ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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二人のアークス⑰

 僕だけでなく、ガレスさん達も予想外と言わんばかりに驚愕していた。あの『精霊の分身(デミ・スピリット)』を倒す寸前まで追い詰めていたから。

 

 女体型が使おうとしていた魔法をヴェルフが魔力暴発(イグニス・ファトゥス)を誘発させる魔法で阻止した後、保険と言っていた武器――正しくは『魔剣』――を振るい、巨牛の全身を覆うほどの深紅の炎が出るなど誰も予想出来なかっただろう。

 

 これは当然リリも同様で、余りの威力に言葉を失っている程だ。もしかしたら自分が使う大砲(ランチャー)に匹敵していると考えているかもしれない。

 

『オ前エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッ!!』

 

 そんな中、『精霊の分身(デミ・スピリット)』は燃え盛る炎に包まれながらも、先程の悲鳴とは違った雄叫びをあげてヴェルフに狙いを定めていた。

 

 ダンジョン59階層で戦ったアレと違って、魔力が無くなっても暴れるだけの力は残っているようだ。

 

 ヴェルフに向かって突進しようとする巨牛に――

 

「往生際が悪いんだよ!」

 

『ヒギャァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』

 

 突如、女体型の頭上から一本の青白い光が降り注いだ。

 

 それを見た僕は、思わず別の方へ視線を向けると、そこにはいつの間にか長銃(アサルトライフル)を構えたリリがいた。その瞬間に僕はすぐに理解する。

 

 あの青白い光はフォトンのビームであり、リリが放ったフォトンアーツ。照射位置と範囲を特定後、目標の上空から強力な射撃を行うレンジャー用フォトンアーツ――『サテライトカノン』。2段階チャージで範囲は縮小するが、その分威力が増加する強力なビームを放つ事が出来る。ヴェルフの魔剣で倒れなかった時の事を考えて、事前に準備とチャージしていたんだろう。

 

 エンドアクラクトの時と違って、ビームは本体である女体型の頭上から発射された為、当然それは一気に貫いているので串刺し状態になっていた。もしビームが消えたら空洞が出来上がっているだろう。

 

 因みにこの光景は当然僕だけでなく、ヴェルフやガレスさん達も当然見ている。だけど、もう彼等は何度も驚い続けた事で完全に言葉を失っているみたいで無言状態だ。

 

『カ、カカ………』

 

「チッ、あのクソ牛まだ生きてやがる……!」

 

 ビームが消えて大ダメージを与えたにも拘わらず、予想通りと言うべきか『精霊の分身(デミ・スピリット)』は辛うじて生きていた。それを見たリリは忌々しいと言わんばかりに舌打ちをしているけど、女の子なんだからそんな口調はしないで欲しい。

 

 だけど、『精霊の分身(デミ・スピリット)』は魔力が尽きているみたいで、先程見せた自己再生を使う素振りは見せていない。恐らく次の攻撃で完全に仕留める事が出来る筈だ。

 

 ヴェルフやリリには申し訳ないけど、ここは僕が決めさせてもらう。実は既にファントムタイムを発動させていたから。

 

「汝、その(ふう)()なる暗黒の中で闇の安息を得るだろう! 永遠に虚無の彼方へと儚く! 《亡霊の柱(ピラァ・オブ・ファントム)》!」

 

 僕が長杖(ロッド)用のファントムタイムフィニッシュ――《亡霊の柱(ピラァ・オブ・ファントム)》を発動させた瞬間、『精霊の分身(デミ・スピリット)』の頭上から複数のフォトンの柱が降り注ぐ。僕が『Lv.3』にランクアップした為なのか、以前使った時より柱が大きくなった気がする。

 

『ヒギィ! ガッ! ギィ……オ、オ前モカァァァァァ!』

 

 リリの時とは違って連続で降り注ぐフォトンの柱を放ったのが僕だと分かったのか、『精霊の分身(デミ・スピリット)』は怨嗟の叫びを上げていた。

 

 そして、最後に最大出力のフォトンの柱が落ちると――

 

 

『――――――――――――――――――――――――ッッ!?』

 

 

 凄まじい断末魔が大広間に響き渡った後、『精霊の分身(デミ・スピリット)』は完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

「……………何あの子達、正直言って【ロキ・ファミリア】よりマジヤバいんだけど」

 

 切り札として使った筈の『天の雄牛』がヴェルフ、リリ、そしてベルによって倒された事でタナトスは冷や汗を流しながら頬を引き攣らせていた。

 

 特にタナトスが驚いたのはヴェルフが使う『魔剣』だった。『精霊』にあそこまでのダメージを負わせる魔剣を見たのは初めてだから。

 

