ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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二人のアークス④

「ア、アイズさん、それはちょっと……」

 

 アイズさんの質問はリリだけでなく僕も少々困った。フィンさんの思惑とは別に、ソレは色々と不味いモノなのだ。

 

 一緒にいるティオナさんも興味があるように返答を待つようにジッと見てるだけで、やはり知りたいのだとすぐに分かった。

 

「……アイズ様、でしたね。逆に問いますが、貴女様は何故それを知りたいんですか?」

 

「え?」

 

 先程まで困惑していたリリだけど、今は打って変わるように冷静な表情となって逆に問い返した。

 

 アイズさんも予想外だったみたいで、すぐに言葉が出ない様子だ。

 

「えっと……私は、強くなりたいから」

 

 何とか自身の答えを示したアイズさん。

 

 それを聞いたリリは――

 

「そうですか。でしたら、どうかこのままお帰り下さい」

 

 答える気が一切無いと言わんばかりに、爽やかな笑顔でアイズさんに帰るよう促していた。

 

「え……」

 

「ちょ、ちょっとリリちゃん! いくら何でもそんなバッサリ言わなくても……!」

 

 ポカンとした表情になるアイズさんに対し、ティオナさんは思うところがあって少々抗議していた。

 

 僕としてもこんなにハッキリと否定するのは意外だった。二人は有名な第一級冒険者だから、下手に気分を害してしまえば色々不味い事になる。と言うのがオラリオの常識、と言うより暗黙のルールに等しい。

 

 リリは僕と違ってアークスになる前からオラリオのサポーターとして活動していた時期があるから、そのルールは当然知っている筈だ。

 

「今のアイズ様は『Lv.6』でありながらも、もっと強くなりたいその向上心は確かにご立派かもしれませんが、ご自分よりレベルが低い相手にそんな質問をすること自体間違っています。加えてリリは【ヘスティア・ファミリア】の眷族でして、【ロキ・ファミリア】の貴女様に答える義理なんか微塵もありません。そもそも冒険者に関する情報は本来派閥(ファミリア)内の機密扱いなので、それを他派閥の方に教えるなんて以ての外です。アイズ様は【ロキ・ファミリア】を代表する幹部の一人であり、オラリオから【剣姫】と畏怖されている第一級冒険者です。そんな御方が【ファミリア】に関する常識やルールを知らない筈がありません。だと言うのに、他派閥の冒険者に関する情報を平気で訊こうとするのは一体どう言う事なんですか? もしこれが其方の団長様のご命令でしたら、リリは訴えさせてもらいますが」

 

「………ごめんなさい。私が勝手にやったことです」

 

「「……………」」

 

 冷静かつ正論を捲し立てるリリの勢いに、アイズさんは段々と顔を青褪めながらも頭を下げて謝罪した。

 

 その光景を見ている僕とティオナさんは無言になっている。と言うより、口出しできないのだ。

 

「この際なので言っておきますが、いくら貴女様が有名だからってやって良いことと悪いことが――」

 

 リリが如何にも怒ってますと段々説教染みた言い方になっていく事で、アイズさんはもう完全に縮こまってしまいペコペコと頭を下げるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「リリ、さっきのあれはいくらなんでも言い過ぎじゃ……」

 

「事実を言ったまでです。ベル様も機密情報の重要性について、オラクル船団(むこう)で教えられたでしょう?」

 

「うっ、それを言われると……」

 

 ダンジョンにいる僕とリリは、先程についての話をしていた。

 

 あのお説教の後、精神的に打ちのめされてしまったアイズさんはフラフラとしながら自身の本拠地(ホーム)へ戻った。余りにも不安定な歩き方だった為、ティオナさんが支えなければいけない不味い程に。

 

 余りの姿に僕は不憫な気持ちになってしまうも、取り敢えずはリリのランクアップについて何とか回避出来たという事にしておく。くどいけど、ションボリしていたアイズさんの姿は本当に不憫だった。

 

 でも、リリの言ってる事は決して間違ってないどころか、常識的に正しいから否定出来ない。正直言ってアイズさんのあの質問は本来やっちゃいけない同然の行為だから。

 

 この世界の冒険者とは別に、アークスとなる為の研修を受ける際、情報を漏洩させてはいけない事を教えられた。もし流出してしまえば、場合によってはアークスの資格を剥奪されてしまう恐れがある。尤も、それはオラクル船団で活動してる際にやらかした場合になるけど。

 

「まぁ第一級冒険者様にあんな態度を取るのは確かに問題かもしれませんが、あの場はキッパリ言っておかないとダメです。特にああいうお子様思考みたいな御方には注意しておかなければ、また懲りずに訊きだそうとするかもしれませんから」

 

 ああ、言われてみれば確かにそうかも。

 

 遠征の時には僕が何度も遠回しに教えれないと言っても、アイズさんは諦めずに訊きだそうとしていたことがある。僕の武器を無断で借りようとする【ヘファイストス・ファミリア】の椿さんとは違って、あの人に関してはどうも甘くなってしまう。決して惚れた弱味という訳じゃない。

 

「確かベル様は【ロキ・ファミリア】の遠征に加わった事があったみたいですね。その時にアイズ様や他の方々から色々詮索されてたでしょう?」

 

「ッ!」

 

 リリの鋭い質問に僕は内心『ギクッ!』となってしまった。

 

「その表情(かお)を見ると大当たりみたいですね」

 

「あ、あははは……肝心な部分は喋っていないから大丈夫だよ」

 

「……まぁ、今後はリリがしっかりサポートすればいい話です」

 

 若干ジト目をしてるリリだけど、何だかちょっとばかり諦めるように言われた。

 

 僕ってそんなに信用無いのかな?

