ベルがアークスなのは間違っているだろうか 作:さすらいの旅人
「絶対逃がさないよぉ、【
「あっちに行ったよ!」
「先回りして囲め!」
(この人達、どうして僕を追跡出来るんだ!?)
娼婦と言う名の
ファントムスキルを使って姿や気配を消している筈が、あの人達は僕の逃走方向が分かるみたいに追跡している。因みにこのスキルは効果時間が過ぎたら姿を現わしてしまうが、再び発動可能なので問題無い。
向こうが捕まえる気でいるなら迎撃と言う手段を考えるも、あの人達と交戦したら不味い事になってしまう。もし傷付けてしまえば、歓楽街を取り仕切ってる責任者から【ヘスティア・ファミリア】に抗議と言う事態になり兼ねない。あの人達は僕の意思を無視して問答無用で捕えようとしてるから、それなりに反論出来るかもしれないが。
そんな後先の事より、今は逃走に専念しよう。考える余裕が出来たのか、あの人達が何で僕を追跡出来るのかが漸く分かった。
今の僕は姿を消しても、気配が駄々洩れになっているだけでなく、走る際の足音を発している。その所為で本来のファントムスキルを発揮する事無く、アマゾネス達に追跡されているのだと。先程まで歓楽街の空気や娼婦達を見ていた事もあって、まともな思考状態じゃなかったのが今更になって情けなくなりそうだ。
あの人達は恐らく『
そう考えた僕は、中途半端なファントムスキルを一旦解除する事にした。
「姿が見えたよ! 今の内に捕まえな!」
『おう!』
好機だと思ったのか、アイシャと呼ばれているアマゾネスが指示をした直後、複数のアマゾネスがいつの間にか僕を取り囲んで捕まえようとする。
連携が見事だと言わんばかりに、前後左右からの突進で僕にぶつかる瞬間――再びファントムスキルを使って回避した。
『~~~~~!』
捕らえる為に突進してきた複数のアマゾネスは僕の体がすり抜けた事で、同時に頭をぶつけると言うコントみたいな光景になっていた。
「くそっ、またか! 次は絶対に……ん?」
姿を消した僕の気配や足音を察知する為に五感を集中させているアマゾネスだけど、途端に周囲を見渡していた。
「しまった! あの坊や、もう完全に気配と足音を消してやがる!」
アマゾネスの台詞を聞いて、僕は自分の推測が正しかったと確信した。
「え、どうして……?」
「さっきまで駄々洩れ状態だった筈なのに……!」
頭をぶつけていた複数のアマゾネス達も同様に周囲を見渡すも、僕の位置を捉える事が出来ない様子でいる。やはりこの人達も自身の五感を頼りに追跡していたようだ。
ファントムクラスはどのような不利な状況であろうとも冷静でいなければならない。キョクヤ義兄さんから徹底的に教えられたと言うのに、こんな失態を犯したなんて知られたら、憤慨するどころかお説教コースは間違いないだろう。
失敗談の一つになってしまったと思いながら、僕はアマゾネス達の包囲から逃れるために気配と足音を消しながら移動するのであった。
「捜せ! まだ歓楽街から出てない筈だよ!」
「【
(何なのあの人達、全然諦めようとしないんだけど……!)
アマゾネス達から逃れる事には成功出来たと思いながら歓楽街から出ようとするも、全然思うように動けなかった。
端末機の地図を使って出入り口のルートを目指すつもりだったが、行く先々に壁役となってる娼婦達がいる所為で進む事が出来ない。まるで軍隊のように統率されているんじゃないかと思う程に。
因みに僕が使っている端末機からリリからの着信履歴が何通あっても、すぐに応答するつもりはない。こんな状況の中で『今は歓楽街にいる』と正直に答えたら……そこから先は言わなくても分かる。
何度もファントムスキルを使って娼婦達の目を掻い潜っているけど、向こうは五感を研ぎ澄ませている所為か、通り過ぎた瞬間、僕の存在に察知したかのように周辺を捜そうとしている。ここまで執念深くやるなんて、(失礼なのは承知の上で)ティオナさん以上に厄介だ。
脱出しても僕を捜してる娼婦達が彼方此方にいるから、一旦何処かに隠れてやり過ごす事にした。と言っても、周辺は娼館ばかりで、倉庫は一つも見当たらない。客を受け入れるエリアだから、それは見えない場所に設置されてるのだろう。
「この辺りも捜せ!」
どうやら倉庫を見付ける暇が無いようだ。娼婦の中に勘の鋭い人もいるようで、現在僕がいる位置を捜そうとしている。
不本意だけど、近くにある娼館の建物に隠れるしかなかった。向こうも流石にこんな所で隠れているとは思わないだろう。
「おい! 念の為に建物の中も調べておくぞ!」
(何でそんなに勘が鋭いの!?)
