ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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二人のアークス⑧

「くそっ、一体どうなってんだよ!?」

 

「倒しても倒してもキリがねぇ!」

 

 11階層で留まっている男性冒険者二人はモンスターを倒し続けていた。既に『Lv.2』と至っている彼等からすれば上層にいるモンスター程度など問題無く処理出来るのだが、今回ばかりは手に負えない事態に陥っている。先程までオークやインプの群れを倒したかと思いきや、今度はシルバーバックやハード・アーマードの群れなど、次から次へと新たなモンスターが出現し続けている。

 

 その原因を作っているのが、彼等から少し離れた先にいる二匹の小竜。体高は約一五〇(セルチ)、体長は四(メドル)を超すオレンジ色の竜種の稀少種(レアモンスター)――『インファント・ドラゴン』。

 

 強力な部類に入る竜種のモンスターであり、高い戦闘力を誇っている。ダンジョン上層に階層主は元々存在しない為、希少種でありながらもインファント・ドラゴンが実質的に階層主扱いされている。

 

 硬質な鱗に包まれた強靭な肉体は、上層にいる大型モンスター達を圧倒する潜在能力を秘めているだけでなく、他のモンスターを呼び寄せて物量で戦うこともしている。現に今も新たな同胞達を呼び出して、今も交戦中の男性冒険者達を嗾けている。

 

 本来であれば小竜と遭遇(エンカウント)するのは、稀有を通り越して幸運とも言える。だが二匹となれば幸運ではなく、逆に不運と言ってもおかしくない。ただでさえ一匹だけでも厄介である筈の小竜が二匹となれば、呼び出すモンスターも倍となっているから。

 

 どうにかしたい男性冒険者達だが、インファント・ドラゴンが呼び出した大量のモンスター達に阻まれている事で先へ進む事が出来ないでいた。それどころか倒し続けてる事で体力が消耗していくばかりだ。

 

「あの二匹、全く動こうとしてねぇ!」

 

「高みの見物のつもりかよ!」

 

 同胞を倒し続けてる彼等を見ている小竜は動こうとする気配が無い。まるで気を窺ってるようにジッと嫌な笑みを浮かべている。

 

 モンスターは冒険者(てき)を見れば本能で暴れるが、あのインファント・ドラゴンはそのような素振りを一切見せていない。明らかに自分達が指揮官だと言わんばかりに、他のモンスター達を統率している。

 

「クソが! こんな事ならアイツ等と一緒に逃げりゃよかったぜ!」

 

「そんなのは今更だろ!」

 

 悪態を吐きながらも、少し前に撤退させた『Lv.1』の同期(なかま)達の事を考えていた。

 

 余りにも異常事態(イレギュラー)である為、地上にいるギルドに報告して至急援軍を要請するよう指示させ、今いる二人は足止めをしているのだ。機を見たら自分達も撤退するつもりだったが、余りにも数が多過ぎる為にそれが無理な状況になっていた。

 

 もしも無理して撤退すれば応戦してるモンスター達だけでなく、高みの見物をしてるインファント・ドラゴン二匹も絶対に追って来るだろう。そうなれば上で活動している多くの新米下級冒険者達に甚大な被害を受けてしまうのが目に見えている。

 

「って、また呼び出しやがった!」

 

「俺達を逃がす気ねぇってのかよ!」

 

 一匹のインファント・ドラゴンが、いつの間にか新たなモンスターを呼び出していた。先程彼等が倒したオークとインプの群れを倍以上となって連れてきている。

 

 これ以上足止めを続ければ完全に体力が尽きてバテてしまうどころか、あの小竜二匹もそろそろ動くかもしれない。

 

「不味い!」

 

「完全に囲まれちまった!」

 

 完全な物量作戦に男性冒険者二人は絶体絶命な状況となった。

 

 小竜が途端に叫んだ事で、モンスター達が一斉に動き出そうとするが異変が起きた。

 

『ブゴ?』

 

『ギ?』

 

 オークとインプの数体が斬り裂かれた。突然の事だったのか、疑問の声を上げながら意識を失い絶命しながら灰と化していく。

 

「え?」

 

「な、何だ?」

 

 モンスターの群れの一部が突然倒された事で、男性冒険者達も困惑していた。

 

 すると、目の前から冒険者と思わしき少年が出現する。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「おわっ!」

 

「お、お前……【亡霊兎(ファントム・ラビット)】か!?」

 

 男性冒険者達は目の前の少年と面識は無いが知っている。以前あった戦争遊戯(ウォーゲーム)で、亡霊(ゴースト)のように消えたり現れたりと相手を翻弄させて倒し続けた【ヘスティア・ファミリア】の少年――ベル・クラネルの存在を。

 

 同時に思い出した。【亡霊兎(ファントム・ラビット)】は【Lv.3】にランクアップしたにも拘わらず、未だダンジョン上層に留まって活動している事を。ついさっきまでの自分達は何を考えているんだかと疑問視していたが、今となっては上層に留まってくれていた事で助かったと内心非常に感謝している。

