ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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話数だけで言えば、丁度150話行きました。

話は一気に精霊の分身(デミ・スピリット)まで飛びます。


二人のアークス⑬

『アハッ、アハハハハハハハハハハハハハハハハ!』

 

 人造迷宮(クノッソス)の数多くある大広間の一つに、『精霊』の笑い声が響かせている。

 

 その声の主は異形とも言える存在だった。

 

 巨大な脚、巨大な双角、緑色に蝕まれた鋼色の対皮をした巨躯の『闘牛』らしき頭部の額辺りに、女体の上半身。

 

 見た目からして明らかにモンスターなのだが、この存在の正体を知る者はこう呼ぶ。『精霊の分身(デミ・スピリット)』と。

 

 アイズの『風』により、今まで分断していた【ロキ・ファミリア】の眷族達が集結するも、この巨大な存在の登場と言う異常事態(イレギュラー)の所為で撤退せざるを得なかった。

 

 此処へ辿り着く前に団長のフィンを含む多くの負傷者が既にいた為、第一級冒険者(Lv.6)のガレス、ティオネ、ティオナが殿(しんがり)をしようと『精霊の分身(デミ・スピリット)』と交戦する事を決意。同時に第二級冒険者(Lv.4)のラウル、クルス、ナルヴィも残り後衛を務める事に。

 

 ガレス達の決意とは別に、『精霊の分身(デミ・スピリット)』は単なる遊び相手のように蹂躙していた。笑い声を響かせていたのは、動かなくなった彼等を見てそうしていたから。

 

 その光景に台座を通して見ていたとある美神の出資者(スポンサー)は歓喜し、『フレイヤに勝てる!』と哄笑しながら、青年従者を連れて去るのであった。もうこれ以上は見るまでもないと言わんばかりに。

 

『フフ……バイバイ』

 

 先程まで地面や壁、『精霊の分身(デミ・スピリット)』は瓦礫に叩きつけて動けなくなったティオネにそう言った後――

 

「なっ、これは……!」

 

『?』

 

 大広間を出ようとするところ、別の通路から第三者の声がした事で動きを止めた。

 

 耳にした『精霊の分身(デミ・スピリット)』が振り向く先には、先程まで遊んでいた冒険者とは違う白髪の少年(ニンゲン)。また新しい『玩具』が来たと、彼女は再び笑みを浮かべる。

 

「ガレスさんにティオナさん!? それに、ティオネさんにラウルさん達まで!」

 

 白髪の少年が無残な姿で倒れているガレス達を見て驚愕の声を上げている中、『精霊の分身(デミ・スピリット)』は小さき存在に向かって声を掛ける。

 

『アナタモ、遊ビタイノ?』

 

「ッ! まさか、『精霊の分身(デミ・スピリット)』……!?」

 

 まるで自分を知っているような口振りで此方を見る少年(ニンゲン)に、『精霊の分身(デミ・スピリット)』は益々笑みを深める。

 

「ベル様! 勝手に進んでは……って、何ですかこの状況は!?」

 

「おいおい! 何か凄ぇデカいモンスターがいるぞ!」

 

 白髪の少年が現れた通路から、新たな者達が現れた。物凄く小さい幼女(ニンゲン)と赤髪の少年(ニンゲン)の二人が。

 

 新しい玩具がまた増えたと喜ぶ『精霊の分身(デミ・スピリット)』とは別に――

 

「アルゴ、ノゥト、君だぁ……!」

 

「ベル、じゃと……!?」

 

「ど、どうして……ベル君が……!?」

 

 白髪の少年『ベル』の声に真っ先に反応して目覚めたティオナ、その後に目覚めるガレスやラウル達は予想外な人物の登場に目を見開いていた。

 

(またフィンの奴が……いや、それはない)

 

 以前にあった港街(メレン)の一件みたく、フィンがベルに援軍の要請をしていたのかとガレスは一瞬考えるも、それはないと即座に却下する。今回の探索で【亡霊兎(ファントム・ラビット)】の力を借りるつもりは無い、と本人がそう断言したのだ。敵を欺くにはまず味方からと言う策を、あの(さか)しい生意気な小人族(パルゥム)であれば絶対やりそうだが。

 

 とは言え、今の危機的状況でベルの登場は非常に嬉しい誤算だった。自分より二回り以上年下の若造とは言え、少し前にダンジョン59階層で、『精霊の分身(デミ・スピリット)』を倒す為に貢献してくれた仲間(パーティ)の存在は非常に大きいから。その証拠にティオナやラウルが満身創痍でありながらも、ベルを見た途端非常に嬉しそうな顔になっている。

 

