ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「あと少しで……!」
端末機に表示されてる地図を頼りに【ソーマ・ファミリア】の
行き先は都市南東部の第三区画。この辺りはまだ散策してない為、少しばかり手間取っている。
リリの位置は探知出来ても、来た事の無い場所であるから、中々思うように辿り着く事が出来ないのだ。それでも僕の端末機はルートを自動的に登録してくれるから、今後道に迷う事は無い。今は少々迷っているが、それでもある程度の道順は理解している。
四苦八苦しながら進んでいる中、気になる事があった。と言っても、これは僕だけじゃなく周囲の住民も含めて。
それは音。最初は何か爆発したかのような小さな音だったのだが、【ソーマ・ファミリア】の
何となくだが僕は直感した。もしかしたら、この音の発生原因はリリかもしれないと。彼女がアークスであれば、何かしらのクラス専用武器を使って暴れている可能性がある。
さっきまで連続で爆発していたから、それが可能な武器と言えば……一番に考えられるのは射撃武器の
まさかとは思うけど、リリが扱ってるクラスの中にレンジャーが含まれているんじゃないだろうか。それがメインクラスかサブクラスなのかは分からないが。
リリがなってるかもしれないレンジャーは通常クラスである為、メインクラスの中にサブクラスを組み込む事が出来る。一人で二つのクラスを同時に扱う事は出来て凄い様に思えるが、サブクラスには色々制約がある為にそこまで便利じゃない。それを語るには色々と長くなるので割愛させてもらう。
因みに僕がなっている『ファントム』はサブクラスを扱う事が出来ない。ファントムは打撃・射撃・法撃を同時に扱える後継クラスである為、サブクラスを必要としないのだ。
通常クラスは打撃・射撃・法撃の特定武器を扱う特化型で、後継クラスは各武器を同時に扱える万能型。全てのクラスはそれぞれに得手不得手があるから、必ずしも特定のクラスが優れている訳ではない。
「やっと着いて……なぁっ!?」
少々迷っていたが、漸く辿り着いた【ソーマ・ファミリア】の
僕が驚いたのはそれだけじゃない。目の前にある館の所々に爆撃を受けたかのような形跡があって、荘厳なイメージとして造られていた筈の建物は今無惨な姿となっている。
「おいおい、何なんだよぉ、この爆発は!?」
「一体あの中で何が起きてるの!?」
「どうなってんだよぉ!? 俺はあの酒が飲みてぇのに……!」
「うわっ、まただぁ!」
館の門付近には『ノームの万屋』みたいに多くの野次馬と思わしき人達がいる中、再び爆発音が鳴り響く。
あそこにいる門番達は中で何が起きているのかは分かっていない様子だが、それでも駆け寄ってくる野次馬達を追い出そうとしている。
派閥の
僕としては、今【ガネーシャ・ファミリア】が此処に来られたら不味い。この爆発の原因が、アークスのリリだと何となく分かっているから。
(本当はやっちゃダメなんだけど……仕方ない!)
正面から入る事が出来ないと分かった僕は、周囲に咎められるのを覚悟でファントムスキルで姿を消し、すぐに跳躍して簡単に塀を乗り越えて侵入した。
「こ、これは……」
リリが所属する【ソーマ・ファミリア】の
遠目からでも分かっていたが、改めて敷地内から見てみると館が無残な姿となっていた。
『ぎゃぁぁぁあああ!』
『た、助けてくれぇぇぇ!』
爆発が起きる度、建物内から眷族と思われる悲鳴も聞こえた。恐らくそれを直撃、もしくは巻き添えによるものだろう。
普通なら助けに行くべきなんだが、今の僕は不法侵入している上に、リリを見付けなければいけない。目的を達成させる前に別の事で気を取られてしまってはいけないと、キョクヤ義兄さんからキツく言われているから。それでも目の前に怪我人がいたら、レスタを使って治療くらいはさせてもらうけど。
「いつつ……す、スマンのぉ、こんな爺を背負わせてしまってからに……」
「気にすんな。俺はアーデとの取引で、アンタを安全な場所へ避難させてるだけだ」
すると、爆発が起きてる別の所から、お年寄りのお爺さんを背負ったドワーフと思わしき男性が出てきた。
さっきの会話の中にアーデ――リリのファミリーネームが聞こえた。もしかしたらあの人達は……!
