ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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オリオンの矢⑬

「す、凄い……」

 

 流石はアイズさんだ。スキアブレードで魔力を底上げしてるとは言え、神の力を弾き飛ばすなんて。

 

 アルテミス様だけでなく、アンタレスも完全に予想外だっただろう。まさか人間の使う魔法だけで防がれたなんて初めての筈だ。アイズさんと一緒に駆けつけてきた神様達も含めて。

 

「ベル、大丈夫?」

 

「は、はい、何とか……」

 

 レーザーを弾いた後にアイズさんは構えを崩さず、首だけ振り向きながら僕の安否を確認した。彼女のお陰で壁にめり込んでいた身体はもう抜け出しており、いつでも戦える状態になっている。

 

「助かりました。まさかあの風魔法で神の力を弾くなんて」

 

「私も最初は無理だと思っていたけど、この剣が力を貸してくれた」

 

 刀身が今でも青白く輝いているスキアブレードを見せながら言うアイズさんに、僕はやはりと確信した。

 

 アークス製の武器は本来、クラスとそれに見合う力量(レベル)が無ければ使う事が出来ない。当然ファントムクラスの僕には使えない武器だ。例え無理して使ったところで、フォトンが適用されない(なまくら)武器へと成り下がってしまう。

 

 しかし、この世界にいる人達はそんな条件を無視するように使っている。今回の冒険者依頼(クエスト)に同行しているアイズさんやティオナさん、そして以前の遠征で強力な魔法を披露したリヴェリアさんが。

 

 フォトンを持っていない筈なのに、何故アイズさん達が使えるのかは未だに分からない。判断材料が一切無くて確証はないけど、『この世界と異世界の法則が異なっているから使えるかもしれない』程度の安直な推測だ。オラクル船団にいる管理者――シャオさんがいれば、もっと具体的な回答を得らえるだろう。

 

 でも、そんなの後回しだ。一先ずアンタレスに対抗出来る戦力が増えたと喜んでおくとしよう。

 

『オォォォォオオオオオオ!!』

 

 すると、アンタレスが激昂するように叫んだ。自慢の攻撃を人間如きに防がれて憤慨してる、と言ったところだろう。

 

 僕とアイズさんがお互いに武器を構え、接近戦を仕掛けようとするアンタレスを迎撃しようとするも――

 

「おりゃぁぁ~~~!」

 

 どこかから誰かの叫び声が聞こえたかと思いきや、ティオナさんがセイカイザーブレードを翳しながら飛び込んでくる。

 

 気付いたアンタレスは動きを止めて聞こえた方へ振り向いた瞬間、武器を振り下ろしたティオナさんの攻撃で巨大な単眼がある頭を切断された。

 

 流石に頭が失った為か即座に再生する気配がない。動きが止まったのを見たティオナさんが綺麗に着地しながら、僕達の方へと視線を向けてくる。

 

「見て見て二人とも! アンタレスを倒し――」

 

「まだです!」

 

「ティオナ、下がって!」

 

「え? おわぁっ!」

 

 僕とアイズさんが焦ったように言うと、頭を再生しながら下半身の鋏を振り下ろそうとするアンタレス。振り向いたティオナさんが焦りながらも回避して、僕達の所へ来て隣に並ぶ。

 

 アンタレスは警戒しているのか、今度はすぐに動こうとせずに僕達の様子を伺っている感じだ。

 

「嘘でしょ!? 首を斬られても生きてるなんてあり得ないよ!」

 

 信じられないように叫ぶティオナさんに僕も同感だった。

 

 どんな生物でも首を斬られたら生命活動は停止する。それはダンジョンにいるモンスターも同様だ。

 

 その常識を見事に破壊したアンタレスは、正に非常識なモンスターだ。どんなに切断しても、あの厄介な再生能力がある限り死なないと思った方がいい。

 

 だけど首だけは再生するのに少しばかり遅かった。身体を動かす為の頭脳は、他の部位と違って時間が掛かるのかもしれない。

 

 どうすべきか。身体や首を斬っても厄介な再生能力があり、攻撃方法は鋏と尻尾、そしてあの恐ろしいレーザー攻撃を持っている。アンタレスが口から放つのと、アルテミス様の力を使ったレーザーが。

 

 更に嬉しくない情報がある。この遺跡にいるモンスターは凄まじいスピードで自己進化と自己増殖をすると言っていた。だから長引いてしまえば確実に僕達が不利になってしまう。

 

 とは言え、アンタレスを確実に倒す方法が未だに無い以上、戦いながら分析するしかない。余り時間を掛けたくないが、戦闘中に倒せる活路を見い出すしか方法はない。

 

「アイズさん、ティオナさん、僕に力を貸して下さい!」

 

「最初からそのつもり」

 

「もっちろん!」

 

 頼む僕に二人はそれぞれ手にしている己の得物を持って構え始めた。

 

 流石は第一級冒険者だ。あんな恐ろしいモンスター相手でも諦めないどころか、更にやる気を漲らせている。

 

