ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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オラリオの歓楽街③

「今回は君のお陰で助かった団員達はいるが、それでも数名の死者を出す結果になってしまった」

 

「っ……。心からお悔やみ申し上げます」

 

 僕は思わず俯きながら、亡くなった人たちに対しての言葉を送る。

 

 遠征の時は一人も死傷者は出なかったけど、二日前の探索では合計六名の死者が出た。その人達は遠征で顔合わせしただけで大した会話はしなかったけど、それでも死んでしまったのは悲しい気持ちになる。

 

 僕がもう少し早く来て治療すれば結果は変わっていたかもしれない……と思うのは非常に傲慢な考えだ。キョクヤ義兄さんからも、『自ら穢れた罪を余分に取り込まず、眼前にある闇だけを取り込めば良い』と言われて自ら戒めている。因みに要約すると『自分から勝手に罪を背負う事はしないで、目の前の現実を受け入れるように』と言う意味だ。

 

「実は本来であれば死者は七名になる筈だったけど、その一人――リーネが死ぬ寸前に奇跡の復活が起きたらしい。しかも傷や呪詛(カース)が全て治った状態でね」

 

 フィンさんの台詞に僕は思いっきり心当たりがある為、思わず内心ドキッとしてしまう。

 

 遠征の帰還中に毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の大量発生と言う異常事態(イレギュラー)が発生し、リーネさんが危うく毒を喰らいそうになる寸前、僕が咄嗟に庇った。こっちは全然気にしてないけど、あの人は責任を重く感じていたから、今後の保険として自律起動の自己復活用アイテム――『スケープドール』を渡している。

 

 ダンジョン外で死に瀕する事態が起きるのは完全に予想外だったが、それでも発動する事が出来て良かった。

 

 フィンさん達も死ぬ寸前にリーネさんが復活した事で大いに喜んでいる……訳がない。いや、勿論喜んではいるんだろうけど、何故復活出来たのかと言う疑問でいっぱいなのが表情を見ただけで即座に察せる程だ。

 

「ベル、君は遠征の帰還中、リーネにお守りらしきモノを渡したそうだね。彼女からの話だとちょっとした保険だとか」

 

「え、ええ、まぁ、そうですね……」

 

 あ、もうこれ完全に気付いてるな。僕がリーネさんに渡した『スケープドール』のお陰で復活した事を。

 

 まだ短い付き合いだけど、フィンさんの性格はそれなりに理解していた。僕の口から言わせようと、敢えて遠回しに訊いているのだと。

 

「不躾なのは重々承知だけど、君がリーネに渡した保険とやらは一体どんな効力があったんだい?」

 

「………か、簡単に言えば、死が迫った瞬間一度だけ身代わりになってくれる、みたいな効力です」

 

 誤魔化しが一切通用しないと悟った僕は、リーネさんに渡した『スケープドール』の効力を簡単に教える事にした。

 

「ああ、やっぱり……」

 

「「…………」」

 

 フィンさんだけでなく、一緒に聞いていたリヴェリアさんとガレスさんも大変悩ましい表情をしている。まるで聞かなければ良かった、みたいな感じで。

 

 因みに僕の隣に座ってるリリから『ベル様、後でお話があります』と言う眼をしているが、取り敢えず気にしない事にした。この後の展開を既に予想していると同時に諦めているから。

 

「あ、あの、僕としてはリーネさんに何か遭った時の為に渡したモノでして……」

 

「ああ、そこは勿論理解しているから安心してくれ」

 

 アハハハ、と苦笑いをしながら追求をしないフィンさん。

 

 だけどその直後、途端に真面目な表情となる。 

 

「ならば猶更、僕達【ロキ・ファミリア】はまたしても君に大きな借りが出来てしまった」

 

「そ、そうなんですか?」

 

 あくまで僕の個人的行為でリーネさんを助けただけなのに、向こうにとっては大きな借りとは余りにも大袈裟過ぎるというか……。

 

 だけどそれだけ『スケープドール』の価値が、この世界では希少なアイテムなのが充分に分かった。オラクル船団、と言うよりアークスでは普通に保険として所持するのが当然だから、僕は未だにその考えを持っていたのが致命的だったかもしれない。リーネさんに何か遭ったらいけないと思って渡した事を反省しても、後悔などは一切していないが。

 

「もし【ディアンケヒト・ファミリア】が知ったら絶対黙っていないと断言出来る。特に団長のアミッドあたりが、君を冒険者ではなく治療師(ヒーラー)になるべきだと力説するだろうね」

 

 それは僕も容易に想像出来る。現にあの人、以前【ミアハ・ファミリア】からの冒険者依頼(クエスト)を終えた後、僕を見た瞬間に目の色を変えていたのを今でも憶えてる。あの時は神様やナァーザさんが阻止してくれて事無きを得たけど、もし二人がいなければどうなっていた事やら。

 

 あれ? 今更だけど、リヴェリアさんが妙に大人しいな。この人も僕が使う魔法(テクニック)について物凄く知りたがって、機会があれば積極的に聞こうとするのに、一向にそんな気配が無い。この前の『精霊の分身(デミ・スピリット)』との戦いで略式複合テクニックの『レ・バーランツィア』、(不発だったけど)複合属性テクニックの『バーランツィオン』については間違いなく耳にしている筈。今は重要な話だから自重しているかもしれないけど、一切聞こうとしないのは何だか不気味だった。

 

「ん? どうかしたか、ベル。私の顔に何か付いてるか?」

 

「あ、いえ。別に何も」

 

 思わず視線を向けてしまった所為か、リヴェリアさんは不思議そうな表情で問うも、僕は何でもないように振舞う事にした。

 

 僕の心情を察したのかは分からないけど、フィンさんがゴホンと軽く咳払いをしながら本題に戻ろうとする。

 

「少し話は逸れてしまったが、君の借りは最早金銭だけで解決出来るレベルの話じゃないから、別の方法で清算しようと思っている」

 

「別の方法、ですか?」

 

 僕としては別に借りだと思ってないから清算なんて不要だけど、【ロキ・ファミリア】としての面子がある為にどうしても必要なのだろう。

 

 一体どんな借りの返し方をするのかと思いながら耳を傾けると――

 

「此方の団員を【ヘスティア・ファミリア】に出向させようと考えているけど、ベルとしては誰が良いかな?」

 

「…………へ?」

 

 いきなりとんでもない事を言い出すフィンさんに僕は思わず目が点になってしまった。

 

 

 

 

 

 

「フィン、何故あんな事を言い出したのじゃ? いくら借りが大きいとは言え、普通に報酬を支払うだけで良かったのではないか?」

 

「本当ならガレスの言った通りにしたかったさ。だけど、死の淵から完全復活する身代わりアイテムとなれば、いくら僕達でも簡単に出せる金額じゃない」

 

「確かにな。エルフの私が考えるだけでも、数億ヴァリス以上の価値を見出しているだろう。尤も、ベル本人は全く気付いていないが」

 

「今の【ロキ・ファミリア】はそこまでの資金がないから、団員を一時的に貸すと言う選択しかなかった訳だよ」

 

「だとしても、ベルが選んだ彼奴(あやつ)は上手くやれるかのう」 




リーネを救ったアイテムがお金で解決出来ない為、団員を貸し出すと言う流れにしました。

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