ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
手短な内容だったけど、ドワーフの男性――チャンドラさんとお爺さん――『ノームの万屋』の店主さんから一通りの話を聞いた。同時にリリが数年前にダンジョンで行方不明であった事も含めて。
どうやらリリは数年前、同じ派閥である【ソーマ・ファミリア】の冒険者達と一緒にダンジョン探索をしていた際、
そして数年後、死んだ筈の彼女が実は生きていて、約一週間以上前から『ノームの万屋』に隠れ潜んでいた。店主さんはリリの事を前々から知っていたようで、久しぶりに再会し、メイドとして雇う形で寝床を提供していたとの事だ。
二人の話を聞いて、僕はこう考えた。断言出来ないけど、リリはダンジョンの中で突然オラクル船団がある世界に飛ばされたかもしれない。そしてそこでアークスとなり、再びオラリオのダンジョンに戻ってこれたのだと。
端から聞いたら荒唐無稽な話だけど、僕は現にオラクル船団と言う名の異世界へ渡ったのだ。リリがアークスであれば、必ずそうなっていないと辻褄が合わないから。
リリの経緯を知った以上、もう一度話さなければならない。今度は冒険者としてでなく、アークスの一人として。
だけどその前に、今も行われているリリの破壊行動を止める事が先決だった。もう既に【ソーマ・ファミリア】の
もしあの館が崩壊によってソーマ様が死ぬような事になれば、その原因を作ったリリは神殺しを犯した事になってしまう。この世界で人間の神殺しが禁忌とされていて、それをやってしまえば大罪となり、死後も咎を背負う事になる。
いくらリリが【ソーマ・ファミリア】を恨んでいるとは言っても、アークスの力を使ってソーマ様を殺そうとするのはダメだ。例え戦う事になっても、同じアークスの僕が全力で止めないといけない。
だから僕は今、チャンドラさん達との話を終えた後、再びファントムスキルで姿を消し、館の中に入ってリリがいると思われる場所へと向かっている。
その途中で明らかに被害を被った人達がいて、殆どは怪我はしててもそこまで酷くなかった。と言うより、何やら恐怖によって怯えている感じがする。
治療したいのは山々だけど、今の僕は無断侵入している身である為、心を鬼にしながら敢えて放置するしかない。今は一刻も早くリリを止めなければならないから。
二階まで進んでいるが、リリは此処にいない。端末機には館の更に上の三階と思わしき場所にいる。そして新たな上への階段を見付けてすぐ駆け上がり、とうとう三階へと辿り着く。
さっきいた一階や二階と違い、この三階は通路を除いて丸々一室だった。恐らく此処に【ソーマ・ファミリア】の主神に充てられた神室なのだろう。
「あそこか!」
両開きの大扉が開かれてる状態であるから、恐らくそこにリリがいる筈だ。
「リリ!」
周囲に誰もいないから、僕はすぐにファントムスキルを解除して――
「本当に分かってんのかクソワカメ!?」
「はい、反省してます。ソーリー、ごめんなさい」
室内に入った瞬間にあり得ない光景が目に映っていた。
キレてるのか分からないけど、リリはソーマ様の髪を引っ張っていて、顔を近づけながら容赦のない罵倒を浴びせていた。
対してソーマ様は痛みに耐えながらも、眷族である筈のリリに逆らう事はせず、ただ只管謝り続けている。
「こ、これは一体……?」
明らかに説教しているようにしか見えないが、来たばかりの僕は全く状況が呑み込めない為に呆然と立ち尽くすしかなかった。
☆
ザニスに思う存分恨みを晴らした後、
今いるのは管理棟の最上階。記憶はうろ覚えでも、此処には一番の元凶――ソーマがいる筈だと確信している。
そしてリリは辿り着いた両開きの大扉の前に立って、無言のまま開けようとする。団長室の時は容赦なく扉を蹴破ったが、相手は腐っても神である為、敢えて普通に入る事にした。ノックはせずに無断で入ろうとするのは充分失礼だが、そこまでの気遣いなんか必要無いと切り捨てていた。
「勝手ながら入らせて頂きました。そしてお久しぶりです、ソーマ様」
「………」
予想通りソーマはいた。
