ベルがアークスなのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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オラリオの歓楽街⑦

 ファントムスキルで姿を消したまま追跡している中、二人は南のメインストリートにある繁華街に到着する。

 

 繁華街だけあって、周囲は賑やかを通り越して大変騒がしい。大劇場(シアター)賭博場(カジノ)、高級酒場などの巨大且つ派手な建物が並ぶ大通りは、人や神々でごった返している。

 

 命さん達が豪遊する為に来た……と言う事は絶対無いだろう。【タケミカヅチ・ファミリア】との交友は大して無いけど、タケミカヅチ様を慕って集まった誠実で真面目な人達だから、内緒で遊ぶなんてことは絶対しない筈だ。

 

 何か理由があるのだろうと思いながら尾行を続けると、二人は繁華街から離れていき、薄暗い道へどんどん進んでいく。

 

 此処から先の道について僕は全く分からない。オラリオを散策しながら携帯端末機に地図を記録させているんだけど、神様から『都市南東部に行く必要は全く無いからね!』と厳命されて出来ず仕舞いになっている。何故ダメなのかを訊いても全然教えてくれないまま、こうして今に至ってほったらかし状態なのだ。

 

 しかし、今になって漸く分かった。神様が頑なに絶対行くなと厳命されていた理由が。

 

 

 

「こ、ここって……」

 

 僕は目の前の光景に頬を引き攣らせていた。

 

 今いるのは都市の第四区画、その南東のメインストリート寄り。

 

 隣にある繁華街とは打って変わって、此処は淫靡な雰囲気が漂っていた。

 

 桃色の魔石灯。艶めかしい赤い唇や瑞々しい果実を象った看板。そして背中や腰を丸出しにしたドレスで着飾る蠱惑的な女性達。

 

「もしかして……『歓楽街』?」

 

 明らかに男を誘うように色気のある女性――即ち娼婦だと理解した瞬間、僕は自分でも分かるくらいに顔を赤らめていた。

 

「で、でも何で此処に……?」

 

 普通に考えれば、命さん達が歓楽街へ足を運ぶなど断じてあり得ない。もし仮にタケミカヅチ様や桜花さんが此処へ来たと知れば、恐い顔をしながら絶対に阻止している筈だ。

 

 それでも二人が此処へ来たとなれば深い訳が……あっ、不味い! 歓楽街に気を取られていた所為で見失っちゃった!

 

 本当なら焦らずとも端末機を使って追跡したいけど、命さんや千草さん、と言うより【タケミカヅチ・ファミリア】の情報登録していない為に出来なかった。一緒に冒険者依頼(クエスト)をやる際、一通り登録しようと後回しにしてしまったのが仇になるとは。

 

「ど、どうしよう……!」

 

 歓楽街の雰囲気や匂いだけでなく、蠱惑的な格好をしている娼婦達がいる事で、今の僕はまともな判断が出来ない状態になっている。

 

 本当なら一旦本拠地(ホーム)へ戻る、と言うより【タケミカヅチ・ファミリア】に一報を入れるべきだろう。だけど、それだと命さん達を見捨てる事になるので、僕は意を決して捜そうと奥へ進もうとする。

 

『さぁ! 今からサービスタイムー!』

 

『ウオォォォォォォォ!!』

 

「へ? おわっ、ちょっ……!?」

 

 進んでいる途中、娼婦の急な宣伝を聞いて興奮してる男性客の波に吞み込まれてしまう。ファントムスキルでの回避が出来るにも拘わらず、歓楽街の空気に当てられている今の僕にはソレが出来なかった。

 

 

 

「か、完全に迷った……」

 

 何とか逃れる事に成功するも、命さんや千草さんを捜すどころか、僕は完全に迷ってしまった。

 

 見覚えのある道まで戻ってる筈が、全く知らない建物が並んでいる。

 

 端末機を使いたいけど、周囲には娼婦や男性客の目がある所為で出せない。どこか人目のない道を探しても、チラチラと僕を見る娼婦によって結局無理だった。

 

