ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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すいません、また短いです。


二人のアークス⑯

「あと一息!」

 

 一方、リリは瀕死状態になっている『精霊の分身(デミ・スピリット)』を見て、とどめを刺すのに相応しいとっておきで仕留めようとする。通常のフォトンアーツでは比べ物にならない解式フォトンアーツを。尤も、実力と条件によって今の彼女では消費ストックが二つまでだが。

 

 仕留める為に一本目のストックを使おうとする中、異変が起きた。コスモスブレイカーで黒焦げに近い状態の『精霊の分身(デミ・スピリット)』が突如全身輝き出したのだ。

 

 いきなりの事でリリは動きを止めてしまうも、光はすぐに止んだ。その直後、巨牛や女体型の身体が無傷の姿となって。

 

「テメェ、一瞬で回復を……!」

 

『ハァッ、ハァッ………!』

 

 苦しそうに息が上がっている『精霊の分身(デミ・スピリット)』は、今までと全く異なる表情となっていた。無邪気で残酷な笑顔ではなく、怒りと殺意に満ちてリリを睨んでいる。

 

 既にリリを遊び相手ではなく、絶対に殺さなければならない非常に厄介な天敵と認識している。自身の身体を簡単に傷つけ、更には死ぬ寸前まで追い詰められていた為に。

 

 本当であれば『アリア』を追う為に大量の魔力を温存していたが、一気に使おうと自己再生を使用した。その結果、体内に溜め込んだ魔力の半分以上を失ってしまうも、天敵(リリ)を倒すにはまだ充分に残っている。

 

 故に今の彼女は――

 

「【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル――】」

 

「もう魔法を……ッ!?」

 

 慢心など一切抜きで全力で倒そうと、短文詠唱の魔法を早口で唱えようとしていた。

 

 それを見たリリは急いで阻止しようとするも、向こうが速い。

 

「不味いッ!」

 

 ベルは放とうとしている魔法を知っている。以前の遠征で交戦した『精霊の分身(デミ・スピリット)』が、【サンダー・レイ】と言う雷の大矛を放ったのを身を以て経験している為に。

 

 あの時はレフィーヤが放った純白の障壁魔法で防げたが、今この場に彼女がいない。

 

 自身が持つ長銃(アサルトライフル)で照準を合わせて頭を狙おうとするも――

 

「やらせるかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ッ! ヴェルフ!?」

 

 突然巨牛に向かって走っていくヴェルフを見た事で引き金の指を引く事が出来なかった。

 

「止すんじゃ! お主が勝てる相手ではない!」

 

 ベルと同じく見ていたガレスが叫ぶも、当の本人は全く聞いてないままある程度の距離で立ち止まる。

 

「何で――ッ!」

 

「【我ガ名ハ雷精霊(トニトルス)(イカズチ)の――】」

 

 此方へ向かって来るのはリリも当然気付いており、『精霊の分身(デミ・スピリット)』は分かっていながらも詠唱を続けていた。寧ろ、足手纏いが態々来た事で天敵(リリ)の動きを止める事が出来て好都合だと内心笑みを浮かべている程だ。

 

 だが、この後一気に覆される事になった。

 

『【燃え尽きろ、外法の(わざ)】!」

 

 ヴェルフが片手を『精霊の分身(デミ・スピリット)』に向けながら短文詠唱をして、

 

「【ウィル・オ・ウィスプ】!」

 

 魔法を発動させた。

 

『【サン――アガァァァァァァァァァァァ!!!』

 

 直後、詠唱を終えて魔法を発動させようとしていた『精霊の分身(デミ・スピリット)』に異変が起きた。口当たりに溜め込んでいた魔力が突如暴発してしまったから。

 

 ヴェルフが放った【ウィル・オ・ウィスプ】は、『魔法封じ』と呼ばれる対魔力魔法(アンチ・マジック・ファイア)。敵が魔法および魔法属性の攻撃を発動する際、タイミングを合わせて発動する事で魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を誘発させる。威力は対象の魔力量によって大きく異なるが、特に魔法系の攻撃を放つモンスターや魔法種族であるエルフにとっては天敵だ。膨大な魔力で強力な魔法を放つ事が出来るリヴェリアやレフィーヤであれば、相当な魔力暴発(イグニス・ファトゥス)が起きると言えば分かるだろう。

 

 それは当然、『精霊の分身(デミ・スピリット)』にも言える事だった。短文詠唱の魔法とは言え、かなりの魔力を消費して放とうとしていた【サンダー・レイ】が暴発した事で、術者である彼女に相当なダメージを負っていた。

 

「精霊の魔法を暴発させたっす!」

 

「あの小僧、とんでもない魔法を持っておるようじゃのう!」

 

 ラウルやガレスだけでなく、この場にいる者達も当然驚愕していた。『精霊』が放とうとする魔法を暴発させる魔法など初めて見たから。

 

 これだけでも充分に凄いのだが、ヴェルフは次の行動に移ろうとする。

 

「リリスケェ! 死にたくなかったら離れろぉおおおおおおおおおお!!」

 

「ッ!」

 

 いきなり何を言い出すのかとリリは疑問を抱くも、ヴェルフが炎を凝縮したような猛々しい長剣を振るうのを見た瞬間、即座に大砲(ランチャー)を電子アイテムボックスへ収納後に全速力でその場から離れた。

 

 未だに暴発する魔力で苦しんでいる『精霊の分身(デミ・スピリット)』に、ヴェルフは両手で握っている長剣を翳す。

 

 溜め終えたのか、覚悟を決めたように眼差しを鋭く、雄々しく一撃を放とうとする。

 

 たった一撃の為に名付けられた『魔剣』の真名を、ヴェルフは大きく叫んだ。

 

火月(かづき)ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

 その瞬間、この場にいる誰もが目を炎の色に焼かれた。

 

 振り下ろされた剣身から真紅の轟炎が放たれ、一直線に『精霊の分身(デミ・スピリット)』を呑みこむ。

 

 先程まで見せたリリのコスモスブレイカーと同様、巨牛を余さず覆いながら蹂躙していく。

 

『ギャァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?』

 

 まるで地獄の業火に焼かれるかの如く、『精霊の分身(デミ・スピリット)』の全身が燃え盛る。

 

 すぐに魔力を使って自己再生をしたいのだが、先程の魔力暴発(イグニス・ファトゥス)で思うように使う事が出来ずに巨牛と『精霊』は同時に悶え苦しむ。

 

「まさかあれって、『クロッゾの魔剣』……!」

 

「あの口煩いエルフが見れば騒ぎそうじゃわい!」

 

 凄まじい火焔の大渦に、離れて見ているティオナやガレスは戦慄していた。『海を焼き払った』とまで言われていた伝説の魔剣が、自分達の眼前に顕現してる事で改めて認識する。因みにドワーフが口にした口煩いエルフとは、某副団長の事を指しているとだけ補足しておく。

 

 そんな中、『魔剣』に亀裂が生じる。

 

 瞬く間に入った罅は全身を走り抜け、ヴェルフの手の中で、あっと言う間に砕け散っていく。

 

(すまねぇ。だが、これで――)

 

 甲高い別離の音を鳴らす無数の破片に、ヴェルフは俯きかけるも、すぐに首を横に振って決意表明した。

 

 使い手を残さず壊れない魔剣を必ず作ってみせる。同時に、今のままでは無理だから恥を忍んで、あの【ファミリア】へ改宗(コンバージョン)しようと。




ケジメを付けて決意するヴェルフでした。

どこのファミリアへ行くかは、もう既に予想してると思いますが。

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