 

「この11階層で足止めをしていると、貴方達の仲間と思われる冒険者の二人から聞きましたが、相違ありませんか?」

 

「! そ、そうだ!」

 

 恐らく撤退した同期達が、偶然彼を見付けてすぐに助けを求めたのだろうと予想するも大当たりだった。

 

 一人の男性冒険者が即座に返答した事で、ベルは腰に携えている剣を手にして――

 

「なら後は任せて下さい!」

 

 そう言った直後にモンスターの群れに突撃して、剣を抜いていないのに、何故か一瞬で前方にいるインプとバットバットが斬り裂かれている。

 

 まるで瞬間移動でもしているんじゃないかと思うような速さで、自分達を取り囲んでいた筈のモンスター達が次々と倒されていく。鈍重なオーク、機敏なシルバーバック、外殻が硬いキラーアント等々、まるで一切の区別を付けること無くベルの剣で平等に斬られていた。

 

「………なぁ、俺達は一体何を見せられているんだ?」

 

「……アイツ、本当に『Lv.3』なのか?」

 

 自分達の身が助かったと安心する二人だったが、今の光景を呆然と眺めているのであった。ベルが駆け付けてから一分も経たない内に、先程までいた筈のモンスターの群れが段々と消え失せていき、もう残り半分となっていたから。

 

 

 

 

 

 

 僕達が11階層へ来て目にしたのは、夥しいと言う表現が相応しいモンスターの群れがいた。

 

 その中で一際目立つのが、モンスターの中で一番大きな竜種のモンスター二匹、『インファント・ドラゴン』だった。

 

 初めて見る希少種は、まるでリーダーみたいな立ち振る舞いをしていた。上層モンスターを呼び出して指示をするように叫んでいたのが見えて、あんな事も出来るのかと内心驚いた程だ。

 

 インファント・ドラゴンの行動に驚きながらも、僕はすぐに大剣を電子アイテムボックスに収納して、抜剣(カタナ)――フォルニスレングを取り出した。11階層にいる冒険者達をすぐに救援しなければいけない為、今回は緊急事態と言う理由で使わざるを得なかった。

 

 リリも同行させたいけど、ヴェルフと一緒に冒険者達の護衛に付かせている。遠・中距離をメインとする長銃(アサルトライフル)大砲(ランチャー)を持つリリならあっと言う間に片が付くと言っても、万が一救援に向かう冒険者二人が巻き添えを食らう恐れがある。本人もそれを理解しているから問題無い。

 

 僕が一人で先行して、久しぶりに振るう抜剣(カタナ)でモンスター達を倒しながら、救援対象の冒険者二人をすぐに発見した。その人達は僕の登場に驚きながらも、此方の問いに嘘偽りなく答えたので、取り敢えず一つ目の目的を果たした。

 

 次に二つ目の目的であるモンスターの群れを全て片付けようと、敵をすり抜ける裏のフォトンアーツ――シュメッターリングで軽く数匹を倒した。

 

 その後には裏のシュメッターリング→クイックカット→裏のシュメッターリング→クイックカット、と言う連続攻撃を繰り返した事で、ついさっきまでいた大量のモンスターの群れは既に半分ほど消えている。

 

『――――――ッッッ!!』

 

 すると、インファント・ドラゴンが雄叫びを上げた。僕が一人で多くの群れを倒した事で脅威と見なしたのか、二匹の内の一匹が動き出そうとする。

 

 以前に中層で戦った猛牛(ミノタウロス)に劣るとは言え、それでも『Lv.2』にカテゴライズされてもおかしくない強力なモンスターに間違いないだろう。

 

 此方へ向かって来るモンスター達に、僕は慌てる事無く抜剣(カタナ)から長杖(ロッド)――カラミティソウルへ持ち替える。

 

「【風雷の天地鳴動、今ここに現れる。天災は此処に汝らを穿つ】! 」

 

 以前に魔導書(グリモア)で習得した複合テクニックを使おうと、詠唱した直後、前方の地面から魔法陣が浮かび上がる。

 

 それを視認した僕は、こちらへ向かってくるインファント・ドラゴンが魔法陣の中心まで進んだ直後――

 

「【レ・ザンディア】!」

 

『!?』

 

 風と雷の略式複合テクニック――レ・ザンディアを発動させた瞬間、雷をまとった竜巻が発生した。

 

 直撃したインファント・ドラゴンだけでなく、周囲にいたモンスターの群れも吸い寄せられ、落雷を受けると言う悲惨な目に遭っている。

 

 ある程度経ってから最後に仕上げの動作をすると、竜巻の中心に大きな落雷が発生した。それによって小竜だけでなく、他のモンスター達も全て黒焦げになって絶命したのは言うまでもない。

 

「「………えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええ!!??」」

 