 今はもう二人を捜す余裕なんかないから、一先ず歓楽街から退散しようと専念する事にした。そう思いながら決心してる中――

 

(あれ? この周辺の建物って……)

 

 改めて周囲を見渡していると、僕はある事に気付いた。アークスの時に探索していた『惑星ハルコタン』にあった建物に似通っている。

 

 あの惑星は『白ノ領域』と『黒ノ領域』、二つの文明圏が並立しており、その住民達は敵対関係だった。とあるダークファルスの襲来で『黒ノ領域』に住まう住民達は全滅してしまったが。ハルコタンの調停者であり、灰の神子と呼ばれているスクナヒメさんは悲しんでいたが、それでも復興に励んでいる。

 

 少々話は脱線したけど、僕が見ている建物や道は『白ノ領域』と似ている事もあって、思わずハルコタンを思い出してしまう。もし歓楽街じゃなかったら、リリを連れて当時のアークス活動について語っていたかもしれない。

 

 それともう一つ、この世界には極東と言う島国がある。そこの出身が【タケミカヅチ・ファミリア】の人達で、こう言った様式の建物があるとタケミカヅチ様から少しばかり聞いた。

 

 もしかすれば、命さんと千草さんは此処へ来る為なのかと考えてしまう。だとしても目的は全く分からないけど。

 

 二人に此処で会えるかもしれないと考えた所為か、僕は周囲を気にしながら歩き始める。

 

 此処は極東のエリアだからか、その民族衣装である『着物』と呼ばれるモノで身を纏っている娼婦たちが多数いて、その姿を見た男性が声を掛けていた。逆に娼婦が男性を誘ったりと、僕にとっては凄い光景だ。

 

 そんな中、赤塗りの娼館の一階が目に入り、格子状の大部屋に多種族の娼婦が並んでいた。

 

 僕が視線を向けている際、大部屋の奥にいる一人の少女と目が合う。

 

「……………………」

 

 思わず見惚れて、動いてる脚を止めてしまった。

 

 光沢を帯びる金の髪と翠の瞳。髪の色と同じ獣の耳と太く長い尻尾。

 

 初めて目にする獣人でも、耳と尾の形状からして――狐人(ルナール)

 

 アイズさんとは違う意味で可憐で美しい女性だ。

 

 気のせいだろうか、彼女からは何だか泣いているように見えてしまう。まるで囚われの姫君みたいな。

 

「――君、ベル君だよね?」

 

 誰かがポンと肩を叩かれた事で、僕の体が飛び上がる。

 

 相手の隙を突く亡霊の僕が、全く気付かずに接近を許してしまうなど大失態だ。キョクヤ義兄さんが知れば絶対怒るのが容易に想像出来てしまう。

 

 不覚を取ったと思いながら背後を振り向いた先には、橙黄色の髪をして羽帽子を被った旅人風の男神様だった。

 

「ヘ、ヘルメス様!?」

 

「やっぱり君だったか。いや~、あの時以来だねぇ~」

 

 驚いた反応をする僕に、ヘルメス様は一笑する。

 

 この男神様は以前にあった【ソーマ・ファミリア】主催のオークションで、『ソーマの神酒(さけ)』の試飲抽選に選ばれた。その際、くじを引いた僕に挨拶や握手をされたのを今でも憶えている。

 

「有名な【亡霊兎(ファントム・ラビット)】も、やはりお年頃かな?」

 

「あっ……いや、僕がここにいるのは……!?」

 

「何か張見世を見ていたようだけど、もしかして気になる()でもいたかい?」

 

 否定したいけど、若干当たっている箇所があった為、僕はどう返答すれば良いのか非常に困っていた。

 

「そ、そんな事よりヘルメス様、どうして此処に? あと、その荷物は……?」

 

「おいおいベル君、歓楽街(ここ)でそんな質問は野暮だぜ?」

 

