ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「やってきたぜ、10階層!」
腰に手を当てたヴェルフが、自分の得物を肩に担ぎながら快活に言い放った。
昨日『豊饒の女主人』で外食を終えてから、一旦リリと別れた後にヴェルフの工房へ向かった。突然の訪問に向こうは驚くも、僕がダンジョン探索しないかと誘った直後、即座に快諾してくれて今に至る。
僕達がいるのは枯木が所々にある草原の10階層。何度も足を運んでる場所だけど、今回は
「ごめんね、ヴェルフ。僕の我儘を聞いてもらって」
「いやいや、気にすんな。寧ろ俺の方から礼を言いたい位だぜ、ベル」
謝る僕にヴェルフは全く気にしてないどころか逆にお礼を言ってきた。
どうやら以前から自分をパーティに加えて貰いたいと冒険者を探していたらしく、直接契約を結んだ『Lv.3』の僕に頼もうかどうか悩んでいたそうだ。そこを僕が声を掛けたから渡りに船となったから、こうして元気よく同行してくれている。
余り期待させないように『探索するのは上層まで』と言ったけど、ヴェルフとしてはパーティでやれるなら全然構わないみたいなので一先ず安心した。
戦えるとは言え、
そのアビリティの有無で
本来であれば、どこの派閥もダンジョン探索するのは仲間内でパーティを組むのは基本なんだけど、ヴェルフ曰く『のけ者扱い』されてるそうだ。
「ま、あいつ等が俺をのけ者にしなかったら、俺はこうしてベルとダンジョンに行けなかったからな……椿には内緒にしないと不味いが」
派閥内で仲間外れにあっても、ヴェルフは結構
それはそうと、親交のある同僚達とダンジョン探索する筈なのに、ヴェルフが例外的に仲間外れにされている理由は判明してない。恐らくだけど、この前僕に話してくれた『魔剣』に関係してるんじゃないかと思う。
前にも言ったけど、魔剣を作る際は『鍛冶』の発展アビリティが必須だと椿さんから聞いた。にも拘らずヴェルフはそれが無くても強力な魔剣を作れるから、同僚達から仲間外れにされてるような気がする。
僕がそう考えてるとは別に、髪をかいていたヴェルフは眉を下げながら笑ってみせた。
「感謝するぜ、ベル。お前とパーティを組めるなんて、他の冒険者からすれば自慢みたいなもんだからな」
「自慢って……別に僕は皆が思ってるほど凄い冒険者じゃないんだけどね」
今まで僕の武器や魔法について探ろうする人や全く懲りない神様達ばっかりで、ヴェルフが裏表のない笑みを向けて来るから悪い気はしない。
「ヴェルフ様の装備を見たところ、ベル様と似ていますね」
と、会話を交わす僕達の隣で、冷静に分析する声が発せられる。
それを聞いて思わず振り向くと、リリが昨日使った長槍を手にした状態で、こちら(特にヴェルフ)を見つめていた。
今日も昨日と同じく感覚のズレを修正する為の探索だから、リリは
「ベル様、いっそのこと今日はテク……魔法を主体とした後衛をやってくれませんか? 三人とも前衛だと偏りすぎて非効率です」
「やっぱりそうなるよねぇ」
リリの言う通り、実は僕もそれを考えていた。
前衛、中衛、後衛の役割をするのが理想だ。けど今回、僕達は三人とも前衛向けの武器しか持っていない。
因みにヴェルフが担いでいる得物は大刀。僕の扱う両刃の大剣と違って、大刀は片刃のみになっている。片刃は両刃と違って肩に担ぐことが出来るから、ちょっとだけ良いなぁと思ったのは内緒にしておく。
だから三人が前衛をやればバラバラに戦ってしまうから、誰か一人が状況を把握出来る為の後衛を務めなければならない。それを考えると
僕としても全然構わないんだけど、それだと法撃力を備えたアークス製の武器を使う事になる。使わなくても発動出来るとは言っても、威力が全く異なるから少々不安だ。
ファントムクラスは
けどまぁ、確かに僕が後衛をやらないと不味い。だから今回は二人を援護する為のサポートに回ろうと決めた。
「それじゃあ、今日は後衛をやるよ。先に言うけどリリ、僕が
「ええ、分かってます」
「?」
僕が念を押して言うとリリは頷くも、ヴェルフだけ不可解そうな表情になっていた。
けれど詮索はしないみたいで、今度はリリの持ってる長槍を見ている。
「ところでリリスケ。昨日ベルから聞いたが、その槍を使いこなしていたみたいだな」
「はい。まだ不慣れですけど、かなり扱いやすいです。リリにとって大変良い買い物でした」
「……そ、そうか」