 

 信用度が低いみたいな感じがして少しばかり落ち込む僕とは別に、周囲に異変が起きようとする。

 

 壁が突然罅が入り、割れた先からモンスターが出現する。

 

 現れたのは複数の『ウォーシャドウ』。6階層から出現する『新米殺し』のモンスター。

 

 それ等を視認した僕達は先程まで会話していた雰囲気とは打って変わり、即座に武器を構える。

 

 大剣だけを取り出す僕、バックパックを一旦収納してメインウェポンとして使う長槍を取り出すリリ。

 

「ベル様、手筈通り先ずはリリ一人だけでやらせて頂きます」

 

「うん。でもリリ、もしやばそうになったら僕も参加するからね」

 

「ええ、分かっています」

 

 今回の探索では主にリリが戦う事になっている。勿論僕も戦うけど、もし彼女が一人で手に負えなくなった時に参加する手筈だ。

 

 前以てリリに槍を扱えるのかを聞いた際、すぐに納得した。オラクル船団にいる六芒均衡のマリアさんから地獄の特訓を受けた際、ハンタークラスで長槍(パルチザン)の扱いを徹底的に学んだと死んだ目をしながら言っていたから。

 

 まさかあの人がリリにも会っていたのは心底驚いた。知っていたなら僕にも教えてくれれば……あ、無理だ。

 

 リリはオラクル船団にいた頃は秘密扱いされてて、小人族(パルゥム)という種族自体が存在してない為、もし公に知られたら大騒ぎになっていただろう。僕は人間(ヒューマン)でも、キョクヤ義兄さんの助力もあってオラクル船団の住人と偽っていたから、リリの事を知るのは絶対無理だ。

 

 おっと、今はそんな事を考えてる場合じゃない。戦闘に集中しないと、目の前にいる『ウォーシャドウ』が襲い掛かってくる。

 

 僕は一応控えだけど、それでもリリが戦いやすいように周囲を警戒しなければならない。ダンジョンはまるで意思を持ってるかのように、冒険者の隙を突こうと急にモンスターを出現させる事があるから。

 

「行きます!」

 

 そう言ってリリはモンスターの群れに自ら突撃していった。

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって【ロキ・ファミリア】の大食堂。

 

 夕食の時間となって団員達が集まっている。

 

 いつもなら周囲がワイワイと和やかになるのだが、今回はいつもと違って静かだった。

 

「……………………」

 

 非常に落ち込んだ様子で黙々と食事をしているアイズを見ている団員達は、一体何事だと思いながら無言のまま視線を向けている。

 

「ア、アイズさん、どうしたんですか?」

 

「……………………」

 

 グループになっているレフィーヤは大変心配そうに訊ねるも、当の本人が何も答えない為に全く分からない。

 

「ちょっと、一体何があったの?」

 

「あ~……色々あってね……」

 

 アイズに聞いても埒が明かないので、ティオネは一緒に同行した(ティオナ)に事情を聞く事にした。

 

 普段のティオナであればすぐに教えてくれるのだが、今回は珍しく歯切れが悪い返答であり、それで余計に困惑する破目になる。

 

「何よその言い方、アンタらしくないわね。さっさと教えなさいよ」

 

「いや~、こればっかりはちょっとね……」

 

 大好きなベルと会った自分とは別に、アイズがリリルカに『Lv.1』から『Lv.3』にランクアップした方法を聞いて怒られた。何て素直に言えるわけがないと、流石のティオナも理解してる為に大変困っている。

 

 ガミガミと説教していたリリルカの言い分が至極真っ当な正論であった為、ティオナは擁護(フォロー)することが出来なかった。寧ろ自分も改めて諭されたように聞いていたので、余計何も言えなくなっていたのだ。

 

 我等がリヴェリア(ママ)に説教される風景は見かけた事はある。しかし彼女以外の人物、益してや他派閥の者にそんなことをされた憶えはない。

 

 アイズも初めての経験だったからか、一切何も言えずペコペコと謝るしかなかった。しかもズバズバと鋭い指摘もされた事でクリティカルヒットして、彼女の精神(メンタル)ライフが一気にゼロとなって再起不能に陥ってしまう。説教したのが自分より年下だと思われる小人族(パルゥム)の少女だから猶更に。

 

 そして少し経ってから、アイズの様子がおかしいとの報告を聞いた首脳陣のフィン達が頭を痛める事になるのであった。




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