 因みに台座には負傷しているガレス達の傷を治癒する為に、ベルがレスタやアンティを使っている。治癒を終えたティオナが、途端にベルに抱き着いていたのはスルーしておく。

 

「あれほどの威力を放つ魔剣……もしかして『クロッゾの魔剣』だったりして」

 

 並みの攻撃ではビクともしない筈の『天の雄牛』が、単なる魔剣で動きを止めたりしない。そうなれば、嘗て猛威を振るっていた噂の『クロッゾの魔剣』しかあり得ないとタナトスは予想した。

 

「となれば、あの小人族(パルゥム)の少女や【亡霊兎(ファントム・ラビット)】が持ってるあの魔剣は、クロッゾが作ったモノとなれば納得出来るけど……」

 

 あの赤毛の青年がクロッゾの一族であれば、すぐにでも捕らえるべきだ。上手くいけば闇派閥(イヴィルス)は強力な魔剣を信者達に持たせて戦力が充実するが、そう言う訳にはいかない。今の彼に手を出そうとすれば、間違いなく【亡霊兎(ファントム・ラビット)】と小人の少女が絶対黙っていないだろう。特に後者は超硬金属(アダマンタイト)最硬金属(オリハルコン)を簡単に破壊可能な恐ろしい魔剣を持っているから、人口迷宮(クノッソス)が大変な事になってしまうどころか、バルカが今まで以上に乱心する光景が目に浮かぶ。

 

「イシュタルに頼めば……いや、それは不味いかも」

 

 フレイヤと同じ美神であるイシュタルが『魅了』を使ってくれれば引き込めるかもしれないが、その前に『天の雄牛』が倒されてしまった事を説明しなければならない。アレには大量の投資を手伝ってくれた事もあるから、【亡霊兎(ファントム・ラビット)】達に倒されたなど知れば絶対お冠になるのが目に見えている。

 

 だが、タナトスは知らなかった。イシュタルは近い内に【亡霊兎(ファントム・ラビット)】を虜にしようとしている事を。もし今回の件を知れば確かに機嫌を悪くするかもしれないが、それでもベルを魅了で虜にしようと引き受けていただろう。フレイヤの口惜しがる顔を見る為に。

 

 

 

 

 

 

「リーネ、しっかりして!」

 

 ベル達が『精霊の分身(デミ・スピリット)』を撃破し、【ロキ・ファミリア】と一緒に大広間を後にしている中、落命しようとする団員がいた。

 

 無残に殺されている団員達の中で、リーネ・アルシェの命が尽き果てようとしている。迷いながら必死に仲間に激励の言葉を重ねている中、突如禍々しい笑みを浮かべた女によって、赤い『呪い』の刃によって斬り裂かれた為に。

 

 もう手遅れだと分かっていながらも、捜索していたアイズは必死に呼びとどめようと声を掛けている。

 

「ざまぁーねぇな。だから言っただろう、雑魚は足手纏いだってな」

 

 リーネがあと少しで事切れそうになるところ、ベートから発した言葉にアキだけでなく、アイズや他の団員達も愕然とする。

 

「じゃあな。もう二度と俺の前に現れんじゃねーぞ。二度と、巣穴から出てくんな」

 

 ベートの嘲笑が石室に強く反響する事で、団員達は彼を仇のように睨んだ。

 

 アイズは思わず掌を頬に叩きつけようとするも、最後に呟かれた言葉を聞いた事で何故か動きを止めている。

 

「…………ぁ」

 

 死ぬ寸前のリーネも聞こえていたのか、最後の笑みと思われるかすかな微笑を浮かべる。

 

 そしてそのまま涙を浮かべ、安らかな表情を残して――事切れる寸前に異変が起きた。彼女の全身が突如輝き始めている。

 

「え? な、何なの!?」

 

 突然の事に困惑するアキだけでなく、リーネの近くにいるアイズやベートも同様だった。

 

 そして輝きが消えた後――

 

「ゴホッ、ゴホッ……! え? あれ、私……」

 

『!?』

 

 死んだ筈のリーネが急に息を吹き返しただけでなく、何事も無かったかのように起き上がるのであった。

 

 誰もが困惑している中、リーネが所持している道具(アイテム)にも異変があった。以前ベルから渡されたお守りは役目を終えたように、罅が入ってボロボロになっている。

 

 お守りは『スケープドール』と呼ばれ、所持者が戦闘不能になった際に一度だけ身代わりになってくれる自律起動の自己復活用アイテム。本来アークスが使うモノだが、ベルは万が一の為に持っておくよう彼女に渡していた。その万が一が起きた事で、リーネは死の淵から蘇る事になったのを、渡した当の本人は後から知る事になる。




原作と違って、死亡する筈だったリーネが生存しました。

何故リーネが『スケープドール』持っているかについては、次回以降で分かります。

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