「あの、ちょっと良いですか!?」
「ッ! な、何だお前は!?」
「いきなり目の前に人が現れたわい!」
僕がファントムスキルを解除しながら声を掛けるも、ドワーフの人とお爺さんは目を見開いていた。
事情を説明したいけど、今そんな暇は無い。
「さっきリリ、じゃなくてリリルカ・アーデさんの名前が聞こえましたが、もしかしてアレは彼女がやってるんですか!?」
「あ、ああ。アーデの奴がザニス達をぶっ殺す為に……って、お前よく見たら【
僕の事を知ってるのか、ドワーフの人は自分の二つ名を口にする。
すぐにでもリリの所へ向かいたいが、この人達は明らかに事情を知ってそうだったので、僕は一旦足を止めて手短に話す事にした。
☆
「た、助けてくれぇ……!」
「どうか、どうか命だけは……!」
(……はぁっ。何だか虚しくなってきました……)
感情のタガが外れて大暴れしているリリは、
カヌゥ達だけでなく、他にも過去に自分を虐げていた
ソーマの神酒に溺れているとは言え、腐ってもそれなりの実力を持っている冒険者達が、こうも簡単にやられるなんて思っていなかったのだ。遠距離用の射撃武器を使ってるからと言って、手加減した攻撃で無様な姿を晒し、極めつけには見苦しい命乞いをしてくる団員達を見て萎えていく。
こんな情けない連中に虐げられていた事を考えるだけで、リリは当時の弱い自分が情けなくなってきたと自嘲的に笑っていた。
それによって先程まで囚われていた怒りの感情は段々消え失せていき、もう雑魚共の相手は止めてザニスに狙いを定めようと決意する。奴の顔を見れば再び怒りの感情に囚われる可能性はあるが、その時になって考えようとリリは結論する。
無様な命乞いをしてる団員達に向けていた
「このクソ
「ば、バカ止めろ!」
その内の一人が隙有りだと言わんばかりに、武器を振り翳しながら襲い掛かろうとした。
リリはそうなる事を想定していたのか、すぐに後ろを振り向きながらカヌゥを吹っ飛ばしたクレイジースマッシュを使う。
「%$#&$%#!!!???」
『ヒィッ!』
襲い掛かって来た団員はカヌゥと同様股間に命中した直後、そのまま勢いよく吹っ飛んで壁に激突する。そして倒れたまま、虫の息状態になってピクピクとしか動かず、股間から血が滲み出る。
その無惨な姿を見た事に、止めようとしていた団員だけでなく、少し離れて倒れていた他の団員達も揃って顔を青褪めながら戦慄する。股間にある大事な所を潰されるしまう瞬間を見てしまえば、青褪めてしまうのは男として当然だろう。
因みにそれをやったリリは、自分の大事な武器にまた汚い部分に当たってしまったと嫌そうな表情になりながら、絶対に
「一応訊いておきますが、まだやりますか?」
笑みを浮かべながら問うリリに、団員達は一斉に揃ってブンブンと首を横に振っていた。抵抗する気は既に無いどころか、さっき無謀な事を仕出かした
降参の意を示すように、団員達が武器を投げ捨てたのを見た彼女は、ザニスの場所へ向かおうとする。
「……いるみたいですね」
あっと言う間に特定の部屋に辿り着き、リリは中に人がいるかを確認しようと端末機を使う。
ザニスの情報は登録していないが、中に人と思わしき生命反応があった。間違いなく此処に奴はいると確信する。
その瞬間、リリは無駄に豪華そうな扉を容赦無く蹴り飛ばした。アークスによる訓練によって、彼女は見た目とは裏腹に相当な身体能力を持っている為、固定してる立て付けは蹴りの衝撃で剥がされ、そして扉は罅が入りながら無様に倒れていく。
「なっ! アーデ、何故……!?」
「またお会いしましたね、ザニス様」
驚愕の表情となって困惑してるザニスとは別に、先程のやり取りを思い出したかのように段々と怒りの感情が膨れ上がっていくリリ。
「先程までの大きな爆発はお前の仕業だったのか!?」
「そうでなければリリは此処へ来てませんよ」
ザニスが元凶を発覚したかのように叫ぶも、対してリリはそんなの今更だと呆れるように言い返した。
因みに今の彼女は持っていた
「どうやったのかは知らんが、お前には相応の仕置きが必要みたいだな!」
丸腰と勘違いしてるザニスは引っ掛かりながらも、机の上に置かれているリリの
「自分の武器でやられるんだな、アーデェ!」
そう言ってザニスは
しかし、手にしてる武器から何の反応もしない。
「は? ど、どういう事だ? これは、魔剣じゃないのか……?」
「ザニス様に言い忘れてましたが」
戸惑うザニスを余所に、リリはいつの間にかスプレッドニードルを展開する。
「な、何だその武器は! 一体何処から出した!?」
「ソレはリリ以外の者が使えないように細工を施してありますから、貴方様には一切使えませんよ」
ザニスの言葉を無視するようにリリは使えない理由を教えた。
今の
「き、貴様、私を騙したのか!?」
「騙したとは人聞きが悪い。其方が勝手に魔剣だと勘違いしただけですよ。それはそうと――」
人を騙すのはそちらの得意分野だろうと思いながらも、リリは
「楽には殺しませんよ、ザニス様♪」
「ギャァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
そして引き金を引いた。手加減していた団員達と違い、出力を強めにして。
スプレッドニードルの潜在能力『古の針散弾・改』による範囲攻撃で、ザニスの身体に無数の針が突き刺さった事で、部屋全体に大きな悲鳴が響き渡るのであった。
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