ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
アイズさんとティオナさんの参戦により、アンタレスは防戦一方となっていた。二人が使っている武器で立て続けに部位を斬られ続けているから。
加えて口からレーザー攻撃をするのを見た瞬間、妨害しようと僕がテクニックで阻止している。火属性のラ・フォイエや、フォトンを結晶化して光の矢を生成後に目標へ向かって空から降らせる初級の光属性テクニック――グランツで命中させた瞬間、見事に暴発して怯んでいた。その隙を突こうとアイズさんからの鋭い斬撃を喰らう事となっている。
アイズさんと言えば、彼女が使っている風魔法に変化が起きている。身に纏っている風の鎧がアンタレスに触れた途端、衝撃と斬撃を受けたような傷が出来ていた。まるで風の刃のように。当然魔法を使っているアイズさん本人も気付いている。攻撃していないのに、何故ダメージを与えているのかと疑問を抱いた表情をしたのが見えたから。
僕には心当たりがあった。あれはファイタークラスで
まさかクラス専用スキルも発生させるとは思いもしなかった。それほどまでにアイズさんの風魔法と『スキアブレード』の相性が良かったと言うべきなんだろうか。よくよく考えると、あの武器には風属性が施されているのを思い出した。武器の属性にアイズさんの風魔法、それらが上手く組み合わさった事で『カマイタチ』が発生したのかもしれない。確証は一切ないけど。
恐らくアイズさんはこの件が片付いた後、リヴェリアさんと同じくスキアブレードを簡単に手放さないかもしれない。
そんな中、防戦一方となっていたアンタレスが反撃しようと、こちらの隙を突くように口からレーザーを放った。僕が別の部位に向けてテクニックを発動していた為、レーザーはティオナさんに直撃。それを受けた彼女は吹っ飛びながら壁に激突し、重傷かと思いきや全くの無傷だった。
ああなった理由は分かっていた。運良くセイカイザーブレードの潜在能力『希望の証』が発動して、ティオナさんが完全回復したからだ。アイズさんや遠くから見ているアルテミス様達から見れば何故だと疑問視するだろうが、それは後で説明しておくとしよう。
それよりも、この状況をいい加減にどうにかしないと不味い状況だ。
僕とアイズさんとティオナさんが優勢でも、向こうが厄介な再生能力がある所為で、斬られた部位はあっと言う間に戻って繰り返し状態になっている。周囲に斬られたアンタレスの部位が沢山転がっている。
戦い続けて分かったのは、アンタレスは絶命しない限り無限に再生し続ける。はっきり言って僕達がやっているのはイタチごっこも同然だ。このままやってもアンタレスは絶対に倒せないと確信する。
同時に疑問も抱いた。いくら強大なモンスターでも大きな部位を何度も斬られて再生すれば、体力も相当消耗しておかしくないのに、何故あそこまで完全な状態に戻るのかと。
完全回復して激高したティオナさんが戦線復帰し、再び武器でアンタレスの下半身部分である大きな鋏の片方を切断した。アンタレスは再び悲鳴をあげながらも再生して、結局元に戻ろうとしている。
(…………ん?)
再生しているアンタレスに、僕はある物を見た。アレの上半身の胸元から青白い光が漏れ出ているのを。
確かあの中には、アルテミス様を取り込んだ水晶らしき結晶がある筈だ。僕に止めを刺そうとした時、胸元を開いた途端にアルテミス様の力で青白いレーザーを放とうとしていた。
青白い光を発したのは即ち、アルテミス様の力を使った事になる。アンタレスは口腔レーザーしか放ってない筈なのに、胸元に取り込んでいるアルテミス様の力を使ったと言う事は……まさか!
僕がある確信に至ろうとする中、今度はアイズさんが武器に風を纏いながら、迫りくる下半身の巨大な尻尾を斬り落とした。その後はまたしても斬られた部分から尻尾が生えて再生すると言う見慣れた光景となる。
けど、僕はそこを一切見ないでアンタレスの胸元を凝視した。すると――
(やっぱり、そう言うことだったのか!)
