ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

152 / 178
二人のアークス⑮

 リリルカ・アーデは怒りが頂点に達した事で冒険者としてのスキル――【冥怒聖女(バーサク・フィアナ)】が発動していた。一時的に全アビリティ一時的急上昇すると言うモノで、発動したと言う証拠がある。それは瞳の色だった。

 

 彼女の瞳は髪と同じく栗色なのだが、今は全く異なる色になっている。鮮やかな赤を示した紅眼(こうがん)となり、まるで『憤怒』を象徴させている感じだ。

 

 因みに、もしこの場にフィン・ディムナがいたら、間違いなくリリを凝視していただろう。自身が使う奥の手の魔法【ヘル・フィネガス】に類似していると同時に、魔法も使わずに発動させた彼女は女神『フィアナ』の生まれ変わりではないかと。そんな事になれば、勘付いたティオネが絶対黙っていないかもしれないが。

 

「楽に死ねると思うなよ!」

 

 ベルが頬を引き攣らせている中、リリは声を荒げながら持ち構えてる長銃(アサルトライフル)『スプレッドニードル』の銃口を『精霊の分身(デミ・スピリット)』に向けていた。同時に全身が青白く光り始めている。

 

『!?』

 

「不味い!」

 

 それを見た『精霊の分身(デミ・スピリット)』は何か嫌な予感が過ったのか、すぐに阻止しようと再びリリ目掛けて突進しようとする。

 

 またしてもリリを狙おうとする巨牛を見たベルはすぐに此方へ引き付けようと弾丸を撃つが、後脚に当てても怯む様子を見せなかった。当然『精霊の分身(デミ・スピリット)』は痛みを感じるも、そんな事は気にしてられないと言わんばかりの様子で突進の速度を上げようとする。

 

 だが、リリの方が一足早く、長銃(アサルトライフル)の銃口から弾丸が発射されると同時に、全身から発してる青白い光も消えた。そして弾丸は巨牛の喉元辺りに命中し――

 

『ギャァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 途轍もない激痛が『精霊の分身(デミ・スピリット)』に襲い掛かった所為で、リリに向けて突進していた脚を止める事になってしまい、大広間全体に大絶叫を響かせていた。

 

 リリが放ったのは、チャージする事でとっておきの一弾となり万物を撃ち貫くレンジャー専用の長銃(アサルトライフル)フォトンアーツ――『エンドアトラクト』。フルチャージで放った事で大型のフォトン貫通弾となり、威力は言わずとも桁違いになる。

 

 エンドアクラクトは一撃必殺と呼ぶに相応しいフォトンアーツだが、対象が大きければ大きいほど真価を発揮する。小型モンスターであればあっと言う間に弾丸が身体を貫通して終わりになるが、『パワー・ブル』に寄生して巨大化した『精霊の分身(デミ・スピリット)』であればダメージが更に大きくなる。大型フォトンの貫通弾は超硬金属(アダマンタイト)並みの硬度を持つ体皮を貫きながら体内に侵入し、内臓器官を抉るように真っ直ぐ進んでいくのを考えれば、『精霊の分身(デミ・スピリット)』が激痛に苛まれながら大絶叫を上げるのは当然であった。アークス視点で言うのであれば、海岸エリアに生息する長い体を持つ巨大な海王種『バル・ロドス』に、エンドアクラクトを放つような光景と言えば理解出来るだろう。

 

(そうか! 確かにあのフォトンアーツならアレ相手に有効だ)

 

 『精霊の分身(デミ・スピリット)』が激痛に苛む姿に、エンドアクラクトであれば打って付けのフォトンアーツだとベルは即座に理解した。

 

『………………』

 

 対してヴェルフやガレス達は、リリが放った弾丸で絶叫するようなダメージを与えてる『精霊の分身(デミ・スピリット)』を見て言葉を失っていた。

 

 すると、巨牛の背中から弾丸らしきモノが飛び出るように天井へ向かうも、まるで役目を終えたかのように霧散していく。

 

『ウ、アア……』

 

 自身の体内に侵入し、内臓器官ごと抉るように突き進んでいた異物がやっと無くなった安堵する『精霊の分身(デミ・スピリット)』だが、それでも激痛は未だ残っている。負傷したなら即座に魔力を使っての『自己再生』をするのだが、生まれて初めて味わう超激痛だった所為もあって思うように行動出来なかった。

 

 完全に隙だらけとなっている敵を、リリは見逃しはしない。

 

「お次はコイツだぁ!」

 

 リリはそう言いながら長銃(アサルトライフル)から大砲(ランチャー)『D-A.I.Sブラスター』へと切り替えた。同時に砲弾を装填する仕草をする。

 

「な、何じゃあの武器は!?」

 

「何かアルゴノゥト君みたいに武器が変わってるんだけど!」

 

「「ッ!?」」

 

 武器が切り替わった事でガレスとティオナが驚きの声を発するも、ベルとヴェルフだけは異なる反応をする。リリが放とうとする武器を見て顔を青褪めたのだ。

 

