ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回はリリが暴れる前の下準備となる話です。


予想外の出会い⑰.5

「すまん、すまんのぅ、リリちゃん。爺の所為でこんな事に……!」

 

「そんな事よりも、腰の方は大丈夫ですか?」

 

 牢屋に連行された後、ボム爺さんは自分の目の前に座ってる少女に向かって只管謝り続けている。自分が足枷になっていたどころか、武器まで奪われてしまったのを間近で見ていた為に負い目を感じているのだ。

 

 対してリリは全く気にしてないどころか、逆に彼の身の心配をしていた。治りかけとはいっても油断出来ない状態であり、ザニス達が無理矢理歩かせて悪化したのではないかと不安視している。

 

 二人がいる場所は劣悪かつ陰湿な牢獄。それもその筈で、此処は派閥内での懲罰、または『神酒』によって理性を失って行き過ぎた物を幽閉する地下牢なのだ。そして下手に暴れさせない為の措置として、『恩恵(ステイタス)』を授かった下級冒険者でも引き千切れない極太の鋼線で手首を結ぶ事になっている。リリだけでなく、派閥内でもないボム爺さんも同様に。

 

 自分(リリ)はともかく、ボム爺さんにとって最悪だった。いまだ病人である上に鋼線を手首に結び、こんな地下牢へ放り込むなど完全に老人を虐待してるとしか言いようがない。そんな鬼畜な所業を平然とやるザニスは絶対ブチ殺す、とリリは固く誓っている。

 

(とにかく今は……!)

 

 彼をこんな場所に居させたくないと、リリはすぐに周囲を確認する。

 

 現在見張りどころか、自分達と同じく牢屋に入れられている者達はいなかった。

 

 ごつごつとした石造りの牢屋はよく冷えた。アークスのリリには問題無いが、ボム爺さんはとても寒いだろう。

 

 自分達を閉じ込める鋼鉄の格子の外では、魔石灯の灯りが蝋燭みたいに揺らめいている。

 

 逃げ出すなら今が好機(チャンス)だろう。武器を持ってない自分やボム爺さんが逃げ出すのは無理だと思って、こうして見張り役を付けていないのだから。

 

 だが、それはそれで不味かった。見張り役がいないと言う事は即ち、誰かが此処へ来て何をされても咎められない。ザニスが後から知ればそれまでだと言っても、今も自分に恨みを抱いてるだろうあのバカ(カヌゥ)達がいつまでも大人しくしていない筈だ。

 

 団長に助けられて恩があると言う理由で素直に従っているとは言っても、所詮は形だけだ。普段から自分勝手で横暴な振る舞いをする奴が、恨みを抱いてる奴を前にして手を出すなと命令されても素直に従ったりしない。典型的な面従腹背であるカヌゥの事だから、少し経てば再び此処へ来て、リリに思う存分恨みを晴らすのが目に見えてる。

 

 だからさっさと抜け出す為、リリは肌に強く食い込んでいる鋼線を――体内にあるフォトンを解放しながら――無理矢理引き千切った。

 

「リ、リリちゃん!?」

 

「ふぅっ。全く、随分と痛い縛り方をしてくれましたね」

 

 驚きを見せるボム爺さんとは別に、鋼線によって食い込んだ肌を手で擦りながら口にするリリ。

 

 彼女には培った盗賊の(わざ)で縄抜けの技術は持っているが、時間が惜しい為に強引な手段を使った。アークスになった際に与えられた力――フォトンの力で。

 

 フォトンは本来『ダーカーを倒すことのできる唯一の手段』で、ダーカーの汚染をフォトンの浄化によってダーカー化を防ぐことができるものとなっている。だがそれ以外に、自身の身体能力を強化する役割も備わっていた。先程リリがフォトンアーツやテクニックを解放する要領で解放すれば、身体の表面にフォトンが瞬間的に纏い、その一瞬を狙って強引に鋼線を断ち切ったと言う訳である。それを知らないボム爺さんからすれば、リリが見た目とは裏腹に途轍もない怪力で引き千切ったようにしか見えないが。

 

「お爺さん、すぐに鋼線(それ)を解きますね」

 

「あ、ああ……」

 

 今も驚愕したままのボム爺さんの後ろに回って、自分と同じく縛られていた鋼線を解こうとするリリだが、突如カツン、カツン、と響いてくる音がした。

 

(まさか、もう来たのですか……!?)

