ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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今回はベル達と逸れたヘルメス達側の話です。


オリオンの矢 幕間

 時間は少し前に遡る。

 

 アンタレスが光の矢を放った事でベル達は神殿の下層に落とされた。その所為でティオナは打ち所が悪かった為か、未だに気絶している。

 

「ティオナ……ティオナッ」

 

「う、うう………あれ? ねぇアイズ――」

 

 何度も身体を揺すって起こそうとするアイズに、ティオナは漸く目覚めた。ゆっくり目を開けながら身体を起こし、周囲を見回してとある人物がいない事に気付く。自身の身体を支えられているアイズに問おうとしている中、第三者の会話を耳にした。

 

「どういうことですか!?」

 

「………………」

 

 アスフィは怒鳴るように自身の主神――ヘルメスに問い詰めていた。しかも凄い剣幕で。

 

 問い詰められているヘルメスは何も言い返そうともせず、ただ後ろを向いたまま無言を貫いている。

 

「あれは神の力、『アルカナム』! 何故モンスターがあの力を!?」

 

「………アルテミスが喰われたからだ」

 

 無言のヘルメスが漸く答えるも、信じられない内容に誰もが絶句していた。

 

 近くにいるヘスティアは察していたように、辛い表情をしながら顔を俯かせたままだ。

 

 因みに(アルテミス)がモンスターに喰われた事はアスフィも知らない。他のヘルメスの眷族達も同様だ。その驚愕な事実を知る者は今まで男神ヘルメス、喰われた女神アルテミスの二柱だけだった。そして女神ヘスティアは道中に気付き始め、アンタレスに取り込まれたアルテミスを見て確信している。

 

 そんな中、意識が戻ったばかりのティオナは呆然としながらも、再びある事を問おうとする。

 

「ねぇアイズ、アルゴノゥト君とアルテミス様は!?」

 

「ここにはいない。多分、もっと下にいると思う」

 

 アイズが首を横に振りながら答えた後、別の方へと視線を向ける。彼女の目の前には、自分達がいる更に下層へ続く大穴があった。

 

 ティオナはすぐに捜そうと大穴に飛び込もうとするが、一人で行くのは危険だとヘルメスに止められた。ベルがアルテミスと一緒に落ちたのを見たから多分大丈夫な筈だと言って。大好きなベルの元へ向かいたい気持ちを抑え、一先ずはと言った感じでティオナが踏み止まる。

 

 それを確認したヘルメスは全員でベル達の捜索をすると言った後、移動しながら真実を語ろうとする。アルテミスについての真実を。

 

「今まで俺達と一緒にいたアルテミスは『槍』に宿る思念体……謂わば女神の残滓。彼女はアルテミスであって、アルテミスじゃない」

 

「それじゃあ……」

 

「神の力を、その身に取り込んだアンタレスは――すべての理を曲げる」

 

 下界で使う事を許されない神の力を、アンタレスは行使出来る。本来であれば天界に送還されてもおかしくないが、神ではないモンスターのアンタレスには適応されない。

 

 モンスターに神の制約(ルール)なんて関係無い。それ故に今もこうして神の力を平然と使い続けている。しかもそれはあくまでアルテミスの力である為、アンタレス自身は何の危険(リスク)もなく、何か遭っても全てアルテミスが負うと言う物凄く都合の良いものとなっている。

 

「だったら、どうして神様達が何とかしないの? そういう関連はヘルメス様たちがどうにかするものなんじゃ……」

 

「ごめん……」

 

「えっ?」

 

 ティオナがヘルメスに質問している筈なのに、突然ヘスティアが自分に向かって謝ってきた。

 

 いきなりの事に戸惑いながら振り向くが――

 

「ごめん……」

 

 ヘスティアは再び謝った。双眸に涙を浮かべながら。

 

 それを見たティオナは察した。神達でも無理なのだと。

 

 もしも神達が対処出来るのなら、槍を抜いた冒険者《アルゴノゥト》に頼んでいないと、普段から頭が悪いと自覚しているティオナも理解する。

 

 すると、ヘルメスが再び口を開こうとする。

 

「アンタレスを倒す方法は、ひとつだけだ」

 

「あの槍ですか?」

 

 ここまでの話を聞いてずっと無言だったリューが尋ねると、ヘルメスはすぐに頷く。

 

「あれは正確には槍ではなく、矢だ。取り込まれる直前、いや後か……アルテミスは残された微かな力で、あの矢をこの地に召喚した」

 

神創(しんぞう)武器(ぶき)……?」

 

「え? アイズ、何それ?」

 

 アイズから聞き慣れない単語を聞いたティオナが訊くも、当の本人も朧気の様子だ。

 

「ゴブニュ様からほんの少し聞いた事がある程度だけど……天界に存在する、神々をも殺す武器くらいしか」

 

