ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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すいませんが、今回は短い幕間です。


二人のアークス⑮.5

『ア、ガ……』

 

 リリが放ったコスモスブレイカーの爆発が晴れると、まるで黒焦げ二~三歩手前状態の『精霊の分身(デミ・スピリット)』が苦しみ悶えていた。下半身の巨牛も同様に。

 

 並みの攻撃や魔法では通用しない筈の硬さがある筈の存在が、こうまで無残な姿にされるなど誰が想像しただろうか。益してや、たった一人の小人族(パルゥム)の少女がやったなど断じてあり得ないと否定されるかもしれない。

 

 だが、間近で見ている者達は別だった。アークスのベルはともかく、ヴェルフやガレス達は紛れもない事実だと認識しているから。

 

(俺の作る魔剣なんかとは比べ物にならねぇ……!)

 

 リリがオリハルコンの扉を壊す際、見た事の無い形状をした魔剣で破壊したのを見てから、ヴェルフは色々な意味でショックを受けていた。

 

 彼は以前に『魔剣が嫌いだ』と語っていた。如何に強力無比でも、使い手を残して必ず砕けていくのが嫌だからと言う理由で。

 

 魔剣は必ず砕けるのが常識なのに、例外中とも言える例外が現れた。あり得ない筈の壊れない魔剣をベルとリリが持っている為に。

 

 ベルについては【ヘファイストス・ファミリア】団長の椿・コルブランドよりある程度聞かされているが、リリの扱う武器は全く予想外だった。如何に魔剣が強力であっても、最硬金属(オリハルコン)超硬金属(アダマンタイト)を一撃で破壊するなど不可能なのに、リリが扱う魔剣は全て一撃で破壊していた。しかも連続で使い続けているにも拘わらず、未だに壊れる前兆を見せていない。

 

(何で、何で俺はこんな時に……!)

 

 リリが壊れない魔剣で『精霊の分身(デミ・スピリット)』を圧倒するのを見てるヴェルフは、捨て去った(と思い込んでいた)魔剣鍛冶師の矜持(プライド)が何故かズタズタになるほど傷付いていた。同時に敗北の気持ちになっていた。自分が作る魔剣ではあの巨大なモンスターにダメージを与える事は出来ても、途中で壊れてしまえばそこまでになってしまうから。

 

 これまでのヴェルフは魔剣の力に頼らず、最高の武器を作ろうと【ヘファイストス・ファミリア】で研鑚を積んでいるが現実は甘くなかった。どんなに頑張って作っても結果は実らないどころか、今もずっと『Lv.1』のままで燻ぶり続けており、例え自分なりに出来た良い作品を出しても新米の下級冒険者達から避けられる始末。諦めずに頑張れば必ず結果が出ると前向きに考え、知らず知らずの内に心をすり減らしながら。

 

 そんな中、予想だにしない出来事が起きた。下級冒険者からも避けられていた自作の防具を、現在オラリオで大注目されている冒険者が買ってくれた。【亡霊兎(ファントム・ラビット)】の二つ名で呼ばれ、たった数ヵ月で『Lv.3』にランクアップしたベル・クラネルが、自分の作った防具を大変気に入ったから買うと言ってくれたのだ。更には防具だけの直接契約もしてくれた事で、ヴェルフは少々複雑でも、有名な冒険者との繋がり(パイプ)を得た事で嬉しい気持ちでいっぱいになった。

 

 だが、再び予想外な事態に直面する事になった。『Lv.1』から一気に『Lv.3』へランクアップし、【ヘスティア・ファミリア】に改宗(コンバージョン)した女性小人族(パルゥム)のリリルカ・アーデが、試しに作った筈の武器を(一方的に)高額で購入したのだ。その時のヴェルフの心情は色々な意味で複雑な気分になっていたとか。

 

 そして更に嬉しい事に、ベルからダンジョン探索する為のパーティを組んでくれないかと誘ってくれて、願ってもない事だとヴェルフは今まで以上に舞い上がって了承した。『Lv.1』の自分では足手纏いになるかもしれないが、それでも何とか頑張ろうと思いながら。

 

 こんな幸運な日が長く続けば良いなと思いながら探索するも、偶然発見した未開拓領域を調べる事で大きく変わってしまった。リリが自身の魔剣とは比べ物にならない威力を何度も見せられ続けた事で、一気に激変してしまった為に。

 

 リリはこの未開拓領域に来てから、ダンジョンで使っていた筈の長槍を使わず、自前の魔剣を使っていた。それはつまり、ここにいるモンスターは自身が作った武器だと太刀打ちできない相手だと言う事になる。ヴェルフとしては内心悔しかったが、明らかに上層にいるモンスターではないから仕方ないと割り切っている。

 

 だと言うのに、巨大モンスター相手に戦っている勇敢な女性小人族(パルゥム)を見て激変する。あんな凄い魔剣を見て、どうして自分は今まで対抗する気持ちになれなかった。魔剣は嫌いな筈なのに、どうしてまた急に作りたくなってしまっているのだと。

 

 非常事態なのは勿論分かっているも、今のヴェルフは工房に籠って新しい魔剣を作りたい気持ちで一杯になっている。自分もベルやリリに負けない壊れない魔剣を作って、憧れである鍛冶神(ヘファイストス)に認めてもらいたいと真っ先に思い浮かべていた程に。

 

 今まで『魔剣は嫌いだ』と自ら豪語していたのに、急に考えを改めるなんて虫が良すぎるのは本人も当然分かっていた。だがそれでも、もう偽る事が出来ない。今更になって、これまでの自分は都合の良い事ばかり考えているクロッゾ一族と何ら変わりないと気付いてしまったから。

 

 その為には一度、ケジメを付ける必要がある。自身が力強く握りしめている魔剣を見ながら。

 

(こんなバカな製作者(おれ)だが、頼むっ――お前を砕かせてくれ!!)

 

 直後、ヴェルフの念が届いたかのように、鍔のない中央部に嵌まる紅の宝珠が輝く。燃えるような光を放つその武器に、ベルだけでなくガレス達も目に入る。




活動報告で書いた事もあって、急遽ヴェルフメインの心情話にしました。

次回で何とか戦闘を終わらせたいです。

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