 

 音がする方は通路の奥、地上への階段からだった。

 

 来たのは恐らくカヌゥだろう。知っての通りあの男は一昨日、自分にやられた上に謂れのない罪で【ガネーシャ・ファミリア】に連行された恨みがあるのだ。それを存分に晴らそうとザニスの目を盗んだに違いない。

 

(仕方ありませんね)

 

 出来ればもう少し後に来て欲しかったのだが、それはもう無理だと分かったリリは一旦ボム爺さんから離れる事にした。

 

 彼に被害が及ばないように戦うとなれば、長銃(アサルトライフル)――『スプレッドニードル』で仕留めるしかないと考える。因みにその武器の潜在能力には『古の針散弾・改』があり、範囲攻撃追加の他、確率でスタン付与、一定距離内のエネミーに威力上昇と言う効果が備わっている。

 

 自分を痛めつけようとするカヌゥが牢屋の檻を開けて自分に近付いた瞬間、即座にソレを展開してぶっ放すつもりだった。流石に殺す気は無いから非殺傷にするとは言っても、針散弾が当たれば相当な激痛が襲い掛かって悶え苦しむ事になるだろうが。

 

 リリはそう考えながら、所定の位置に立って視線を通路の奥へ向ける。やって来たのは――カヌゥでなく、面倒そうな顔で大柄なドワーフだった。

 

「あ、貴方は……!」

 

「何だ? ザニスからの話で、両腕を縛られている筈じゃなかったのか?」

 

 自前の瓢箪(さけ)を煽りながら見てるドワーフの男性は、鋼線を解いてるリリの姿を見て言った。

 

 うろ覚えであるが、彼はザニスやカヌゥ達と同様に知っていた。

 

 このドワーフの名はチャンドラ・イヒト。ザニスと同じ『Lv.2』の上級冒険者。

 

 オラクル船団に来る前、当時孤独であった自分が同じ派閥(ファミリア)の連中に苦しめられていた時、助けてくれたわけでもなく、そして同時に害にもならなかった人物。端から見れば薄情な男にしか見えないが、平然と弱者を甚振る【ソーマ・ファミリア】の中では珍しかった為、リリはその当時の記憶が今でも残っていた。

 

 どうしてこのドワーフが来たのかとリリは最初疑問に思うも、先程の台詞でザニスの名が出たから、多分見張りとして来たのかもしれない。

 

 だが、リリとしてはどうでも良い事であった。来たのがカヌゥでないにしても、向こうが邪魔立てをするのであれば、例え害の無い人物であっても容赦はしないとリリはそう決めている。

 

「確かチャンドラ様、でしたね。リリの事は憶えていますか?」

 

「一応な」

 

 リリの問いにチャンドラは答えながら座り込んだ。

 

「ザニスから死んだ筈のお前の事を聞いて耳を疑ったが、まさか本当に生きていたとはな」

 

「運良く生き延びる事が出来たんですよ」

 

 本来ならリリはダンジョンでカヌゥ達にモンスターの餌になるよう放り投げられ、そして死ぬ予定だった。けれど、自分は何故かオラクル船団に渡って生き延びる事が出来て今に至っている。流石にそれを言う気が無い為、敢えて運良く生き延びたと誤魔化す事にした。

 

「そうかよ。ま、俺には如何でも良い事だ」

 

「まぁ、そうでしょうね」

 

 ザニスやカヌゥ達と違って、チャンドラは冷淡な反応だった。リリもそれが分かっているから、彼の返答を聞いても憤る気は無い。

 

「それはそうと、お前の様子から見て、その爺さんを連れて此処から出そうな感じがしたな」

 

「だったらどうしますか?」

 

 思わず挑発するように返すと、今も全く如何でも良い様に立ち上がるチャンドラ。

 

 リリは思わず長銃(アサルトライフル)を展開しようとするも、それはすぐに止めた。何故なら彼は通路の階段前に引っ掛けてる鍵を持ち出した直後、そのまま自分達がいる牢へ放り投げたから。

 

「出たきゃ、爺さんを連れてさっさと出ろ」

 

「……何のつもりですか?」

 

 いきなりの展開に困惑し驚愕するリリ。

 

 そして彼女からの問いをチャンドラは再び座り込む。

 

「俺はあいつが嫌いだ」

 

 無愛想なドワーフは淡々と答え、更に続ける。

 

「最高に美味い神酒(さけ)があると聞いて俺はオラリオにやって来た。そしてこの派閥に入った。だが、今の派閥(ここ)はほぼザニスが私物化している。主神の神酒も満足に飲めん」

 

 話を聞いたリリは成程、と納得する。

 

 確かに今の【ソーマ・ファミリア】はザニスが原因で、ソーマの神酒を簡単に飲む事が出来ないでいる。そして酒好きのドワーフである彼がザニスの命令に逆らうのは当然だった。

 

「目を瞑ってやる。後は好きにしろ」

 

 そう言って目を瞑りながら、瓢箪の酒を飲むチャンドラ。

 

 彼は本当に逃がしてくれるとリリは確信した。自分は神ではないが、美味い酒だけを求めてやってきたと言う朴訥な言葉は本当であると分かったのだ。

 

 故にリリは考えた。もしかしたら交渉に乗ってくれるかもしれないと。

 

「でしたらチャンドラ様、取引しませんか? リリがこれからあのクソ野郎共をぶっ殺す際、お爺さんの身を守って欲しいんです」

 

「はぁ?」

 

「リ、リリちゃん?」

 

 いきなりの事にチャンドラはすぐに目を開けて、不可解そうな表情でリリを見た。彼女の近くにいるボム爺さんも同様に。




次回でどうにかリリを暴れさせたいです。
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