そう言うのはダンジョン探索で発揮すべきだろうと思いながら、僕は建物の最上階を目指す。
着いて早々、廊下に並ぶ扉の一つに飛び込む。その瞬間、閉めた扉の先から娼婦と思われる複数の走る音が聞こえる。
(か、間一髪だった……!)
もし部屋に入らなかったら、またしても娼婦達との追いかけっこを再開することになっていただろう。
「はっ、はっ……」
ずっと何度もファントムスキルを使い続けた所為で、既に僕の息は上がっていた。
このスキルは本来であれば戦闘による奇襲、もしくは回避として扱う。だけど逃走する為に透明化を維持していたら、体内フォトンだけでなく体力も消耗してしまう。まだ使える気力はあるけど、これ以上使い続けたら途中で意識を失ってしまいかねない。だから一旦体力の回復をする必要がある為、隠れてやり過ごそうとしたのだ。
此処が何の部屋か皆目見当がつかないが、隠れる場所を探そうと奥へ進む。
進んだ先には閉ざされた襖の隙間から、かすかに光が漏れていた。
誰かいるかもしれないと思いながらも襖を開けると、
「お待ちしておりました、旦那様」
「あ、え……?」
その奥には、一人の獣人の少女が座していた。
(あれ、この人……)
見覚えのある姿に僕はすぐに思い出した。ヘルメス様と会う前、張見世の中にいた
光沢を帯びる金の髪と翠の瞳。髪の色と同じ獣の耳と太く長い尻尾。紅の着物を纏う姿は、間違いなくあの時の少女だと断言出来る。
僕が記憶を合致させているのを余所に、畳の上に三つ指をついていた彼女は、ゆっくりと顔を上げた。
「今宵、
「……はい?」
自己紹介をしながらとんでもない事を宣う彼女に、思わず目が点になってしまう。
「どうぞ、こちらへ」
僕の返事が了承したと思ったのか、正座していた彼女は粛然とした所作で立ち上がり、此方の手を取って優しく導いていく。
そして連れて行かれる部屋の最奥には……寝具用の布団があった。
「えっ、あの、違っ、僕はっ!?」
今まで娼婦達からの逃走で冷静になっていた筈が、またしても盛大に動転してしまうと言う失態を晒してしまう。
その所為で足をもつれさせてしまい、僕は彼女を巻き込んで、一緒に布団へ倒れ込む。
「……」
「……」
相手に押し倒されたような格好になってしまうだけでなく、吐息がかかるほどの距離に、彼女の顔がある。
可憐で美しい顔を間近で見てる事で、僕は完全に言葉を失っていた。
「しょ、娼館は……初めてでいらっしゃいますか?」
「はいっ!?」
頬を染めながらとんでもない事を問う彼女に、裏返った声を出してしまう。
「わかりました……
それがまたしても肯定だと思ったのか、何かを決意した表情で身を起こし、そして服を脱ぎ始める。
「あ、ああああ、あの!」
今の僕は眼球が飛び出そうなほど、両目をかっ開いていた。
彼女は長い上衣を脱ぎ捨て、紅の着物をしゅるっと滑らせる。
「大丈夫でございます、旦那様。春姫に……す、全てお委ね下さいませ」
「で、ですからっ……!?」
「どうか、力をお抜きください」
余りの展開に気が動転しまくり、呂律が回らない状態になって動けない僕。
大変艶めかしい姿で、僕の上着に手を掛けて脱がそうとしていく彼女。
僕の胸が、半分ほど晒した瞬間――
「………とっ」
何故か脱がした張本人である彼女が突然固まった。
更にはビィンッと音を立てて、耳まで赤くし、呆然と僕の首もとを直視している。
「とっ、殿方のっ、鎖骨ぅ~~っ!?」
直後、彼女は意識を失うように倒れてしまった。
「………………………は?」
目がぐるぐると回っている彼女に、僕はどうすれば良いのか全く分からない状態になってしまうのであった。
数十秒以上固まっていたが、何とか動こうとしている中――
「
(っ!?)
奥から扉を開ける音と同時に、聞き覚えのある娼婦の声がした。
だから僕は咄嗟にファントムスキルを使い、再び姿を消す。
「
寝床の襖が勢いよく開かれ、僕を捜しているアマゾネスの少女の台詞は途中で途絶えた。
「はぁっ。また
(妄想?)
少々気になる事を言っているアマゾネスの少女だが、呆れた表情をしながら部屋から出ようとする。
向こうが完全に出て行くのを確認した僕は、再び姿を現わしながら、意識を失ってる彼女の方を見ていた。
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