ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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二人のアークス⑪

 突然の爆発音と爆風が収まると、先程まであった筈のオリハルコン製の扉は見事に破壊されていた。芸術と思わしき面影は一つもないどころか、無惨な姿と言うべきモノになっている。

 

 ここまでの破壊力がある大砲(ランチャー)のフォトンアーツと言えばアレしかない。チャージすることでより破壊的な一撃を放つことが可能で、説明不要の強力なグレネード弾を装填、発射するPA――『ディバインランチャー零式』。大砲(ランチャー)の中で最大一撃火力があり、複数のエネミーを一気に倒すのに最適なフォトンアーツだ。他にも強力なモノは当然あるが、ここで語る必要はないので省略させてもらう。

 

「~~~~~! おいリリスケ、今のは一体……って、何だこりゃァァァァァァァ!!」

 

 僕と違って衝撃に耐えられなかったヴェルフは倒れていて、立ち上がりながらリリに文句を言おうとしたが、扉が無残な姿になってるのを視認した瞬間に驚愕の叫び声を上げていた。

 

「ふぅっ、もう少し加減して撃った方が良さそうですね」

 

 肝心の壊した張本人は何でもないどころか、『D-A.I.Sブラスター』を収納しながら威力の調節について考えていた。

 

 レンジャークラスは移動射撃可能で単体への火力に優れる長銃(アサルトライフル)と、非常に隙は大きいものの攻撃範囲に優れる大砲(ランチャー)を専用武器としている。ファントムクラスの僕は長銃(アサルトライフル)しか使えないから、探索中に時々大砲(ランチャー)があればなぁと思ってしまう。男にしか分からないロマンがあるけど、効率重視のキョクヤ義兄さんから、『闇の力を得たお前にロマンなど不要だ』と問答無用で切り捨てられてる。

 

 まぁ、僕の個人的な事情は如何でも良いからここまでにしよう。

 

 この世界で最硬金属と謳われてるオリハルコンでも、リリが使う大砲(ランチャー)の前では形無しのようだ。と言っても、ディバインランチャーに匹敵する威力じゃなければ破壊は不可能だけど。

 

 だけど破壊したのは扉だけでなく、周囲の壁も巻き添えを食らったかのように破壊されていた。確かにリリの言う通り、威力を加減しないと不味いだろう。

 

 僕も内心同感だと思っていると、リリは破壊した扉の近くに寄ってしゃがんだかと思いきや、残骸の一部を回収していた。

 

「リリスケ、お前何やってんだ?」

 

「何って、証拠品の回収です。それにコレの素材はオリハルコンですから、()()()の貴方にとっては欲しい代物じゃないんですか?」

 

「え? ………あ、ああ、そうだったな。まぁ下級()()()の俺には過ぎたモノだが」

 

 ヴェルフはそう言いながらも、リリと一緒に扉の残骸を集めようとする。なるべく傷が付いていないモノを中心に。

 

 僕も一緒に手伝おうと思って二人に近付こうとする際、思わず壁の方を見ると、予想外な物を発見する。

 

「ヴェルフ、ちょっとコレ見て!」

 

「ん? 何か見付けたのか?」

 

 僕が慌てるように声を掛けると、オリハルコンの残骸を回収してるヴェルフはすぐに止めて近付いてきた。

 

「こ、この石板の奥に、超硬金属(アダマンタイト)らしき金属が……!」

 

「はぁ? オリハルコンだけじゃなく、そんな希少金属(レアメタル)がある訳……ってマジかよ!」

 

 僕が指した方を見るヴェルフは、石板の奥から露出する鋼色の金属を見た瞬間に目を見開いた。

 

「おいおい、ふざけろッ! もしかしてこの壁の中に全部アダマンタイトが仕込まれてるのか……!?」

 

「そうみたいですね」

 

 周囲を見渡しながら叫ぶヴェルフに、僕達とは反対側の壁を見ているリリもアダマンタイトがあるのを確認していた。

 

最硬金属(オリハルコン)の扉だけでなく、超硬金属(アダマンタイト)で構築されている通路。これはどう考えてもダンジョンの未開拓領域とは大きく異なります」

 

 リリの言う通り、確かにダンジョンでは普通に考えてあり得ない。明らかに人工的の通路や扉が希少金属(レアメタル)で作られている時点でおかしいのは僕も同感だ。

 

「もしかして此処は、誰かが秘密裏に造った隠し拠点用の通路かな?」

 

「その可能性は否定出来ません」

 

 リリは僕の推測を否定せずに頷いていた。

 

「とは言え、入手困難な筈の希少金属(レアメタル)を、これだけふんだんに使うなんて……此処を作った方は余り良い趣味の持ち主とは思えませんね」

 

「「………………」」

 

 浪費家の度が過ぎていますと、リリは違う方向で憤慨していた。

 

