ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「まさか、彼女を救い出す方法があったなんて……!」
ベルが氷の魔法を使ってアンタレスの動きを封じ、取り込まれたアルテミスを救おうとしていたヘルメスは言葉を失っていた。
アルテミスを救う唯一の方法は神創武器の矢でアンタレスを倒すしかなかった。だと言うのに、ベルはそれを覆そうとしている。神である自分でさえも全く考えられなかった方法で。
最初は無理だと思っていたのだが、ベルが手にしている武器でアルテミスを取り込んでいる結晶を突き刺した直後、彼の身体から魔力と思われる何かを流し込んでいた。すると、氷漬けになってるアンタレスが開いた胸元を無理矢理に閉じようとしているどころか、アルテミスを取り込んでいた結晶に異変が起こっていた。
「頼むベル君、アルテミスを……!」
その光景にヘルメスだけでなくヘスティア達も驚愕した。そして希望を見出した。もしかしたらアルテミスが助かるかもしれないと。そして、罅が入っていた結晶が砕け散り、アルテミスが解放されて誰もが歓喜する。
しかし、それは束の間で絶望へと変わっていく。結晶が砕かれた直後、氷漬けとなっていたアンタレスが解放されて直ぐに胸元を開いて再びアルテミスを取り込んだ。それどころか助け出そうとしていたベルも一緒に。
「間に合いませんでしたか……!」
あと少し早ければとアスフィが口惜しそうに目を逸らしながら言った。それどころか更に不味い状況だと察する。頼みの綱であったベルが、アルテミスと一緒に喰われてしまった事で自分達ではどうしようもないと。
それと同時に彼女は自己嫌悪する。先達である自分が率先して動かなければいけない立場である筈なのに、冒険者になって一年も満たしてない少年に全てを任せてしまっていた事を。
「……ッ! クラネルさんがあそこに!」
『!?』
アスフィと同じく自己嫌悪していたリューだったが、途端に驚愕しながら指した。それを聞いたヘルメス達が視線を向けると、
同時に――
『~~~~~~~~~~~!?』
☆
「……え? お、オリオン……?」
「ふぅっ。正に危機一髪だった……!」
結晶から解放されたアルテミス様を抱えた瞬間、アンタレスの胸元が僕ごと取り込もうとしたのを見たので即座にファントムスキルを使った。僕と接触しているアルテミス様と一緒に姿を消して回避後、思念体のアルテミス様の近くで再び姿を現す。
因みにアンタレスに取り込まれていた本体の彼女は完全に死んでいなかった。(全裸だから)体温を感じる上に呼吸もしている。恐らくアンタレスは『
そして思念体のアルテミス様は呆然としているが、僕は気にせずこう言った。
「一先ずは貴女の本体を助けました。これで証明できましたね。あの矢以外で
「……」
僕の台詞にアルテミス様は何も言い返せなかった。ついさっきまで、あの矢を使うしか方法が無いと断言していたから、それを僕が覆された事で言葉も出ないんだろう。
抱えている本体の彼女をゆっくり下ろした後、僕は目の前の
「
「へ?」
アンタレスとの因縁を断つ為に倒すと宣言する僕に、アルテミス様は何故か顔を赤らめていた。変な事を言ったつもりはないけど、一先ずは気にしないでおく事にしよう。
『アァァァァァァァアアアアッ!』
そして僕がアイズさん達の元へと向かっていると、上半身のアンタレスは悶えながらも下半身の再生をしていた。けれどアルテミス様がいない所為なのか、未だ完全な状態に戻っていない。
どうやらアルテミス様の力がなければ、もう今までと違って瞬時に再生出来ないようだ。
「アルゴノゥト君! アタシてっきり喰われたと思って心配したよ!」
「私も……」
「すみません、御心配をお掛けしてしまって」
そんな中、第一級冒険者の二人から文句を言われてしまった。いつもなら僕に抱き付いてくるティオナさんでも、流石に戦闘中にはやらないようだ。
確かに回避したと言っても、あの状況では僕とアルテミス様がアンタレスに喰われたようにしか思えない。もし二人の立場だったら文句を言っているだろう。
「ところで、アンタレスは随分と再生に手間取っているようですね」
「うん。ベルがアルテミス様を引き剥がした後から様子がおかしくなってる」
「それに再生しても、なんかぐちゃぐちゃだねー」
アンタレスの様子を見ていたアイズさんとティオナさんが教えてくれた。
嫌そうな顔をしているティオナさんの言う通り、アンタレスの下半身は未だ甲殻を纏っていない肉塊状態だった。まるで自分だけでやるのは、これが精一杯のように思える。
今までと違う様子を見せていた所為もあって、二人はすぐに動いて良いのか判断出来なかったんだろう。
再生に手間取っているアンタレスは、それだけアルテミス様の力を頼っていた言う証拠だ。何か段々アンタレスが虎の威を借る狐のように思えてくる。まぁ実際、今までアルテミス様の力を使って散々やりたい放題していたが。
言っておくけど、僕は許すつもりなんて毛頭ない。いくら向こうが見苦しい姿になったところで容赦はしないつもりだ。アルテミス様を悲しませ、その眷族達を殺した行いは万死に値する。ここまで殺意を抱かせるモンスターはダーカー以来だ。
『オオォォォォォオオオオオッ!』
すると、アンタレスは再生している最中なのに何故か途中で止まった。肉塊で甲殻は纏っていないが、それでも何とか動ける状態のようだ。