広いバルコニーが備わった部屋の奥にある作業机の上で、乳鉢を用いて何かを混和させている。恐らく酒造りに関する事だろうと、リリは思い出す。
先程まで
数年経っても相変わらずの趣味神だと思いながら、リリは再び口を開く。
「ソーマ様、リリの事は憶えていますか?」
背を向けている主神に、リリは確認するように問う。
声を掛けても作業を行っているソーマは、煩わしそうに振り返る。
「やかましい。雑事は全てザニスに任せている。用件はソイツに言え」
数年振りに会った眷族を歯牙にもかけていない主神に、リリは必死に己を押し殺す。
この神はそう言う奴なのだと言い聞かせながらも、ツカツカと近づいていく。
「残念ですが、ザニス様は現在
リリの言っている事は決して嘘じゃない。ザニスは今も激痛に苛まれている状態で、まともに話せる状態ではないのだ。
「お願いがあります、ソーマ様。少し前にザニス様は仲間を使い、リリがお世話になっている質屋へ押し掛け、強盗並びに破壊行為、そして店主のお爺さんを誘拐しました。ザニス様達に対する処罰の他、お爺さんへの謝罪と弁償をして下さい」
淡々と告げるお願いに、ソーマは緩慢な動きでリリと向き直る。
それはもう面倒そうな感じで、口を開いた。
「簡単に酒に溺れる、薄っぺらい子供の言葉に何の意味がある?」
「……は?」
この神は一体何を言っているのだとリリは唖然とした。
アークスになる前の幼い頃、リリや両親は一度だけ『神酒』を飲んだ事がある。その所為で人生が破滅の道を辿る事となってしまった。
因みにそれは自分達だけでなく、【ソーマ・ファミリア】の眷族達も同様だ。彼等はそれを飲んで溺れてしまい、我先に得ようと躍起になり、挙句の果てには、お互いを蹴落とす醜い争いまで始めた。
自分も嘗て神酒を飲んで溺れかけ、どうにか正気に戻って酷く惨めな生活をしていたというのに、ソーマは何も知らず勝手に失望している。端から聞けば勝手な言い分だと憤慨してもおかしくない。
ソーマの言葉に悪意が無ければ、害意も無い。それどころかリリ達には興味すら無いから、こうも無関心なのだ。
余りの言葉にリリが無言となっている中、ソーマは壁に作り付けされた棚、そこから白い酒瓶を取り出す。
そして彼女に近付き、杯を手渡してこう言った。
「これを飲んで、また同じ事を言えるのなら、話を聞こう」
―――ブチッ。
頭の中で切れた。必死に守り続けていた
受け取ったリリは杯に注がれている液体を一瞥した後、グイッと勢いよく『神酒』をあおった。
彼女が飲んだ数秒後、動かない彼女を見て溺れたのだと思ったソーマは踵を返そうとするも――
「―――不味い」
「……何だと?」
あり得ない言葉を聞いた為に動きが止まった。
今さっき、リリから『不味い』と言う単語が聞こえた。それはソーマにとって信じ難いのだ。
そう言い聞かせているソーマだが、リリは再び口を開く。
「聞こえなかったのか? クソ不味いって言ったんだよ、クソワカメ!」
今度は聞こえるように大きく叫びながら、リリは片手で持っている杯を強く握りしめて地面に投げつける。
彼女が全く酔わずに罵倒しているのは勿論理由がある。『神酒』によって身体が浸食されるところを、体内にあるフォトンエネルギーで浄化されたからだ。それによってリリは、『神酒』を飲んでも平然としている訳であった。
「く、クソ、不味、い……?」
改めて確認したソーマだが、今度は両膝と両手を床について固まってしまう。最高傑作である筈の神酒を不味いと言われた事にショックを受けているのだ。
だが、そんな事は如何でも良い様に、リリは彼の髪を思いっきり引っ張る。
「黙って聞いてれば、勝手に失望した上に、クソ不味い酒を飲めば話を聞いてやるだぁ!? テメエどんだけ自分勝手なんだよ!
「!!!???」
髪を引っ張られて痛がるも、クソ不味い酒と連呼し続ける事で再度ショックを受けるソーマ。
痛みと罵倒によるダブルパンチで打ちひしがれてしまいそうになるが、感情が爆発しているリリはそう簡単に許すつもりは毛頭無い。
ベルが此処へ来るまであと数分経ってからだが、それまで彼女は主神にありとあらゆる不満をぶつけるのであった。
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