質問をされたリリが嘘偽りなく答えても、それでもヴェルフは複雑な様子だった。
本人曰く『試しに作った安物の槍』だから、百万ヴァリス支払われた上に高評価されるとそうなるのは無理もないかもしれない。
「なぁ、もしその槍を使って少しでも違和感があったら――」
ヴェルフがそう言ってる最中、僕達の耳にビキリ、と言う音が届く。
それを聞いた僕達は一体何の音か、と考える必要もなく既に察していた。
ダンジョンからモンスターが産まれる音だ。
「う、わぁ……」
「……でけえな」
「あの腕は『オーク』ですね」
僕達の視線の先ではダンジョンの壁が罅割れて、破れようとしていく。
そこから出てきたのは左腕で、今度は右手、その次には巨大な豚頭。
『ブギッ……ォオオオオオオ……!』
潰れた産声を上げたオークは完全に姿を現す。
壁からモンスターが産まれるのは知ってるけど、オークがあんな風に誕生するのは初めて見た。
以前に見たゴライアス程じゃないとは言え、ああいう大型級モンスターが壁を破る光景はちょっとばかり驚く。
だけど、出てくるのはオークだけじゃなかった。更に周囲から同じ音がいくつも鳴り響き、四方八方、ルームの壁から一斉にオーク以外のモンスター達が突き破っていた。
「まぁ、こうなる事は既に予想していましたし、リリにとっては大変好都合です」
「お、随分頼もしい台詞じゃないか、リリスケ」
中々肝が据わっていた台詞を聞いた事で、ヴェルフは少しばかり対抗するようにこう言ってきた。
「よし、オークは俺に任せろ」
「えっ、いいの?」
ヴェルフの申し出に僕は思わず訊いてしまう。
オークは見た目通り怪力だ。『Lv.3』になった僕やリリと違ってヴェルフは『Lv.1』だから、直撃を受ければ戦闘不能に陥る可能性がある。
「アレの動きはトロイし的はでかい。俺の腕でも楽勝に当てられるさ」
どうやらヴェルフからすればオークは与しやすい相手のようだ。
【ヘファイストス・ファミリア】は鍛冶の派閥でありながら戦える
「ならばベル様はヴェルフ様を中心に援護して下さい。リリは勝手ながら一人で好きに動かせていただきますから」
「おいおい、いくらリリスケが『Lv.3』だからって、一人でやるのは不味くねぇか?」
「お気遣い感謝します。ですがリリとしては、一刻も早く感覚のズレを修正したいので、思いっきりやりたいのです」
にっこりとリリはヴェルフに向かって満面に微笑むから、僕は苦笑いするしかなかった。
確かに『Lv.3』になったとはいえ、
まぁ取り敢えず今はリリの好きにさせるとしよう。殆ど感覚のズレが修正されてる僕と違って、彼女は昨日やり始めたばかりだから、一人でやりたい気持ちは分からなくもない。
「向こうがそろそろ痺れを切らしそうなので、リリは先に行かせてもらいます」
「って、本当に行きやがった!」
「あはは……。ヴェルフ、僕達もやろうか」
先行するリリの姿に僕は苦笑するも、一先ずヴェルフの援護に専念するのであった。
☆
場所は変わって『ダイダロス通り』。
オラリオ南東に存在する広大な住宅街と謳われてるが、その構造は複雑怪奇も甚だしくて、周囲からは『地上のダンジョン』と称されるほど猥雑な道が隅々まで氾濫している。
そんな所に現在【ロキ・ファミリア】が赴いており、今は分断して女性陣が中心となっている。
「………………………」
「ちょっとアイズ、まだ落ち込んでるのー?」
昨日の件を未だに引き摺っているのか、アイズは調査に同行しても殆ど上の空状態だった。
事情を知ってるティオナは彼女がそうなるのは無理もないと分かっていても、そろそろ立ち直って欲しいと思っている。
因みに首脳陣のフィン達はアイズが昨夜から落ち込んでる理由を既に知っていた。本当ならリヴェリアが説教するつもりだったが、余りの落ち込みように何も言えなくなってしまう程であった為に何も言えなくなっている。その結果、フィンは調査の件が片付いたら、【ヘスティア・ファミリア】の
「本当に一体何があったのかしら?」
「さ、さぁ……?」
流石に内容が内容だから、他のメンバーには一切知らされていない。それ故に今いるティオネやレフィーヤ達は未だに落ち込んでいる理由が全く分からないまま、不可解そうに見ているだけだ。
アイズは未だにリリのお説教が聞いて引き摺ってる状態です。
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