同時に対峙している僕達ではなく別の方へ視線を向けている。本体と思念体のアルテミス様の方へと。
直後、僕達に目もくれないままアルテミス様達の所へ前進し始める。恐らく再び取り込んでから、完璧に再生しようと考えたのかもしれない。
だけど――
「どこへ行くの?」
「アタシ達を無視するなんて良い度胸してるねー!」
『!?』
即座に動いたアイズさんとティオナさんがそれぞれ手にしている得物で空かさず、再生しきってない複数の足を斬って動けなくした。
バランスを崩したアンタレスは二人を追い払おうと口腔のレーザーを放ち、同時に再び足を再生させようとしている。レーザーに関しては相変わらずの威力だけど、アイズさんとティオナさんは既に見切っているのか簡単に躱していた。
その間に僕は
「来たれ、暗黒の門!」
詠唱を紡ぐとティオナさん達が反応した。
「混沌に眠りし闇の王よ 我は汝に誓う 我は汝に願う あらゆるものを焼き尽くす凝縮された暗黒の劫火を 我が前に立ちふさがる愚かなるものに 我と汝の力をもって 等しく裁きの闇を与えんことを!」
『――!?』
僕が詠唱をしている最中、アンタレスの腹部に大きな魔法陣が出現し、膨張している事に戸惑いの声をあげていた。
アイズさんとティオナさんも、僕が魔法を使うと分かったようで、交戦していたアンタレスから既に離れて避難している。
二人が充分に離れてくれたのを確認した直後――
「ナ・メギド!」
臨界点を超えて膨張した魔法陣から強力な闇の爆発が起きた。ゴライアスに使った時よりも威力が上がっており、爆発も少々派手になっている。やはり僕がこの世界でランクアップしてる事で、威力もそれなりに上がっているようだ。
直撃したアンタレスは腹部に大きな穴が開いて、余りの威力の激痛でピクピクと虫の息状態となって動けないでいた。
「すごっ……!」
「アレは確か、ベートさんに使おうとしてた魔法……」
僕が放ったナ・メギドにティオナさんとアイズさんは驚愕している。
そう言えばアイズさんは見た事ないんだったな。ベートさんの時は不発だったので、今回は初めて見るのか。因みにティオナさんはゴライアス戦の時に見ているが、威力が前と違ってる事に驚いているんだろう。
それはそうと、虫の息状態となってるアンタレスには悪いけど、まだこれで終わりじゃない。
ナ・メギドを撃ったのは、あくまで動きを止める為だ。まだまだ僕からの闇の洗礼を受けてもらう。
「集束せよ、闇の獄炎!」
再び詠唱すると、地面から動けないアンタレスをまるで包むように大きな魔法陣が展開された。
「闇の
「えええっ!? あ、あの魔法って確か……!」
「ティオナ、今以上に離れて!」
僕が次に使うテクニックを思い出したように、ティオナさん達は二人のアルテミス様を連れて更に遠くへ避難しようとした。
【アポロン・ファミリア】の
僕がそう思いながらも、詠唱によって魔法陣がどんどん大きくなっていき――
「イル・フォイエ!」
目標に向けて巨大な炎の塊を落として大きな爆発を引き起こす上級の炎属性テクニック――イル・フォイエを唱えた。
大きな魔法陣はそのまま上空へと飛んでいくが、それは巨大な炎の塊となり、アンタレスに向かって落下していく数秒後に大爆発が起きる。
『~~~~~~~~~~~!?』
ナ・メギドを喰らって虫の息状態だったアンタレスは、次にイル・フォイエを喰らった途端に悍ましい悲鳴を上げる事となった。
因みにテクニックを発動させた僕にも爆発の炎が来て被害が及んでいるように思えるけど、術者本人が巻き添えにならないよう瞬時に纏ったフォトンの膜で守られているから大丈夫だ。
イル・フォイエを使ったのは
『ガ……グ……ギィ……!』
爆発の炎と煙が晴れると、僕の目の前には黒焦げ状態となっているアンタレスがいた。しかもまだ生きている。
アレを直撃しても生きてるなんて凄いな。アルテミス様達が恐れる強大なモンスターだから、それだけ生命力も相当なものなんだろう。
だけど動く力がないどころか、再生出来る余力も既になさそうだ。恐らく次で決まるだろう。
倒す方法はまだ他にもあるけど、ここは僕の最大の切り札――ファントムタイムで終わらせるか。
そう思った僕はファントムタイムを発動させ――
「汝、その
僕が詠唱をした直後、アンタレスの頭上から複数のフォトンの柱が降り注ぐ。
『ガッ! グッ! ゴッ……ォオオオオオオオオッ!』
降り注ぐフォトンの柱によって悲鳴を上げるアンタレスだが、もう既に何も出来なく、ただ受け続けるだけで悲鳴をあげるしかなかった。
そして、最後に最大出力のフォトンの柱が落ちると――
『――――――――――――――――――――――――ッッ!?』
凄まじい断末魔が炸裂し、アンタレスは漸く消滅した。
一方、遠くから見ていた一同は……。
「た、倒した、のか? オリオンが、矢を使わずにアンタレスを……」
「ア、アハハハ………ねぇアイズ、アルゴノゥト君が倒しちゃったね」
「………あんな強力な魔法を連続で使うなんて、リヴェリアでも無理だと思う」
アルテミスは信じられないように見ており、苦笑するティオナと只管驚くアイズ。
ついでに――
『……………………………』
ヘルメス達は最早言葉すら出なく、全員揃って口を大きく開けながら呆然としていた。
呆気無い終わり方となりましたが、アンタレス戦はこれで終了です。
感想お待ちしています。