 帽子のつばを下げ、顔を軽く隠しながらニヤリと笑い掛けるヘルメス様。

 

 何だろう。野暮だと言っておきながら、まるで何か誤魔化してるような感じがする。

 

「それにしても、処女神のヘスティアに内緒で一人で歓楽街にねぇ~」

 

「だから違うんです! 僕が此処に来たのは……!」

 

「そんな照れる必要はないさ。同じ男として黙っておくし、(オレ)からの餞別をやろうじゃないか」

 

 ニヤニヤしながらするっと肩を組んでくるヘルメス様はそう言いながら、ゴソゴソと子鞄(ポーチ)を漁る。取り出した途端に良い笑顔で手渡されたのは、赤い液体が入ってる小瓶だった。

 

「な、何なんですか、コレ?」

 

「精力剤さ」

 

「ぶっっ!?」

 

 とんでもないモノを渡された所為で僕は盛大に噴き出した。

 

「それじゃあベル君! お互い楽しい夜を過ごそうぜ!」

 

「ちょっ、ヘルメス様ぁー!?」

 

 密着していた肩を離したヘルメス様は、大変すがすがしい笑顔で爽快に立ち去った。

 

 余りの不意打ちに僕は固まるも、すぐに復帰して精力剤を返す為に追いかけようとする。

 

「――いいっ!?」

 

『ッ!?』

 

 路地の曲がり角に飛び込むも、運悪く対面から歩いてきた集団にぶつかりそうになる瞬間、僕は咄嗟にファントムスキルを使って回避した。

 

「あ、危なかったぁ~! すいません、急に……」

 

 集団から通り過ぎた後に姿を現わした僕は、後ろを振り返りながら謝ろうとするも、踊り子の衣装を纏った褐色肌の女性達に尻すぼみをしてしまう。

 

「いきなり現れて急に消えたと思いきや、また現れた……まさか」

 

「ねぇアイシャ、もしかしてあの子【亡霊兎(ファントム・ラビット)】じゃない?」

 

「――白い髪に、赤い瞳」

 

「【ロキ・ファミリア】の遠征で深層に同行した非常識兎(クラッシャー)……」

 

「『Lv.3』の記録も樹立した世界最速兎(レコードホルダー)……」

 

 褐色肌の女性達、もとい沢山のアマゾネスが段々と目の色が変わっていく。

 

 そして――

 

「強い男は大歓迎!!」

 

「ねぇねぇ、あたしを指名しない!?」

 

「そんなちんちくりんより私の方が!」

 

「待ちな! そいつは私とぶつかりそうになったんだから、私の獲物だよ!」

 

 何故か僕を獲物扱いして襲い掛かろうとしていた。

 

 以前に港街(メレン)で戦った【カーリー・ファミリア】のアマゾネス達とは違う意味で恐いと思いながらも、僕は再びファントムスキルを使って逃走を開始する。

 

 前々から思ってるけど、アマゾネスの人達は何故こうまで一方的なんだろうか。それは当然、【ロキ・ファミリア】にいるティオナさんやティオネさんも含まれている。

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 

「まだベル君は帰ってこないのかい!?」

 

「みたいですね。ベルの奴、一体何やってんだ?」

 

「ベル君らしくないっすね」

 

(通信機にも反応が無いなんて、ベル様に何か遭ったんでしょうか?)

 

 【ヘスティア・ファミリア】本拠地(ホーム)でベルが未だ帰ってこない事に、ヘスティア達は何事かと段々心配している。

 

 

 

「ッ!?」

 

「どうしたの、ティオナ?」

 

「ア、アルゴノゥト君が、アタシに黙ってとんでもない所に行ってる気が……!」

 

 同時に【ロキ・ファミリア】本拠地(ホーム)にいるティオナは、物凄く嫌な予感が(よぎ)るかのように不安な表情となっていた。

 




原作だとアイシャに捕まりますが、此方のファントムベルはスキルを使って逃走します。

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