「皆さん! 今すぐ耳を防ぎながら伏せて下さい!」

 

「アンタ等今すぐベルの言う通りにするんだ!」

 

 ガレス達は疑問を抱くも、ベルとヴェルフが本気で言ってるのが伝わったので、二人の指示通りにした。未だに意識を失っているティオネを除いて。

 

 そんな中、リリは大砲(ランチャー)の砲口から大きな球状型と思われるフォトンの弾丸が放たれた。しかも何故か超低速で。

 

『ッ! コ、コンナモノ……!』

 

 リリが放った弾丸を見た『精霊の分身(デミ・スピリット)』は痛みを堪えながらも、自分に向かって来る遅い弾丸を踏み潰そうと棹立ちになる。

 

 巨牛の蹄を振り下ろしてフォトンの弾丸に触れた瞬間――爆発が起きた。

 

『――――――――――――――――――――――――――ッッッッッッ!!!』

 

 巨牛の全身を丸ごと包み込むように爆発している事で、『精霊の分身(デミ・スピリット)』は再び大きな絶叫を響かせている。

 

 これは当然大砲(ランチャー)の通常攻撃ではなくフォトンアーツだった。

 

 超低速の高威力グレネード弾を発射するレンジャー専用の大砲(ランチャー)フォトンアーツ――『コスモスブレイカー』。若干ではあるが追尾性のある低速のグレネード弾を発射し、それに触れる、もしくは一定距離を進むと爆発を起こす。弾速が遅くて大砲(ランチャー)の中では遠距離の攻撃手段に向かないフォトンアーツだが、一定の距離で複数の敵を一気に片付ける事が出来る。

 

「うぉぉぉぉぉ! 今までと違う爆発じゃねぇかぁぁぁ!?」

 

(な、何か僕が知ってる『コスモスブレイカー』の威力とは違う気が……!)

 

 凄まじい爆風が襲い掛かってる事で伏せているヴェルフは何とか耐えるも、ベルはリリが放ったフォトンアーツに何やら疑問を抱いていた。

 

 それは当然であった。リリは『Lv.3』になっただけでなく、【冥怒聖女(バーサク・フィアナ)】が発動していて全アビリティ上昇の他、発展アビリティの【狙撃】によって威力も上がっているのだから。ソレ等が重なってる事でコスモスブレイカーの威力は本来の倍以上となり、巨牛を包み込むほどの大きさにまでアップデートされている。ついでに先程使った長銃(アサルトライフル)の『エンドアクラクト』も同様に強化されてる事も補足しておく。

 

「何なんじゃあの娘っ子はぁぁぁぁ!?」 

 

「もうアタシ訳わかんないよぉぉぉぉ!!」

 

「あの子もベル君みたいに普通じゃないっすぅぅぅ!!」

 

 因みに負傷しているガレス達はリリが信じられない方法で『精霊の分身(デミ・スピリット)』に大ダメージを与えてる事で混乱の極みに陥っていた。もしラウルの失礼な台詞をベルが聞いていたら絶対抗議してるかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

「……………ねぇ、あの小人族(パルゥム)の女の子は一体何者なの?」

 

 薄暗い部屋の中心にある台座に映し出されてる光景に、タナトスは困惑している。『天の雄牛』が【ロキ・ファミリア】を圧倒していたところまでは良かったのだが、予想外な人物達が現れた事で状況が変わってしまったから。

 

 タナトスは普段クノッソスに籠ってるバルカと違い、現れた三人の内の二人について知っていた。

 

 一人目のヒューマンは【亡霊兎(ファントム・ラビット)】ベル・クラネル。現在オラリオの中で最も注目されている冒険者であり、闇派閥(イヴィルス)としては充分警戒しておくべき存在。

 

 二人目の小人族(パルゥム)はリリルカ・アーデ。未だ二つ名は無いが、『Lv.1』から『Lv.3』に異例のランクアップをした前代未聞の少女。

 

 異例な存在であるヒューマンの少年と小人族(パルゥム)の少女が加わった事で、もしかしたら一気に逆転されるかもと危惧していたタナトスだったが、すぐに安心した。接近戦で挑もうとしたベルに『天の雄牛』が雷魔法で迎撃し、その後にリリも倒したのを見たことで。

 

 だが、またしても状況が変わった。再び起き上がったリリが憤怒の表情になりながら、『天の雄牛』が今までとは比べ物にならないほどの大ダメージを与えてるのを見て、タナトスは困惑する事になってしまった訳である。

 

「タ、タナトス様ぁ!? バルカ様が人造迷宮(クノッソス)を破壊してる小人族(パルゥム)の小娘を見た途端再びご乱心にっ……!」

 

「あ、ごめん、ぜーんぜん聞こえなーい」

 

 再び入ってくる眷族達の報告に、タナトスはまたしても聞こえない振りをする事にした。




本当はこれで戦いを終わらせようとしましたが、区切る事にしました。

感想お待ちしています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。