「ねぇアルゴノゥト君、あの『槍』……じゃなくて『矢』はどうしたの?」

 

「……今は僕の収納スキルで保管しています。あの武器の正体を知っているってことは……」

 

「うん。全部ヘルメス様から聞いたよ。あそこにいるアルテミス様も含めて」

 

 どうやら途中で逸れた際にヘルメス様も、ティオナさん達に話していたようだ。僕がアルテミス様から聞いた内容を。

 

 ティオナさんが僕に訊いてきたと言う事は、あの矢でしかアンタレスを倒せないと言う話も聞いたんだろう。同時にアルテミス様を殺さなければいけないと言う事も。

 

「確認するけど、ベルはあの神創武器を使うつもりなの?」

 

「少なくとも、今はまだ使うつもりはありません」

 

 問うアイズさんに僕は即座に答えた。

 

 あの武器は最終手段として使うつもりだ。自分達ではもうどうしようもないと追い詰められた時に。

 

「ほらねアイズ、やっぱり諦めてないよ」

 

「うん。ベルならそう言うと思ってた」

 

 僕の返答を聞いた二人は笑みを浮かべていた。どうやら既に予測していたようだ。僕が簡単に諦めない事を。

 

 すると、ティオナさんは表情を変えて問おうとする。

 

「で、どうする? あのモンスター、斬っても斬ってもすぐ元に戻っちゃうけど」

 

「だったら、再生が間に合わないほど斬り続けるだけ」

 

 安直な考えだけど、今はアイズさんの言う通りだ。いくらアンタレスが再生能力があっても、何度も斬られたら追い付かない可能性がある。

 

「ならその間、僕は魔法で二人の援護に回ります。色々と確かめたい事もありますから」

 

 そう言いながら僕は武器を抜剣(カタナ)から長杖(ロッド)――カラベルフォイサラーへと切り替える。ついでにシフタとデバンドでステイタスを上昇させるのも含めて。

 

 僕がテクニックを使ったのを見たアンタレスは、痺れを切らしたかのように漸く動き出そうとする。

 

「散開!」

 

 そう言った僕の指示に、アイズさんとティオナさんは何の異論もなく行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

「あ、あははは……まさかここまで一方的な展開になるとは……」

 

「何だか、もしかしたらアルテミスが助かるかもしれないような気がするね」

 

 ヘルメス達が離れたところで、ベルとアイズとティオナの三人がアンタレスと交戦しているのを見ていた。

 

 現在は接近戦を仕掛けているアイズとティオナが得物で各部位を難なく切断しているところを、ベルが即座に魔法を使って追撃している。アンタレスが再生してしまうので、結局は振り出し状態に戻っているが。

 

 とは言え、ベルが一人で戦っている時と状況が全く違っていた。風魔法を展開しながら瞬く間に斬り裂くアイズに、持ち前の怪力と武器で部位を粉砕するティオナの攻撃を受けた所を、ベルが魔法を仕掛けている。それによってアンタレスは少しばかり再生に手間取っていた。第三者から見れば明らかにベル達が優勢だ。ついでに心なしか、アンタレスの巨大な単眼が涙目なっているような気がする。

 

「ま、まさかクラネルさんがここまで強くなっているとは……!」

 

「【剣姫】と【大切断(アマゾン)】が加わった時点で、もう完全に私達の出る幕はないですね……」

 

 アンタレスと言う強大なモンスター相手に、本来であればリューとアスフィも加勢すべきだった。しかし、三人が一方的な戦いを繰り広げている為、却って邪魔になってしまうと思い、ヘルメス達の護衛役として見守っている。

 

 端から見れば『アンタレスって本当は弱いんじゃないか?』と思う光景だろう。しかし、実際そんな事ない。アンタレスはアルテミスを取り込み、更には周囲の養分を吸い取り力を得て増殖と進化を繰り返している。それによって身体を覆う甲殻も並みの武器や攻撃魔法は簡単に通じないほどの堅牢な防御力を誇る。第一級冒険者でも苦戦は免れない。その甲殻をいとも簡単に斬り裂かれたり粉砕されているのは、三人が異世界の武器――アークス製の武器を使っているからだった。

 

 ベル以外は知らないが、アークス製の武器には『フォトン』と言う浄化エネルギーが使われており、この世界にとっては未知の力だ。その為いくら堅牢な甲殻で防御したところで、未知であるフォトンの力を理解してないアンタレスには全く無意味だった。

 

 当然、奴は防御を捨ててレーザーをメインにした攻撃に移ろうともしている。だがしかし、口を開いた瞬間にベルがテクニックを放って阻止される破目となっていた。これまでベルが使ったテクニックは、炎属性のラ・フォイエや光属性初級テクニックのグランツ。どれも任意の場所で発動するから、レーザーを撃とうとする寸前に不発となるどころか、口内に溜め込んでいたレーザーが暴発して余計にダメージを負っていた。それでも再生して元に戻っているが。

 