「そう。アイズちゃんの言う通り、あの矢は神創武器――『オリオン』。そして神々の言葉で『射貫く者』を意味する」

 

 ヘルメスは継ぐように、矢の名前と意味を告げた。

 

 話を一通り聞いたアスフィは突然、移動している歩を止める。

 

「待って下さい」

 

「アスフィ?」

 

 彼女が待てと言った事で全員も足を止め、ヘルメスが振り向く。

 

「それは世界の命運を【亡霊兎(ファントム・ラビット)】――ベル・クラネルひとりに背負わせるということですか?」

 

「……もう、これしかないんだ」

 

「……っ! それでも!」

 

 ベルに全てを託すしかないと答える返答に、アスフィは激昂してヘルメスの胸倉を掴んだ。

 

「それでも、ひとりの少年に押し付けるんですか! 神殺しの大罪を!」

 

 人間が神を手に掛けたら大罪となる。それは大昔に神が下界に降臨した時に作られた常識であり、下界の人間も当たり前のように受け入れている。

 

 神を殺した人間を誰かが知れば、その者は他の人間だけでなく、多くの神々から忌避される存在となってしまう。それは死後も背負わされるレッテルであり、未来永劫も責め続けられる。故に人間は神々を手に掛けようとはしない。それが例えどんな力や権力を持った人間でも絶対に。

 

「違うよ……違うんだ……。これは、そういう『お話』じゃない」

 

 しかしヘルメスは違うと否定する。これは決して神殺しなどではなく、モンスターに囚われた女神を救う物語であると諭すように。

 

 すると――

 

「多分だけど、アルゴノゥト君はやらないと思うよ」

 

「うん。ベルはそんなことしない」

 

 ティオナとアイズが突然そんな事を言った。

 

 二人の台詞に全員の視線が集中する。

 

「まだアルゴノゥト君との付き合いは短いけど、最後まで諦めようとしないのは分かる」

 

「前の遠征でフィンも含めた私達が諦めかけていたところ、一人で頑張ろうとしていた。あの子がいなかったら、私達は今頃こうして生きていない」

 

 第一級冒険者であるティオナとアイズの台詞に、ヘスティアを除く一同が驚愕していた。

 

 二人は思い出しながら語る。ダンジョン59階層での出来事を。

 

 強力な魔法を使った『精霊の分身(デミ・スピリット)』によって、【ロキ・ファミリア】の主力メンバーが半死半生で全滅しかけたところをベルが奮い立たせた。自分達よりレベルが低い筈のベルが一人だけで挑もうとするどころか、全員に発破を掛けるように挑発した。見事に刺激されて火が点いた先達たちは一斉に立ち上がり、団長のフィンも役目を奪われたと苦笑していた。

 

 それから先はベルが全員に強力な回復アイテムを使って完全回復させた他、リヴェリアに強力な杖も貸してくれた。そのお陰で自分達は勝利する事が出来たと。

 

 話を聞いていたヘルメスは余りにもぶっ飛び過ぎた内容に思考が停止寸前となり、アスフィやリューも呆然となったのは言うまでもない。ヘスティアはベルの強さを改めて知り、よく自分の眷族になってくれたなぁと改めて思った。

 

「だからベルはアルテミス様を助けようとするはず」

 

「もし手伝って欲しいって言われたら、アタシ達もそれに応える」

 

 アルゴノゥト君なら絶対にやってくれるって信じてるから、と付け加えるティオナ。

 

 そんな中、アンタレスの痛々しい悲鳴が聞こえた。

 

「う、嘘だろ……?」

 

「アンタレスを相手に、あそこまで……」

 

 信じられないように呟くヘルメスとアスフィ。

 

 辿り着いた先には、アルテミスから離れた所でベルがアンタレスと交戦している。神の力を使え、並みの冒険者では太刀打ちできない筈なのにベルは圧倒していた。手にしている抜剣(カタナ)で素早く移動しながら居合切りを行い、アンタレスの部位を何度も切断している光景が。

 

 しかし、状況はすぐに一変する。僅かに攻撃を緩めた瞬間、アンタレスがその隙を突くように上半身の鋏を振るって吹っ飛ばした。

 

 壁に激突して動けなくなったベルにアンタレスは胸元を開かせ、アルテミスを取り込んでいる水晶らしき物を露わにした瞬間、神の力を発動したレーザーを放とうとする。

 

「不味い! あの力はいくらクラネルさんでも!」

 

 すぐに加勢しようとするリューだが、突然大きな風が動いた。

 

 風の正体がアイズだと分かるも、認識した時点で既にベルの元へと辿り着いている。

 

 そして――

 

「【目覚めよ(テンペスト)】!」

 

 壁にめり込んで動けないベルの前に立ったアイズは『(エアリエル)』を発動し、放たれた神の力のレーザーを防いでいた。




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