 だけどねリリルカさん、そう言いながらオリハルコンだけでなく、アダマンタイトの残骸も回収するのはどうかと思うよ。ヴェルフも「コイツ、意外とがめついんだな」と呆れるように小さく呟いているからね。

 

 僕とヴェルフの視線に気付いたのか、リリは途端に咳払いをしながら、破壊された扉の先の方へ視線を移す。

 

「さぁお二人とも、そろそろ先へ行きましょう。調査は始まったばかりですからね!」

 

 明らかに有耶無耶にしようとしてるリリの言動に、僕とヴェルフは苦笑しながらも先へ進むのであった。

 

 

 

 

 

 

「急にダンジョンみたいになってきたな」

 

 先へ進んでる最中、ヴェルフの台詞に僕とリリは同感のように頷く。

 

 さっきまで一本道の通路だったけど、進んでから複雑な迷路に成り代わったのだ。二股道に四つ辻、いくつもの横道など、通路から枝分かれする道が増えている。

 

 余りにも道が複雑過ぎて、確認の意味も込めて僕は斥候役をやる事にした。小型端末機に経路(ルート)を自動記録するのも忘れずに。後でリリの端末にも情報を送る事も補足しておく。

 

 進んでは『行き止まり』の報告をして、残された正解の道を手探りで探る僕達は、今のところ問題無く進んでいる。

 

「人工的な造りの所為なのか分からないけど、此処はダンジョンより、凄く冷たい感じがするね」

 

 僕は思わずそう呟いた。

 

 ダンジョンは『生きている』。それは冒険者としての常識であり、周知の事実でもある。気を窺うように『異常事態(イレギュラー)』が襲い掛かるから、それで冒険者達を苦しめる。

 

 以前あった遠征の帰還中、『毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)』の群れに襲われたのが僕としても大変苦い経験の一つだった。僕が不覚を取ってしまった所為で、毒を受けた人達の治療が遅くなってしまったから。

 

 あの時みたいな不覚は取らないと周囲を警戒するも、この迷路からダンジョンの『息遣い』というモノが感じられない。

 

 それが無いなら安心、なんて出来る訳がない。寧ろ余計な不安感に襲われる気分だった。

 

 リリやヴェルフは口に出していないけど、不気味な静寂と、仄暗(ほのぐら)い重圧の所為か、段々と口数が少なくなっている。

 

「なぁリリスケ、そろそろ戻った方が良いんじゃねぇか? これ以上俺達が調査しても、逆に迷っちまいそうだぜ」

 

 ダンジョンとは違う不気味さがある所為か、ヴェルフはいつもと違って少しばかり不安気に提案してきた。

 

 ソレに関しては僕も同感だ。いくら経路(ルート)を記録出来ているとは言え、大した準備も無いまま更に進むのは危険極まりない。ハッキリ言ってこれ以上は手に負えない案件(もの)だと、僕はそう思っている。

 

 調査を続けるにしても、僕達三人だけでは余りにも無謀過ぎる。リリだって、まさかここまで複雑な迷路だとは思っていなかった筈だろう。

 

「リリ、僕もヴェルフの意見に賛成だよ。これだけ複雑な迷路になってる事を報告すれば、ロイマンさんも流石に文句は言えないと思うよ」

 

「……そうですね。此処をリリ達三人で調査するには、余りにも無謀過ぎると今更ながら痛感しました」

 

 リリは考える仕草をしながらも、僕達の脱出案に了承した。

 

「ベル様、経路(みち)記録し(おぼえ)ていますか?」

 

「大丈夫だよ。ちゃんと(端末機に)入ってるから」

 

「?」

 

 リリと僕の会話にヴェルフは何か違和感を感じたかのように不可解な表情になるも、口出しする様子は無かった。

 

 進んだ道を戻るとは言え、迷路になっているから一苦労だ。一応頭に入ってても、こう言った場所は地図などが必要不可欠になる。

 

 僕が再び先頭で進むと、リリとヴェルフは後に続くように付いてくる。

 

 思った通り、戻る道も分かり辛くて道に迷いそうだった。ヴェルフには見えないよう端末機のディスプレイに地図を表示させながら、迷うことなく進む。

 

「すげぇな、ベルは。こんな複雑な迷路なのに、ホントに憶えてるとは恐れ入るぜ」

 

「まぁ、そうですね」

 

 関心の声を出すヴェルフとは余所に、リリは敢えて合わせるように同調していた。

 

 すると、先程まで問題無く進んでいた道が、突如オリハルコンの扉によって閉ざされてしまう。

 

「「ッ!?」」

 

「おいおい、マジかよ!」

 

 突然の異常事態(イレギュラー)に僕とリリは目を見開き、冗談じゃないと言わんばかりに叫ぶヴェルフ。

 

 だが、これだけでは終わらなかった。別の方向から、今まで出現しなかったモンスターが大量に出現して、確実に僕達の方へ向かってきている。

 

「何だあの蜘蛛みたいなモンスターは!?」

 