そこから先程以上に青白い光が漏れ出ていた。しかもアンタレスが尻尾を再生している最中に。
漸く確信を得る事が出来た。奴が無限に再生できる力の源は、取り込んでいるアルテミス様の力を使っているのだと。
僕はてっきりアルテミスの『
どこまでも腹立たしいモンスターだ! 何から何までアルテミス様の力を利用するアンタレスのやる事に殺意が湧いてきた。気高く優しい女神様を踏み躙っているような行為は万死に値する!
絶対に倒そうと意気込んでいる中、いつの間にかアイズさんがアンタレスから下がって僕の近くにいる。
「ベル、どうしたの? 援護が止まってる」
「っ……」
声を掛けてきたアイズさんに僕はハッとした。
いけない。殺意に囚われていた所為で、思わずテクニックの援護をしなくなっていたようだ。因みにティオナさんは今も果敢にアンタレスに挑んでいる。
けど、アイズさんが来てくれたのは好都合だった。ある事をやってもらう為に。
「アイズさん、突然ですがアレの胴体を斬り離す事は出来ますか?」
「? ……出来るけど、ほんの少し剣に
「充分です。すぐにやって下さい」
「どうするつもり? ベルも知っての通り、すぐに再生するのが――――分かった。やってみる」
疑問を投げかけるアイズさんに僕が懇願するように見ると、その熱意が伝わったのか頷いてくれた。
そして突進しながら、彼女はスキアブレードの刀身に魔力を込めようとしている。それも凝縮された凄まじい風を。
『!?』
「え!? な、何!?」
アイズさんの魔力に反応したように、アンタレスは途端に胸元を開いた。いきなりの事にティオナさんが戸惑うも、向こうは気にせずアルテミス様を取り込んだ結晶から、青白い光を発生させている。
どうやら完全に理解したんだろう。このままやっても僕達に勝てないから、アルテミス様の『
「それは使わせないよ! って、全然止まらない!」
ティオナさんが阻止しようと再び部位を斬るも、向こうは全く気にせず発動させようとする。どうやらこちらの攻撃を無視してまで使うつもりだ。
アルテミス様の力を使ったレーザーが全方位に放とうとするも、突進しながら武器に途轍もない魔力を込めたアイズさんは跳躍してアンタレスと対峙し――
「――行くよ」
『!』
剣を両手で持って真横に振った瞬間………アンタレスの胴体を簡単に切断した。
その瞬間――
『ギャァァァァアアアアアアアアアアッ!!』
「うっそ~……」
身体が真っ二つとなったアンタレスから、けたたましい悲鳴を上げていた。部位が斬られるだけならまだしも、流石に上半身と下半身が分離されたらそうなるだろう。
余りの光景にティオナさんが呆然と見ているが、僕は気にせずにテクニックを放とうとする。
「芽吹け、氷獄の
氷属性上級テクニックのイル・バータを発動させた。その瞬間に斬り放された上半身の部分へと凍り付かせる。
アンタレスは一旦体勢を立て直そうと再生しようとするも出来なかった。どうやら上半身の切断面が凍らさせているからか、もしくは異物が混じってる事で瞬時に再生出来ないんだろう。僕にとっては非常に好都合だ。
そう思いながらも、地面に激突して倒れるアンタレスに僕は再び詠唱を紡ぐ。
「凍れる魂を持ちたる氷王よ! 汝の蒼き力を以って魅せるがいい! 我等の行く手を阻む愚かな存在に! 我と汝が力を以って示そう! そして咲き乱れよ、美しきも儚き氷獄の華!」
『~~~~~~~~~~~~~~~っ!?』
一文ごとに詠唱を区切っている中、対象の身体の一部がどんどん凍っていく。六本ある上半身の鋏を順番ずつ地面に縫い付けるように。
アンタレスは必死に抵抗して氷の呪縛から逃れようと暴れるが――
「イル・バータ!」
頭に七発目のイル・バータを発動した瞬間、巨大な氷の華に包まれたアンタレスの氷像が出来上がった。胸元を開いている結晶だけを除いて。
「ティオナさん! 今の内にあの結晶を引き剥がして下さい!」
「任せてアルゴノゥト君!!」