 そんな中、小人族(パルゥム)の少女が妙な武器を持っており、『精霊の分身(デミ・スピリット)』の前脚に向けて何かを放った。

 

『?』

 

 何かが当たった感覚に、『精霊の分身(デミ・スピリット)』は自身の足元を見下ろした。

 

 見れば、赤色の印らしきモノが前脚に付いている。それをやったのは、変なモノを持ち構えている自身より遥かに小さい幼女(ニンゲン)だとすぐに分かった。

 

「ベル様! 状況は全く分かりませんが、取り敢えずあのデカブツをさっさと倒しましょう!」

 

「う、うん!」

 

「ヴェルフ様! ここはリリとベル様がアレの相手をしますので、あそこに倒れている方達を頼みます!」

 

「わ、分かった!」

 

 小人族(パルゥム)の少女――リリは『精霊の分身(デミ・スピリット)』を見ても怯えないどころか、ベル達に的確な指示を出していた。

 

 まるで指揮官と思わせる彼女の佇まいに、ガレス達は思わず凝視してしまう。

 

(何じゃ、あの思い切りの良い娘っ子は?)

 

 もし此処にフィンがいたら勇気ある同胞として見るだけでなく、絶対目を付けるんじゃないかとガレスは思わず考えた。もし口にしたらティオネ辺りが絶対に黙っていないだろうが。

 

「ベル様、前脚に撃ったマーカー(・・・・)を重点的に狙って下さい!」

 

「勿論だよ!」

 

 リリの発言に頷くベルは幽霊(ゴースト)のように姿を消したかと思いきや、彼女とは正反対の位置に現れながら、以前に使った遠距離攻撃用の魔剣を手にして――

 

「喰らえ!」

 

『イダァァァァァァアアアアアアアアア!!』

 

 連続で放った直後、前脚が抉れるように被弾する『精霊の分身(デミ・スピリット)』は痛々しい悲鳴を上げていた。

 

(ど、どう言う事じゃ!? ワシとティオナの時には、大してビクともしなかった筈なのに!)

 

 つい先程、ガレスとティオナが脚に渾身の一撃を振るっても『イタイッ』と言っただけなのに、今はその時とは比べ物にならない程のダメージを与えていた。

 

 敵の体皮は超硬金属(アダマンタイト)の硬度なのに、ベルの攻撃がああも簡単に貫く事にガレスは疑問視している。

 

『オマエェェェェェェェェェェッ!!』

 

 自身に盛大な痛みを与えたベルに『精霊の分身(デミ・スピリット)』は笑みから一転し、怒りの表情となってベルに襲い掛かろうと突進する。

 

「ベル様だけではありませんよ!」

 

『ギャァァァァァアアアアアアアアアア!!』

 

 次にリリからの攻撃を受けた『精霊の分身(デミ・スピリット)』は、突然の大きな痛みにまたしても悲鳴を上げていた。ベルの時と違って、敵の前脚は無数の針状のようなモノが沢山突き刺さっている。

 

(何じゃあの武器は!?)

 

 遠距離用の魔剣だと判明するガレスだが、『精霊の分身(デミ・スピリット)』の前脚が針だらけになっているのを見て再度驚愕した。ベルに続いてリリもダメージを与えている事に、先程まで苦戦していた自分達は一体何だったのだと思ってしまいそうな程に。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

 予想外な強敵が現れた所為か、暴牛の咆哮が大広間を撒き散らながら暴れ始めようとする。

 

 それを見たベルは次の行動に移ろうとする。

 

「リリは下半身の脚を中心に狙って! 僕は本体の上半身をやるから!」

 

「了解しました!」

 

 頷いたリリが次の脚を狙い始めている中、ベルは武器を切り替えようとする。不気味な形状をした大鎌らしき魔導士用の武器へ。

 

「【沈黙の審判者よ。虚構なる光と氷の理にて翼となり、永久(とこしえ)の静寂を下せ】!」

 

 詠唱をするベルに、リリを除く誰もが視線を向けると――

 

「【レ・バーランツィア】!」

 

 魔法名を告げた瞬間、ベルは突如上昇しながら背中から翼らしきモノが生えただけでなく、そのまま飛翔しながら光と氷の弾丸を『精霊の分身(デミ・スピリット)』の上半身に狙い撃ちしていた。

 

「ちょっ、ベル君!? 前に自分が見た合体魔法とは全然違うじゃないっすか!」

 

 ラウルは立ち上がりながらも、ベルが以前に使っていた魔法とは全く異なる事に思わず声を上げるのであった。




負傷するガレス達と合流するベル一行でした。

次回はベル視点でやります。

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