の自分が実は生きているのではないかとギルドが気付き始めている為に。
既に【ソーマ・ファミリア】のカヌゥ達にバレてしまったが、奴等は自分が通報した事により牢屋でお世話中だから暫く問題無い。あの連中は色々問題を起こしている派閥の眷族である為、どんなに否定したところで全然信用されないと踏んでいるから。
とは言え、余り悠長に事を構える訳にもいかなかった。カヌゥ達が自分に気付いたのであれば、隠れ蓑にしている『ノームの万屋』やボム爺さんを狙う可能性は充分にあり得る。そうすれば、今度は前回の迎撃で使用した
(しかしベル様が本当にアークスなら、どうして端末機に何の反応が無いんでしょうか……?)
普通に考えて、アークスであれば常に携帯端末機をONにしている筈であった。なのに此方が何度も通信しても全く反応が無い為、ベルがアークスか否かと判断に迷っている。
もし此方の端末に通信を入れてくれたら真っ先に自分はアークスだと教えていた。その展開にならない為、リリは今もこうして動けないのだ。
因みにそのベルが端末機を使ってないのは、アークス武器を使わない制限を掛けている他、緊急時の時にしか使わないよう電源をOFFにしていたからであった。
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