 略式複合テクニックを見た冒険者二人が絶叫を響かせるも敢えて気にせず、僕は残りの一匹であるインファント・ドラゴンの方へ視線を向けている。

 

『ッ!?』

 

「なっ! モンスターが逃げただと!?」

 

「嘘だろ!?」

 

 すると、小竜が思いもよらない行動を取った。最強と呼ばれる筈の竜種のモンスターが呼び寄せたモンスターを見捨てて逃走を図ったのだ。これにはさっきまで絶叫していた冒険者二人も信じられないと言わんばかりに驚いている様子だ。

 

 リーダーであるからか、もしくはそれなりに知性があるのか、僕には勝てないと悟って逃げたのかもしれない。まるで以前に中層で取り逃がしたミノタウロスを思い出してしまう。

 

 だけど生憎、今回は逃がす気など毛頭無い。あんな知恵のあるモンスターがダンジョンで徘徊してると、他の冒険者達からすれば非常に迷惑な存在になるだろう。そう思いながら、僕は次の動作に移ろうとする。

 

「【深淵に燻りし黒炎は、二度(ふたび)の覚醒と闘争を呼び覚ます。闇の炎に抱かれて眠れ】」

 

 詠唱をしながら右手に闇の力、左手に炎の力が出現してチャージがすぐ間に完了し――

 

「【フォメルギオン!】」

 

 合わせた両手から炎と闇の力を放ち、捕らえた目標を獄炎に包みながら全てを焼き尽くす炎と闇の複合属性テクニック――フォメルギオンを撃ち放った。

 

 ビーム状となって放たれた巨大な闇の炎は、逃走してるインファント・ドラゴンだけでなく、他のモンスター達にも命中している。炎に貫かれて焼かれるだけでなく、闇の爆発も受けると言う二段属性の法撃によって。

 

 さっき使った略式複合の【レ・ザンディア】は体内フォトンをかなり消費するのとは別に、複合属性テクニックの【フォメルギオン】は一切消費しない。テクニックによる法撃のみで与えたダメージで蓄積する事が条件となっている為、簡単に使えない切り札の一種でもある。一度使うと再度発動させるのに少し時間を置かなければならないけど、条件さえ満たせば強力な複合属性テクニックが使用可能になるから、他のテクニック等でダメージを与えれば何度だって発動出来る。

 

 闇の炎が放射されて約五秒ほど経った後、僕の両手から放たれていたフォトンが霧散していく。その先には、僕のテクニックによって悲惨としか言いようがない光景が目に映っている。

 

 11階層にいた筈のインファント・ドラゴンや他のモンスターは全て絶命して倒れた後、魔石を残しながら灰となっている。それ以外にも【レ・ザンディア】や【フォメルギオン】によって、大量に生えてる雑草や枯木が燃え尽くされていた。

 

 ……………う~ん、これはちょっとやり過ぎたかな? 思わず全力で放ってしまったけど、まさか【フォメルギオン】にあそこまでの威力があるとは思わなかった。もしかしたら僕が『Lv.3』になった事で威力が上がってるかもしれない。

 

「何じゃこりゃぁぁぁぁああああああああああああああ!!!」

 

「ベル様! いくら緊急事態だからって、これはやり過ぎです!!」

 

 すると、この光景を見たであろうヴェルフとリリが周囲に響かせるような大声を発していた。

 

 此処にリヴェリアさんがいなくて良かったと心底思う。多分あの人の事だから、僕のテクニックについて絶対問い詰めるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 その夜、【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)『黄昏の館』にある執務室では――

 

「フィン、言い訳は一応聞くぞ」

 

「落ち着いてくれ、リヴェリア。僕は別に隠していた訳じゃない。調査が一通り終わってから話す予定だったんだ」

 

 怒気のオーラを醸し出している副団長のリヴェリアを宥めようと、団長のフィンが必死に宥めているのであった。

 

 彼女がこうなっているのは、ある話を偶然に聞いてしまったからだ。とある【ファミリア】の冒険者達がベルに助けられた際、二つの属性を合体させた強力な魔法を使って大量のモンスターを一瞬で倒したと。

 

 一緒に聞いていたラウルが『え? ベル君アレを使ったんすか』と思わず呟いてしまった事で、それをばっちり耳にしたリヴェリアが即座に問い詰めた後、こうして今度はフィンに問い詰めている訳である。

 

「せめて副団長の私にも情報共有して欲しかったな」

 

「だからそれをやる前に、内容を整理してから話すつもりで――」

 

 

「全く、明日は地下水道の調査が控えておると言うのに……。ベルもベルでとんでもない事をやらかしおったのぅ」

 

「二つの属性を合体させる魔法なんて、神のウチでも聞いた事ないわ。ほんまに非常識兎(クラッシャー)と呼ぶに相応しいことしとるわ」

 

 少し離れたところでリヴェリアとフィンの遣り取りを見ながらも、ガレスとロキはベルの非常識な魔法について深い嘆息をするのであった。




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