『オォォアアアアアアアアアッ!』

 

「やばっ!」

 

「「ティオナ(さん)!」」

 

 そんな中、アンタレスがやっとの思いでレーザーを放ってティオナに命中し、そのまま後方へと吹っ飛ばされた。

 

 アイズとベルが叫び、先ずは一匹仕留めたと咆哮するアンタレスだったが――

 

「いったぁ~~~……し、死ぬかと思った……!」

 

『…………え?』

 

 直撃して吹っ飛んだティオナが重傷であると思いきや、無傷どころか物凄くピンピンしていた。

 

 いくら『Lv.6』とはいえ、あのレーザーを受けたらタダでは済まない。それどころか下手をすれば死んでもおかしくない威力だった。

 

 これには当然理由がある。結論から言えば、ティオナが手にしている武器――セイカイザーブレードの潜在能力『希望の証』によって救われたからだ。与えるダメージを一割上昇、受けるダメージを僅かに軽減する他、一定時間で傷が完全に癒えると言う潜在能力が。

 

 ティオナはベルから武器を借りた時点で、その潜在能力による恩恵を受けている。武器を手にして力が湧き上がった事は認識していたが、傷が癒えている事までは気付いていない。これまでの戦闘で大した怪我をしていなく、本格的なダメージを受けたのは先程のレーザーだけだ。そして攻撃を受けた直後に一定時間となって傷が癒えて完全回復したと言う訳である。当のティオナは全く気付いていないが。

 

 因みにセイカイザーブレードの性能を知っているベルは一瞬焦るも、潜在能力が発動して良かったと内心ホッとしていた。アイズは今も不思議そうにティオナを見ているが、一先ず無事なら問題無いと再び戦闘に意識を向ける。

 

「よくもやってくれたなぁ~! すっごく痛かったから、百倍にして返してやる~~!」

 

 無傷になっている事よりも、不覚を取って攻撃を受けたティオナは再び戦場に戻り、アイズと共に武器を振るって部位粉砕を始める。

 

「馬鹿な……私の眷族(こども)達では手も足も出なかった、あのアンタレスが……」

 

 ヘルメス達とは違う位置で、アルテミスはもう完全に頭の処理が追い付かなくなっていた。

 

 ベル一人だけでも奮闘していただけでも充分に凄いと言うのに、第一級冒険者が二人加わった程度で更に状況が一変し、一方的にアンタレスを追い込んでいる。もしもアルテミスの眷族達が見たら完全に卒倒するだろう。

 

 この状況を見て誰もが思った。もしかしたら勝てるのではないかと。

 

 しかし――

 

「不味いな。これ以上アンタレスを追い詰めてしまったら……」

 

 ヘルメスだけは違った。それどころか逆に焦り始めていた。

 

「どう言う事ですか、ヘルメス様? 確かにベル・クラネル達でもあの再生能力の所為で倒しきれませんが……」

 

「アスフィ達も既に知っての通り、奴はアルテミスを取り込んでいる。もしベル君達に正攻法で勝てないと完全に理解した瞬間、『神の力(アルカナム)』を本格的に使おうとする筈だ。そうなったら最後、此処にいる俺達どころか下界すら滅びてしまう」

 

「「!」」

 

 それを聞いてアスフィとリューは理解する。ベル達がやっているのは、寧ろアンタレスに『神の力(アルカナム)』を使わせるように促している行為だと言う事に。

 

「ベル君、早くあの矢を使うんだ。アンタレスを確実に倒す方法は――」

 

「悪いけど少し静かにしてくれないかい」

 

「えっ?」

 

 叫ぼうとするヘルメスに、突如ヘスティアが割って入るように言い放った。いきなりの台詞で彼だけでなく、アスフィやリューも驚くように視線を向ける。

 

 肝心のヘスティアはさっきと打って変わり、ベル達の戦いを見守る姿勢だった。もう一切の口出しはしない感じとなっている。

 

「ベル君だって、君と同じ事を考えている筈だ。でもあの子は最後まで諦めようとしない。あのアマゾネス君やヴァレン何某も承知の上で、ベル君と一緒に戦い続けているんだ」

 

「そんな悠長な事を言ってる場合じゃないだろう、ヘスティア。アルテミスを救いたい気持ちは分かるが……」

 

 

 

『ギャァァァァアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

 どうにか考えを改めるようヘルメスが説得を試みる寸前、途端にアンタレスがけたたましい悲鳴を上げていた。

 

 全員が思わず視線を向けると、そこには『神の力(アルカナム)』を使おうと胸元を開いてアルテミスを取り込んだ水晶を露わにしたアンタレスが、何故か上半身と下半身が見事に分離していた。

 

 そして――

 

「芽吹け、氷獄の(たね)!」

 

 ベルが詠唱を口にした瞬間、切断されたアンタレスの上半身を氷属性上級テクニックのイル・バータで即座に凍らせ、再生の進行を食い止めていた。




アンタレスが分離した理由は次回で分かります。

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