僕の指示にティオナさんは何の疑いもなく頷いた。
氷漬けになってるアンタレスに近付いた後、武器を近くに置いて直ぐにアルテミスを取り込んでいる結晶を両手で持ち、引き剥がそうと踏ん張り始める。
「ぐぎぎぎぎぎ……! こ、これ、簡単に取れない……!」
「ティオナ、手伝う!」
どうやらそう簡単に引き剥がせないみたいだ。『Lv.6』で力に特化している戦士タイプのティオナさんでも。
それを見たアイズさんも手伝おうとするも、全然ビクともしない様子だった。恐らく僕も加わったところで結果は変わらないだろう。
胸元さえ開いていればすぐに引き剥がせると思ったのは甘い考えだった。アンタレスにとって、取り込んだアルテミス様は大事な一部だから、そう簡単にはいかないか。
かと言ってゆっくりと引き剥がす時間も無い。アンタレスが未だに抵抗を続けている所為で、氷漬けとなってる部分に段々罅が入り始めている。あと少しすれば氷の華が砕けて、即座に開いている胸元を閉じようとするだろう。
この状況であの結晶を無理矢理取り出す方法は………仕方ない。アルテミス様には非常に申し訳ないけど、こうなったら一か八かだ。出来れば引き剥がした後にやりたかったけど、今はそうも言ってられない!
「二人とも、退いて下さい!」
「「!」」
僕は即座にファントムスキルを使って姿を消しながらも、即座に氷漬けの辿り着いた。同時に
「ちょっ! アルゴノゥト君、何やってるの!?」
「そんな事したら、アルテミス様が……!」
咄嗟に躱した二人は、結晶を突き刺した僕の行動に驚きながらも止めようとしていた。
しかし、僕は気にせずに次の行動に移ろうとする。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
「え!? な、何これ!?」
「ベルの魔力が、結晶に注ぎ込んでる……?」
僕の身体から発生している大量のフォトンが
フォトンは本来ダーカーの汚染を浄化する為のエネルギーなので、アンタレスには無意味だと思われるだろう。けれどコイツは、周囲の森や村を浸食して汚染させると言うダーカーみたいな存在だから、もしかしたらフォトンが通じるんじゃないかと思った。
案の定、アンタレスと本格的に戦ってフォトンを扱う武器やテクニックが効いていた。恐らく未知のエネルギーであるフォトンの耐性が無い為か、簡単に防御力を貫いて浄化されているんだろう。
そして僕は考えた。もしかすればフォトンを直接注ぎ込めば、取り込まれているアルテミス様を救い出す事が出来るのではないかと。
アンタレスが胸元を開いたところを氷漬けにさせ、その隙にあの結晶を引き剥がし、フォトンで浄化を試みようとするが無理だった。それが思うように引き剥がせなかった為、急遽繋がったままフォトンを注ぐしかなかった。
『ッ!!』
すると、未だに抵抗しているアンタレスの様子がこれまでと違う反応を示した。その証拠に、氷漬けとなっている胸元が無理矢理にでも蓋をしようとする。
やっぱりコイツはフォトンが苦手のようだ。同時にこのエネルギーによって取り込んだアルテミス様が分離させられると危惧しているから、必死になって閉じようとしているんだ!
「ああああああっ!!」
アンタレスの行動に、僕は持てるフォトンを全力で結晶に注ぎ込んだ。
その瞬間に結晶の色が変色していくどころか、ビキビキと罅が入る音がする。そして―――砕けた。
『~~~~~~~~~~!!!』
「ベル!」
「アルゴノゥト君!」
「オリオ~ンッ!」
同時に氷の華から逃れたアンタレスが、解放されたアルテミス様本体だけでなく僕ごと取り込もうとした。アイズさんとティオナさん、そして遠くから見守っている残留思念のアルテミス様の叫びと共に。
フォトンを使って取り込んだアルテミスを分離すると言う話にしました。
余りにも都合良過ぎるだろと言うツッコミは勘弁して下さい。
PSO2とコラボだからフォトンを活用したかったので。
それとは別に感想お待ちしています。