「あっちからは花と蛇が合わさった気色悪いモンスターが来ます!」

 

 ヴェルフが見ている方には、一つ目の蜘蛛の様な外見をしたモンスター。

 

 リリが見ている方には、巨大な花の様な姿をした植物モンスター。

 

 前者は蜘蛛型モンスターともかく、後者の植物モンスターには物凄く見覚えがある。以前の怪物祭(モンスター・フィリア)、並びに【ロキ・ファミリア】の遠征でダンジョン深層で遭遇したのと全く同じだ。

 

 アレがいるって事は、もしかして此処にはダンジョン深層で遭遇した外套の人物がいるのかな。だとしても、今はそんな事を気にしてる場合じゃない。

 

「リリ、ヴェルフ! あの植物モンスターは僕がやるから、二人は蜘蛛型モンスターの方を頼む!」

 

「了解しました!」

 

「わ、分かった!」

 

 僕の咄嗟の指示に二人は反対する事無く即了承した。

 

 今は完全に緊急事態だから、この状況でリリは何一つ文句を言わないだろう。

 

 そう決意した僕は背中に背負ってる大剣を収納させた直後、ヴェルフが作ってくれた防具から『シャルフヴィント・スタイル』とアークス製の防具一色へ、武器も僕の得物の一つである抜剣(カタナ)――『呪斬ガエン』に切り替わる。

 

「!」

 

 アークス製の武具に切り替えるのを見たリリは驚愕してるけど、僕は気にせず植物モンスターの群れと戦う為に駆け抜ける。

 

 

 

 

 

 

「どこの下級冒険者共かは知らないが、晶黽(ヴァルグ)食人花(ヴィオラス)の餌になるがいい」

 

 ベル達が戻ろうとしているのを見たバルカは、即座に最硬金属(オリハルコン)の『扉』を落下するように操作した後、その場に配置しているモンスター達を一気に解放した。

 

 クノッソスに配置させているモンスターは、『Lv.1』の下級冒険者では絶対に勝てない。

 

 晶黽(ヴァルグ)は小型で単体としての戦闘力は高くないが、集団で襲撃すれば『キラーアント』とは比べ物にならないほど厄介な存在になる。

 

 食人花(ヴィオラス)晶黽(ヴァルグ)と異なり、第一級冒険者でも無ければ単独でまともに戦うのは危険な程の戦闘力を備えている。

 

 下級冒険者程度なら食人花(ヴィオラス)一体だけでも殲滅する事は充分可能だが、バルカはリリがクノッソスの一部を破壊したのを見た事で、楽には殺さないと決意していた。深層クラスのモンスター共に襲われる悪夢(ゆめ)を見せようと、過剰とも言える戦力を投入したのだ。

 

 大事な作品を壊した報いとして、絶対勝てない深層クラスのモンスターに襲われる下級冒険者達の苦しむ表情(かお)を見れば、バルカの溜飲が下がる。そんな悪意極まる陰湿なやり方に、彼の異父兄弟が見れば虫唾が走ると吐き捨てるだろう。

 

 すると、白髪の少年が突如武装が変わった。その直後には単身で食人花(ヴィオラス)の群れに向かっていき……瞬く間に斬り伏せていく。

 

「何だ、あの小僧は」

 

 下級冒険者の筈なのに、食人花(ヴィオラス)を倒すなど普通に考えてあり得ない。そんな事実にバルカは困惑している。

 

 彼はクノッソスに籠っている為、外の情報について全く無関心で知らなかった。白髪の少年が現在オラリオの住民達から注目されている大型ルーキーの冒険者ベル・クラネルである事を。僅か数ヵ月で『Lv.3』に至り、【亡霊兎(ファントム・ラビット)】の二つ名も授かった事も含めて。

 

 自身が想像していた展開とは全く異なって困惑するバルカに、別の方でも予想外な事態が起きていた。

 

 クノッソスを傷付けた小人族(パルゥム)の少女――リリが突然メイド服になっただけでなく、見たことが無い魔剣を出して、襲い掛かろうとする晶黽(ヴァルグ)の群れを一気に殲滅していた。仕留め損なった一体が彼女の元へ辿り着こうとしても、赤髪の男性ヒューマン――ヴェルフが大刀で斬り伏せている。

 

「一体どうなっている。何故奴等如きに深層クラスのモンスターがああも簡単に倒されているのだ」

 

 今のバルカは、苦戦している【ロキ・ファミリア】の事など如何でも良くなっていた。

 

 それどころか――

 

「ッ! 止めろ小娘、それ以上壊すな!」

 

 リリがいつの間にか武器を長銃(アサルトライフル)から大砲(ランチャー)に切り替えてモンスターを倒しているどころか、周囲の壁や扉を平然と破壊する光景を目にして、更に憎悪が増す一方だった。




次回はファントムベルとレンジャーメイドリリの戦闘になります。

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